表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
80/161

誾千代さん、叱責する。

挿絵(By みてみん)

 森の中をオフロードバイクが駈けている。

 エンジン音がしない。

 地球製のものではない。えっち星の電動バイクなのだ。

 森の中に人影がある。

 バイクはその人影の横に停まった。

「吹っ飛ばされたかと思ったよ」

 促され、人影はバイクの後ろに乗った。バイクはまた森の中を駈け始めた。


「最初の狙撃ポイントは距離一三〇〇。使用ライフルは五〇口径。実際に勅任艦長を射殺した狙撃ポイントは距離一一〇〇。使用ライフルは同じく五〇口径」

『可能ですか、人間無骨(にんげんむこつ)中尉』

 (ともえ)さんが聞いた。

誾千代(ぎんちよ)くんが防いだ二発は可能だ。しかし、射殺したほうのは舌を巻くしかない。激しく動いている対象物を超長距離精密狙撃など、私はやりたくないね」

 人間無骨さんがいつになく真面目なのは、自分にも可能かどうか、頭の中でシミュレーションを繰り返しているからなのだ。

「運かなあ、自信があってのチャレンジかなあ」

 そう口にして、巴さんの視線に気づいたようだ。

「君はできる? 戦闘アンドロイドだし、五〇口径ライフルは君の得物でもあるのだよね」

『それは、どちらかの狙撃手が、雪月(ゆきづき)だと推定されることからの質問でしょうか』

「ただの興味」

『できます。狙撃支援システムが搭載されていますから。次の動きが予想できない自由な状態よりむしろ、ああして拘束されて弾んで貰っていたほうがシステムが計算しやすいかもしれません。ただ、実際にできるかどうかはわかりません。警護用アンドロイドですので、訓練以外で使ったことがありません』

「狙撃支援システム」

 人間無骨さんが言った。

「地球製のは知らないが、それはうちにもある。なかなか使える。でもつまんないよね。うちにはシミュレーションシステムもあってね、船の中で実射の狙撃訓練なんてできないから、ずうっとそっちをやってたんだ。まあ、船降りたって、ライフルで訓練できる場所なんてヤクザのボクらに用意できるわけないからさ。今でも大いに利用させてもらっている。おかげで実戦でもはずしたことがない。ような気がする。やったこと表向きないし」

 どういうことだよ。

「代貸」

 同田貫(どうだぬき)さんが呼んだ。

 しかし人間無骨さんは反応しない。

『あの、中尉。隊長が呼んでいますが』

「なんのこと?」

『同田貫隊長が』

「気のせい」

 気のせいというか、あんたのすぐ目の前に同田貫さんの巨体があるのだが。

「副隊長」

 同田貫さんが言い換えた。

 人間無骨さんは背筋をビシッと伸ばして敬礼した。

「サー・イエッサー!」

「艦長を通して提督からの指示があった。戻れとのことだ。日本警察の介入は避けたい。あと始末はしっかりやれとのことだ。おれとしてもそれを望む。山狩りしている連中を呼び戻し、他は掃除をさせろ」

「アイアイ・サー!」

 人間無骨さんの変貌ぶりに目を丸めていた巴さん、人間無骨さんの眠ったような眼が自分を見ているのに気づいた。

「残念だったね」

 人間無骨さんが言った。

「あれでは防ぎようがなかった。まあ、君たちはそれじゃ済まないんだろうけどさ。力になれなくて悪かったね」

 人間無骨さんは帽子を被りなおし、てきぱきと指示を飛ばしながら野戦本部からでていった。

 巴さんは、ぎゅっと唇を噛んだ。


 タイラ精工のトレーラーでは、すでに誾千代さんが修理を受けている。

「巴、君も座れ。一応チェックする」

 促され、巴さんは自分の椅子に座った。

 ため息をつく機能はない。

 しかしため息をつきたい気分だった。

『なんて男なの、加州(かしゅう)清光(きよみつ)

 巴さんが言った。

『五〇口径を、しかも日本で本当に手に入れてくるなんて。狙撃支援システムなしであそこまでの超長距離精密射撃。それとも狙撃支援システムも入手しているの。もう手に負えない。想定外。どうすればいいっていうの』

 忙しく手を動かしながら、クルーの目が伏せられていく。

「だめだ、誾千代!」

 その中で、その声が響いた。

「まだ起き上がっちゃいけない!」

 制止する技術者を片手で振り払い、誾千代さんが椅子から起き上がった。

『巴!』

『なによ、誾千代』

 面倒くさそうに巴さんが言った。

 誾千代さんが吠えた。

『巴、あんたは弱いッ!』

 巴さんは、はっと目を見開き誾千代さんを見た。

 肩関節が変形しているのもあって、胸だけではなく右半身の装甲が全部外されている状態だ。その悲愴な姿にも関わらず、誾千代さんの顔は闘志に燃えている。

『ごめんなさい、誾千代……』

 誾千代さんの目がちらりと横に動き、さらなる言葉を促している。

 巴さんはうなずいた。

『ごめんなさい、みなさん』

 はっきりとした声で巴さんが言った。

『巴は切り替えます。任務はまだ終わっていないのだから』

 クルーたちの目に力が戻った。

 彼らは自分の仕事を力強く再開した。


 パークの社屋前では提督と典太(でんた)さん、そして板額(はんがく)さんが待っていた。

「失態でありました」

 普段着のままの虎徹(こてつ)さんが敬礼して言った。

 ずっと眠っていた虎徹さんだが、現場の最上位士官である以上、しょうがない。

 提督さんはうなずいて、

「これから全員で補陀落渡海(ふだらくとかい)に移る」

 と言った。

「イエス・サー。全員とは」

「おれ、おまえ、勅任艦長。そして警護の板額さん、巴さん、誾千代さんだ。誾千代さんは動けるようになってからでいい。不撓不屈(ふとうふくつ)に連絡を取った。もう地球側への体面を保つ余裕はない。明日、緊急に連絡艇を出し、勅任艦長と死体を上にあげる。領事としてのおれは今日のことが地球側に漏れるのを欲さない。したがって、不撓不屈にあがるのは『ふたりの勅任艦長』だ。捜査の最中に勝手なことをするなと日本警察は怒るだろうが、そこはおれがなんとかする。もしもだ」

 提督さんはそこで力を込めた。

「もし、それが二体の死体となろうと、『ふたりの勅任艦長』は『生存者』として不撓不屈に移るのだ。地球と本国の外交の序幕に、不愉快な事件が記憶されてはならない」

 この宣言は、生き残った勅任艦長も聞いているのである。

 がちがちと歯を鳴らしている。

 二人が死んだことで、やっと現実を認識できたのかもしれない。

『私も補陀落渡海さんに行きます』

 ロボ子さんが言った。

「だめだ」

 即答したのは提督さんではなく、虎徹さんだ。

「たしかに雪月改(ゆきづき・かい)のスペックはすごい。それでも君は戦闘アンドロイドじゃない。君は五〇口径ライフルの直撃に耐えられるような装甲をしていない。君はおとなしく家で――」

「あー、それは大丈夫」

 そこでのんびりと口を挟んだのは、軍服を着ていつの間にか来ていた宗近(むねちか)さんだ。

「前にも言っただろ。ロボ子ちゃんの外殻は、補陀落渡海の装甲と同じ素材のものに換装してある。おなじ場所に何度も撃たれたらへこむかもしれないけど、それくらいだよ」

 あっと周りを見渡し、今さら敬礼して。

「ですよ、艦長」

 ああ、ここにも天然がいやがった……。

 自分のことを棚に上げ、虎徹さんは目を閉じるのだった。

 ロボ子さん、得意そうにひとつ笑って敬礼をしてみせた。

『私も行きます、マスター。マスターを守ります』

 虎徹さんは視線を逸らした。

「おれは、もしそうなるとして、君と清光が戦う姿を見たくないんだ」

『マスターの古いお友達でも、容赦なく殴り倒します。マスター相手でなく、勅任艦長さん相手に襲いかかった場合でも殴り倒します。野良雪月さんを自分の復讐に使ったことで、清光さんを止めることへの抵抗感はなくなりました』

 いつもの黒いスーツ姿の清麿(きよまろ)さんが前に出た。

(みなもと)清麿補陀落渡海砲雷長であります。私も補陀落渡海に乗船する許可をお願いいたします」

 同田貫さんも前に出た。

「同田貫正国(まさくに)補陀落渡海宙兵隊隊長であります。部下とともに乗船する許可を願います」

「まさか、副官のおれを置いていくつもりじゃないでしょうね、閣下」

 典太さんも敬礼した。

 提督さんは渋い顔でぐるりと見渡し、

「許可する。ただし、乗船のときのチェックはしっかりするんだぞ」

 と言った。


『典太さん』

 廊下で典太さんを呼び止めた板額さん、典太さんの口が「マイハニー」と動きだしたのを察知して両手で頬をぴしゃりと挟み込んでから、

『お話が』

「なんでごあ」

 板額さん、今度は片手で典太さんのアゴをつまんで、その口になにかを突っ込んだ。

『あげます』

 そして踵を返して歩き始めた。

 板額さんが突っ込んだのは紙切れだ。典太さんはそれを取り出して一読すると、

「わかった。楽しみだなあ、マイハニー!」

 と、大声を上げた。

 板額さんがギョッとした顔で振り返った。

 典太さんは嬉しそうに手を振り背を向けて歩きはじめた。


 ウキウキと歩いている典太さんの顔に浮かんでいるのはデレデレとした笑顔だ。しかし、その眼はすうっと鋭くなっていくのだった。


■登場人物紹介・ゲスト編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。補陀落渡海宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


高校生のような三人組。

えっち星人。

鳴神、歌仙、千両。間違えて補陀落渡海に乗ってしまった少年たちである。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


巴さん。

板額型戦闘アンドロイド二番機。

極端な性格になりやすい板額型の良心。ただ、雪月改や同じ板額型の暴走に振り回されてしまう。


誾千代さん。

板額型戦闘アンドロイド三番機。

乙女になりすぎた板額さんの反省で生まれた、生粋のサド。ただ戦闘能力だけはそれに見合って高いようだ。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ