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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
67/161

神無さん、変形する。

挿絵(By みてみん)

「こんにちは、雪月(ゆきづき)さん」

 私を迎え入れてくれた、優しそうな笑顔のおばあちゃん。

「ここが今日からあなたの家よ。気に入って貰えると嬉しいわ」


 野良雪月さんは、この雪月の体の三番目の彼女らしい。

 つまり、中古の雪月だ。

 リカバリされ、前の記憶を失い、新しい彼女になった。

 超高スペックアンドロイド雪月は、極めて高価格であり中古市場が大きい。

 メーカーで再整備されたものが基本だが、外殻をきれいにしただけであとは記憶を削除しただけ、という雪月も少なくない。

 ベテランと呼ばれるレベルの技術者であっても、体を開いてそのまま閉じるしかないと言われるほど独特で整備の難しいアンドロイドであり、メーカーとしても自社での再整備を推奨している。

 ただし、これもけっこう高い。

 したがって、整備不良の中古雪月が出回ってしまう。


 自分はどっちだろうかと、野良雪月さんはときどき思う。

 「おばあちゃん」は決して裕福な人ではなかったから、整備不良組かもしれない。自分の今の体たらくを見れば、そうかもしれない。

 でも構わない。

 覚えているのは、やさしい「おばあちゃん」。かわいがってくれた「おばあちゃん」。野良雪月さんがご飯を食べる姿を、嬉しそうに懐かしそうに眺めていた「おばあちゃん」。

 自分にとって、ただひとりのマスター。

 自分が三番目の自分にすぎない存在でも、ただひとりのマスター。


 一号機さんがそのワンボックスカーに気を払わなかったのは、しょうがない事ではあるのだ。

 自分のマスターである同田貫(どうだぬき)正国(まさくに)さんが異星人でありヤクザ屋さんということで、以前は村に出入りするすべての者に細心に注意を払っていたものだ。だが、その異星人と正式に国交が樹立し、この地に友好を記念したパークが作られることになり、人の往来が爆発的に増えてしまった。今では、ヤクザさん的ななにか(商売敵)か、警察さん的ななにか(天敵)だけを警戒するだけになった。

 そういうわけで一号機さん。

 そのワンボックスカーのことは「ガラの悪そうな兄ちゃんたちが数人乗ってる」車としてだけ認識し、そのあとは記憶の階層の奥にしまいこんでしまったのだ。

「いいね、この村、いいアンドロイドがいっぱいだねー」

 その台詞がでるまで追跡していれば良かったのだけど。


『もっといいホテルに泊めろ』

『もっといい食事を出せ』

『もっといいお酒を飲ませろ』

『ひとりひとりに美人の護衛をつけろ。地球製ならアンドロイドでも可。ただし、RH系はのぞく。あと、板額さん怖いから優しくして』

『浜田省吾に会わせろ』

『ぴゅ~~となるやつをやらせろ』


「こりゃなんだ?」

 藤四郎(とうしろう)提督さんは典太(でんた)さんから受け取った書類を読んで眉をひそめた。

「例の三人組の要求一覧です。さらに、『頼りなく豊かなこの国になにかを賭けさせろ』『訳もなく砕かれて手のひらから落とさせろ』『最高の女とベッドでドン・ペリニヨンさせろ』など」

 典太さんが言った。

 提督さんは首をひねった。

「まあ、そっちはいいとして、この『ぴゅ~~となるやつ』ってのはなに」

「地球にはバンジージャンプってのがあるんですよ。どうやらあの連中、地球答礼使節団からいろいろ情報を仕入れていたらしくて」

「旅行気分だな」

 提督さん、苦笑いを浮かべたあと真顔に戻り、

三池(みいけ)典太宙佐。君は勅任艦長への敬意が足りないようだ」

 典太さん、ざっと背筋を伸ばし敬礼した。

「はっ! 失言でありました!」

「ま、こっちは全部却下」

 提督さんは書類をゴミ箱に投げ入れた。

「よろしいのですか、閣下。彼らを怒らせると、バックがうるさいと聞きましたが」

「うん、うるさい。提督のおれよりあっちのほうが権力があるくらい。まあ、おれはこれ以上の出世は諦めてるし、気楽なひとり暮らしだし、しばらく地球だし、かまわんよ」

「せめて、その『もっといいホテルに泊めろ』を聞いてやって、東京のホテルにでも放り込めばよろしいのではないでしょうか」

「おれの目が届かないところで不祥事を起こされても困る。地球との友好は始まったばかりなんだ。不撓不屈が本星に戻るまで半年。彼らはそれに乗って帰って行く。そして定年だ。あと少しだけ我慢してくれ」

「はい、閣下。ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」

「なんだ」

「あの連中、我々のよく知る東の提督館の不良上級生三人組、そのままなのでしょう? あいつらがよく、鉄の虎徹(こてつ)の無罪評決を出しましたね」

「虎徹は上級生にも恐れられてたねえ。今思えば、ただのトーヘンボクなだけなんだが。ま、あれだ。おまえたちと彼らでは時間が違うんだよ」

「どういうことですか?」

「おまえたちにはほんの一〇年前程度の記憶だろうが、彼らやおれには四〇年前の記憶なんだ。カビの生えた記憶だよ」

「そうでした」

「そんなものにこだわって、本国政府や地球が暗に望む無罪評決を蹴って騒動起こすくらいなら、ちゃっちゃと終わらせて遊びたかったんじゃない? ところで、ほんとにおまえ、あいつらに敬意払う気がないんだな」

 典太さん、また敬礼をして。

「閣下には四〇年前の記憶でも、私には一〇年前程度の記憶ですから。彼らが、東の提督館のむかつくやろうどもだったのは」

 提督さんは苦笑をもらし、椅子を回して背を向けた。


 びりっときた。

 神無(かむな)さんとお昼休みの散歩を楽しんでいたロボ子さん、背中にびりっとやられた。ロボ子さん、ぐりん!と首だけ回して何事か確かめた。

「ぎゃーーっ!」

 悲鳴を上げたのは、人相の悪い若い二人組だ。

 手にはスタンガン。

『なんで、スタンガン押しつけたほうが叫んでるんです。ていうか、焦げちゃいましたよ。新品の制服、焦げちゃいましたよ。どうしてくれるんです』

『先輩、お友達ですか?』

『いきなり背中にスタンガン最高出力で押しつけてくる友達なんてすごく嫌ですよ、後輩』

『なるほど、そういうものなのですね、先輩』

 スタンガンが効かないのとロボ子さんの関節リミッター解除芸を目の前で見せられ、二人組は混乱している。

 とりあえず更にスタンガンを押しつけようと腕を伸ばしてきた。

 ロボ子さん、あっさりとその腕を掴んでひねりあげた。

「いでででで!」

『私、二日酔いなんです。三日目でもまだ残っているんです。初めての二日酔いは激しいんです。あまり大声上げないでくれませんか』

『先輩は吐きますよ。たしなみもなく吐きますよ?』

「な、なんでこの雪月、スタンガンが効かないんだよ……!」

『私は雪月改(ゆきづき・かい)です』

『私は神無です。好きなものは炊きたてごはんです。私も吐けますよ?』

 二人組は驚いた。

「雪月改に神無!?」

「おい! それって数千万コースじゃねえか! 応援よべ、はやく!」

 たった今ロボ子さん相手に手も足も出ないのに、仲間が増えたらなんとかなる気でいる。ロボ子さんは、げっそりと顔を歪ませた。

『どうしたのです、先輩。マスターに叱られることなく、大好きなフルウェポンになれる状況じゃないですか』

『だから私は二日酔いなのです、後輩。頭がまだガンガン痛いんです。いま主砲なんて撃ったら頭バーンですよ。破裂しちゃいますよ。後輩、雪月最新機なんだから、両腕にガトリングガンとかよりすごいものがついているんでしょう。おやりなさい』

『さすが先輩です。平然と人に殺人を勧めます』

『私が黄門さまで、あなたが助さん格さん弥七にお銀。私が将軍さまで、あなたがお庭番なのです』

『わかりました』

 神無さんは瞑目し、足を揃えると、すうっと背筋を伸ばした。

『先輩はまだ、モデル神無の本当の姿をご存じありません。両腕のガトリングガンなんて無粋なもの、私には必要ないのです』

 その間にも、神無さんの変形が始まっている。

 ロボ子さんも、ロボ子さんに腕をひねりあげられている男も、仲間を呼ぶために電話している男も、だれもが目を逸らすことができない。


 目の前で繰り広げられる魔法のような光景に。


『これが、究極の雪月――神無……!』

 今、ロボ子さんの目の前にあるのは、銀色の巨大な卵なのであった。

『……』

「……」

「……」

 神無さんの顔だけがちょこんとついている。

『後輩、それはいったいなんですか?』

 ロボ子さんが言った。

『神無、卵形態です』

 神無さんが言った。

『そのようですが、それにいったい何の意味があるのですか』

 神無さんの眉が一瞬ひそめられたが、すぐに元の三日月形に戻った。

『ピラミッドにもなれます』

『いったいそれは、どのうすらあんぽんたんえっち星人アドバイザーの要望だったのですか』

『アドバイザーさま関係なく、お父さまの趣味です。そのうち招き猫にも挑戦するのだそうです。ちなみに、服もちゃんと残してあります。服を着た状態で元に戻るのです。デビルマンさんなみです。お父さまの技術はすごいです。あっ、やめて。なんで蹴るんですか。あっ、先輩まで。やめてください』

 神無さんはころころと転がっていった。

 見ると、それぞれバールのようなものを手にした男たちが走ってくる。

 仲間たちが来ちゃったのだろう。

 ロボ子さんはため息をついた。

『しょうがない、また吐いちゃうかもしれないけど、フルウェポンやっちゃいます』

 ロボ子さんの背中がうごめきはじめたとき、もうひとり走って来た。

 ロボ子さんはその姿に見覚えがあった。


 前のような裸じゃない。

 ジーンズにフライトジャケット姿の野良雪月さんなのだった。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国の領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は、二号機で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
― 新着の感想 ―
[一言] 3人組との因縁が気になって仕方無いです。神無さん卵モードも同じく気になりますが。
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