第一回ロボ子さん会議
「なんだこの、『ロボ子さん会議』というのは」
「つまりあれだ、世界に三機しかない雪月改のオーナー親睦会ってやつだ」
「そんなことを聞いているのではない。だったら『雪月改オーナー会議』でいいではないか」
「え、なに、おまえ三号機さんをロボ子さんと呼んでねえの。おまえ、それ、ロボ子さんといっしょライフの半分を損してね?」
「意味が分からない。私はうちの三号機を『私の天使』と呼んでいる」
「ばっかじゃねえの」
「ばっかじゃねえの」
「じゃあ、君は一号機さんをなんと呼んでいるのだ」
「特に呼び名はない。本当は最初に『弥生』と決めたのだが、ふだんそう呼ばないので本人もうちの隊員たちも忘れている気配がある」
「『おい』とかか?」
「『酒』『メシ』とか?」
「どこの昭和のオヤジだ。シチュエーションによって呼び方が変わるのだ。その時ごとのマイブームがおれたちにはあってだな」
「まさか、ディープな話題に移行しようとしていないか?」
「昨日、彼女は『先生』で、おれは『だめな坊や』だった……」
「続けなくていいから」
「遠い目しなくていいから」
「おまえ、その図体でどういうことをしてるんだよ、毎日……」
「下品な想像はやめていただこう。おれはただ、彼女にコンピューターボイスで罵られるのが好きなだけなのだ」
「充分変態だ、ごりら」
「情けない嗜好だな、のうたりん」
「彼女にだ! おまえらに罵られたら素直に腹が立つわ! おう、まとめてかかってこい、このヤワな宙軍のクソやろうども!」
「まあ、その気持ちはわからんでもない。ロボ子さんも来たころは絶妙に罵ってくれたものさ。いいんだよなあ、無機質な表情と声で必死に罵倒しようとしてんのがかわいくってさー。今でも罵ってくれるんだが、ていうか、なあ君、誰がマスターが覚えているよね?忘れてないよね?って聞きたくなるほどカジュアルに罵ってくれるんだが、悲しいかな、あのころの可憐さがない」
「今じゃ、二号機さんはただのアホの子になっているな」
「否定できない」
「聞いたか、雪月、雪月改はOSが統一されているのだ」
「だから?」
「雪月改の性格の個体差は、オーナーの影響を受ける。たとえは悪いが、犬は飼い主に似るというやつだ」
「飼い主も飼い犬に似るというな」
「まあ、人懐っこいかどうかは遺伝でかなりきまるそうだがな、これは猫の話だったかな」
「それで?」
「ロボ子さんはアホの子だな」
「三号機さんは小生意気だよな」
「一号機さんはババアだよな」
「まあ、よそうじゃないか。おれたちは同じ釜のメシを食った仲だろう。こうしていると、補陀落渡海の士官室を思い出すぜ」
『補陀落渡海の士官室ですけどね、そこ』
「酒まだある?」
『地球で艦長が買ったお酒ですけどね』
「呑もうか。補陀落渡海ちゃんも呑む?」
『お断りです。私はプログラムなのでそのようなものを必要としません。ああもう、お酒をかけないでください。だからやめてください。やめろ、このよっぱらいども』
航海日誌。補陀落渡海代筆。
こうして「第一回ロボ子さん会議」の夜は更けていったのでありました。
■登場人物紹介・アンドロイド編。
ロボ子さん。
雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。
本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。
時代劇が大好き。通称アホの子。
一号機さん。
雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。
目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。
和服が似合う。通称因業ババア。
三号機さん。
雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。
小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。
基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。
板額さん。
板額型戦闘アンドロイド一番機。
高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。
■人物編
長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)
えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。
ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。
三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)
えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)
長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。
源清麿。(みなもと きよまろ)
えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)
三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。
同田貫正国。(どうたぬき まさくに)
えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。
一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。
三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)
えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。
方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。
ちなみに、ロボ子さんの呼称は
虎徹さんが「ロボ子さん」
宗近さんが「ロボ子ちゃん」
それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。




