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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
91/161

歌仙くん、もてる。

挿絵(By みてみん)

生徒の中でいちばんの美女を無意識に振ってしまう歌仙くん。

「男とは、想像上の幻の存在である!」

 今日も変な宣言で英語の授業が始まった。

 すごい美人だと、年上好きの歌仙(かせん)くんも認める。

 帰国子女なのか、英語の発音もいい。ちなみに、えっち星人は会話には苦労しない。彼らは自分たちの言葉で喋り、聞いているのだ。埋め込まれたチップがそれをそれぞれの言葉に変換する。読み書きも高いレベルで支援してくれる。おかげで、えっち星では異なる言語間の交流に問題はなくなった。地球においても。

 そういえば、この先生、板額(はんがく)先生というのだそうだ。

 本名は西織(にしおり)高子(たかこ)

「板額って知ってる? ほら、宇宙まで行ってきた警護アンドロイド。すごい美人じゃん。あの板額に似てるってんで、板額先生」

 広田(ひろた)くんに教えてもらったのだが。

 似てるかな。

 美人で長身でスタイルがいい。それだけじゃないか。しかもほんものの板額さんはスタイルがいいといってもスリムってだけで、胸は無いに等しい。板額先生はご立派じゃないか。

「高子とふたりでヌードモデルやって」

 美術部顧問の山本先生はそう言った。

 実はそんなこと言ってないのだが、すでに歌仙くんの記憶の中ではそういうことになっている。

「あっ!」

 と、歌仙くんは気づいた。

「その場合、おれは板額先生のヌードを描けないってことじゃないか!」

 悶々と悩む、歌仙くん、高一の春である。


「あの男嫌いの板額先生が、ヌードモデルなんてするわけないじゃないか」

 男嫌いとヌードモデルがどう繋がるかよくわからないが、広田くんはそう断言した。圧倒的少数派の美術部男子は、今日も美術室のすみっこで昼ご飯だ。

「あんな美人なのに、男嫌いなのか」

 あ、つまり独身?

 マジか。

「美人だから男嫌いなのかもしれないぜ」

 へえ、アホっぽい感じなのに意外と深そうなことを言う。

 歌仙くん、そんな失礼な感想を抱いたのだが。

「板額先生くらいきれいな人のヌードは見てみたいけどさあ。やっぱり至高は……」

「うん」

「着衣の女の子をモデルにして、その子のヌードを描くことだよな」

「はあ」

「どこで見たんですか、私の裸……!とか、顔真っ赤にさせて身をよじらせて恥ずかしがる姿を見たい。それが至高だぜ。な、わかるだろ、歌仙」

 ああ、やっぱりアホだった。

 聞きつけた女子たちが騒いでいる。

「あんたのモデルにはぜったいならないからな、広田ァ!」

 そりゃそうだ。


「板額先生?」

 休み時間。

 読書していた長澤(ながさわ)露穂子(ろほこ)さんに聞いてみたが、長澤さんは真顔で首をひねるだけだ。もしかしたら、この子は他人に興味が無いのかもしれない。

「あれで、もう少しおっとりした性格だったら、山本先生とか井原(いはら)先輩とか相手にいくらでも料理できるのに……」

 なんの料理ですか。

 そっちもいける口ですか。

 ていうか、やっぱりそっち方面にしか興味がないのですね。

「つか、井原先輩?」

「美人なことで有名な三年生。ほらね、やっぱり歌仙くんて男の人にしか興味ないんでしょ」

 そりゃ、あんたの妄想設定なだけでしょうが。

「それがなんで板額先生かなあ。あのひともう三〇だよ」

「ああ、こいつ、年上が好きなんだよ」

 鳴神(なるかみ)くんが言った。

「へえ、今の日本の男だと希少種、絶滅危惧種だね」

「長澤さん、それ偏見だよ……」

「あれ、でも井原先輩も三年生……」

 三人組と長澤さんは廊下側の席で、今もそこで話しているのだが、廊下側のマットアクリルの窓が勢いよく開いた。

「私は二八です」

 そこにいたのは、板額先生なのだった。

 あまりのことにみんな口もきけないほどびっくりしていたが、いち早く立ち直ったのは長澤さんだ。

「西織先生、お兄ちゃんや山本先生と同学年じゃないですか。お兄ちゃん、ことし三一歳ですよ」

 ああ、そんな逃げ場のない指摘しなくてもいいのに、ロボ子さん。

 板額先生、じろりと長澤さんを見た。

 小さく舌打ちして「小娘」と言ったかも知れない。

「長澤先生と山本先生は二浪なのです」

「違います」

「それで、私がどうしたのです。若さと美貌を保つ秘訣ですか。残念です。私は天然です。人に教えられることなど、なにひとつありません」

「そこの歌仙くんが、ホモなのに西織先生に興味あるそうです」

 むちゃくちゃ言うな、このロボ子!

「ほう、どれ」

 どれ。とか、生徒を言うな!

「おれですが、そうじゃありません」

 しょうがないので、歌仙くんは立ち上がった。

「あの、先生が授業のまえに宣言するあれは、どういう意味があ……」

 そこで、千両(せんりょう)くんが口を挟んできた。

「あれ、歌仙くん、板額先生のヌードがどうのっていってなかった?」

 君までなにを言い出すのですかーー!

 板額先生、ぴくりと眉をひそめた。

「私のヌード?」

「違いますよ。山本先生が、おれと西織先生にヌードモデルやらせたいと言ってたってだけです。おれ、美術部なんです」

 だから、それは歌仙くんの妄想です。

「ふーん。瑞希(みずき)、まだそんなこと言ってるのか」

 板額先生、窓枠に肘を乗せ、前屈みになって歌仙くんを上目遣いに見た。

「それで君は、私の裸を妄想してたわけか、生徒」

 わかってやってるのかどうか、歌仙くんの視線の角度ではボタンを外したシャツから胸の谷間が見えてしまう。歌仙くん、どぎまぎと目をそらしてしまう。

「でも、君はホモなのだろう、生徒」

「ですから、違います」

 にっこりと板額先生が笑った。

 美人が笑えば、中身が変人でもさすがにインパクトがある。


「合格」

 と、板額先生が言った。

「候補」


 そして姿勢を直し、窓から離れる気配を見せた。

 慌てて歌仙くんが声をかけた。

「あの、ですから、先生が授業のまえに宣言するあれは――」

 背中を見せていた板額先生は首だけ少し傾けた。

「ああ、あれ」

 ん~と、ちょっと考え込み、

「つかみ?」

 なにそれ。

「あと、思春期における理想と現実の乖離? 思い知れ、ガキども」

 今度は不敵ににやりと笑い、板額先生は歩いて行った。

 やっぱり素敵だなあと歌仙くんは思ってしまう。歩く姿まできれいだ。

 だけど、板額先生の残り香を楽しむこともなく千両くんが言った。

「ねえねえ。それでさ、天文部、今度の土曜に観測会だって。歌仙くんも参加しない?」

「理科棟の天体ドームさ、ちゃんと入ってるんだぜ、三〇センチ反射望遠鏡! 補陀落渡海(ふだらくとかい)の観測用望遠鏡なんて覗かせて貰えなかったモンな。楽しみだー!」

 鳴神くんまで板額先生など見なかったかのように言った。

 こいつら、ほんとに色気のないヤツらだなー。

「あ、独身かどうか聞けなかった」

 聞くつもりだったのですか、歌仙くん。

「独身だよ」

 長澤さんが言った。

 ん?と歌仙くんは長澤さんを見たが、長澤さんはもう読書に戻っている。

「歌仙くん、聞いてる?」

「聞いてるのかよ、歌仙」

「いや、おれ、美術部なんだけど。参加できるの?」

「お兄ちゃんに聞いてみないとわからないけど、たぶん大丈夫」

 これも長澤さんが答えた。

 長澤さんが天文部部長で、さっきも話に出てきた長澤さんのお兄さんが天文部顧問なのだ。しかしこの子、読書しているようで話も聞いているんだな。それとも聖徳太子か?

「ただし、親の同意書が必要。ひと晩学校に泊まるわけだから」

 へえ。

 ここで、歌仙くんは「あっ」と思った。

「そ、それなら、おれも、友達を誘っていいのかな」

 ちょっとした勇気を振り絞る。

「ひ、広田……っての、六組の」

 言えた!

 ちょっと噛んだけど、呼び捨てにできた!

「同意書とれるなら」

 長澤さんが言った。

 歌仙くん、「おれいま、高校生している!」とふたたび感動している。


 しかし。

「無理だわ、それ。日曜に、中学んときの友達と遊ぶ約束あるから」

 放課後、美術室で広田くんを誘った歌仙くんだったが、あっさり振られてしまった。

 しかも、自分の知らない友達と遊ぶんだってさ。

 そっちのほうが大切なんだってさ。

 いいけどさ。

 ちえっ。

 微妙に凹みながら石膏デッサンしていると、きれいな声がした。


「ねえ、それ、私は誘ってくれないの?」


 声もきれいだったっが、顔もきれいだった。

 板額先生に負けない美人が振り返ったそこにいた。

「だれ?」

 無自覚に言ってしまった歌仙くんに、その美人は顔を真っ赤にさせた。

 隣でデッサンしていた広田くんが顔をそらしたまま脇腹をついてきた。

「部長の井原優子(ゆうこ)先輩……」


 ――美人で有名な三年生。


 もう一度彼女を見ると、井原先輩はもう背中を向けていた。

 長くてきれいな髪だなと歌仙くんは思った。

 井原先輩はそのまま美術室を出て行った。

 広田くんや他の部員たちは凍り付いている。あの賑やかな山本先生まで息を呑んでいる。自分がなにをしてしまったのか、さすがに歌仙くんにももうわかっている。

「馬鹿っ!」

 大きな声が廊下から聞こえてきた。


■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 春美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子(井原 ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

松田 詩織。

中沢 弓子。

井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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