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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
79/161

巴さん、苛立つ。

挿絵(By みてみん)

 満開だった。

 深い渓谷に山桜が咲き誇っていた。

『うわあ、きれいですよー、マスター』

「うん、ロボ子さんのおっぱい硬い。ぐう」

 そして、渓谷を渡る橋にはバンジージャンプ用のフェンス。


 そこでは、人間無骨(にんげんむこつ)さん率いる精鋭先遣部隊一個班がすでに夜のうちに展開していて、狙撃ポイントを中心に捜索が進められている。

 陰険さを誇る宙兵隊副隊長。

 泣く子を呼吸困難にする同田貫(どうだぬき)組代貸。人間無骨中尉。実はスナイパーとしても超一流なのだという。

 是非にと望み、(ともえ)さんは人間無骨さんの指導を受けることになった。


「よろしい、巴くーん」

 双眼鏡を手に、人間無骨さんが言った。

「君が狙撃ポイントと考えた場所を教えてくれないかー」

『はい、中尉。想定できる狙撃銃は限られます。加州(かしゅう)清光(きよみつ)は民間人であり、軍の狙撃ライフルを入手することはまず不可能。更に狙撃支援システムの使用も不可能。日本の環境ではゼロ調整をすることすら難しい。その条件の中では長距離精密射撃は不可能と判断できますが、あえて一〇〇〇メートルまでを危険領域と設定しました。加州清光という人間の不確定要素を考えた上です』

「うん」

『その上で、危険なポイントと考えられるのは、あそことあそこ。こちら側ではあそこ……あの、私、間違えていますか?』

 巴さんが指を差すごとに、人間無骨さんが顔をしかめているのだ。

「ふーん。どこを間違えたと思ったのかな、巴くーん」

『いいえ、わかりません、人間無骨中尉』

 人間無骨さんが眠そうな目を向けてきた。

 そして、にやりと笑った。

「ごーかくだ」

 イラッときた。

「君が設定した危険領域も、狙撃ポイントだと認定した場所も間違っていない。そして君がどこを間違えたかわからないといったのも間違ってなーい」

 イラッ。

 イラッ。

「たーだし。あそこもだぞ、巴くーん。あそこを見逃したのは感心しないぞー」

『えっ』

 人間無骨さんが指さす方向を確認し、巴さんは困惑している。

『わかりません。あの場所を狙撃ポイントだとおっしゃる理由を教えてください』

「知りたい?」

『は、はい。今後のためにも是非教えて頂きたく思います』

 ふん、と人間無骨さんが鼻を鳴らした。

 巴さんは息を呑んだ。

 人間無骨さんが言った。

「ぼくの趣味」

 頭ぶち抜くぞ、このやろう。


『人間無骨さんて、よく今まで生きて来られましたね』

 まだ眠っている虎徹さんを背負いあげて、ロボ子さんが言った。

「それはどういう意味だね、二号機さん」

 同田貫の親分さんは苦笑混じりだ。

『数回殴り殺されていてもおかしくないです』

「あいつは、あれで見た目よりタフなやつでね」

『ああ、やっぱり何度か闇討ちにあってるわけですね』

 ロボ子さんが言った。


 現役スナイパーの教えを聞けると機嫌が直りかけていた巴さん、逆にイライラを高めてしまったようだ。レジャーシートを敷いてピクニックの準備を進めているロボ子さんたちのところにやってきて八つ当たり気味に言った。

『あんたたち、どんちゃん騒ぎしたらぶっ飛ばすわよ。今日は一号機さんの目と耳が必要なんだからね!』

『はーい』

『はーい』

 返事だけはいい。

『民生機の私などに頼らなくても、板額(はんがく)型なら私より良い耳と眼をお持ちでしょう』

 一号機さんは、ちょっと意地悪。

『ノウハウが違うのでしょう。一日中村を観察している因業ババアにはかないません』

 一号機さんと巴さんの笑顔が怖い。

『ところで、巴さん。前より太りましたね』

 ロボ子さんが言った。

 怒り出すかと思えば、巴さんは逆に目を細めて感心したようにロボ子さんを見た。

『わかるの? 言い方は気に入らないけど。防弾複合装甲に換装してあるのよ。このコートがもともと超高分子量ポリエチレン繊維でできているし、今の私と誾千代(ぎんちよ)は五〇口径ライフル弾の直撃でも耐えられる。仮に外殻を破られても破片が内部に飛散しないから最小限の被害で済む。正直、いつもより体が重いけどね』

 せっかく巴さんが真面目に解説してくれているのに、ロボ子さんは鼻歌交じりにお重を開いて並べている。

『とにかく!』

 巴さんが言った。

『静かにしてなさいよ!』


『私が縛ってやるから、座りなさい。ぽけっと立って、いい的になってるんじゃない。しゃんとなさい、豚たち!』

「縛って、誾千代さま!」

「縛って、縛って!」

『足だよ。なにエビぞってるんだよ、豚たち!』


 勅任艦長さんたちと誾千代さんの美しい会話を横に聞きながら、テーブルと野外無線機を並べただけの同田貫組野戦本部に戻ると、人間無骨さんが話しかけてきた。

「ほんとに太ってたんだね」

 ここにも地獄耳がいるよ。

「いやね、うちの若いの三人が、巴さんはぜったいおっぱい大きくなってるって騒いでたのでね。あいつらの観察眼もあなどれんな」

 気配を感じてちらりとみたら、物陰から高校生のような三人組がリビドー溢れる目で巴さんを見ている。

『でも、私の胸は硬いですから』

「関係ない。美女の胸なら、あとは妄想でなんとかできる。我々は鍛えられている」

 もういちど三人組をみたら、そろって激しく首を縦に振っている。

「まあ、そんなにイライラしなさんな」

 人間無骨さんが言った。

「狙撃ポイントは抑えている。近距離狙撃は宙兵隊がうろちょろしている中では難しい。この人数相手に近接格闘に持ち込むのは無謀。勅任艦長は防弾ベストを着用。私が指揮をとったとしてもこれ以上の手は打ちようがないと思う」

『……はい』

「あとは本当に超長距離精密狙撃をされたときだが、その場合は建物の外に出さないってのが唯一の防衛手段だ。護衛対象が従わないのだからしょうがない」

『……』

「巴くん」

『はい、人間無骨中尉』

「今日一日、無事に終わるといいね」

『……はい』


 しかし、その瞬間は突然やってきた。


『一〇時!(一〇時の方向の山腹にマズルフラッシュらしきもの視認)』

 一号機さんが叫んだ。

 確認する間などない。誾千代さんが素早く立ち上がり、勅任艦長さんたちの体を庇って一〇時の方向に体を向けた。

 ガン!

 直撃。

 衝撃に誾千代さんの体が後退った。

『五〇口径ッ!』

 誾千代さんが声を張り上げた。

「ポイント23D3N! 確保!」

 人間無骨さんが無線機で指示を出している。

 まさか、本当に五〇口径による一〇〇〇メートルを超える超長距離狙撃!

 加州清光とは何者なんだ!?

 巴さんは二人の勅任艦長さんたちに飛びかかり、体を伏せさせた。

 しかし一人が、足を縛られた状態でぴょんぴょんと逃げ出してしている。

『次!(同ポイントより二射目を確認)』

 再び一号機さんの声。

 誾千代さん、今度は自分で視認できている。

『推参なりッ!』

 無茶をする。

 誾千代さんは銃弾を殴りつけた。

 腕は肘まで裂けるように粉砕され、衝撃で片腕全体が肩から吹き飛ばされた。


 一方、アホの軍団も動いている。

「二号機さん、主砲撃ちぃ方はじめッ」

『がってん!』

 砲雷長清麿(きよまろ)さんが号令して、ロボ子さんが応えた。

「主砲?」

 無線機のマイクを手に、人間無骨さんが振り返った。

 確かにロボ子さんの頭上に、巨大な主砲連装砲がある。

「あー、やめてくれないかなあ。部下を確保に向かわせちゃったところなんだけど。あ、撃っちゃった」

 耳をつんざく大音響。

 二〇センチ連装砲の斉射だ。

 狙撃ポイント周辺の山腹が吹き飛んだ。

「おおい、無茶すんなよ、砲雷長……」

 さすがに目を覚ましたらしい虎徹さんが、あぐらをかいて言った。

「大丈夫だ。加洲清光はこんなことでは死なん」

 清麿さんが言った。

「なにその、根拠のない言い訳」

「まあ、うちの連中も大丈夫でしょう。宙兵隊は我慢強いから」

 こちらは人間無骨さん。

「あんたらはそうでしょうけども」


 未だに緊張した顔で周囲を見渡しているのは一号機さんだ。

 片腕を失った誾千代さんも警戒を続けている。

 一方、「あっ」と情けない声を上げたのは巴さんだ。ひとりぴょんぴょん飛び跳ねていた勅任艦長さんがそのまま谷底に落ちてしまったのだ。

『大丈夫、巴。私がちゃんと縛ってある』

 誾千代さんが言った。

 誾千代さんが言うと、なんだか別の意味になりそうですけども。

『あ、そうか、ただのバンジージャンプ……』

「ひゃああああ~!」

 谷に落ちた勅任艦長さん、びみょーん、びみょーんと弾みながら、奇声を上げて喜んでいる。

「すっごおおおいいい!」

 まあ、狙撃者もロボ子さんの砲撃で吹っ飛ばされているか、そうでなければ宙兵隊が殺到する前にすでに逃げているだろう。


 だが、しかし。

『三時!』

 みたび、一号機さんの声が響いたのだ。


 さきほどとは反対方向にマズルフラッシュらしきもの視認。

 そして弾丸は、渓谷で弾んでいた勅任艦長さんの体を貫いた。

「そんな馬鹿な」

 いつになく緊張感のある声を人間無骨さんが漏らした。


挿絵(By みてみん)

謎の狙撃手。

■登場人物紹介・ゲスト編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。補陀落渡海宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


高校生のような三人組。

えっち星人。

鳴神、歌仙、千両。間違えて補陀落渡海に乗ってしまった少年たちである。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


巴さん。

板額型戦闘アンドロイド二番機。

極端な性格になりやすい板額型の良心。ただ、雪月改や同じ板額型の暴走に振り回されてしまう。


誾千代さん。

板額型戦闘アンドロイド三番機。

乙女になりすぎた板額さんの反省で生まれた、生粋のサド。ただ戦闘能力だけはそれに見合って高いようだ。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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