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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
95/161

天体観測の夜。その1。

挿絵(By みてみん)

「ついてこい!」

 土曜日。月に一度の「天文部夜間観測会」の日だ。

 今夜は学校にお泊まりだ。

 実際に天文部に入部した鳴神(なるかみ)くんと千両(せんりょう)くんの他にも、美術部であるはずの歌仙(かせん)くんもお呼ばれして参加することになった。保護者の同意書があればよいのだそうで。

「三〇センチ反射望遠鏡だぜ。ワクワクするな!」

 くれぐれも忘れないようにと、顧問の長澤(ながさわ)先生から何度も念を押された防寒具をバッグに詰め込みながら、ほんとうに嬉しそうなのは鳴神くんだ。

 四月も半ばで、この雪国でもすでに暖かいのだが、明け方は冬なみに冷える。

 毎年、四月の最初の夜間観測会では、凍える生徒が出てきてしまうのだそうだ。

「いやでもさ、鳴神」

「ソンブレロ星雲とか、春の大銀河団を自動導入で楽しむんだ」

「鳴神、この村にもできたばかりの六五センチ反射望遠鏡あるの、知ってるよな?」

 鳴神くんがフリーズしてしまった。

「マジで」

「観光用だからおれたちの自由にはならないけど、学芸員さんと知り合いになれば、ウイークデーとか暇な時ならけっこう自由に見せてくれるよ」

 歌仙くんが言った。

「ばっかだなあ、鳴神くん。望遠鏡の大きさなんてどうでもいいだろ。こういうのは友達とわいわい一緒に見るからいいんじゃないか」

 千両くんが言った。

「いや、望遠鏡はやっぱり口径だろ?」

 かなりの衝撃を受けているらしい鳴神くんだ。

「夜食はカップラーメンなんだって。カセットコンロでお湯が沸くのを順番に待つんだって。キャンプみたいで楽しそうだよね。みんなで買いに行こうよ」

「いや、望遠鏡はやっぱり口径だろ?」


 準備を万端整えて。

 夕方にいつもと違うバスに乗って。

「なあ、もう隠す気ないよな」

 バスを軍用トラックが追いかけてくる。

 三人組、今日は何があるのだろうと苦笑いした。


 高校の校舎が見えてきたとき、胸がきゅんとしたのに歌仙くんは自分で驚いた。

 休みの日に見る校舎には、たしかにいつもと違う何かを感じる。

 これは帰属意識の一種なのだろうか。

 自分の中にもうそんなものができているんだと、歌仙くんは思った。


 理科棟までいくと、前をジャージ姿の露穂子(ろほこ)さんと高梨(たかなし)さんが並んで歩いていた。

「防寒具は持ってきた?」

 露穂子さんが言った。

「ロボ子もしつけーなー」

 鳴神くんが言った。

 笑い含みだ。

「毎年いるんだから。昼間暖かいからって甘く見て、朝ガタガタ震えてる新入生」

「おまえだって新入生だろ」

 へー、と歌仙くんは思った。

 もう馴染んでる。

 座敷わらし高梨さんは、かたくなにこちらを見ようとしないが。

「そっちは、千両がなんとかアプローチしてる」

 鳴神くんが耳打ちしてきた。

 たしかに、千両くんが盛んに高梨さんに話しかけている。


 ふうん、なんだかんだみんな、うまくやってるんじゃん。


 地学教室では仮眠用のコーナーを作るのを手伝わされた。レジャーシートをひいて、毛布を用意して。三人組ももってきたジャージに着替えて身軽になった。鳴神くんだけは無駄に迷彩柄の作業ズボンにタンクトップだ。

「寒くないのか、何度も言ったが――」

 長澤先生に聞かれ、

「これがおれの普段のかっこなんで。寒くなったらフライトジャケット羽織りますよ。それより先生、望遠鏡は大丈夫なんですか。ちゃんと動くんすか」

「なめるなよ」

 にやり、と長澤先生が笑った。

「ぼくはここの望遠鏡にあこがれて、この高校の教師になったんだ。整備は欠かしていない。いいモーター音で滑らかに動く。見たいか?」

 これはもう、鳴神くんだけじゃない。

 千両くんも歌仙くんもワクワクが止められない。

「望遠鏡のチェックに行こうぜ、先生!」

「動かしてみせてよ、先生!」

「天体ドームにはどこから入るんですか?」

 先頭を切って長澤先生が教室を飛び出した。

「ついてこい!」

 おおー!と拳を突き上げ、三人組も続いた。


「ほんと、子供」

 露穂子さん、怒濤の勢いで飛び出していった四人組を見送って、鼻を鳴らした。

 ブツブツ言っているのは高梨さんだ。

「あんな人たち、いなくなっちゃえばいいのに……はじめての観測会なのに……」

「ハルちゃんも子供みたい」

 高梨さんは頬をふくらませてにらみ返してきた。

 しょうがない。

 いい機会だ、はっきりさせておこう。

「あのさ、ハルちゃん。いつまで、お兄ちゃんのお弁当を作ってくるつもり?」

「約束したんだもん。私のお弁当食べてくれるなら天文部に入るって」

「その条件付けがよくわかんないけど、そもそも天文部に入るつもりだったんでしょ。ずっと昔から、お兄ちゃんの影響で天文ファンだもんね、ハルちゃん」

「ロホちゃんだって」

「うちは、家族ぐるみでの英才教育。お兄ちゃんだけじゃない、お父さんもおじいちゃんもお母さんも一家揃って天文ファンでキャンプ好きなんだもん。記憶のない頃から、山のキャンプ場で星見て育ってきたんだもの。あのさ、うちの兄貴、高校教師なの。それが女子生徒から毎日愛妻弁当もらってるって、まずいでしょ」

「あっあっ……」

 高梨さん、ちょんまげをおっ立てて真っ赤になった。

「愛妻弁当とかっ!」

「反応すべきところが違う」

「いいの!」

 高梨さん、胸の前で両方の握りこぶしをぶんぶん振っている。

「そのうち結婚するんだから!」

「そのおそろしいまでの無邪気さはなんなんだ……。普通、そういうのは小学生の頃に卒業するでしょ。お父さんのお嫁さんになるとか、お兄ちゃんのお嫁さんになるとか、近所のかっこいいお兄さんのお嫁さんになるとか。まあ、うちの兄貴、オタクのくせに無駄にかっこいいのは認めるけどさ。お兄ちゃん、もう三〇だよ?」

「若いじゃん」

「私たちの倍ってことなんだけど」

「うっ」

 ちょっと言い過ぎたかな。

 露穂子さんがすこしだけ心配したところに。

「結婚したら、ロホ子なんか妹だぞ! 私の妹だぞ! 覚えていろよ!」

「この座敷わらしがーー! いいかげん現実見ろーー!」

「やめてよ、ロホちゃん、やめ、いだだだだだ!」

 露穂子さんと高梨さんが取っ組み合いをはじめたところで(一方的に露穂子さんが高梨さんのぷにぷにの頬を引っぱっているだけではあるが)、地学室の戸をだれかが開けた。


「あの」


 きれいなその声の主は、目を極限にまで広げてフリーズしている露穂子さんと高梨さんに声をかけたのだった。


「天体観測会って、ここでいいの?」


「やっぱすごいな、三〇センチ反射望遠鏡は。でっけえ」

 天体ドームから戻ってきた四人組は興奮も冷めやらない。

補陀落渡海(ふだらくとかい)の光学望遠鏡は二〇センチなんだよね」

「補陀落渡海のより大きいのか」

「ああ、大気がない宇宙空間なら、それでもかなりの性能になるんだろうね」

 あっと、長澤先生が思いついたようにいった。

「君ら、夕食は食べてきたか?」

「え、まだ六時前ですよ?」

「七時になるとセキュリティがかかって、校舎を出入りできなくなるんだ。しまったな、そっちのほうは防寒具ほどうるさく言わなかったか。こっちでは別に夕食を用意していない」

「カップラーメンもってきました」

「それは夜食用だよ。それで夕食含めてひと晩もつというのならいいが、君らの年でそれは無理だろう。しょうがない、急いで近所のラーメン屋で定食でも食べてこよう。ぼくが奢る」

「ロボ子たちは?」

「彼女たちはベテランだから、済ませてきたか弁当持参だろう。でも念のためとりあえず地学室に寄るか」

「あれ」

「あれ」

 四人組、足を止めて鼻をぴくぴくさせた。

「なんか、いい匂いがするんですが……」

「うん……」

 夜の校舎に漂っている食欲をさそうカレーの匂い。

 いい匂いではあるけれど、なにやら嫌な予感しかしないわけで。


『はあい、お帰りなさい! 夕ご飯できていますようっ!』


 やはり、またしてもメイド服着用の二号機さんと神無(かむな)さんなのだった。

 理系教室の大きな机にテーブルクロスがかけられ、美味しそうなカレーが並べられている。

「あの軍用トラック、うちの先輩たちじゃなくて、あんたたちだったのか……」

 鳴神くんが言った。

『はあい、私たちと野外炊具を運ぶのはさすがに自転車では無理ですので、炊具ともども同田貫(どうだぬき)組さまのご協力をいただきましたっ。さあさあ、夕食はカレーです。東京天文台でも観測の前にはカレーを食べる習慣があったそうです。先人に思いを馳せながら召し上がれっ』

「えっ、そうだったのか」

 長澤先生が頭をかいた。

「そんなこと知らなかったなあ。へえ、そうなのかあ……」

『ええ、真っ赤な嘘です』

 ぱっこーん。

 二号機さんの後頭部を三人組が叩いた。

 相変わらずいい音がする。


 一方、長曽禰(ながそね)家。

「ねえ、今日のうちのご飯、これなの?」

「これなのか?」

 虎徹(こてつ)さんと宗近(むねちか)さんが、テーブルの上に置かれたどん兵衛を見つめている。


 そもそも観測に前に食べるのなら、毎日食べていたことになるわけです、長澤先生。

 まあ、二号機さんの悪ふざけはともかく、とにかくいい匂いなわけで。

「せっかくだから頂こうか、みんな」

 長澤先生が声をかけた。

「わあ。お弁当用意してきたんだけど、このカレーもすごく美味しそう」

 席に着きながら井原(いはら)優子(ゆうこ)先輩がいった。


 男四人、全員が机に頭を打ち付けたのだった。


■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 晴美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

 松田 詩織。

 中沢 弓子。

 井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


神無。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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