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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
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ロボ子さん、吐く。

挿絵(By みてみん)

 雪月改(ゆきづき・かい)というのは奇っ怪なアンドロイドであって。

 眠る機能はないと言い張りつつ、開発者もそれを否定しつつ、三機ともときどき眠っているのを目撃されている。二号機さんにいたっては、いびきも確認されている。

 言い間違える機能はないと言い張りつつ、ときたま噛むのも周知の通りである。

 記憶に曖昧さはないと言い張りつつ、しょっちゅう細かい事を忘れるのも周知の通りである。


 そして、呑みすぎたら吐くことがこの度発覚した。


『冗談ではありません。私たちは高級アンドロイドです』

『そうです、私たちにそのような下品な機能はありません』

 しかし、ロボ子さんが現実に吐いた。

『また二号機か!』

『また二号機か!』


 しかも二日酔い機能まで実装していたのである。

 そういうわけでロボ子さん、今朝は青い顔で園長室の自分の机に座っている。アンドロイドが青い顔しているというのも実に器用な話であるのだが。

『せんっっっっっぱーーーーーっっっいっ!』

 神無(かむな)さんが楽しそうに大声を上げた。

 ズキッ!

 ズキズキッ!

『……後輩。あなたはどうしてそう嫌がらせに特化したアンドロイドなのです。向かい合わせに座っているんだから、小声でも聞こえます』

『気っづきませんでしたあっ、申し訳ありませんっ、せんぱぁいっっっ!』

『元気になったら泣かします。決定です。それでなんです』

『リバースするって、どんな気分なんですか。神無、気になります。雪月最新モデルの神無には想像できませんっ』

『いま泣かす、いま泣かしてやるわあああ! うっ!ぅおうっ! うぷっ!うぽっ!』

「ああ、そこで漫才やってるアンドロイド。園長室で吐くなよ」

 虎徹(こてつ)さん、決裁印ぽんぽん押しながら。

「ところで、ロボ子さん」

『はい、マスター。うぷっ』

「君、このごろ、おれくらいの体格の男と、夜な夜な補給科とか徘徊してない?」

『なんの話です?』

「ああ、身に覚えがないならいい。神無さん、君もないね?」

『していいんですか?』

「だめ。神無さん、君、ロボ子さんより崩れるの早かったね。おれ、社長さんにあわす顔がないわ」

『えへっ』

「褒めてないから」

『褒めてないから』

 虎徹さんとロボ子さんに同時に突っ込まれる神無さんだ。


 その噂の食材泥棒二人は、村の外れの川辺で遅い朝ごはんを食べている。

 ソーセージを噛み切って、加州(かしゅう)清光(きよみつ)さんが言った。

「食材をそのまま食べるというのも味気ない」

『贅沢いっちゃだめだよ、清光』

「雪月ってのは家事補助アンドロイドなのだろう。おれなんか太刀打ちできないほどの料理の知識があるんじゃないのか。簡単迅速、手間いらず的な」

『数千のレシピが内蔵されてるけど、厨房で普通の調理道具を使って作るものだからね。野良生活じゃ役に立たない。あ、キャンプ用レシピもあるけど、こっちも道具を揃えてだからね』

「だからといって、これじゃ文明人とは言えない。なんとかしようぜ。おれは火をおこせる。野良ちゃんは、体にナイフとか内蔵させてないのかい」

『上位機種の雪月改ならいろいろ仕込まれてるそうだけどね。噂じゃガトリングガンまで内蔵されてるそうだけど、私にはそんなものはないよ』

「そんなもん出されても困る」

 清光さんは立ち上がった。

「じゃ、ま、作るか」

『ナイフを?』

「川辺ってのはいい石が転がっているものなんだ。ほんとうは黒曜石が楽でいいんだが、あれはゴーグルとマスクがないと加工するには危ない。今日は準備が足りない」

 ひょいひょいと幾つか石を拾い上げて吟味している。

「硬くて割れやすい石だ」

「石をナイフにするの?」

「ひたすら研ぐ作業が必要になる」

 清光さんは石を割りはじめた。

 その中から薄くて長いものを何枚か取り出した。

『それを研げばいいの?』

「もうちょっと薄くしたいが、工具がないと難しいかな」

『じゃあ、私が研ぐよ。清光はその間に火をおこして』

「了解」

 野良雪月さん、石を幾つか試し、そのうちのいちばん薄くナイフっぽい石を猛然と研ぎ始めた。

 一方、清光さん。石を集めてかまどを作り、流木を集め、落ちていた雑誌を丸め、さて、なにごとかポケットをゴソゴソしている。

 取り出したのはチャッカマンだ。

『えーーっ!』

 野良雪月さん、大きな声を上げた。

「なに?」

『火がおこせるって、そういうこと!?』

「そうだよ。おれたち文明人じゃん。そっちのナイフ、刃がついた? ま、こんなもんでしょ、今日は」

 清光さんは野良雪月さんから石のナイフを受け取り、何度か切りやすいところを試してからソーセージを切り始めた。そして今度は針金のようなものを出し、ソーセージを刺して火にかざした。

 ぶーっと頬を膨らませていた野良雪月さん。

 だけど、いい匂いがしてくる。

 たちまちニコニコと上機嫌になってしまう野良雪月さんだ。

 清光さんがにやりと笑った。

「食いしん坊アンドロイド」

『いいもん! そうだもん!』

 清光さん、焼いたソーセージを野良雪月さんに渡した。

 この針金ぽいの、先が変に曲がってて、なんか見覚えあるね。

 鍵の穴にいれてカチャカチャやりそうだよね。

 まあ、その事には深入りしないようにしとこうと野良雪月さんは思った。

『おいしい』

 野良雪月さんが言うと、

「だろ」

 清光さんは嬉しそうにくしゃっと笑った。


『あっずるい。先輩、自分だけ水筒持参ですか。私にもください』

『飲みたいのですか、後輩』

「ちょっと待て、なんでこの部屋、味噌汁の匂いがするんだ?」

 鼻をひくひくさせ、虎徹さんが顔を上げた。

 濃厚な味噌汁の匂いが園長室に広がっている。

『シジミの味噌汁です。たっぷりあります』

 ロボ子さんが水筒を手に半眼の眼で言った。

「効くのか!?」

『効きますよ。マスターや宗近さんが飲みすぎたとき、いつも作ってあげてたじゃないですか』

「いや、雪月改に」

『そのうちわかりますよ。後輩、飲みたいんですか』

『いえ、いりません。どうぞ、先輩が飲んでください。ぜんぶ』

『では遠慮なく』

 水筒に直接口をつけ、ロボ子さんは豪快にラッパ飲みをはじめた。

 カオスな職場である。

『マスター、補給科のコックさん方がおいでです』

 一方、神無さんの取り次ぎに、虎徹さんは顔をしかめた。

「おれやロボ子さんじゃないって、書面で返事してやったのに……」

『なんです?』

「いやいい。入れて」

 入ってきたのは、横にも広い沈黙のコック以下強面三人。

 とりあえず、ごきゅごきゅと水筒をラッパ飲みしているロボ子さんにぎょっとしている。

「あのなー、おまえら」

 虎徹さんは不機嫌。

「おれは確かに昨日居酒屋にいなかったが、その時間は藤四郎(とうしろう)提督、三池(みいけ)典太(でんた)宙佐と一緒にいたんだ。板額(はんがく)さんもいたぞ」

「う」

「で、ロボ子さんは見ての通り今日は二日酔いだ。居酒屋で泥酔していた当時に、泥棒なんて器用な真似ができるわけがないだろう」

 ロボ子さんに出鼻を挫かれ、虎徹さんに先手をとられ、気が荒いことでは定評がある宙軍コックさんたちもすっかり毒気を抜かれてしまっている。

「しかし艦長、あのアンドロイドは『がってん!』って言ったんですぜ。そんな言葉遣いするアンドロイドなんて、二号機さん以外にいないでしょう。って、二日酔い!?」

「アンドロイドの二日酔い!?」

「うわ、さっきからなんだろうとは思ってたが、これ味噌汁の匂いか!?」

 ロボ子さん、味噌汁を飲み終え水筒を下ろした。

 据わった目でコックさんたちを睨みながらバリバリとシジミの貝を噛み砕き、飲み込み、そして思いっきり不機嫌にひとこと。

『なんです?』

「あ、いえ……」

「その、あのですね……」

 すっかり縮こまってしまっているコックさんたちである。

「昨日、夜の一〇時頃、二号機さんはなになさっていたのかなあって……」

『酔ってましたよ! 酔って大暴れしてましたよ!』

「うわ、酒臭ええええ!」

「すっげえ酒臭ええええ!」

『ええそうですよ! 調子に乗って、この有様ですよ!』

 うおっと変な声を上げ、ロボ子さんは慌てて窓に走った。

 もどかしく窓を開け、そしてまた振りまいたのだ。

 社屋の三階の窓から――アレを。

 虎徹さんが溜息をついた。

「だから、アンドロイドがシジミの味噌汁飲んだって、吐く材料仕入れるだけだろうと……」

『あの、マスター』

「なんですか、神無さん」

『私、もらいリバースしてもよろしいでしょうか』

 虎徹さんはぎょっとした。

 コックさんたちもぎょっとした。

 実際、神無さんは真っ青な顔をしていたのだ。この人、たしか自分で自分のアレをばらまいたことがあったと思ったが、ロボ子さんの由緒正しい経口のリバース仕草が衝撃的にリアルであったらしい。

「お好きなように」

 神無さん、きらきらと謎の光を撒き散らかしながら美しく走った。

 そして窓辺のロボ子さんの横にたどりつくとアレを振りまいた。


『おろろろろろろろ!』

『おろろろろろろろ!』


 桜舞う春の空の下、美少女アンドロイドたちの連れリバースもまた美しく輝いたのだった。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国の領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は、二号機で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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