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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
かぐや編。
27/161

ロボ子さん、幽霊に会う。

挿絵(By みてみん)

「聞きましたか、長曽禰(ながそね)園長!」

 村に初雪が降った日。

 今日も村長さんが長曽禰家にやって来た。なにやら勢い込んでいる。

「いいえ、たぶんまだ」

 村長さんの暑苦しさは、虎徹(こてつ)さんもすっかり慣れっこだ。

「お化けですよ! こんどはお化けが出たんですよ!」

「はあ、そうですか。ロボ子さーん」

 虎徹さんがのん気に声をあげた。

「村長さんとおれに、お茶をおねがーい」


 村長さんの話によると――。


 夜な夜な、子供の声で「あそぼ」と聞こえてくる。

 窓を開けても誰もいない。

 だけど木々の間を駈けていく大きな狐を見たという人もいる。森の中に髪の長い女の子を見たという人もいる。

 それはあの空洞でも聞こえたらしい。(くだん)の大学の調査団もその声に悩まされたというのだ。誰かに触られたという関係者まで出た。予定通りの調査を済ませると、調査団は逃げるように帰ってしまった。空洞の謎が解けたとは少しもいえないのに、次の話はない。

「そういうわけで」

 と、村長さん。

「あの穴は、ネットでも宇宙船や宇宙人や古代超文明から離れて、今では幽霊の穴ということになってるようですわ」

「パークのアトラクションのあてがひとつ減りましたね」

 にやにやと笑う虎徹さんに、村長さんはぶるぶると首を振った。

「何をおっしゃいます。リアル幽霊の出る空洞! どう利用しようか、どんな伝説をでっち上げようか、いろいろと考えているところですよ!」

 でっち上げるのが前提なのですか。

「私はこれで、江戸川乱歩賞への応募経験がありましてな!」

 多才な村長さんです。



「妙な声が聞こえるって、このごろロボ子さんが言ってた、野良猫の声が聞こえるってアレか?」

 夕食の席で虎徹さんが言った。

 お茶やお茶請けだけじゃない。ぐーたら三人組が働き出したおかげで、夕ご飯も二品三品とお皿が増えて、少しだけ豪華になった。

 今日は鮭のムニエルにミニトマトやサニーレタスのつけあわせ。

 小鉢にはキノコの和え物。

 もちろん、ロボ子さんお手製のぬか漬けも健在だ。

『私も猫の鳴き声から、「あそぼ」って人の声に聞こえてくるようになりました。みなさん耳がいいですね』

「いや、おれにはなんも聞こえないな」

 虎徹さんが言った。

「ぼくもだなー。部下のなかには聞いたことがあるってのがチラホラいるみたいだけどね」

 宗近(むねちか)さんも言った。

『ですよね、ですよね!』

 飼い犬は飼い主に似て、飼い主は飼い犬に似る。


 ちなみに宗近さんのいう部下とは、パークの整備班のことだ。

 全員が宇宙駆逐艦補陀落渡海(ふだらくとかい)の機関科の頃からの部下で、こうみえても宗近さんは機関長さんだったのだ(そもそも艦長さんがその隣で味噌汁をすすっているのだが)。

 一度は解散して世界に散らばった二〇〇人のえっち星人たちが、このパークに集まってきている。

 この村はますますえっち星人の隠れ里らしくなってきた。

 まったく隠れていないのだけれども。


 真夜中に、ロボ子さんは部屋の窓を開けてみた。

 子猫はロボ子さんのベッドですやすや眠っている。数時間後には目を覚まして運動会をするのだろう。

 外は雪。

 今夜は積もりそうだ。

「あそぼ」

 しんしんと降る雪の向こうから、確かにその声が聞こえてた。



「があああああああ!」

 少女はキレている。

「人が! 人が! 人がなんどお願いしても、だれも遊んでくれねえええ! この世に人情もなにもありゃしねえええ! むかつくうう! いとむかつくううう!」

 少女は怒鳴り散らかしている。

 極めて古風だ。

 おそろしく長い髪、そして十二単(じゅうにひとえ)姿なのだ。

 それでいて、少女がいる空間は極めて無機質で機械的だ。簡単に言えば、補陀落渡海さんの艦橋のような部屋なのだ。そこで少女は足を踏みならしている。

 少女の傍らには、白と茶色の二匹の大きな狐。

 とにかく大きい。

 座っていても少女と同じくらいの背がある。

「こうなったら、滅ぼす? 滅ぼす? みんな滅ぼす?」

 物騒だ。

「かかって来いやあ、へたれ人類ィィ!」

 調子に乗っている。


『かぐやさん』


 その声に少女はビクッと飛び上がった。

 慌てて大きなキツネの陰に隠れ、ちらちらと覗き込む。

「お、怒る? 怒る? 頑是無いこの(われ)を怒る?」

『いちいち怒りませんけども。もう、かぐやさんのその性格には慣れていますし』

「でも怒るんでしょ、でも怒るんでしょ。いとテリブル」

 少女――かぐやさんの目の前にあるのはただのコンソールとモニターだ。だけどかぐやさんには何か別のものが見えるらしい。

 なにも映っていないモニターにだろうか。

 それともコンソールとかぐやさんの間にだろうか。

「えへっ」

 かぐやさんが、必殺のかわい子ぶりっこ笑顔を浮かべた。

『はい。なんでしょう、かぐやさん』

「あの、あの、遊びに行っていいかなっ。かなっ」

 溜息が一つ聞こえてくる。

『あまり人類に干渉するんじゃありませんよ。有り体に言えば、もうちょっかい出すんじゃありませんよ。いつも尻ぬぐいするのはこの私なのですから。この頃の幽霊騒ぎだって私は感心していませんよ。あのね――こら、お聞きなさい。逃げるように出て行くなっ! 一太、二太、おまえたちまでっ! ああ、もう、かぐやさんたらっ! 一太、二太ったら!』

 遠くから、かぐやさんの声が聞こえた。

()()()()()()さま、いってきまーす!」

 もうひとつ、溜息がもれた。



 外は今日も雪。

 雪の森の中を、大きな二匹のキツネとその背に乗る長い髪の少女が駆けている。

「ひゃーっ」

 白い毛並みの一太さんの背で、かぐやさんが歓声をあげた。

「息ができない、息ができない、あははは。雪がすごくて、一太が速くて、息ができない。気がする。あははは」

 そして、くるっと茶色い毛並みの二太さんへと振り返って、

「今、あんた、我を馬鹿みたいだと思ったでしょ」

 二太さんはたぶん、めんどくせえと思っている。

 かぐやさんは、今度は乗っている一太さんの後頭部の毛を鷲掴みにして揺すった。

「一太、あんた、我をめんどくせえと思ったでしょ!」

 たぶん、それは当たっている。

 かぐやさんはゲラゲラと笑い出した。

「走れ、走れ、一太ーー!」

 しかし、そのはしゃいだ声は長続きしないのだ。

 ごめんね、一太。

 ごめんね、二太。かぐやさんは思った。

 もう飽きちゃった。おまえたちのことは大好きなのに、それは少しも変わらないのに、三人だけで遊ぶの、もう飽きちゃった。ごめんね。

 だって、もう千年だよ。

 千年なんだよ。

 千年ずっとなんだよ。

 かぐやさんは空を見上げた。見ているのは雪と雪雲の向こうだ。遥かな宇宙だ。


 我は、いつまでこうしているのかなあ。

 我は、いつまでこうしてないといけないのかなあ。


 ふと見ると、木の陰からこちらを伺っている人影がある。

 人類じゃないのはわかっている。

 人類だったらとうに一太さんと二太さんが反応して、かぐやさんをここから遠ざけている。そろそろアンドロイドにも反応するようにプログラムを修正しなくてはいけない。かぐやさんは思った。

 馬鹿みたい。

 こんな時でも我は生真面目に考えてしまう。いとわびし。

()は誰じゃ」

 かぐやさんはその人影に呼びかけた。

「どうしてアンドロイドがこんな雪の山深く紛れ込んできた。わかっておる。その田舎娘のような姿はウエスギ製作所の如月(きさらぎ)であろう。風呂敷を背負って、なにかのお使いか。なあ、如月よ。汝にはまだ雪月(ゆきづき)のような自律的な感情プログラムが実装されておらん。だから汝の表情はただの反応に過ぎん」

 かぐやさんは一太さんから降りて、その人影に近づいた。

「それでもな、我は汝がうらやましいのじゃ。感情を持たない汝がうらやましい。ただ起きたことに反応すればいい。悩むことも悲しむこともない。なあ、名も知れぬ如月よ――」

『私、如月さんじゃないんですけど』

「あなやっ!」

 アンドロイドが答えてきて、かぐやさんは腰を抜かすほど驚いた。

『ていうか、私、雪月ですけど。それどころか雪月改(ゆきづき・かい)なんですけど』

 綿入り半纏にスエットの上下に長靴。

 まごうことなき雪月改二号機。背中になぜか大きな風呂敷袋を背負ったロボ子さんなのである。

「いとサプライズ!」

「いとサプライズ!」

 かぐやさんはこれ以上はないというくらい目を丸めている。

「その馬鹿そうな顔で、なにも考えてなさそうなゆるい顔で、雪月! いや、雪月改とな!?」

『私、うっすらと腹が立ってきたんですけど。サルボしましょうか、サルボ(全ミサイル発射)。全ランチに再装填済みですよ』

 どこからそのミサイルを入手したのです。

「自称雪月改!」

『本気で殴りますよ』

「我になんの用じゃ!」

『野良猫でもないし、幽霊でもなかった。ただの女の子でもなかった』

 ロボ子さんはにっこりと微笑んだ。

『あなたのお誘いが聞こえたから来たんですよ。あそぼ、私と同じアンドロイドさん』


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


ファンシーロボず。

第一世代と第二世代の旧型戦闘アンドロイド。よそのテーマパークで余生を送るはずが、なぜか宇宙船争奪戦に巻き込まれ、ロボ子さんに吹き飛ばされ、村に居座った。現在はパークの従業員。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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