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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
十四夜亭にようこそ!
155/161

キャベツ畑でつかまえて。⑨

挿絵(By みてみん)


秋葉原クリエイティ部さんによるボイスドラマ版です。ロボ子さんがかわいい!

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#1 『ロボ子さん、やって来る。』

https://www.youtube.com/watch?v=KIUl9cy5KOk

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#2 『ロボ子さん、問い詰める。』

https://www.youtube.com/watch?v=Z-p62vz-x4Q

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#3 『ロボ子さん、求婚される。』

https://www.youtube.com/watch?v=KwDrMReU_Bw


 広い、広い、キャベツ畑だ。

 真っ青な空の下、ただキャベツ畑が一面に広がっている。


 その真ん中――真ん中なのかこれでも端っこなのか定かではないが、とにかく四方をキャベツ畑に囲まれ、大きなテーブルが置かれている。

「なんだ、こりゃ」

 そのテーブルに両肘をつき、手を口の前で結び、脂汗をにじませた顔でつぶやいたのは虎徹(こてつ)さんだ。

「おれたちは、十四夜亭(じゅうよやてい)に招き入れられたんだよな。それがどうしてここにいる? ていうか、ここはどこだ?」

 虎徹さんは隣に座るロボ子さんに視線を向けた。

『それ、私に分析しろということですか?』

 ロボ子さんが言った。

「できるならば」

『大気成分、窒素八〇%、酸素二〇%。地球と同じです。気温二二度。湿度四七%。日光のスペクトルも地球のものとほぼ一致』

「なあ、ロボ子さん」

 虎徹さんが言った。

「どうしてそこから入るの?」

『だって、マスターもそれに気づいたから、私に分析させたんでしょう?』

 ロボ子さんが言った。


『ここは地球ではありません。驚くほど似ていますが、別の星です』


 神無(かむな)さんが素っ頓狂な声を上げた。

『えええええーー! うそ、ほんとうにーー!?』

『後輩。先輩としてときどきあなたが心配になります。本当に雪月改(ゆきづき・かい)の上位機種なんでしょうね。GPSが機能していません。違和感がないようで、植生が地球のものではありません』

『いやです! アホの子の先輩に戻ってください!』

『後輩。正確な質量がわかっているあなたの身体で、重力加速度も計測してみましょうか。身体が軽いとか重いとかもありませんから、ほぼ一致しているのは間違いありませんが』

「それで」

 と、虎徹さんが言った。

「ロボ子さんは、ここをどこだと思う?」

『えっち星だと思います』

 あっさりとロボ子さんが答えた。

 虎徹さん、今度は、先ほどからひとことも口にせず腕を組んでいるお兄さんに視線を向けた。

「二号機さんに同意する」

 うなずいて、お兄さんが言った。

「ここまで地球に近い惑星は、私が知る限りで、われわれの本星だ。そして、このキャベツがそれを証明している。これは私と弟が十四夜亭で食べたキャベツだ。地球のものではない」

 きょとんとしている神無さんを除き、三人は顔を合わせ、そしてテーブルの横に立つ加州清光(かしゅう きよみつ)さんを見上げた。

 いつものラフな格好ではない。

 パリッとしたシャツに蝶ネクタイだ。


「十四夜亭にようこそ」

 芝居がかった動きで、清光さんが言った。


「無茶言うな」

『無茶言わないでください』

「無茶ではないだろうか」

『今日のケーキはなんですか』

 ひとりだけ異質なコメントをした者がいるが、とりあえず全員が同時に突っ込んだ。

「とはいっても、正真正銘、ここは十四夜亭なんだ。あんたたちもドアを通って店に入っただろう?」

 肩をすくめる清光さんだ。

「えっち星だろ、こりゃ!」

 テーブルを人差し指でトントンと叩き、虎徹さんが言った。

「試してみたら?」

 ニヤニヤ笑いながら清光さんが言った。

 虎徹さんは椅子から立ち上がり清光さんを睨み付けた。そして雄叫びを上げるとあぜ道を走り始めた。その後ろ姿を眺めていた清光さん、視線をロボ子さんに向けた。

「どうやら、君は気づいているようだ」

『……』

 ロボ子さん、警戒するように上目遣いだ。

『ここがえっち星だとすると、疑問も残ります。GPSが機能していないと言いましたが、実は、どの電波も届いていません。こんな見晴らしのいい場所で、地球やえっち星ほど文明が進んだ星で、あり得ないことだと思います。遠景がないのもおかしいです。はじめは霞んでいるだけかなと思いましたが、どのカメラで試しても、ここには遠景が存在していないのです』

「うむ?」

 お兄さんがあごに手を当てた。

 ロボ子さんの発言を検討しているようだ。

「まあね」

 清光さんが言った。

「おれも初めてここに来たときには、いろいろ試したんだ。好奇心でさ。今の虎徹くんのように走ってもみた。そして」

 にんまりと、清光さんは笑った。

 一度は遠ざかっていった、うおおおお!という虎徹さんの雄叫びがまた聞こえてきた。しかし、走っていった方向とは逆の方からだ。

「こうなる」

 虎徹さんはテーブルにたどり着き、両手をついてぜえぜえと肩で息をしている。

『わあ、マスター。円を描いて走ってきたんですか? 私たちを驚かせるために』

 手をぱちぱちと叩きながら、神無さんが言った。

「まっすぐ、走って、きた」

 どかっと椅子に座り、虎徹さんが言った。

 ロボ子さん、お兄さん、神無さんの三人は顔を合わせた。

「そう言うことなんだ」

 清光さんが言った。

「たしかにここは、おれたちの本星のキャベツ畑のように見える。実際そうなのだろう。でも、それだけじゃない。ここは、十四夜亭という場で、空間なんだ。外はない。もうひとつ。十四夜亭の姿はこれだけじゃない。迎える常連さんによって、様々に姿を変える。もちろん、あの古民家のままの時もある。それが、十四夜亭だ」

『コントロールできるのですか?』

 ロボ子さんが言った。

「できない」

 苦笑交じりに清光さんが言った

「きっと魔女か神さまが遊んでいるんだ。十四夜亭という箱庭をつくって楽しんでいるのさ。おれと野良ちゃんは、それに翻弄されるだけだ。でも少しずつ法則とか前兆とかがわかってきて、対応できるようにはなっている。今日のようにね」

「今日?」

 虎徹さんが言った。

 まだ息が荒い。

興正(おきまさ)宙尉のいう通り、あんたたち二人に食べさせたキャベツ煮は、地球のものじゃない。ここで収穫されたものだ。ふつう、あそこまでデロデロになっていればわからないと思うんだが、さすがですね」

「お、おれも気づいてたしー」

 虎徹さん、口とんがらかせて胸を反らした。

『ウソつけ』

『ウソつけ』

 同時に突っ込むロボ二人だ。

『マスターは正真正銘の馬鹿舌なんです。自覚してください』

 とどめの一撃。

 虎徹さん、胸を反らしきって口笛をぴーぴー吹いている。

「ここんとこ、このキャベツ畑のビジョンがチラチラ見えてたからね。あんたら兄弟のおかげでキャベツの在庫も切れかかっていたし。そろそろだろうとは思っていたんだ。それで繋がったときに、ここの主さんと話して、あんたたちの同席を許して貰ったのさ。ここの主さんには、キャベツを自由に使わせて貰うかわりに、野良ちゃんによる様々なキャベツ料理を楽しんでもらっているんだ。それをあんたら兄弟にも食べてもらおうと思ってね。この畑のど真ん中でさ」

 そして清光さんは、くっくと笑った。

「しかしこっちも驚いたぜ。外に潜んでいるのはわかっていたあんたらを店に招待しようとドア開けたら、アンドロイド二機含めて四人で殴り合いしてるんだからな」

「それは、弟と二号機さんたちが、私の要望を曲解したのだ」

 ぶすっとした顔でお兄さんが言った。

「なあ、清光」

 と、両手を頭の後ろに組んだ虎徹さんが言った。

「なんだ?」

「おれにはさ、この不思議も、そいつを平気で受け入れているおまえのこともよくわからん。まあ、あれか。この村で店を開いたのは、こいつのせいなんだな。それだけはわかった。それでさ、清光、おれは思うんだが」

「……」

 清光さんは虎徹さんの次の言葉を待っている。

 ロボ子さんも少し緊張した。

「おれにはおまえが、なんだか楽しくやっているように見える。それでいいか?」

 虎徹さんが言った。

「ああ、それでいいぜ、虎徹」

 清光さんが嬉しそうに笑った。

「何が起きるかわからん。相棒なんか、おれに隠れてとんでもないペット飼ってたりするんだ。飽きない。わくわくしているんだ。このおれがさ、ガキのように毎日を楽しんでるんだ」

 清光さんの言葉に、虎徹さんもくしゃっと嬉しそうに笑った。

「そうか、そいつはよかった」

「うん」

 二人の間になにがあったのか知っているロボ子さんは、少しうるっときた。

 お兄さんはそもそもこの不可思議現象に納得いかず、ぶすっと腕を組んでいる。

 そして例によって、神無さんは無邪気に笑っている。

 そういえば神無さんもこの二人の関わりは知っている筈だ。でもおかまいなし。知ったこっちゃない。それが神無さんクオリティ。そして疾風怒濤神無さんは言ったのだった。


『おなか空きましたー。それで、なにを食べさせてくれるんですかー』


 いつものことだが、なぜアンドロイドに空腹の概念があるのだろう。

「常連さんの家のキッチンを借りて、野良ちゃんが腕を振るってくれている筈だ。そろそろかな。ああ来た」

 清光さんの視線の方向に顔を向けた虎徹さんとお兄さん。

 あっと弾かれたように立ち上がった。


 大きなワゴンを押す野良雪月さん。

 そして、あれがこの畑の主で常連さんなのだろう、姿勢のいい老人があぜ道を歩いてくる。


 虎徹さんとお兄さんは直立不動で、なぜか敬礼までしている。


「生きてたのかよ、じいさん……」

 虎徹さんがつぶやいた。


■登場人物紹介・十四夜亭編。

加洲清光。(かしゅう きよみつ)

店主。えっち星人。

宙軍士官学校では虎徹さんや典太さんと同期。密航者として、補陀落渡海の航海に匹敵するほどタイムジャンプを繰り返していたので、虎徹さんたちと同い年のままのように見える。


野良ロボ子さん。

料理担当。アンドロイド、モデル雪月。

前のマスターである「おばあちゃん」の記憶を消されるのが嫌で野良になった雪月。ただし、記憶だけは引き継いでいるが、今の体は二代目。生まれたてのアンドロイドと同じように初々しいしゃべり方をする。


鉄太郎。(てつたろう)

黒柴。十四夜亭で飼われている犬。

人懐っこすぎて、番犬としては意味をなさない。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。愛刀は栗原筑前守信秀。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


■人類編。

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(艦長なので中佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

えっち星人。宇宙巡行戦艦・不撓不屈所属の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その唐変木ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡行戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行による外宇宙航行艦(ただし、事故で亜光速航行ユニットを失っている)。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。

なお、メインコンピューターも補陀落渡海と呼ばれ、ロボ子さんの友人でもある。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。地球名は「ドーントレス」にしたかったとも言う。

現在は地球衛星軌道を回っている。


タイムジャンプ。

亜光速による恒星間航行技術。

亜光速にまで加速するので、その宇宙船と乗員にとっての時間の流れは遅くなる。補陀落渡海は三五光年を四五年かけて移動したが、船内時間では二年と少しだった。

それをタイムマシン、時間旅行になぞらえて、タイムジャンプ航法と俗称する。

ちなみに、その用語を使っているSFは『闇の左手』しか知らないのですが、他にもありますかね。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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