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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
77/161

巴さんと誾千代さん、やって来る。

挿絵(By みてみん)

板額型三姉妹。

右から板額さん、巴さん、誾千代さん。

 勅任艦長さんがひとり、死んだ。


 事故死か、自殺か――他殺か。

 複雑にしているのは、ホテルのバルコニーから転落死した彼が異星人であり軍人だということだ。慌てた中央政府の意向を受けた警察庁長官の指示で、地元県警の捜査陣の他に警視庁一課からも二個班が投入されることになった。

 えっち国領事は日本警察の捜査に全面協力することを表明、その後のことはその都度協議することになった。

 地位協定すら満足に結ばれていない状況なのだ。

 とりあえずは、事件性があるのか。


 異星人たちの間では、何が起きたのか明確に予想がついている。

 加州(かしゅう)清光(きよみつ)さんによる「復讐」が始まったのだ。

 残り二人の勅任艦長さんをすぐにでも衛星軌道上の宇宙巡洋戦艦不撓不屈(ふとうふくつ)に送り込むべきだが、そんなことをしたら日本警察どころか世論からも痛くもない腹を探られることになる。藤四郎(とうしろう)提督さんは、独自に新たな警護体制を敷くことにした。


『申告いたします。板額(はんがく)型二番機、(ともえ)。着任しました』

 真っ赤なコートで小気味よく歩いてきて、ビシッと敬礼したのは巴さんだ。

『同じく板額型三番機、誾千代(ぎんちよ)!』

 同じく真っ赤なコートの誾千代さん、ここで普通に敬礼は決めたのだが。

『まかり来たりッ!』

 例によって傍若無人に言い放ち、豪快に白い歯を見せた。

 村に板額さんの妹たちがやって来た。

 迎えたのは領事秘書官、三池(みいけ)典太(でんた)宙佐。

「よろしくお願いします、巴さん、誾千代さん。さっそくですがお二人にはマンツーマンで勅任艦長の護衛をお願い致します。マイハニーは、引き続き領事閣下の護衛を続けてくれ」

 典太さんの後に控えていた板額さん、とりあえず典太さんの後頭部をぶん殴った。

 典太さんも慣れたもので、一瞬だけ気を失ったようだが瞬時に意識を取り戻し、巴さんと誾千代さんを連れて勅任艦長さんの宿舎であるホテルへと平然と歩いて行った。

 でっかいたんこぶは愛の印。

『誾千代まで呼んだのですか』

 そのでっかいたんこぶを見つめ、板額さんが言った。

『どういう人なんです?』

 ロボ子さんが言った。

『実は私も、まだ研究所に戻っていませんから会うのは初めてですが』

『はい』

『生粋のサドだそうです』

『わあ、びっくり』

『しかもテクニックが凄くて、どんな相手でも、あっさり調教してしまうといいます』

『板額さん、板額さん! 乙女回路はどこにうっちゃってしまいましたか!』

『例えていえば、警視庁公安ゼロ出身のエリートでありながら所轄刑事課に飛ばされやさぐれてしまった警部補的な中年男性といったやっかい極まる人であっても、その夜のうちに忠実なシモベにしてしまえるのだそうです』

『それきっと、例え話じゃないですよね! 具体事例ですよね!』

『私、あこがれちゃいます、先輩!』

『あなたは生粋の天然です、後輩』


 そういうわけで、その夜のうちに勅任艦長さんは誾千代さんの下僕となった。

 どっちの勅任艦長というか、両方である。

 尊大で傲岸だった勅任艦長さんたちが、目の前であっけなく堕ちていく姿を見せられた巴さん、まだ一年にも満たない人生なのだけれど人生観が変わったのだという。


「なにやら、昨日はすごい夜だったそうですが」

「濃厚だったようだねえ」

 領事執務室でお茶をすする、虎徹(こてつ)さんと提督さんである。

「でも、おかげで別人のように従順になって、扱いやすくなったよ、彼らね」

 あまり想像したくない。

「日本の警察の捜査状況はどうなっていますか」

「まだ始まったばかりだが、自殺という線のようだ。だがそれも、次の事件が起きるまでだろうな。頭が痛い」

 提督さんは、残った二人の勅任艦長も必ず襲われるという前提で話している。

「加州清光の姿は見たか。以前はちょくちょく見かけたそうだが」

「見ないですね。野良雪月(ゆきづき)さんに脳天にかかと落としくらって背負われていって以来、見ていません」

「虎徹な。おれには板額さんがついていてくれるが、おまえも二号機さんや神無(かむな)さんになるべく近くにいてもらえ」

 提督さんが妙な事を言い出した。

「なぜです?」

「念のためだ」

 そして提督さんの口から聞かされた、あの東の提督館の事件の別の一面は、虎徹さんに衝撃を与えたのだった。


「はじめて人を撃ったのは、もう一〇年も前の話だ」

 シングルバーナーでお湯を温め、清光さんが言った。

 インスタント味噌汁をいれたマグカップふたつ。コンビニおにぎりが二個ずつ。

 ここは村からは離れた山の中だ。

 むしろ、地元の町に近い。

 清光さんと野良雪月さん、行動を起こしてからは村の周辺で生活している。

 野良雪月さんに一号機さんの地獄耳を教えてもらってからは、必要な時以外には村に入らない。

「その頃はまだ、新鮮に怒ってたからね。人撃つのにも慣れてなくてさ。一発で膝を撃ち抜いてやるつもりだったのに、何発も叩き込むことになっちまったよ。悪いコトしたな、最初の奴には」

 その男は、命乞いをしてきた。

 そして言ったのだ。あれは、おまえを狙った事件じゃない。

「いやね、おれも変だとは思っていたんだ。熱血トーヘンボクの虎徹くんや、猪突猛進藤四郎くんならまだしも、あんま人と付き合わなかったおれだ。恨まれるどころか連中とは没交渉だったのに、なんであんな真似されなきゃなんねんだよって」


「あれは、鉄のちくわぶにしかけたイタズラだったんだ」

 その男は言った。


『だれ、鉄のちくわぶ』

 野良雪月さんが言った。

長曽禰(ながそね)虎徹くんの本名」

『……清光の本名は?』

「教えない」


 その男は続けた。

「ほんとうなんだ。あれは、ほんのイタズラだったんだ」

 下級生のくせに、いつも正論を押し通してくるいまいましい鉄の虎徹。あいつを困らせてやろうとやったことなんだ。砂糖菓子を――


『だれ、砂糖菓子』

「野良ちゃんは、学校生活聞きたがるくせに質問が多い理屈っぽいオカンかよ。前に言った、女優よりきれいだったという男子学生のあだ名だよ。どこでもそういうあだ名がつくもんらしいな」


 連中は砂糖菓子を東の提督館に連れ込んで、半裸にひん剥いて写真撮って「鉄の虎徹に悪戯されました」と一筆書かせた。それだけだった。それだけだったはずなのに、なぜ砂糖菓子が自殺してしまったのかわからない。一筆書かせた封筒の中身が、なぜ長曽禰虎徹から加洲清光に入れ替わっていたのかもわからない。

 男は泣いて許しを乞うた。

 違うんだ、おまえを潰すつもりじゃなかったんだ。


「だからどうだっての。おれの人生をめちゃくちゃにしてくれたのは、少しも違わねえっての」

 すでに数発撃って落ち着いた清光さん、今度はその男の残りの膝と両肘を正確に撃ち抜いた。一〇年経っても、あの時の気分とあの男の顔が忘れられない。

「まあ、おれらしくていいんじゃないの。別人のための罠で人生狂わされたなんてさ」

 清光さんが言った。


「本当のターゲットは、おれだった……」

 提督さんから聞かされた話に、虎徹さんは呆然としている。

「こういっちゃなんだが……身に覚えがあるだろう」

 虎徹さん、無言でうなずいた。

「おまえも身を守れと言った意味もわかったな?」

 虎徹さん、またうなずいた。


 マグカップにお湯を注ぎながら、清光さんは続けた。

「ときどきさ、あいつらが間違えずに虎徹を陥れていれば、おれは今ごろは艦長さんかなとか考えちゃうことがあるんだ」

 「な、ひくだろ?」苦笑して清光さんはマグカップを野良雪月さんに渡した。

「もしかしたら、地球への冒険に旅立った艦長は、おれだったかもしれない。あれは、ちょっと態度に問題のある非主流派の若手が集められた艦だったそうだからな。おれなんかぴったりだったろう。でもな、そんなこと夢想したあとは、やっぱりすげえみじめで気分が悪いんだ」

『虎徹さん、泣いてたね』

「ハッチの外まで聞こえてたの?」

『あれだけ近づけばね。一号機のおばちゃんほどじゃないけどね。私も、楽しそうにしてる雪月改(ゆきづき・かい)たちを見ると、ときどき思っちゃうよ。悔しいなあって』

「うん」

『あいつらに捕まるようなドジ踏まなければ、おばあちゃんもまだ生きていて』

「うん」

『私もあの子たちと、普通に友達として出会えてたんだろうになって』

 味噌汁をすすっていた清光さんが、驚いたように顔を上げた。

「やべえ……」

『どうしたの、清光』

「やばい。今、おれ、すげえ感動しちゃった……」

 清光さんは嬉しそうに笑った。


 ご飯を食べ終えた二人は、バイクにまたがった。

 星空を不撓不屈が行く。

『ねえ、清光は別の運命をたどってたら、あの宇宙船の艦長だったかもしれないんだね。村のでっかい宇宙船の艦長でなかったとしてもさ』

「ああ、そうだな」

『それってさ、どの場合でも、私たちは会えたかもしれないってことだよね』

 今度も驚いたように、清光さんは野良雪月さんへと振り返った。


 なんどでも、このアンドロイドはおれを驚かしてくれる。

 なんどでも、おれを嬉しくしてたまらなくしてくれるんだ。


『でも、その時も私は、野良アンドロイドをしてるかもしれない』

 野良雪月さんが言った。

「見つけるさ」

 清光さんが言った。

「どこにいたって、おれは野良ちゃんを見つける。おれと野良ちゃんは、どんな運命でだって相棒になるんだ」

 二人を乗せたバイクが国道に躍り出た。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


巴さん。

板額型戦闘アンドロイド二番機。

極端な性格になりやすい板額型の良心。ただ、雪月改や同じ板額型の暴走に振り回されてしまう。


誾千代さん。

板額型戦闘アンドロイド三番機。

乙女になりすぎた板額さんの反省で生まれた、生粋のサド。ただ戦闘能力だけはそれに見合って高いようだ。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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