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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
加洲清光編。
52/161

神無さん、やって来る。

挿絵(By みてみん)

『いくら私の制服姿がグッとくるからといって、なんでも許されるわけではないのです』

「なんの話でしょうか、ロボ子さん」

 長曽禰家(ながそね)の朝。

 虎徹(こてつ)さんと宗近(むねちか)さんを正座させているロボ子さんである。

『マスター、宗近さん。炊いたばかりのごはん、つまみ食いしましたね』

「してねえよ!」

「してないよ!」

『見てください。炊きたてのごはん三合が、きれいになくなっています』

「つまみ食いってレベルじゃねえだろ!」

「ねえ、その量、つまみ食いするどんな意味あるの!?」

『そういうわけで、今朝はごはん抜きです。お弁当も抜きです。いってらっしゃい』

「なんか食べさせてよ、パンでいいから!」

『三合食べておいて、まだ食べるのですか。ロボ子母さん、ふたりをそんな子に育てた覚えありません』

「だから食べてないんだよ!」

「育てられた覚えもないよ! 食パンあったでしょ、冷凍させてるやつ。パークのレストラン、まだモーニングサービスしてくれないんだよ。頼むよ、ロボ子ちゃん!」

 長曽禰家は朝から賑やかだ。

 そして今日は、ちょっとした事件がひとつ。

 いや、三合の炊きたてごはんが消えたのも事件ではあるのだけれども。

『行ってきまーす!』

 今日から出勤のロボ子さんなのだ。

『はんぺんさんにつみれさん。いい子にしてるんですよ!』

 窓から見ているお留守番の猫たちに手を振って、虎徹さん、宗近さんと並んで家を出る。これはちょっとわくわくが止められない。

 がんばってね。

『はーい!』

 いい返事。

 でも、出勤着までしまむらのジャージなのですか……。


 女子ロッカー室で、いよいよあの制服にチェンジだ。

 やっぱりこの制服は「せくしー」でかっこいいと、ロボ子さんは嬉しくなる。

『ねえねえ、営業一課の西島くん、最近庶務のあの子とつきあってるんだって』

『あの子ってだれよ』

『だれって、わかるでしょ』

『ええ、まさか、またあの子……? 高倉くんとはもう別れたの、すごいわね……』

『ねえ、今度の週末予定ある? 春の京浜飛ばすつもりなの、付き合ってよ』

『女の子だけで? 彼氏誘いなさいよ』

『いないから誘ってるんじゃない。だいたい私が飛ばしたいんだから、男は邪魔なの!』

 器用にひとりOLトークを繰り広げるロボ子さんである。

 だけど、女子ロッカー室を使っているのはロボ子さんだけだ。ロボ子さん、ロッカーの戸をぱたんと閉めて、

『女の子がわたし一人って、この会社、どんなおっさん率なんです?』


「おっさんいうな」

 ロボ子さんがだしてくれたお茶をすする虎徹さんも軍服姿だ。

 艦長さんなので、他の宙佐さんよりランクがひとつ上の軍服なのだそうだ。ちゃらんぽらんを絵に描いたようなひとなのに、さすがに軍服姿だと少しりりしい。

『なんだか、こうしてると、家にいるのとたいして変わりませんね』

「春までは暇だしね」

 パークの本社ビルも完成した。

 ここは三階の園長室。

 園長の机のほか、秘書のロボ子さんの机もある。

『宗近さんは忙しそうですね』

「アイツは忙しくしているのが好きだからね。まあ、経営が順調にいけば、女性社員も雇うんじゃない。女子ロッカー室だってなぜか整備されてるんだし。……それに」

『それに?』

「うふふ」

『……あのマスター?』

「うん、なあに?」

『……性格の底意地の悪さがにじみ出るような、その笑顔はなんです?』

「またまたあ、ロボ子さんは酷いことを言う。コンピューターボイスで罵られるのは悪くないけどね。大好きだけどね。うふふ」

 虎徹さん、肩を揺すりながら笑っている。

 ちょっと気持ち悪い。

「まあ、ちかく秘書がもうひとりやって来るよ。ロボ子さんの後輩だね」

 そういえば気になっていたのだ。

 ロボ子さん用の机の向かいに、もうひとつ机が用意されている。

『本当ですかっ』

 顔を輝かせたロボ子さんだったが、すっと表情が消えた。

 そして。

 ぐりん!

 ロボ子さん、首だけを真後ろに向けたのである。

「わあっ!」

 宗近さんも一度これをやられている。虎徹さんは初めてだ。

「びっくりするだろ、ロボ子さん! 心臓に悪い!」

『なにか起きたようです』

 と、首を後ろに向けたままのロボ子さんが言った。

『一号機さんと二号機さんが緊急信号を発信しながら高速で移動してきます。簡潔に言えば、あわくって走って来ます』

 そのとたん、園長室のドアが勢いよく開けられた。

 一号機さんと三号機さんだ。

雪月改(ゆきづき・かい)が製造終了です!』

 珍しく取り乱した一号機さんが言った。


 ステージの上を男が歩いている。

 髭面で、身体が大きい。ラフな姿なのは流行りだからか、本人の趣味か。

『お父さんです』

『ぱぱです』

『お父様です』

 ウエスギ製作所社長、そのひとである。


「弊社ベストセラー、モデル雪月改」


 社長さんが言った。

 一号機さんが持ち込んだのは、ウエスギ製作所社長の記者会見のビデオだ。

『ベストセラー……私たち、売れていたんですか?』

『この村に限って言えば、とんでもなく売れてますよ。ファンシーロボずをのぞけばこの村のアンドロイドの二〇%が雪月改です』

『雪月改市販機のすべてが揃っていますからね、この村に』

『三機ですけどね』


「アンドロイドの標準機と呼ばる弊社モデル雪月。その雪月を超える雪月として、数多くの賞賛を得ることができたのは開発者として最高の喜びでした」


『なら作れよ!』

『まだ作れよ!』

『あきらめるなよ!』

『あきらめたらそこで生産終了だよ!?』


「そして雪月はさらに進化します。雪月改を超える雪月。民生アンドロイド、いいえ、すべてのアンドロイドの未来形。すべてのアンドロイドが目指すことになる究極のアンドロイドの誕生です!」


『いらねえよ!』

『越えなくていいよ!』

『またむらむらしたのか! またむらむらしたのか!』


 虎徹さんに背を向けてモニタに釘付けになっている雪月改三姉妹。

 そうなるといったい誰が喋っているのか、虎徹さんにも区別がつかない。一号機さんや三号機さんもいつものキャラ付けはどこにいったの状態だ。

「まあ、雪月は生産が続くし、雪月改もフィードバックを期待した技術実証機のようなものだったし。それでいえば大成功だったってさ」

 虎徹さんが言った。

 ぐりん!

 ぐりん!

 ぐりん!

 三姉妹が首だけを虎徹さんに向けた。

「それ、ほんとうに怖いからやめてくれない? まあ、補修部品の共通化は進められているし、君たちの修理も会社が続く限りしてくれるそうだよ。その点は安心してくださいとのことです」

『……』

『……』

『……』

「いいじゃないか。世界に三機しかない貴重なアンドロイド。それもまた愉快じゃないか?」

『マスター…』

「はい、なんでしょう、ロボ子さん」

『まさか、秘書がもうひとりやって来るって……』


神無(かむな)


 と、ビデオの中の社長が言った。

 社長がさっと手を上げると、舞台の袖から人影が歩いてきた。

 なめらかだ。

 ひとりの美女にしか見えない。

 しかし、これがウエスギ製作所の新しいアンドロイドなのだ。

 同時に園長室のドアがノックされた。

「どうぞ」

 虎徹さんが言った。

 ドアを開けたのは、ロボ子さんと同じ制服を着た美女。

『こんばんまして』

 透明な声でその美女がいった。

『評判が良いようで、私たちウエスギ製作所のアンドロイドの第一声は、これに統一されました』


「わがウエスギ製作所の新しいフラッグシップモデル。その名も――神無!」


 ビデオの中では、音楽とともにアンドロイドにスポットライトが当てられた。

 三姉妹はモニタを振り返った。

 スポットライトに浮かび上がったのは、今、目の前にいる美女と同じ顔だ。


『モデル神無、試作一号機』

 制服の美女は虎徹さんへと敬礼した。

『報告します。ただいま着任致しました』


『黒船襲来です……』

 ロボ子さんが呆然とつぶやいた。



■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


野良ロボ子さん。

野良雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良をしている。食いしん坊。充電しなくても動ける謎の根性回路を搭載している。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


粟田口藤四郎吉光。(あわたぐち とうしろう よしみつ)

えっち星人。宙軍提督。

えっち星のえっち国の領事としてやってくる。虎徹さん、典太さん、清光さんの同期。タイムジャンプをそれほどこなしていないので六〇歳を越えている。


加洲清光。(かしゅう きよみつ)

えっち星人。密航者。

幽霊と呼ばれるほど神出鬼没。宙軍士官学校では虎徹さん、藤四郎さんと並んで三羽ガラスと呼ばれた。補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんと同い年のままのように見える。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんと清光さんが「ロボ子ちゃん」

神無さんが「先輩」「お姉さま」

それ以外は、二号機で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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