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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
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虎徹さん、旧友と会う。

挿絵(By みてみん)

「さて、皆さん!」

 典太(でんた)さんがグラスをかかげた。


 晩餐会のようなお上品なところでは酔えねえぜ、へいへい!

 俺たちゃ宇宙の男だぜ、へいへい!

 というわけで、領事歓迎晩餐会がひけたあと、この村で唯一の居酒屋に流れてきたおっさんどもである。

 この居酒屋も最近できたものだ。

 ここができる前はパークの社員食堂が居酒屋代わりでもあったが、それでは給養のコックたちが休まらない。賑やかになった村にふらりとやってきた大将さんが古民家を借りてはじめたこの居酒屋は、たちまち二〇〇人のえっち星人のおっさんや工事関係者のおっさんのオアシスとなった。

 ちなみに、大将さんは地球人らしい。

 たぶん。

 この村ではそれもあやしいものだが。


 さて、冒頭の典太さんの挨拶の続きである。

「本日は、不肖この三池(みいけ)典太光世(みつよ)と、マイハニー板額(はんがく)の半年ぶりの地球帰還をかくも賑やかに祝って頂き……」

 この段階ですでにブーイングの嵐である。

「ひっこめー!」

「うるせえー!」

 声どころか、手や足も飛んできた。

 板額さんの有無を言わせぬ攻撃だ。

『その呼び方はやめてと言ったじゃないですかっ!』

 しかし典太さん。どこで手に入れたものなのか、左手に装備したトンファーで板額さんの攻撃をことごとく防いだのである。

『!』

 右手のグラスは少しもこぼさず、典太さんはにやりとボウモアをあおった。

「怖い恋人を持つと、こちらにも準備が必要となる。これでも軍人だぜ。舐めてもらっちゃ困るんだよ、マイハニー」

『まだ言いますか』

 板額さんの体の中では乙女回路とは違う回路が起動している。ふっと笑うと、板額さんは腰を落として構え直した。

『では、少し本気にならせて頂きます、旦那さま』

「えっ、あっ、それはやめて」

 二人は激しい乱取りをはじめてしまった。

 とはいっても、正直誰も見ていない。

 みな勝手に呑み始め騒ぐのに忙しい。バキボキと不気味な音がしても、もう許してお願いという悲痛な声が聞こえてきても気にしない。

 ていうか、領事警護の板額さんがここにいていいのでしょうか。


「和服が似合うお嬢さん、私と結婚してくださいますか。ごふっ!」

「眼帯のお嬢さん、私と結婚してくださいますか。がふっ!」

 あ、いたんですね、領事さん。


『あっ、このお酒も美味しい! ひとのお金で呑むお酒はうまいです!』

 どんちゃん騒ぎに参加している神無(かむな)さんの肩をロボ子さんが叩いた。

『ぶりっこモードもいよいよ完全封印ですか、後輩』

『楽しんでなんぼですよ、先輩!』

『お父さんとえっち星アドバイザーさんたちの落胆が見えるようです。ところでその縛って吊してきたえっち星アドバイザーが心配なので見て来ます。このまま戻らないかもしれません』

『了解です、先輩』

 返事もそこそこに神無さんが手を挙げた。

『大将さーん、大吟醸くださーい! これも提督さんにつけておいてくださーい』

 夜は長い。


 そういうわけで長曽禰(ながそね)家に戻ったロボ子さんだが、納屋に虎徹(こてつ)さんの姿がない。

 一方、母屋の食事室の灯りがついている。

 縄抜け!?

 あのおっさん、いつの間にそんなスキルを!

 おらおらで食事室に踏み込んだロボ子さんだったが、そこの異様な雰囲気に一瞬で呑まれてしまった。

 食事室の大きなテーブル。

 虎徹さんと見知らぬ男が睨みあっていたのである。

『あの、ただいま、です。マスター……』

「おかえり、ロボ子さん」

 そう口にしながらも、虎徹さんはロボ子さんをちらとも見ない。

「さっそくで悪いが、この男に飯を食わせてやってくれないか。腹が減っているそうだ」

 ロボ子さんがいままで見た事もないような怖い顔だ。

『はい、マスター』

 食事室を出る前に、ロボ子さんは横目で男を見た。

 男も横目でロボ子さんを見ていた。

「ふうん、マスター」

 と、その男が口を開いた。

「アンドロイドを家に置けるなんて、さすがいいご身分だね、長曽禰虎徹艦長」

 体格は虎徹さんと変わらない。

 歳も同じくらいだろう。

 着ている服が貧相なのまで同じだが、虎徹さんの服は毎日洗濯して清潔であることには、ロボ子さんは自負がある。そういえば、ロボ子さんがこの家に来た頃、虎徹さんもこの男のような無精ヒゲを生やしていた。

「長曽禰虎徹。いいねえ、かっこいいね。睨むなよ、宇宙船の旅は退屈でね、この程度のリサーチは済ませてあるんだよ。粟田口(あわたぐち)藤四郎(とうしろう)吉光(よしみつ)提督に三池典太光世宙佐。いいよねえ、いい」

 どうにも小馬鹿にしたような、人を苛立たせる口調だ。

 いつものジャージに着替え、台所でご飯の準備をしながらロボ子さんは思った。

「なあ、そのソウルネームっての、おれにもくれよ。もう本当の名前がどれだったか忘れちゃうほどいろいろな名前使ってきたしさ。この地球に合う名前をおれにもつけてくれないか、虎徹くん」

加州(かしゅう)清光(きよみつ)

「加州清光。うん、いいね。悪くない。なにか意味があったりするのかい」

「今のおまえを見て決めた。意味はそのうち自分で調べろ」

「あ、そう?」

 ロボ子さんが、トレーに食事を載せて戻ってきた。

「おおっ、ありがとう、お嬢さん。美味しそうだ」

 男が歓声をあげた。

 冷凍ご飯に市販のお茶漬け海苔の、ただのお茶漬けなのだが。

「うん、うまい。それにしても地球のアンドロイドはかわいいね。板額さんてのも見たが、すごい美人だったねえ」

「提督も典太も、おまえが同じ船で来たとは言わなかった」

 虎徹さんが言った。

「そもそも、おまえは宙軍を追放された。不撓不屈に搭乗できるはずがない。どうやって地球に来た」

「お嬢さん、おかわり貰っていい?」

「おまえは――」

「加洲清光」

「なに?」

「自分でつけた名前だぜ。そう呼べよ」

 虎徹さんは顔色を変えた。

「おまえはいつだってそうだった。いつだって、おれたちにまともに向き合ってくれなかった。あの時もそうだった。おまえは突然士官学校から消え、おまえがなにを考えていたのか、残されたおれたちにはなにもわからなかった――」

『宙軍士官学校の三羽ガラス』

 お茶漬けのおかわりを用意してきたロボ子さんが言った。

 ふたりは動きを止めた。

 虎徹さんは眼を細めて背もたれに体をあずけ、加州清光さんは薄笑いを取り戻すと、お茶漬けを受け取ってすすりはじめた。

「へえ、虎徹くん、ぼくらの話をアンドロイドにしていたの」

「おれはロボ子さんに、おれの昔話をしたことはない」

 宗近さんの名前を出していいのだろうか。

 今は避けておいたほうがいいと、ロボ子さんは思った。

『提督さんとマスターが三羽ガラスだったのでしょう? それで話題に出たんです』

「ふうん、典太くんかな。彼、ぼくのことをなんて言ってたんだい?」

 加州清光さんが言った。

 宗近さんの名前を出した方が良かったかな。

『開学以来の英才』

「ははっ! それって毎年いるらしいぜ。現に、この長曽禰虎徹くんのお兄さんもそう呼ばれた男だった。おれなんか及びもつかない優秀な男でさ」

『軍に残っていれば、宙軍幕僚長どころか統合幕僚長――でも、どういうことなのですか』

「なにがだい、かわいこちゃん」

「どうしておまえは、そんなに若いんだ」

 虎徹さんが言った。

 それはまさしく、ロボ子さんが言おうとしたことなのだった。

「提督だって本当の歳じゃない。おれたちの戸籍上の年齢は七〇を越えているんだ。おまえはどうしてそんなに若いんだ」

「君がそれを言うの?」

補陀落渡海(ふだらくとかい)のに匹敵する旅をしたというのか。ありえない。おれたちは五〇年近い亜光速航行をしたんだ。補陀落渡海ほど長い亜光速航行をした艦などない。つまり――」

 加州清光さん、頬杖をついて薄笑いを消さない。

「おまえは、おれたちが旅に出る前から、亜光速航行を繰り返していたんだ。いったい士官学校から姿を消してから、おまえはなにをしてきたんだ」

「眠いんだ」

 と、加州清光さんが言った。

「行儀が悪くてごめんね。腹が膨れたら眠くなった。ねえ、今日泊めてくれない、虎徹くん。君が吊されていた納屋でもいいぜ」

 虎徹さんの不機嫌な顔は変わらない。

 どうしたものだろうとロボ子さんが当惑していると、虎徹さんが言った。

「ロボ子さん、二階の北の部屋。あそこに案内してやってくれ。パジャマに新しいシーツも用意してやってくれ」

 「頼む」と虎徹さんは眼を閉じ、両手を膝に載せて頭を下げた。



※給養:調理及び食材の管理を担当。つまりコック。補給科。

※加州清光、別名を「乞食清光」。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国の領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は、二号機で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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