同田貫一家の発情。Go!Go!三人組!
「せっかくのお誘い、有り難く思う。だが私どもはどことも提携する気はない」
同田貫さん、にべもない。
向かいには青筋をぴくぴくさせた某暴力団組長が座っている。脇に侍立している代貸さんは巨漢だが、同田貫さんの前では小さく見える。
「なあ、同田貫の」
と組長さんが言った。
「この世界にはな、いや、こんな世界だからこそ、義理やしきたりってのが大切なんだ。あんた、異星人だっていうじゃねえか。気を悪くしたならごめんよ。だがな、同じ地球人でも、同じ日本人でもわからんことだらけなんだ。意地張ってないで、先達に教えてもらえばいい。提携だとか系列だとか、盃だとか、そんな難しく考えねえで、最初はそこから始めちゃどうだい?」
「いかにも私は宇宙人だ」
同田貫さんが言った。
「あんたらのしきたりも知らん、義理も人情も知らん。だから無礼や不義理を働いてしまう前に、どことも組まん」
「怒らせちまったかなあ。やれやれだ」
「組長さん」
ずいっと、もたれていたその大きな体を起こして同田貫さんが組長さんへと迫った。さすがに大変な圧迫感がある。
「覚えておくといい。おれたちが怒ったら、あんたじゃない、あんたの組が消える。一人残らず、おれたちはあんたたちをこの世界から消す。本当に怒ったとしたらな」
「……なめたこというじゃねえか、若造」
「会うだけは会った。これで義理とやらは果たした、そうだろう?」
同田貫さん、ざっと立ち上がった。
はっと代貸さんが身構えた。
しかしこの同田貫組本部に入る前にすべての武器を奪われている。護身用のペン型隠しナイフまで見つけられたのには参った。
同田貫さん、柔道の型で構える代貸さんを一瞥しただけで背を向け、同じように侍立していた人間無骨さんに言った。
「組長さんがお帰りになる」
「当番兵ーーッ!」
ふだんのてろてろぶりはどこにいったか、大音声を人間無骨さんが張り上げた。
当番兵がしゃきしゃきと部屋に入ってきた。
「先任軍曹に伝達ッ! 組長さんがお帰りになるッ!」
「アイアイサーッ!」
当番兵の声も負けていない。
回れ右をして部屋を飛び出していった。
ここまでですでに毒気を抜かれつつあった組長さんと代貸さんだったが、続く雷鳴のような声の渦にすっかり肝を冷やしてしまった。
「ガンホー!」
「ガンホー!」
「ガンホー!」
同田貫組総員による雄叫びであった。
取り上げられていた武器を返してもらい、組長さんと代貸さんは車に乗り込んだ。その間中、小銃を構えた迷彩服の男たちが取り囲んでいる。
車を発進させ、同田貫一家が見えなくなったところで、組長さんはふうっと息を吐いた。
「端山、あれとやって勝てるか」
端山とはこの代貸さんの名前らしい。
「無理です」
と、代貸さんが言った。
「正直、自分、ビビりました。すいません」
「まあ、おれもさすがにな……」
「あの組はやばい。ありゃあ軍隊です。海兵隊、連中は宙兵隊というんでしたか。ヤクザに対抗できる相手じゃありません。こっちにだって強い奴はいる。柔道、空手、ボクシング。結構なところまでいったのもいます。でもあいつらは一対一なんてやりません。確実に殺せる体制を作ってから来ます」
「本家に売り出し中のがいるじゃねえか。フランス外人部隊帰りとかいうのが。あれでもダメか」
「ひとりじゃどうしようもありませんよ。軍事教練でにわか軍隊に仕立てたって、むしろ行動が予想しやすくなってプロのカモになるだけです。日本であいつらに対抗できるのは自衛隊のレンジャー部隊くらいでしょう」
「お手上げか」
「すいません」
代貸さん、よく謝る人だ。
「すいません、オヤジ。もひとつ正直に言います。自分、あの代貸にもビビりました」
「同田貫じゃなくてか」
「同田貫も怖ろしかったです。でもそれはヒグマやゴリラを相手にするような恐怖です。人類として根源の恐怖です。しかし、あの代貸のほうは、もっとこう、気色悪いといいますか……」
「ヤクザとしての嗅覚が教える恐怖、か」
「はい、すいません」
ふたりは黙り込んでしまった。
「敵に回せんな」
「はい、すいません。あの、ところでオヤジ。すいません」
「なんだ」
「どうやって食ってるんですかね、あいつら……」
『実は、私もそれが不思議なのです』
一号機さんが高級オイル舐めながらつぶやいた。
一号機さんに聞かれたくない会話は、最低でも村の外に出てからすべし。そんなこともこのヤクザさんたちは知らない。
一方、三人組である。
そして、人間無骨さんから預けられた一号機さんのネジである。
彼らはそれを、密閉できる小分けパックの中に入れている。
ほんの少しでも汗で唾で、恥ずかしい液体で汚さないように。一号機さんの匂いを消さないように。
昨夜、ジャンケンで勝ったのは歌仙くんだった。
一番手でネジを持ち帰る権利を得たのである。そのときの歌仙くんの喜びようったらなかった。のだが。
「歌仙。おまえ、ネジをパックから出さなかったろうな」
いつものようにM93Rの分解結合をしながら鳴神くんが言った。
その声に妬みがあるのはしょうがないのである。
「出さねえよ」
歌仙くんが言った。
「ていうか、出せねえよ。おれが舐めたり××したり○○したりしたあとにおまえらが同じことしたらと思うと無理だわ。できないわ、そんなの。ただその袋のまま抱いて寝ただけだよ」
「歌仙。おまえ、おれたちがネジ相手に××したり○○するとでも思うの?」
「鳴神くん、□□もするつもりでしょ?」
千両くんが言った。
「ばばば、ばっかじゃねえの、千両。おまえ、ネジだよ。それ、ただのネジだよ!?」
「声、裏返ってるよ、鳴神くん」
はあ……とバレルを握り締め、溜息をついたのは歌仙くんだ。
「ちょ、なにその溜息。なに、自慢? 一番目にネジ抱いて寝た自慢? おれも今夜抱いて寝るんだからなっ!」
「おまえのように無邪気だった頃に戻りたいよ、鳴神」
「なにその余裕ーー! おまえ、ネジになにしたのーー!」
「なにもしてねえよ、でもさ」
歌仙くん、涙声だ。
「そのネジを抱いて寝た昨日、おれは何かを失ってしまったんだ……」
「ほんとにおまえ、ネジになにしてくれちゃったのーー!」
「ひと晩、ひと晩だぞ。裸の姐さんがおれを誘惑するんだぞ。拷問だったぞ。なんて甘美で怖ろしくて悲しくて、届かない夢だったんだろう。なぜ悲しい夢は純粋に悲しいのだろう」
「抱けよーー!」
「抱けねえよーー! そもそも童貞だよ、おれはーー!」
「夢だろーー! なんとかなるだろーー!」
「鳴神、おまえも今夜試してみろ、隊長と副隊長の顔がちらつくから……。ホントだから……。肌に指が触れそうになるだけで、土下座して謝ってしまうから……」
「でも、歌仙くん、姐さんの裸見たんだね」
千両くんの突っ込みに、鳴神くんと歌仙くん、固まってしまった。
「えっ?」
「きれいだった? 姐さんの裸」
「えっ?」
「えっ?」
「お……おい、鳴神。たのむ、今晩もう一回だけそのネジ、おれに貸してくれないか……?」
「お、おいおい……なにいってるんだい、歌仙くん。順番だろう。今夜はおれの番じゃないか……」
「覚えてないんだよ! 裸だってわかってただけで見た覚えがないんだよ! ちくしょう、これが夢ってやつか! たのむよ、このままじゃ、おれ、生殺しだろ!?」
「知るかよ! 今夜はおれが見るんだ、姐さんの裸を! ガン見してやる! 目に焼き付けて、一生もんにするんだっっ!」
「おまえ、なんて下品なっっ!」
「おまえら、成長するどころか退化してんなー」
ザッ!!
またしても割り込んできた声に、三人組は弾かれたように立ち上がった。
「代貸、またいらっしゃったのでありますか、サー!」
「来ちゃわるい?」
「ノーサー! 歓迎いたします、サー!」
人間無骨さん、半眼のまま立ち上がり、とりあえず「代貸」とまた呼んでしまった鳴神くんをぶん殴ってから、
「おまえら、そのネジ、結局返さなかったんだねー」
「サー?」
「ワシントンは斧で桜を傷つけてしまったことを正直に父親に話したという」
「サー?」
「なに、おまえら知らないの?」
「いえ、ワシントンの話は知ってますが……」
「ていうか、ぼくたち宇宙人なのに、なんでこう地球の細々したことに詳しいんでしょう……」
「なあ。今日、どっかの組長来てたな?」
「イエッサー!」
「でな、連中、帰りの車の中で酷いこと言ってたそうよ。隊長がゴリラだとか、おれが不気味だとか。失礼だよね」
「イエッサー!」
「それでさ。なあ、それ、どうしてわかったんだろうね。走っていく車の中の会話まで聞けるって、誰の能力だったっけ」
三人組は激しい衝撃を受けた。
まさか――。
まさか――今までの自分たちの会話は、ぜんぶ姐さんに筒抜け……!
「ま、とにかくがんばってね」
にっこり笑って、人間無骨さんは去って行った。
■登場人物紹介・アンドロイド編。
ロボ子さん。
雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。
本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。
時代劇が大好き。通称アホの子。
一号機さん。
雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。
目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。
和服が似合う。通称因業ババア。
三号機さん。
雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。
小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。
基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。
板額さん。
板額型戦闘アンドロイド一番機。
高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。
■人物編
長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)
えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。
ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。
三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)
えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)
長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。
源清麿。(みなもと きよまろ)
えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)
三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。
同田貫正国。(どうたぬき まさくに)
えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。
一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。
ちなみに、ロボ子さんの呼称は
虎徹さんが「ロボ子さん」
宗近さんが「ロボ子ちゃん」
それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。




