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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
78/161

ロボ子さん、お花見に出かける。

挿絵(By みてみん)

 虎徹(こてつ)さんは朝まで眠れなかった。

 結論に悩んだわけじゃない。

 結論なんて、最初から決まっている。

 ただ、それをどうロボ子さんに伝えるかで悩んだ。どうせ怒られるに決まっている。それがわかっていて、どう伝えればいい。


 そのうち、やって来た頃の可憐なロボ子さんを思い出した。

 ロボ子さんの硬かったコンピューターボイスを思い、硬かった表情を思い、硬かったおっぱいを思った。

 そのうちなぜか試験のヤマかけ必勝法を思いだし、小さい頃見たアニメを思いだし、最初の航海で下についた嫌な上官の言動を子細に思い出してしまい、ロボ子さんの硬いおっぱいを思った。

 さらに、最近妙にしょぼくなった気がするAランチ問題を考え、まだ腹は出てないよなと思い、ロボ子さんの硬いおっぱいを思った。

 おっぱいのことばかり考えちゃいけないと、ロボ子さんの硬くて小さいおっぱいを思った。


「ロボ子さん」

 そんなかやで朝を迎えた虎徹さん、もう考えても無駄なので、朝ごはんのしたくに忙しいロボ子さんを前に潔く土下座した。

「お願いがあります」

 土下座をする前に台所の様子が目に入り、なんだかいつもの朝ごはんと雰囲気が違わないか、量も多くはないかとは思ったが、それを口にするような場合ではない。

「もしかしたら、加州(かしゅう)清光(きよみつ)がおれを殺しに来るかもしれない。理由はある。その時、ロボ子さんは、あいつを止めないでやってほしい。あいつにおれを殺させてやってほしい」

『いやです』

 ロボ子さん、即答である。

 しかも鼻歌混じりである。

 虎徹さん、勝手が違うものの、当たり前すぎるほど予想された返答に更に頭をこすりつけた。

「現実感のない話だし、とんでもないお願いをしているとは理解している。ロボ子さんからすれば、おまえは何を言っているんだといったところだろう。どうしてあんたはそう無責任なのだと言いたいことだろう。ただ――」

 虎徹さんは顔を上げた。

 酢の匂いがたっぷり飛び込んできた。

 ロボ子さん、おいなりさんを作っているのだ。虎徹さん、うまそうだとツバを飲み込んでしまった。

「まずは、その、おれの話を聞いてくれ――ませんか」

 ぐう、と腹も鳴る。

『聞きました』

「おれはたしかに軍人一家で育ったのもあって、心構えというものをアナクロに理解しているようだ。死にたがりといわれてもしょうがない。ロボ子さんから見れば、君のマスターとしての責任を軽く考えている男でしかないかもしれん。しかしだ――え?」

『うなされてるので様子見に行ったんです、明け方』

 ここまで鼻歌交じりだったロボ子さん、いきなりギロっと虎徹さんを睨み付けた。

『そのとき、みんな聞きました。マスター、質問したら寝言で全部答えてくれましたよ』

「お、おれ、寝てたの?」

『話の八割が、しつこくしつこくしつこく、私の胸のことでしたけど』

 間違いない。

 聞かれたのだ。

『あのですね。それは、間違えた方が悪いんでしょう。なんでマスターが責任をとる必要があるのです。どうして加州清光さんがマスターを恨む理由になるんです』

 正真正銘、完全に聞かれたのだ。

 ていうか、どこまで聞かれたのだ。

「責任とかじゃないんだ、ただ、あいつは悔しいだろうと思うんだ。ほんとうの標的だったおれは曲がりなりにも艦長になり、異星人とのファーストコンタクトという大冒険を果たした。こうしてロボ子さんにも会えた。なんだかんだ、おもしろかった。本当なら、清光が得たかもしれない人生だ。それに罪の意識を感じているのは否定できない。そうだ、おれは苦しいんだ。あいつほど凄い男はいなかった。ほんとうなら輝かしい人生を送ったはずのあいつが、おれを標的にしたはずの罠で人生を奪われた。あいつの人生を横取りした形になっているのが苦しいんだ」

『そもそも、加州清光さんがマスターを殺しに来るかもしれないって発想が、加州清光さんに失礼じゃないんですか』

「うん、その通りだ。ただ、覚悟はする。おれは、ロボ子さんが止めようが、清光がおれを殺しに来たなら殺されてやるつもりだ」

『じゃあ、私も覚悟しますよ。マスターの命令に背こうが、私はマスターを護るんです。放り投げてでも、蹴飛ばしてでも、ぜったいに死なせません』

「ぐうの音も出ない」

 虎徹さんはため息をついた。

 負けである。

 虎徹さん、苦笑して頭をかいた。

「ところで、いい匂いがするんだが。今朝の朝ごはんは豪華なのかな。それとも、今日はなにかの祭?」

『ピクニックに行くんですよ』

「はあ」

『一号機さん、三号機さん、神無(かむな)さん……』

「はあ」

(ともえ)さん、誾千代(ぎんちよ)さん……』

 あれ、それ、おれを置いて?

 あれ、さっきいってた事といきなり違わない?

 覚悟とは違う「いじけ」という感情はあるのだ、このトーヘンボクにも。

『三号機のマスターさんも面白そうだから来るって言ってました。同田貫組さんも一個小隊でほぼ全員出撃だそうです。一号機さんも来るので本部は無防備ぽくなりますけど、襲われたらそんときゃそんときだ、がははは。だそうです。えっち星の名誉がかかっているんだからな、がははは。だそうです。あの、どうしました、マスター』

「あのー、ピクニックですよね?」

 ロボ子さんがにっこり笑った。

『はあい、ピクニックですよう。桜満開ですよ。きれいでしょうね!』


『だ、れ、が、ピクニックだと、言った、のよ……』

 板額型戦闘アンドロイド二番機、巴さんの声が震えている。

 地球のアンドロイドは器用だ。

 パークの駐車場に集まった集団を前に、巴さんは静かに激しく怒っている。

『せんせー、きのう、連絡網で電話きましたー』

『先生じゃないっ! 誰、誰、いま言ったの、誰っ!』

 だれもが神無さんだとわかっているが、みんな真顔で黙っている。

『だいたいなに、このむくつけきマッチョおっさんの大集団は! ぜったいピクニックじゃないでしょ、これって!』

『せんせー、ピクニックにしたいんですか、したくないんですかー』

『誰、誰、いま言ったの、誰っ!』


「ぴゅ~~となるやつをやりたい」

 勅任艦長さんたち念願の、バンジージャンプができるスポットが見つかったのだ。

 この村の近くに。

 この状況でそれかい!とだれもが驚愕する中、勅任艦長さんたちは強硬に外出を求めた。加州清光さんが混乱してくれるかもしれないと、提督さんの許可も出た。しかたなく現場を下見した巴さん、対スナイパー対策が必要であると宇宙巡洋戦艦不撓不屈(ふとうふくつ)宙兵隊の協力を要請。

 しかしどういうわけか、同田貫(どうだぬき)組から「まかせておけ」と言う返事が届いた。

 一方、バンジーができると決まってウキウキの勅任艦長さんたち、典太(でんた)さんに自慢。

 長年の友達がひとり死んだのに訳わからんよと典太さん、社員食堂でロボ子さんと神無さんに愚痴。

 もちろん典太さんは差し障りのある情報はすべて隠したのだが、ここで神無さんが有能さを無駄に発揮。勤務中に情報収集に努め、バンジージャンプに行くことを見事つきとめてしまった。

『巴。神無さんが、便乗してピクニックにいけますよっ!とアンドロイド連絡網で一斉送信しているようですが』

 板額さんからの問い合わせに、巴さんは立ちくらみを起こしてしまったという。

 ちなみに、ロボ子さんがすでに立ちくらみを経験しているので、巴さんは立ちくらみを起こしたアンドロイドの二例目ということになる。


 同田貫組の軍用トラック三台、清麿(きよまろ)さんのセダン、そして整備用のタイラ精工トレーラーに分乗して一行は出発した。ちなみに同田貫組代貸人間無骨(にんげんむこつ)さんが率いる先遣隊は、とうに早朝に出発している。

 提督さんの警護のために村に残る板額は楽でいいわね、とイライラしつつ、

『でも、考えてみれば同田貫組は宙兵隊そのもの。脳天気馬鹿ご一行も性能だけは板額型と変わらない。ポジティブにとらえればいいんだわ』

 脳天気馬鹿ご一行とは、もちろん雪月改(ゆきづき・かい)三姉妹+神無さんのことだ。

 前向きになろうとした巴さんだったが、目の前には誾千代さんと勅任艦長さんがふたり。

「誾千代さま……」

「誾千代さま……」

『やかましいッ! 私が話しかけない限り、おまえたちから話しかけるんじゃない、豚ァッ!』

「ああっ、素敵……!」

「ああんっ ご褒美です、誾千代さま……」

 おうちに帰りたい。

 泣きたい巴さんなのだった。


「ところで、そこにいるのは艦長殿のように見えますが……」

 ロボ子さんと神無さんが便乗した軍用トラックで、向かい合っている若い宙兵隊隊員が話しかけてきた。しまむらの普段着でだらしなく眠っている虎徹さんは、確かに艦長には見えないだろう。

『はあい、そうですよう。うちのマスター、ピクニックが楽しみで朝まで眠れなかったみたいなんですよう』

 お重を抱えたロボ子さんが、にっこり笑って答えた。


■登場人物紹介・ゲスト編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。補陀落渡海宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


高校生のような三人組。

えっち星人。

鳴神、歌仙、千両。間違えて補陀落渡海に乗ってしまった少年たちである。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


巴さん。

板額型戦闘アンドロイド二番機。

極端な性格になりやすい板額型の良心。ただ、雪月改や同じ板額型の暴走に振り回されてしまう。


誾千代さん。

板額型戦闘アンドロイド三番機。

乙女になりすぎた板額さんの反省で生まれた、生粋のサド。ただ戦闘能力だけはそれに見合って高いようだ。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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