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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
57/161

ロボ子さん、神無さんと眠る。

挿絵(By みてみん)

 ロボ子さんは激怒していた。

 マスターと宗近(むねちか)さんの夕食を食べたのも、大量のゲロを振りまいたのも全部自分のことにされ、かの邪知暴虐の神無(かむな)さんを除かねばならぬと決意していた。


 しかしこれはなんだ。

 いったいなんなのだ。


『お姉さま、いっしょに寝てもいいですか』

 どこで見つけてきたのだ、その大きな枕。

 どこで見つけてきたのだ、その二回りも大きなパジャマ。

『だめですか、お姉さま』

 その潤んだ瞳はなんなのだ。

 これはいけないとロボ子さんは思った。

 手にしたアイスピックをポロリと落とし、ああ、ふたりどこまでも堕ちていこう。


「ああ、そうか。会社にひとり残るのはさみしかったか。ごめんな、気付いてあげれなくて。いいよ、いいよ、うちは無駄に広くて空き部屋もいっぱいあるから、どこか適当に自分の部屋にしちゃいなさい」

 コンビニおでんと発泡酒でいい気分になった虎徹(こてつ)さんが言ったわけで、完全無欠ロボ娘神無さんは、そのまま長曽禰(ながそね)家の一員となってしまったのだ。


 灯りを消した真っ暗な部屋の中で、ロボ子さんの頭の空冷ファンの音と鼻息だけがやかましい。

『あの先輩』

『なんです、妹』

『髪に鼻息吹きかけないでください』

『私は雪月改(ゆきづき・かい)二号機ですよ。アンドロイドですよ。呼吸しませんよ』

 でもうるさい。

『匂い嗅いでいるだけですよ。いい匂いするんですよ』

『だからやめてください』

 ロボ子さんの小さなベッドは二機のアンドロイドでいっぱいいっぱいだ。

 ふたりともスリムなので面積的にはそうでもないのだが、二機で四分の一トンの体重がしんどい。これからもずっとこんな夜をすごすなら、宗近さんに補強してもらわないといけない。

 これからも妹とこんな夜。

『ああ、大正時代に生まれてお姉さまの妹になりたかった……』

『意味が分かりません』

 時代劇の次に好きなのが吉屋信子さんの『花物語』だったりするロボ子さん、もう頭の中がやばい。

『妹よ。眠る前に、もう一度お姉さまと呼んでくれませんか』

 くすっと神無さんが笑った。

『おあずけです』

 こいつ……ねんねのくせにじらしやがる……。

『先輩』

『なんです、妹』

『胸を触るのやめてください』

『よいではないか』

『変な笑い声あげるのもやめてください』

『よいではないか』


 長曽禰家の夜は長い。


 朝。

 今日も炊きたての三合のご飯がきれいになくなった。

 昨日と違って今日はだれかに食べられちゃったわけではなく、神無さんが食卓に着き、ぺろりとおかわり三杯平らげちゃったからなのだ。

「おお、いい食いっぷり!」

「気持ちいいねえ!」

 虎徹さんと宗近さんは大喜びだ。

『これもえっち星人アドバイザーさまのご要望です。一緒に食卓を囲みたいと』

 神無さんが言った。

 あらやだ、今日もお弁当作れないわどうしましょうと慌てていたロボ子さん、その言葉にカチンと来てしまう。ていうか、無邪気に喜んでいるおっさんふたりに。

『でも、後輩。食べたごはんはどこに行くのです』

 ロボ子さんが言った。

『将来的には消化して発電するようにしたいそうです。でも試作一号機である私にまだその機能はありません。今はただカートリッジに貯まるだけです』

『カートリッジ』

『デュポン社さまとの提携によるフッ素加工です』

『つまり、今の神無さんは、ごはんを食べてもただゲロにしているだけなのですね』

 ロボ子さんが言った。


『……』

「……」

「……」


『昨日のゲロのように』

 畳みかける。


「あのな、ロボ子さん……」

 虎徹さん、味噌汁をすすりながら渋い顔。

「おれたちはまだ食ってるんだからさ、穏当な話題で頼むよ」

「酸っぱい匂いだったな、昨日のゲロ……」

「宗近もやめろ」

「人間のと変わらないね、アンドロイドのゲロ……」

「だからやめろ」


『ゲロではありません』

 神無さんが言った。

『まだ酸っぱくありません』

 いや、そこじゃない。

『見ますか。私の胃袋ユニットを見ますか』

 とろけるような顔で反応するおっさんもいますから、ほどほどに。

『コンポストも同時販売です。神無さん印です。買ってね』

 神無さん、いま適当に言ったでしょ。


『もったいないわね、三号機さん』

『ええ、そうですね、一号機さん』


 そして当たり前のように長曽禰家の食卓に現れる一号機さんと三号機さんなのである。

『せっかくかわいい顔して』

『そんなかわいい顔して』

『ただの神無さん印のコンポスト。ただの堆肥ですって』

 くすくすと一号機さんと三号機さんが笑った。

『アホかーー!』

 目を剥いたのは三号機さんだ。

『神無さん印ですって!? それだけ!? お馬鹿さんなの!? 神無さんの生写真よ! そして食べる前の料理の写真よ! この二枚をセットして売るのよ! 美少女アンドロイドのよだれまみれの咀嚼物ーー! 売れなきゃおかしいだろーー!』

 三号機さん、キャラが違います。

『よだれまみれの咀嚼物もいいですけれど』

 一号機さんも落ち着いてください。

『噛み酒よ! ここは噛み酒よ! そこにも神無さんの生写真を貼り付けて、美少女アインドロイドの噛み酒! 売れるわ! どうしようもないヘンタイえっち星人に!』


「まえもこんなのあったな、虎徹さん」

「あんときゃ、もっと上品だったと思うけどな」

 虎徹さんと宗近さんは、瞑目して機械的にごはんを口に運んでいる。

「とりあえず、食えるときに食っておけ、宗近。軍人ならな」

「イエス・サー! アイ・アイ・サー! なんか悪い予感するもんな」


『まあまあ、一号機さんに三号機さん』

 たしかゲロの話を持ち出したのはこの人だと思うが、それでも職場の先輩という崇高な立場を思いだし神無さんの擁護にまわるロボ子さんだ。

『神無さんも、まだこの村に来て二日目ですし……』

 しかし苦笑しながら神無さんへと振り返ったロボ子さん。

 そして、一号機さんと三号機さんも目を丸めて動きを止めてしまった。

 キラキラと輝いている。

 神無さんがキラキラと輝いている。謎粒子のまやかしの輝きではない。内面からの、ほんものの魂の輝きだ。

『売れるんですか、私のゲロっ!』

 神無さんが言った。


「二日目にして壊れたな、神無さん」

 虎徹さんが言った。

「雪月改の系譜だからね。しょうがないね」

 宗近さんが言った。


『お、おう……』

 三号機さんがたじろいでいる。

『お金持ちになったら、雪月いっぱい買って、その子たちに私の仕事をさせたいですっ!』

 と、神無さん。

 壊れたどころか、どうしようもないキャラであることまで発覚してしまいました。

『そうね。お金持ちになったなら……』

 一号機さんがうっとりと言った。

『ヒトマル式を二両ほどほしいですね……』

 なんに使うのです。

『私は……ノイシュヴァンシュタイン城みたいな城をこの村に建てたいかも……』

 三号機さんが言った。

 パークの近くにそんなもんがあったら、シンデレラ城って呼ばれるようになるだけですよ。でなかったら、ゲロ御殿ですよ。

『私はっ! 時代劇テーマパークを作りますっ!』

 ロボ子さん、もう結構ありますよ、それ。

『じゃあっ! 大正お姉さまと妹ランドっ!』

 明治村が……。

 でも、それちょっと見てみたいかも……。

『それでは、大願成就、商売繁盛を祈って乾杯しましょうーー!』

 神無さんが言った。

『おーーっ!って、乾杯?』

『乾杯?』

『乾杯?』

 なにやらとてつもなく嫌な予感に、今さらながら襲われる雪月改三姉妹だ。

 ぱかっ!

 と、神無さんが開けたのは自分のおなか。

 取り出したのは円筒形の物体。


「おい、食ったか、宗近。撤収するぞー」

「うう、むっちゃいい眺めだけど、もっと神無ちゃんのおなか見てたいけど、そうしよう」


 神無さんは胃袋ユニットを両手で振り上げた。

『かんぱーーい!!』

 そして胃袋ユニットをテーブルに叩きつけた。

 長曽禰家の食事室のテーブルは一〇人は余裕で座れる大きな一枚板のものだ。胃袋ユニットを叩きつけられても割れるどころか凹みもしない。逆に胃袋ユニットがモデル神無の怪力で無残に押しつぶされた。

 胃袋ユニットは破裂した。

 四散する咀嚼物の中、笑顔の神無さんがいた。

『私のゲロ、ばんざーーい!』

 酸っぱくないと彼女は言ったが、それはすでに酸っぱい匂いがした。


『なにが彼女をそうさせたのでしょうね』

『とんでもない妹でしたね』

『二号機さんより予測不可能ですね』

 危険を察知してさっさと逃げたおっさんたちの一方、たっぷりと吐瀉物を浴びてしまった雪月改三姉妹である。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国の領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は、二号機で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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