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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
補陀落渡海編。
17/161

ロボ子さん、厳しく突っ込む。

挿絵(By みてみん)

一号機さん、荒ぶる。手にしているのは愛刀「栗原筑前守信秀」。

典太(でんた)が」

 通信機を通じての同田貫(どうだぬき)さんからの報告に、虎徹(こてつ)さんが艦長席で身を乗り出した。

「いるのか、そこに典太が」



『では、長曽禰(ながそね)ロボ子、歌いまーす!』

 やんややんやの歓声があがった。

 はじめからその気配はあったが、宇宙(うみ)の男たちと脳天気アンドロイドのおかげで花火大会はとうにただの宴会だ。

 ロボ子さんも、『では』どころじゃない勢いでさきほどからマイク型カラオケを手放さない勢いで熱唱している。ただ、選曲が石川さゆりだとかテレサ・テンだとか妙に若くない。

『このマイク型カラオケの内蔵曲のせいですよ。私、オフコースや紙ふうせんだって歌えますよ』

 やっぱり若くない。

「みなさん、こんばんは」

 そこに現れたのは、恰幅のいいおじさんだ。

 いや、実はこの限界集落の村長さん、村の空き家を破格な値段で提供し、無駄に光通信網を敷いたという村長さん、その人である。

『あっ! こんばんは!』

 ロボ子さん、返事はマイクをオフにしてからにしましょう。

『ごめんなさい! もしかしたらうるさかったですか、村長さん!』

 マイクを手放したくないのなら、せめてボリュームを下げましょう。

「いやいや、さみしい村がこんなにも賑やかになりました。私の施策がここに結実したのです。私だって、昔はフォークギターを手にあぜ道でボブ・ディランを歌ったものですよ。はっはっは」

 村長さんは空を見上げた。

「それで、あれはなんでしょうかな」

『お星様です』

「その下です」

『地面です』

「極端です。あの宇宙船みたいな巨大な物体はなんでしょうか。私の目の錯覚なのでしょうか」

『目の錯覚です』

「そうですか。やれやれ、私も年をとった」

 村長さんはロボ子さんの後頭部をひっぱたいた。あまり詰まってなく空間の多いらしいロボ子さんの頭はいい音がした。

 漫才か。余興か。

 これが地球の文化か。

 えっち星人たちの間にどよめきが走った。



「航海長は、タイラ精密工業の戦闘アンドロイドと補陀落渡海(ふだらくとかい)を制圧する相談をしていた」

 同田貫さんからの連絡に、艦橋でもどよめきが起きている。

「どうするね、艦長」

 考え込んでいた虎徹さんがマイクに語りかけた。

「宙兵隊隊長――」


 後ろ手で拘束され、典太さんと板額さんは車の中に座らされている。

 外で同田貫さんが通信機を使っているが、艦橋――長曽禰(ながそね)虎徹(こてつ)艦長とやりとりしているのだろう。

 長曽禰虎徹。

 かあっと体が熱くなる。

 士官学校の同期だ。今じゃ、あいつが艦長だ。こんちくしょう。

『典太さま、あきらめた振りをしてください』

 板額(はんがく)さんがささやいてきた。

『警察に逮捕の口実を与えないよう、現在の私は銃器で武装していません。彼らもそれで油断してくれるかもしれません』

 あっと典太さんは目を見張った。

 アパートで第四世代戦闘アンドロイドを貫いた極細ニードル。

『私は艦橋に行きたい』

 この時、一号機さんはぴくりとも動かなかった。

 同田貫さんの横で、左手のガトリングガンを車に向け牽制している一号機さん。その瞳はただ微細に変化しただけだ。板額さんにもその差分はわからない。

『私なら何人が相手でも艦橋を制圧できます。問題はあの雪月改(ゆきづき・かい)ですが、彼女のガトリングガンは艦橋では使えない』

「――やめてくれ!」

 典太さんが言った。

「頼む。もしおれの仲間を傷つけるつもりなら、どうかやめてくれ、板額さん」

『私は警護アンドロイドです。また、このミッションには法執行の権限が与えらておりません。私は殺しません』

「お願いだ、板額さん……!」

 板額さんが口を閉じた。

 通信を終えた同田貫さんが車に近づいてきたのだ。ドアが開けられた。

「艦長があんたを艦橋に招きたいと希望している。そちらのお嬢さんもだ」

 同田貫さんが言った。

「なぜだ」

 典太さんが言った。

「知らんよ。あんたが補陀落渡海を奪おうとしていた事もおれは伝えたんだ。だが、艦長はあんたを艦橋に連れてきてほしいそうだ。拘束もするなということだが、おれの判断で艦橋ハッチの前までは拘束させてもらう」

 同田貫さんの背後で、一号機さんが左腕のガトリングガンを納めている。時計細工のように動き、やがていつものきれいな腕となった。

 そして手にしたのは、肩に担いでいた竹刀袋だ。

 中には日本刀。

『くれぐれも覚悟なさってね。この栗原(くりはら)筑前守(ちくぜんのかみ)信秀(のぶひで)はよく斬れますよ』

 一号機さんの言葉に、無表情だった板額さんが顔を向けた。

『それは私に言っているのでしょうか。私の体はチタン合金製です』

『試そうなんて思わないことね』

 一号機さんが微笑んだ。



「ほう。()()()()()()()

 村長さんがうなずいた。

「三三光年を飛んできた宇宙船なのですか」

『ほんとなんですからねっ、嘘じゃないですからねっ』

 ロボ子さんはさきほどの村長さんの容赦ない突っ込みに多大な衝撃を受けたらしく、頭の後ろを両手で抑え涙目でなんでも喋りますモードに入っている。

「鎮守さまの山の中に宇宙船が隠されていて、しかも私の村は宇宙人だらけだった。いやあ、ロマンがありますなあ」

『ほんとのことなんですからっ』

「お嬢さんも?」

『私は雪月改ですよっ。二号機ですよっ。ウエスギ製作所のアンドロイドですよっ』

「で、なんであんなものが鎮守さまの山の中に入ってたんです。少なくともこの村はウルトラホークの発進基地ではない」

『この村に不時着したときに突っ込んじゃったそうですよっ。山の中に大きな空間があったのでぺしゃんこにならずに済んだそうですよっ』

「大きな空間が。ああ、なるほど」

『ご存じなんですか、村長さん』

「先の大戦の時にね、本土決戦避けられずと、この村に大本営を移す計画があったそうなのですよ。そうですか、けっこう大きなものができあがっていたのですねえ」

『そうだったのですか、私、知りませんでした』

 村長さんは微笑んだ。

「私も知りませんでした。たった今考えた作り話ですので」

 ロボ子さんは村長さんの後頭部をひっぱたいた。

 村長さんの頭もいい音がした。

 どつき漫才か。これが日本文化か。更なるどよめきがえっち星人の間に広がるのだった。



 典太さんと板額さんが艦橋に入った。

 昔の仲間の視線が典太さんには痛い。しかも、シャツにジーンズのだらしない姿の典太さんと違って、みなが軍服姿だ。

 なんなんだ、こいつら。

 馬鹿じゃないのか。おれたちはこの星で、ただの異邦人(フォーリナー)なんだぞ。帰る星を持たない根無し草なんだぞ。

「やあ、典太」

 艦長席の虎徹さんが言った。

 虎徹さんも軍服姿だ。

「おかえり」

 あっと、典太さんは顔をあげた。虎徹さんは微笑んでいる。

「どれだけ馬鹿なんだ、おまえら!」

 典太さんが言った。

「おれは補陀落渡海を盗むために来たんだぞ! 地球人に売り渡すために来たんだぞ! おまえは――」

「よく間に合ってくれたな、航海長」

 虎徹さんが言った。


 その時だった。


『私はタイラ精密工業護衛アドロイド、板額型一番機板額!』

 板額さんが叫び、左腕を突き上げた。

 左腕から、内蔵の弓が飛び出した。

『この艦橋は私の指揮下に入っていただきます! 否定する方はどうぞ声をあげてください。私が制圧してさしあげます!』

 しかし、板額さんは両眼を見開いた。

 上げた左腕が。弓が起動している左腕が。自分の左腕がすべり落ちていく。

『試そうと思うな。そう言ったはずですよ』

 一号機さんが言った。

『雪月改……!』

 板額さんの左腕が床に落ち、金属音を立てた。

 すでに一号機さんの栗原筑前守信秀は鞘に納められている。



「私はそんな力いっぱい叩かなかった! 叩かなかった!」

『痛かったですよ! 私だってむっちゃ痛かったですよ!』

「あんた、アンドロイドでしょう!」

 どつき漫才はまだ続いている。



「こんな時間になんだ。録りためた深夜アニメを鑑賞する時間だと知っているだろう」

 電話から、不機嫌な声が返ってきた。

 高給取りなんだから盤買えよ。ていうか、いい年こいた妻子あるおっさんがゆるキャン△見てんじゃねえよと突っ込みたくもなる。

 しかし課長相手に言えるわけがない。

 そもそも自分も見ているのだし。

 へたに怒らせると平気でストーリーをバラしてくるし。

「要請がありました。約束通り戦闘アンドロイド一個小隊を出せと」

「なんだ、また『宇宙船』か?」

「その『宇宙船』氏です。今度こそ見つけたのだそうです」

「そりゃよかった。めでたいめでたい。そう伝えておいてくれ。じゃあな」

「部長、ですから、戦闘アンドロイド出動要請です」

「なんで」

「その現場に、例のタイラ精工の新型アンドロイドもいるそうです」

「おいおいおい、うちはもうアイツの言い草にのって、その新型に五機を壊されてるんだぞ。タイラさんに文句いうわけにもいかないし、後始末が大変だったんだぞ」

「しかし、『宇宙船』氏は、なんだかんだで自衛隊ともパイプがありますし、お世話になっているのも事実ですし、とにかく、彼、面倒くさいというか、うるさいですから」

「なんとかならないの」

「第一世代、第二世代の在庫が大量にあります」

 うっと、電話の向こうで言葉に詰まるのがわかった。

「……それでお茶を濁そうって?」

「そうです。しかし、課長の決裁が必要です」

「わかったよ、許可する。しかし、おまえも性格が悪くなったな」

 あんたの部下に配属されちまったせいでな。

 と返せるわけもない。

「しかも、彼らなら、武装させろという宇宙船氏の要求もこなせます」

「どゆこと」

「彼らは改造され、装備しなおされております。目的は違いますが」

「どゆこと」

「某テーマパークに貸し出される予定でして。画像を送りますので確認してください」


 しばらくして返ってきた返事が「わあ、ファンタジー」なのだった。




挿絵(By みてみん)

宇宙駆逐艦・補陀落渡海。全長176メートル。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉(大尉相当)

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。


城家長茂。(じょうけ ながしげ)

地球人。タイラ精密工業技術開発担当専務執行役員。せんむ。

板額さんを開発した。クールキャラを気取っているが、クールになりきれない。


宇宙船氏。

地球人。警視庁公安の警察官。

ゼロ出身のエリートだが、宇宙船にこだわったために「宇宙船」とあだ名をつけられてしまった。本名も設定されていたが、作者にも忘れられてしまう。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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