城家専務の憂鬱。
秋葉原クリエイティ部のみなさんによるボイスドラマ版ロボ子さんです。
ロボ子さんがかわいい!
【声小説】ロボ子さんといっしょ。#1 『ロボ子さん、やって来る。』
https://www.youtube.com/watch?v=KIUl9cy5KOk
【声小説】ロボ子さんといっしょ。#2 『ロボ子さん、問い詰める。』
https://www.youtube.com/watch?v=Z-p62vz-x4Q
【声小説】ロボ子さんといっしょ。#3 『ロボ子さん、求婚される。』
https://www.youtube.com/watch?v=KwDrMReU_Bw
私は、城家長茂。
板額型アンドロイドを生んだタイラ精密工業の専務である。
例によってこれを書くにあたって、中の人に名前を忘れられていたようだが、それはいい。
おかげさまで、板額型一番機板額は、恒星間を旅した地球初のアンドロイドという栄誉を得た。地球答礼使節団の護衛を拝命し、えっち星へと渡ったのだ。それにより板額および板額型は地球でもっとも有名なアンドロイドになり、問い合わせや引き合いが殺到している。有り難いことだ。
打倒ウエスギ製作所、打倒雪月改、打倒神無。
私の夢は世界一、宇宙一のアンドロイドを作ることなのだ。
いつか雪月改を越えるアンドロイドを作るのだ。
(ちなみに城家専務さんは、その雪月改と神無がはた迷惑なアンドロイドに育っていることをどうやら知らない)
しかし、良いことばかりではない。
引き合いが殺到し、レンタルの相談が引きを切らないのは有り難い。ちなみに板額型の仕事は護衛任務なので、その案件ごとのレンタルが基本だ。
ただ、それで実際に貸しに出されるのは二番機巴だけなのだ。
フル稼働しているといっていい。
一番機板額、三番機誾千代のスタッフが整備管理の助っ人に借り出されるほどの状態だ。
つまり。
板額と誾千代は暇なのだ。
板額は名目上日本政府によって長期レンタルされ、えっち星領事館の警備担当をしている。一年更新でたいへん契約内容もよい。だがどうやら、怖ろしく暇らしい。暇すぎて、なにやら女子高生しているらしい。
誾千代は性格に難がある。
例えていえば、警視庁公安ゼロ出身のエリートでありながら所轄刑事課に飛ばされやさぐれてしまった警部補的な中年といったやっかい極まる男を、その夜のうちに忠実な下僕にしてしまうような、そんなアンドロイドだ。
生粋のサド。
はっきり言おう。女王さまなのだ。
基本的には引き合いがあっても断る。
基礎研究用、板額や巴のバックアップ用の機体だ。
しかし巴がすでに出払っていて、どうしてもと強く望まれ、弊社社長や常務の脅迫に近い哀願と泣き叫ぶ騒乱に圧迫されれば、誾千代を出すしかない。そしてどういうわけか多くの場合で誾千代のレンタルは延長され、なにやらしばらく戻って来ないことになる。
考えてみれば、それもまた経営的にはありだろうか。
いや、よこしまだ。不道徳だ。板額型の使用目的としてあってはならんのだ。
とにかく、板額型四番機の完成は喫緊の課題なのである。
四番機もガワだけはできている。
もちろん、基本は一番機板額のままなので、ガワだけなら何機でも作れる。
問題は、四・五世代アンドロイド。自立した感情と判断力を持つ第四世代から更に進んだ、人間らしいアンドロイド。その魂を吹き込む作業なのだ。
四・五世代アンドロイドに関してはウエスギ製作所が世界のトップを走っている。
打倒ウエスギ製作所、打倒雪月改、打倒神無。
私の夢は世界一、宇宙|(略)。
そういうわけで私と私のスタッフは、現在、四番機のOSを作ることに没頭している。
三番機までのOSの長所と短所の洗い出し、そして要望を集めている。
しかし。
四・五世代アンドロイドというものは、人間を生み出すようなものだ。
少なくとも人格は人間そのものだ。
それはおれに許されることなのか。時に怖ろしくもなる。そして、時に鬱陶しいと思う。いい加減にしろよおまえらと叱りつけたくもなってくる。
なあ、おまえら。
しれっと社員装って、自分で要望のメールをあげてくるんじゃねえよ、板額に誾千代。そしてもしかしたら巴、おまえまで!
「お小遣いください」
おまえ、板額だろ。
社内メールをデコだらけにするんじゃないよ。読みにくいんだよ。ていうか、おまえは何を言っているんだ。
「通りすがりの社員より。一番機板額にお小遣いをあげてやってください」
小賢しい知恵つけてるんじゃねえよ、板額。
「だって、領事館は田舎過ぎてバイトするところないんです。十四夜亭のスイーツ美味しいんです。典太さんや郷宙尉補の奢りじゃなく、自分でお金を払って食べたいんです。専務も十四夜亭のスイーツを召し上がってみてください。私の気持ちがきっとわかります。もう、一日中ハッピーハッピー」
ハッピーハッピーじゃねえよ。もう隠す気ないのかよ、板額。
ていうか、護衛型アンドロイドがバイトするなよ。「よろこんでー」とか「バーガーセットはいりましたー」とかやるのかよ、板額型一番機のおまえが。お父さん、想像して泣けちゃうよ。
「指にドリルをつけたい」
何に使うんだよ、誾千代。
「舌を長くしてほしい」
全年齢対象をわきまえろよ、誾千代。
「まともな姉妹が欲しい」
巴か、おまえ、巴だな。
魂の叫びだな。ごめんな、巴。
「壁ドンすると壁を破壊して腕が突き抜けてしまうのですが、どうにかなりませんか」
まず、おまえの乙女脳をどうにかしろよ、板額。
ていうか、ふつうに力加減しろよ。いや、そうか。乙女回路が振り切れて、加減しようにも出力MAXで壁ドンしちゃうんだな、板額。不憫な子だ。
「こんばんまして」
だれだよ。
「板額さんがリアルなゲロ吐いてるところを見たいです」
見たくねえよ。
ていうか、ほんと誰なんだよ。
「板額型にたまご変化やピラミッド変化できますか。できますか、できますか。ぷーくすくす! できますか! 先輩にもできませんよね! ぷーくすくす! ぶたないでください、先輩。ぷーくすくす!」
イラッときた。
なに、この人をイラッとさせる天才。
「遅刻遅刻~とパンくわえて走ってみたいのですが、角でだれかとぶつかったときに、私だと相手を死なせてしまうかもしれません。どうしたらよいでしょう」
だから、おまえは何を言っているんだ、板額。
まあ、実はガワだけじゃなく、できあがってはいるんだ。
ただ、その事実を認めたくないだけなのだ。
四号機の性格が、すでに修正不可能なほど個性的になってしまったことを。またしても個性的過ぎてしまったことを。
『わたぁくしぃ、四番機直虎はー! ここにー、力の限りすべての皆様をーお護りしますことをー、お誓い申し上げまぁす!』
いや、直虎な。
そんな、どこかの新入生みたいなしゃべり方しなくていいんだぞ。
『まーすたあーー! まああーすたああーー!』
はいはい、マスターですよ。
おれが君のマスターですよ。
そんな腹式呼吸で呼ばなくても、君のマスターはここにいますよ。
ここは舞台の大階段なわけでもないのだから、ふつうに喋りましょうね。身振り手振りもいりませんからね。
『ああっ、わたくし、直虎は、直虎はあーーああーー~~愛は~~』
歌い出さなくていい。
踊り出さなくてもいい。頼むからふつうに喋ってくれ、直虎。
「造り直そうか、やっぱり……」
「これはこれで面白いですよ、専務」
「おれは、面白いアンドロイドを作りたいわけじゃないんだ……」
私は、城家長茂。
板額型アンドロイドを生んだタイラ精密工業の専務である。
今日も雪月改や神無を越える自然な人格のアンドロイドを作るため、奮闘している(そもそもその認識が間違っているのを、城家専務さんはわかっていない)。
もしかして、巴のOSで量産すればいいだけなんじゃないのか?
たまにそんな悪魔の囁きも聞こえてくるが、しかし私は諦めない。私はたくさん娘がほしいのだ。いっぱい娘がほしいのだ。
私は、城家長茂。
※大階段:一般的には(そうなのか?)某歌劇団の舞台に設置されている階段を指す。
■登場人物紹介。
城家長茂。(じょうけ ながしげ)
地球人。タイラ精密工業技術開発担当専務執行役員。せんむ。
板額さんを開発した。クールキャラを気取っているが、クールになりきれない。
板額さん。
板額型戦闘アンドロイド一番機。
高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。
巴さん。
板額型戦闘アンドロイド二番機。
極端な性格になりやすい板額型の良心。ただ、雪月改や同じ板額型の暴走に振り回されてしまう。
誾千代さん。
板額型戦闘アンドロイド三番機。
乙女になりすぎた板額さんの反省で生まれた、生粋のサド。ただ戦闘能力だけはそれに見合って高いようだ。
ロボ子さん。
雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。
本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。
時代劇が大好き。通称アホの子。
神無さん。
雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。
雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。
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