ロボ子さん、女子高生になる。
配役。
セーラー服女子A 長曽禰ロボ子。
学ラン男子A(先輩) 一太。
学ラン男子B 二太。
『せんぱーい!』
セーラー服姿のロボ子さんが走ってくる。
「なあ。あれ、女の子走りだよな」
一太さんが言った。
「芸が細かいよね」
二太さんは楽しそうだ。
「……」
一太さんの緊張は高まる。
「ええっ」
打ち合わせで一太さんは情けない声をあげた。
「台本がないのか、全部アドリブなのか!」
『そのほうがリアルな学園ドラマになります』
「ぼくらもロボ子さんも高校に通ったことがないのに、どうリアルになるんだ!」
『でーーきないんですかー』
ああっ、ロボ子姫がぐずりはじめたっ!
『マネージャーさん、帰る! ロボ子帰る!』
「あはは、ロボ子さん。一太は真面目すぎてアドリブが利かないんだ」
二太、このやろう!
『ポンコツなんですね』
こんちくしょう!
「できるよっ! ちゃんとやってみせようじゃないか、アドリブでロボ子さんの先輩男子高校生役! それくらいできるさっ!」
なんだか、ロボ子さんと二太さんに邪悪な笑顔が浮かんだように見えたのは気のせいだろうか。
『もう、先輩ったら歩くの速いんだから! はあはあ、私が呼んでいるの聞こえませんでしたか、はあはあ』
「……」
呼吸しないアンドロイドがなぜ息を切らしているのだというツッコミはいい。
一太さんもこの千年、同じような計画で様々な配役をこなしてきた。どんな展開でも対応できるだけの経験とノウハウがあるのだ。たぶん。
さあ来い、長曽禰ロボ子!
ぼくは君のあこがれの先輩!
『ねえ先輩、一緒にクーデターしませんかっ!』
「しねえよっ!」
『先輩、今朝のエンゲル係数はどうだった?』
「意味わかんないよっ!」
『ねえ、先輩のこと女王さまと呼んでいいですか?』
「オレの人体構造はそのようにできていないっ!」
『先輩、知ってた? クレオパトラの鼻があと十五センチ低ければ、世界の歴史が変わっていたかも知れないんだってっ!』
「クレオパトラ、天狗かよっ!」
『ねえ先輩。おまえどこ中よ』
「なにその超展開っ!」
二太さんは転げ回って笑っている。
「おいおい、宗近。おまえも見てこいよ」
今日は一緒に帰宅した虎徹さんと宗近さん、ロボ子さんの姿が見えないので探しに行った虎徹さんが、ぶぶぶと笑いながら戻ってきた。
「ロボ子さん、ベッドではんぺん抱いてニタニタ笑いながら寝てるぞ。かわいいぞ、不気味だぞ」
「女の子の寝顔なんて覗くものじゃないだろう。……でも、そう?」
しばらくして戻ってきた宗近さんも顔を真っ赤にさせて笑っている。
「なんだありゃあ。むちゃくちゃ不気味でかわいいな」
「アンドロイドも夢を見るんだねえ」
虎徹さんと宗近さん、ロボ子さんを起こすのはかわいそうと、自分たちでお風呂を沸かし、パークのレストランで折り詰めにしてもらった料理で晩酌だ。
まずは、おつかれ!とビールで乾杯。
「うん、うまいねえ。さすがは補陀落渡海のコックたちだ。地球の食材なのに、ちゃんと国の味がでてるよ」
「ぼくはロボ子ちゃんの料理のほうが好きだな」
「あ、おまえ、点数稼ごうとして。まあ、いいんだよなあ、あの味噌汁に漬け物」
「それに、レストランさ、ちょっと品数減らすそうよ」
「え、それも大雪の影響?」
「物流が滞ってるそうだ。なんかこの冬、凄いことになってるよな」
虎徹さんはテレビをつけた。
どこかでニュースをやっている時間だろう。
そのニュースでも大雪関連が長い。
「パークは大丈夫なのか?」
虎徹さんが言った。
「園長が他人事のようにいうなよ。まあ、除雪機とファンシーロボずがフル稼働だね。あいつら役に立たなさそうで、今度ばかりはいてくれて助かったよ。これだけ積もると人間じゃどうにもならない」
この冬最強の寒波さんが居座っているのだ。
こんどこそ最強、そして最悪なのだ。
雪国だけでなく、日本列島が雪に埋もれている。
「なんか、春が来るとか思えなくなってきたな……」
ぶるっと体を震わせて、虎徹さんがつぶやいた。
うふふ……。
そうですよ、別に春なんてこなくていいんです。
だって、こんなに楽しいじゃないですか。うふふ……。
『先輩! わたしお弁当作ってきたんです、お昼にいっしょに食べましょうっ!』
「ちょっと待て、なんで納豆の匂いがするんだ!?」
『早起きして、一生懸命つくったんですっ!』
「納豆だろ、納豆だよな。君が煮たのか、発酵させたのか!? ていうか、ぼくらのバーチャルルームで、なんで勝手に納豆を出せるんだ!?」
『大好きなんですっ!』
「ぼくが!? 納豆が!?」
ごはんだって、大丈夫です。
毎日スーパーまで行きますよ、私。
マスターにも宗近さんにもはんぺんさんにも、ぜったい不自由させません。
『せんぱーい、ここあいてますよ! やだ、今日も素うどん? そんなんじゃ次の試合も負けちゃいますよ!』
「ロボ子さん、ぼくは今、どういう設定になっているのだろうか……」
「ははは、おまえらって、ほんと仲いいのなー。時代劇部名物夫婦漫才」
「二太、おまえっ。時代劇部!? 試合があるのか!?」
『はい、先輩。私の人参とピーマンあげるっ』
「うどんにか!?」
「ははは、ロボ子ちゃん、君、自分の嫌いなもの一太に食べさせようとしてるなー?」
『てへっ』
うふふ。
うふふ……。
「やっぱりだ」
一太さんが言った。
ロボ子さんの認知を長曽禰家のロボ子さんの体に戻したあと、一太さんと二太さんはさきほどから記録された観測データを精査している。
「うん、あれだけ本人がはしゃいでたわりに、歪みのほうはほとんど動いていないな。ぼくは楽しかったけど、一太的にはストレスたまりそうだし別の手段を考えようか」
「いや? ぼくはぼくなりに楽しんでいたが?」
「そうなのか?」
一太さんも結構歪んでいると、二太さんは思った。
「それにしても今までなかったことだな、これは。これだけやれば、そこそこ反応はあるはずなんだが」
二太さんが言った。
一太さんはモニタをじっと見つめている。
「どうしたのさ、一太」
「歪みもまったく変化がないわけじゃない。小さく脈動しているんだ」
「それはわかっているけど――」
「おおむね一分間に一二〇回。ときどき二〇〇回を越えたりもするがだいたいそのあたりだ」
「それが?」
「猫の心拍数に近い」
一太さんが言った。
二太さんは、ぽかんと口をあけた。
「なにを言っているんだ、一太」
一太さんは、椅子の背もたれに深く身体を預けた。
「考えてみたんだ。あれだけやって影響が出ない。それなら、あのポイントにいる他の人間の存在や影響を疑うべきだ。しかし、あのおっさん二人が移動したことは観測されていない。いっぽう、猫は二度ロボ子さんと移動している」
「えっち星は!」
「それが問題だ。いいかい、ぼくは考えをまとめようと話しているんだ。二太も手伝ってくれ。ぼくらはロボ子さんがスターターであり、歪みがアンプリファイアーだと考えていた。ところが実際のスターターは別だったんだ。スターターは猫だけど、猫の意識ではまだ小さくて歪みを動かせない。そこにロボ子さんという中間的なアンプリファイアーが介在していたのだとしたら?」
「ロボ子さんは、ただ巻き込まれたということか?」
「そうだ。その場合、猫の意識を増幅させてしまったロボ子さんだけが飛ばされてもおかしくないんじゃないか。つまり一緒にはいなかったときだ。増幅装置はロボ子さんなのだから、ロボ子さんの意識とみなされてもしょうがない」
「猫はあの時、眠っていた。つまり」
「あの時、あの猫は、元の飼い主である板額さんの夢を見ていたんだ」
『はんぺんさん、柔らかくて気持ちいい……』
ロボ子さん、町娘になる夢も女子高生になる夢もいっぱい楽しんで、幸せそうに眠っている。
はんぺんを抱きしめて。
■登場人物紹介・アンドロイド編。
ロボ子さん。
雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。
本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。
時代劇が大好き。通称アホの子。
一号機さん。
雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。
目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。
和服が似合う。通称因業ババア。
三号機さん。
雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。
小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。
基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。
板額さん。
板額型戦闘アンドロイド一番機。
高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。
ファンシーロボず。
第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。
■人物編
長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)
えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。
ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。
三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)
えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)
長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。
源清麿。(みなもと きよまろ)
えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)
三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。
同田貫正国。(どうたぬき まさくに)
えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。
一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。
三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)
えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。
方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。
ちなみに、ロボ子さんの呼称は
虎徹さんが「ロボ子さん」
宗近さんが「ロボ子ちゃん」
それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。




