表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
1月はあこがれの国編。
44/161

ロボ子さん、町娘になる。

挿絵(By みてみん)

『三号機さんはーー、小生意気ーーーーッ!』

 ロボ子さんの声が響き渡った。

サルボ(ミサイル全弾発射)ッ!」

 がん、がん、がん、がん!

 がん、がん、がん、がん!

 VLS(垂直ランチシステム)の全ランチが開いた。

 すべてのミサイルが射出され、ロボ子さんたちを目指し降り注いだ。

『三号機さんのマスターさんは砲雷長さんです! 宗近(むねちか)さんに依頼して補陀落渡海(ふだらくとかい)さんの残りの兵装を自分の家にこっそり移しちゃったんです!』

「だから! なんであんたは、いちいちぼくたちを巻き込むんだ!」

『不可能です! 三号機さんのマスターさんを挑発するのは不可能の二番目なのです!』

「歪んでるのは、あんたとあんたの人間関係だっ!」

 飽和攻撃の中、三人は逃げた。


 三人が逃げ込んだのは鎮守さまだ。さすがにここを攻撃することは清麿(きよまろ)さんでもしないだろう。

 命が残っただけでも人生は素晴らしい。

 そういえば鎮守さまでは新年明けから工事が始まるはずだったのだが、この大雪で延期になっているらしい。ここにも大雪の影響が及んでいる。

「ああ、一太、髪がアフロになっちゃって……」

「うるさい……」

 一太(いちた)さんと二太(にた)さんは膝を抱えている。

 よほど怖ろしかったのだろう、震えが止まらない。

『ああ、私の半纏にも焼け穴が……まだ新品なのに……』

 それなのに、ロボ子さんはケロッとしているのだ。

「このクソがきゃあ……」

 ふらふらと一太さんが立ち上がった。

「一太、落ち着いて!」

「おれは不可能なことを考えろと言ったんだ。だれが実行しろと言った……」

『一太さん、一人称がいつの間にかおれになってます』

「やかましい! 放せ、二太! このすちゃらかアンドロイドを殴らせろ!」

「一太、やめてーー!」

「念のために、三番目の不可能なこと聞いてやるよ! さあ、言ってみろよ! いや、ついて来いと言われても、もうここを動かねえぞ! 言うだけ言ってみろ、長曽禰(ながそね)ロボ子!」

『六つ考えろと言われたから、六つありますよ』

「三番目だけでいい!」

『人類に恒久平和が訪れますように』

「……」

「……」

「なあ、一太。ぼく、残りの三つも聞きたくなってきたんだが……」

「だまれ」

 二太さんの言葉に被せるように、一太さんが言った。

「実行不可能なことを考えさせる計画は終わりだ。このアホの子アンドロイドにはその計画自体が実行不可能だった」

「うまいこと言ったつもり?」

 とりあえず二太さんをギロリと睨み、一太さんが言った。

「長曽禰ロボ子。明日から次の計画に移る」


『いやでちゅね~、一太さんは怒りんぼで』

 猫をあやすときに赤ちゃん言葉になるのは、アンドロイドもいっしょのようだ。

 はんぺんも大きくなったがまだまだ子猫で、猫じゃらしを振ると飽きもせず飛びかかってくる。そのうち大人になれば二三回で飽きちゃうようになるのだろう。

『そういえば、あのふたりがいったい誰なのか、まだ聞いてませんねー。なんかどうでもいいような、はじめからわかっているような気もするのです。不思議ですねー』

 ロボ子さんの独り言なんて関係なく、はんぺんは猫じゃらしに夢中だ。

『うふふ、しっかり遊んで、しっかり食べて、大きくなるんでちゅよ~』

 外は今日も雪だ。


「そういうわけで、今日からは『こんなこといいな、できたらいいな』作戦に移行する」

「JASRACぎりぎりのような気もするが、どうなんだろう、一太」

「さて」

「ごまかすな」

 一太さんと二太さん、今日はあの夏祭りの光景を背負っていない。

「『こ』作戦の実行においては無駄になるだけだからな」

「あ、すっごい縮めた。やっぱり怖かったんだ、一太」

 大きな半球体の内部のような、殺風景な場所にロボ子さんはいる。

「実は今までもぼくらはここにいたんだ。そして君が推定していたように、君の知覚情報を乗っ取って君に伝えていた。今日はこの仕組みを最大限に使って君の感情の流れを、歪みにとって良い流れに整えたいと思う」

『あの』

 と、ロボ子さん、ここで質問。

『どうすれば「良い流れ」になるか、わかるんですか?』

「わからない。対症療法のようなものだとすでに言った」

「一太はまだ不機嫌なようなので、ぼくが説明する。この歪みがなぜ起きて、なぜ君の収束をおかしくしてしまうのか、ぼくらにもよく理解できていないってのは(自慢じゃないが)もう言ったよね。ただ、歪みは観測できているので、その観測結果を見て『対症療法』ができるわけさ」

『じゃあ、昨日やった「不可能なことを考える作戦」はどんな結果だったんです?』

 一太さんと二太さんが顔を見合わせた。

「実は、変化がなかった」

「ほとんど死にかけたくらいなんだから、今までの経験上、良くも悪くも変化がある筈なんだが、まったくなにも観測されなかった」

「ぼくらはもしかしたら何かを勘違いしているのかもしれないし、今日から始める、この『こんなこといいな、でき……』」

「二太、やめろ。無駄なチャレンジはしなくていい」

「……この『こ』作戦も無駄に終わるかもしれない。でも、試さないで諦めるわけにもいかないだろう?」


『はいっ!』

 ロボ子さん、いい返事。

 一太さんと二太さんは嫌な予感。


「ロボ子さん、やってみたいけどちょっと無理かなーとか思ってること、ない?」

『昨日、ふたつもやっちゃいました!』

「昨日のことは忘れろ」

 一太さんが言った。

「つまり、昨日のはそういうノリだったわけか……、このすちゃらかアンドロイド……」

「まあまあ、一太」

 二太さんが言った。

「お金がかかりそうだからとか、子供っぽいからいまさらなあとか、人に見られるとちょっと恥ずかしいとか、やりたいけど我慢していることさ」

「このバーチャルルームなら、たいていのことはできる」

「つまり仮想現実であって現実じゃないけどね。でもその方がむしろ遠慮も恥ずかしさも捨てられていいだろう?」


『すばらしいですっ!』

 ロボ子さんの周囲がキラキラ輝いているように見える。


 やばい。

 ぼくたちはとてつもない悪夢、あらがえない蟻地獄、逃げられない蜘蛛の巣に自ら飛び込んでしまったのではないだろうか。

 背筋が凍り付く一太さんと二太さんなのだった。


『あ~れ~~。ご無体な~~』

 町娘のロボ子さん、ぐるぐる回っている。

 そのロボ子さん、突然お芝居を止めると、キッと二人を睨み付けた。

『だめです!』

 ロボ子さんが言った。

『お芝居が軽い! 上っ面! 魂がこもっていません!』

 ロボ子さんの帯を引き、ぐるぐる回していたのは脂ぎった悪役商人と悪役代官の二人。

 一太さんと二太さんのなれの果てである。

「なんでぼくらまでこんな姿に……」

「バーチャルルーム、こんな事までできるのかよ……」

『だめです! 共演者にやる気ないのでお芝居になりません! マネージャーさん、帰る。ロボ子帰る!』

「ああっ、ごめんなさいっ。がんばります、がんばりますからっ!」

「でも、時代劇に出演したいでなぜこれなんですか、ロボ子さん!」

「お銀とかじゃなく、助さん格さんですらなく、これなのですか!」

『マネージャーさん、ロボ子帰る!』

「やりますからっ!」

「ぼくら、ちゃんとやりますからっ!」

『本当ですか? ちゃんといやらしい中年男やりますか。良いではないか、良いではないかと下衆に言えますか。嫌悪感たっぷり誘う、いやらしい笑いできますか。汚れられますか、変態になりきれますか!』

「できますっ!」

「やりますっ! こんちくしょうっ!」

『あ~~れ~~』

「ぐははは、良いではないか、良いではないか」

「ぐははは、たっぷりかわいがってやろうではないか」

『いやあああん、ロボ子、舌噛んで死にます~~』

 ロボ子さん、笑顔がまぶしい。


「ぼくらは今日、なにか大切なものを失ったんだ、二太……」

「言わないで、一太……ぼくは死にたい……」

 どんよりと落ち込んでいるふたりである。

『それで、歪みに何か観測されましたかっ!?』

 ロボ子さんは元気。

 一太さんが顔を上げ、けなげにも立ち上がって背筋を伸ばした。

「なんの変化もない」

『ふうん、そうなのですかっ!』

「どうして、輝くような笑顔でそれをいうんだ、ロボ子さん……」

『じゃあ次は、高校の先輩後輩ものやりましょうっ!』


 ああ、ぼくらはロボ子さんのオモチャにされている。

 やっとそれに気づいたふたりなのであった。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ