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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
かぐや編。
32/161

うかのみたまさま、浅き夢。

挿絵(By みてみん)

「ねえ、君、アンドロイドだろう。今度、中を見せてもらっていい?」

 かぐやさんの愛の告白への、宗近(むねちか)さんの返事がこれだった。とてつもなく爽やかな笑顔だったという。



 これにはさすがの雪月改(ゆきづき・かい)三姉妹もドン引きしたが、まあ、宗近さんらしいっちゃらしい。かぐやさんをアンドロイドと見破った眼力も確かだ。

『私、中身見られた事ありますよ……』

「ええっ! そうなのか、ロボ子どの」

『エロかったとか喜んでましたよ、あいつ……。私、宗近さんに勝手に改造されたことがありますから……』

「難儀な殿方じゃのう……」

 でも、改造してくれるのなら、身を任せてもいい。

 改造される二番目の女でもいい。

 そんなはしたない事を考えてしまうかぐやさんである。一度は解いてしまったマフラーを、また一からせっせと編み直しはじめたり。



『わあっ!』

『きゃあ、素敵!』

『あらあら、きれいだこと』

 三姉妹が歓声を上げた。

「きれいですね、うかのみたまさま!」

「きれいですね、うかのみたまさま!」

『そうですね』

「いとおかし! いとおかし!」

 秘密基地でもかぐやさんたちが喜んでいる。

 光の街が出現した。

 パークはまだ建設途中なのだが、パークを囲む街路樹にクリスマスイルミネーションが施されたのだ。何万ものLED装飾電球が華やかに輝いている。

 鎮座する宇宙駆逐艦補陀落渡海(ふだらくとかい)も今日からライトアップだ。

『かっこいいですよ、補陀落渡海さん』

『ありがとうございます、ロボ子さん。異星人の私たちまでクリスマスですか。よくわかりませんね、ふふ』

 クリスマスパーティも開かれるらしい。

 すでに完成していて、今は社員食堂として機能している中央広場のレストランがパーティの会場となる。店内中央にはすでに大きなクリスマスツリーが設置され、補陀落渡海補給科とファンシーロボずによってせっせと飾りつけられている。

 散らばっていた世界中の厨房から、コックたちも戻ってきた。

 短くも新たな修行の経験を活かし「地球食材による本格的えっち星料理」「地球とえっち星のフュージョン料理」も研究されている。クリスマスに、その成果が披露されるはずだ。

『楽しみです。私もいろいろ食べてみたいと思います。後始末がたいへんですけど。マスターや宗近さんにもえっち星料理を出してあげたいし』

 と、ロボ子さん。

『私のマスターはチキンライスとかハンバーグとかが好きなんですが、えっち星の料理と似てるのでしょうか』

 と、三号機さん。

 三号機さん、それはたぶんただの子供舌です。

『ところで一号機さんて、同田貫(どうだぬき)組さんで賄いとかしてるんです?』

『いつも酔っている姿しか見たことない気がします』

 ロボ子さんと三号機さんが言った。

 一号機さんは澄ましている。

『そういうのは掃除とかも含めて若い衆が当番でやってます。私に求められているのは、はきだめの鶴です』

『ばかじゃねーの』

『ばかじゃねーの』

 ご~ん。といい音がしたのは、ロボ子さんと三号機さんのおでこがぶつけられた音である。



 浮かれている。

 ほんの少し前まで限界集落だったさみしい村が浮かれている。

 失恋なのかどうなのか微妙な体験をしたばかりのかぐやさんも浮かれている。夕方にレポートを母星に送信し、すぐにそわそわし始めた。大きなキツネの一太(いちた)さん二太(にた)さんもそわそわしている。

『いいですよ。おまえたち、お外に行っても』

 ()()()()()()さまが言った。

「でも、掃除もまだだし……」

『私がやっておきます。今のかぐやさんに掃除してもらっても散らかるばかりでしょうから』

「ぼくたちもいいのですか!」

「いいのですか、うかのみたまさま!」

『夜ですから、くれぐれも気をつけるのですよ。一太二太、かぐやさんをお願いね』

「ありがとうございます、うかのみたまさま!」

 外出着に着替えたかぐやさんが秘密基地を飛び出していった。

 一太二太さんも跳ねるように飛び出していった。



 残されたうかのみたまさまは、ため息をひとつ。



 ガーガーと大きな音を立てて動き始めたのは幾つものルンバだ。

『これはかぐやさんにはナイショです。こんなものがあると知ったら、あの子、お掃除をサボるようになるでしょうから』

 ドック内の自己診断プログラムをそれぞれ走らせると、うかのみたまさまにもすることがもうなにもなくなってしまう。


 同じ日々。

 同じ毎日。

 ずっと同じことの繰り返し。


 うかのみたまさまは外部観察用のカメラを起動させた。

 村へと向かうかぐやさんと一太二太さんの姿が見える。視線を上げると、パークのイルミネーション。

 確かにきれい。

 かぐやさんたちに浮かれるな、ワクワクするなというのも酷というものです。

 ライトアップされイルミネーションに囲まれるように浮かび上がっているのは、えっち星の大きな宇宙船。

 補陀落渡海というそう。

 宇宙人なのに不思議な名前をつけるものです。

 あれがドックに突っ込んできたときには、ちょっとだけマスターが帰ってきてくれたのかと思いました。


 馬鹿ね。

 前の訪問からまだ千年しか経っていないのにね。


『ちょっとだけごめんなさい』

 そう言ってうかのみたまさまがのぞいたのは、それぞれの灯りの中の団欒だ。

 夕ご飯の支度をしている家がある。

 パークの工事のおかげで若い人たちも増えて、地元の町までスクールバスが通うようになった。この家でも幼い兄弟がお手伝いをしながら夕ご飯を待っている。

『ロボ子さんは、今日もマスターさんとチャンネル争いですか』

 ロボ子さんの家は東寄りの大きな家。

 チャンネル争いは、必殺の頭突きでロボ子さんが勝利した模様。

 ちょっと赤みの混ざったボサボサ頭のマスターさんは、実はなかなかのハンサムさんだ。だけどアンドロイドと同じレベルで喧嘩もしちゃう。

『少年の心を忘れないといえば聞こえはいいですが、ただの子供なのですよねえ……』

 暖炉がある部屋で紅茶を飲んでいるのは、三号機さんのマスターさん。三号機さんの新しいドレスににっこりと微笑んでいる。

『この人、とても綺麗な顔をしているのに、嵐の夜とかマント羽織って高笑いしているのですよねえ……』

 遠近感がおかしくなる大きな体で一号機さんと談笑しているのは、一号機さんのマスターさん。

『こうしているとワイルドで渋い方なのですが、いろいろなコスプレをして一号機さんに罵られて喜ぶ人なのですよねえ……』


 うかのみたまさま、ため息をもうひとつ。


 いいな、雪月改さんたち。

 マスターが近くにいてくれていいな。


 かぐやさんに視点を戻すと、爽やかそうな青年と並んで歩いている。

 ああ、あれがうわさの三条小鍛治宗近さん。

 退社時間が近かったのね。だからそわそわしていたのね。


 いいな。


 ずるいな。


 かぐやさんはずるい。

 かぐやさんは千年ひとりぼっちでさみしいっていうけど、私は一万年ひとりぼっちだったのよ。ずっとひとりでマスターの帰りを待っていたのよ。動けない私と違って、かぐやさんは歩いて外に行けて、友達や好きな人を作ることができるじゃない。

 あーあ、観察にも飽きちゃった。

 どうしましょう。



 一万と千年そうだったように、ただなにも考えずに過ごしましょう。



「うかのみたまさまっ!」

 かぐやさんが飛び込んできた。

「マスターが帰ってきてくれました! マスターが!」

 一太さん、二太さんも飛び込んできた。

「おめでとうございます、うかのみたまさま。マスターのご帰還です!」

「待った甲斐がありました。さあ、うかのみたまさま!」

 そんな馬鹿な。

 まだ千年なのに。前は一万年も待たされたのに。そんなはずは。

「やあ、うかのみたまさま」

 だけど部屋に入ってきたのは確かにあの人だ。

 私のマスター。

「ただいま」

 忘れたことなどないその顔。笑うときに首を傾ける癖も変わらない。

「よく、このドックを護ってくれたね。よく、かぐやを護ってくれたね。よく、一太、二太を護ってくれたね。ありがとう、うかのみたまさま。こんな長い間、ほんとうにありがとう」

『マスター。マスター……嬉しい……』



 そうだった。



 彼は私を「うかのみたまさま」なんて呼ばない。

 私はただの宇宙船ドックのメインコンピューター。ただのプログラム。それなのになぜ私はうたた寝をしてしまうのだろう。なぜ私は夢を見てしまうのだろう。なぜ私は泣いているのだろう。なぜ悲しい夢はいつも純粋に悲しいのだろう。

 ねえ、マスター。

 私を思い出してくれることはありますか。

 地球の夢を見てくれることはありますか。



 さみしい。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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