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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
補陀落渡海編。
15/161

三号機さん、衝撃を受ける。

挿絵(By みてみん)

「中小企業ならその池で満足しておけ。むやみに大海を夢見て飛び跳ねんことだ」

 長曽禰(ながそね)家の食事室。

「理解した」

 虎徹(こてつ)さんの話を聞き終え、ぐいっとロボ子さんお手製のドクダミ茶を飲み干したのは超売れっ子作家、(みなもと)清麿(きよまろ)さんだ。

「私も、艦長のそのプランが妥当であるように思う」

 ソウルネーム源清麿さん。

 補陀落渡海(ふだらくとかい)副長相当砲雷長だ。


 長曽禰家の食事室のテーブルは、一〇人は余裕を持って座ることができる大きなものだ。そのテーブルを小さく見せる巨体で腕を組んでいるのは武道派ヤクザ同田貫(どうたぬき)組の組長さんだ。

「ひとつ気になるのは、艦長と機関長も補陀落渡海と一緒に行くつもりなのではないだろうな」

 ソウルネーム同田貫(どうたぬき)正国(まさくに)さん。

 同じく補陀落渡海宙兵隊隊長だ。


「それはない」

 補陀落渡海艦長虎徹(こてつ)さんが言った。

「実は、考えた。考えたが、それでは計画が漏れたときに収拾がつかなくなる恐れがある。現に、うちでもロボ子さんがついていくと言い出した。君たちもそう言い出しかねない。そうだろう、砲雷長、宙兵隊隊長」

「これは補陀落渡海の望みでもあるんだ」

 補陀落渡海機関長宗近(むねちか)さんが言った。

「間違いなく、ぼくらの方が補陀落渡海より先に死ぬ。それを看取って過ごす未来はごめんだってさ」


 宇宙駆逐艦補陀落渡海上級士官がずらりと揃っている。


「あいつも人間くさいことを言うようになった」

 同田貫さんが言った。

「ところで、ロボ子さんというのは?」

 清麿さんが言った。

雪月改(ゆきづき・かい)二号機、長曽禰ロボ子。私です』

 はい、と手を上げ、ロボ子さんが言った。

 一号機さん、三号機さんは自分のマスターの横に座る中で、ロボ子さんは給仕に忙しい。

「艦長、あんた、雪月改にそんな名前をつけたのか……」

「ほっとけ」

「高性能なのだぞ。超高性能なのだぞ」

「ロボ子さんと同じ事を言うな。それより副長相当砲雷長、自分の事を気にしろよ。おまえ、三号機さんに自分の正体を言ってなかったのか」

 清麿さんは隣に座る三号機さんを見た。

 その猫のような瞳を見開き、ぴくりとも動かない。

「私の天使……」

『マスター、宇宙人さんだったのですか。ほんとうなのですか。面倒くさい人だとは思ってましたが、そうだったのですか。どうして一号機さんと二号機さんは平然としているんですか。知っていたのですか、知らなかったのは私だけだったのですか』

「あれ」

 と、同田貫さんも自分の隣に座る一号機さんを見た。一号機さんは悠然と盃の高級オイルを舐めている。

『私の地獄耳と千里眼をご存じでしょう。知ってましたよ』

 一号機さんが言った。

『もちろん、二号機さんのマスターさんと三号機さんのマスターさんが宇宙人だというのも先刻承知です。二号機さんに宇宙人だと知られたときのお二人は面白かったですねえ』

 い、因業ババアだ……!

 因業ババアがいる……!

『三号機さんには注意喚起したのですけど、結局自分でつきとめることができませんでしたか。残念ね』

 因業ババア……!

「すまなかった、一号機さん」

 椅子から床に降り、同田貫さんが土下座した。

「隠していた。騙していたわけじゃないが、確かに隠していた。おれは宇宙人です。嫌だというのなら出ていって貰って構わない。あとの事はできる限りの誠意を尽くしたい」

『あら』

 と、一号機さんは言ったものだ。

『私に出ていって欲しいんですか』

「それは!」

 同田貫さんは顔を上げた。

 盃を手に、一号機さんは優しく微笑んでいる。

「できれば、一緒にいて欲しい……」

『一緒にいます』

「もし、宇宙人が嫌でないのなら……」

『嫌じゃありません』

「おれは、一号機さんと、この先もずっと過ごしたい……」

『私もです、マスター』

 同田貫さんは泣いた。

 男泣きに泣いた。

 その隣では、清麿さんが三号機さんの肩を抱いて口説いている。いや、説明している。

「驚かせてすまなかった、私の天使。そんなことは私たち二人の前ではたいして重要なことではないと思ったのだ」

『これが重要じゃないというなら、なにが重要なことなのです、マスター』

「君が、私の素敵な天使だということだ」

 三号機さんは、はっと目を丸め、くしゃっと泣いているような顔になった。三号機さんも表情が豊かになってきたようだ。

『マスターみたいな面倒くさい人、嫌いです。大ッ嫌いです』

「帰ろうか、私の天使。私たちの小さなお城に。君が許してくれるまで薔薇の花を切ろう。花ひとつに百の謝罪の言葉を添えよう」

『バカバカ! バカっ!』

 ロボ子さんは、そんな二組の雪月改とそのマスターをじっと見ている。

 虎徹さんと宗近さんは正直居心地が悪い。

「あ。あの、ロボ子さん」

 と、虎徹さん。

『はい』

「ええとですね、ロボ子ちゃん」

 と、宗近さん。

『はい、ロボ子さんはとても期待してます』

 ガッツポーズを作り、虎徹さんが言った。

「今度お金が入ったら、新しいセーラー服を買ってあげよう!」

『その台詞とその笑顔、私、リカバリされても忘れませんから』

 ロボ子さんが言った。



 結局、同田貫さんと清麿さんたちは夜にまた出直してくることになった。

「うちには三〇人の宙兵隊隊員がいる。二号機さんが気を悪くしなければいいんだが、花火と料理をこちらでも用意したい」

 どうやら思ったより大きな宴会になりそうだ。

『三〇人分じゃ、きっと足りませんよ、マスター』

 一号機さんが言った。

 !?

 全員がダンスっちまったんだよ状態で頭の上に「!?」を浮かべている。

「それはつまり……」

 と、虎徹さんが言った。

「ええと、それはつまり、何人ほどになりますか、一号機さん……」

『私が知る限りで、この村で一〇〇人超です』



 な、なんだってーー!!!



『そもそも同じ村に住みながら、なぜあなたたちは今日まで互いにそれに気づかなかったのです。むしろそちらの方が不審です』

 一号機さんが言った。

 とんでもない宴会になりそうだ。



 タイラ精密工業、一般にはタイラ精工と呼ばれる。

 板額(はんがく)さんを開発した会社だ。

 技術開発担当役員、専務城家(じょうけ)長茂(ながしげ)。まだ若いが、タイラ精工を世界一の会社にするのだと常々口にする野心家である。専務として本社にもオフィスがあるのだが、彼が常在するのはこの郊外の緑深い研究所だ。

 その研究所のオフィスに、夕刻、城家さんを訪ねてきた男がいる。

 どうも印象が薄い。目をそらせば忘れてしまいそうな男だ。城家さんは、そんな男たちに心当たりがある。

「公安の方?」

「そういうことです」

 男はあっさりと認めた。

「私のような民間の技術屋に、なんのご用ですか」

「あんた、野心家だそうだが、分相応の野心に留めておくべきだったね」

 自分から名乗り出てきてくれたようだ。

 城家さんは思った。

 第四世代戦闘アンドロイドで典太さんと板額さんを襲ったラインだ。

「あんた、私のファイルを漁ったね。警視庁もずいぶんとなめられたものだ。妙な二人組が私のファイルにそって現れているらしい。それで、宇宙船は見つけられましたか。まだでしょうな。私の文法は独特でね、情報をのぞき見するだけではわからない。もう一つ。五体の第四世代戦闘アンドロイドを破壊された会社がありましてね。といっても、まるっきりおシャカにされたってわけでもなく修理は軽く済んだそうなんだがね、まあ財閥系のメンツってヤツでしょうかね、今度は武装したのを一個小隊って単位で出してくれるそうですよ。とにかくだね、城家さんとやら――」

 男は、ぐっと顔を近づけた。

「中小企業ならその池で満足しておけ。むやみに大海を夢見て飛び跳ねんことだ」

 一匹狼の公安かと思っていたが、得体の知れない組織力もあるらしい。

 さすがに城家さんも怯まないわけではない。

 しかし、城家さんは男から目を逸らさない。野心を持った以上、とうに腹はくくっている。

「襲われたのはうちの板額の方でね」

「弓を放ったのはそっちが先だね」

「住居侵入してきた不審者相手にですね」

 城家さんのデスクの上の電話が鳴った。

 同時に男の携帯電話が震えた。

「失礼して電話に出させて貰いますよ。そちらもどうぞ」

 城家さんは電話を取った。

「ふん」

 男も背を向け、スマホを取り出した。


 次の瞬間、二人は目をあわせた。


 互いの電話の内容などわからない。だが、思わず見合わせてしまったその反応に、二人には互いの電話がなんの報せなのかわかってしまった。

「失礼する」

 男は部屋を出て行った。

 男が玄関からも飛び出していったのを窓から確認し、城家さんは内線をとった。

「第二研究室」

「まだ全員いるな。研究所の警備でフル稼働なのにすまないが、(ともえ)を出す。三〇分で巴のトレーラーを準備しろ」

「第一研究室」

「帰ったヤツを呼び戻せ。板額のトレーラーを回す。三〇分で出る。間に合わなければ走りながらやれ。戻れないやつは自分の車で追いかけさせろ。愛しの板額のもとに連れて行ってやる!」

「――そうだ!」

 さすがに城家さんも興奮を抑えきれない。

「板額がやってくれたんだ! 宇宙船を見つけたと連絡してきたんだ!」

 電話の向こうから歓声が聞こえてくる。


 城家さんは握りこぶしをつくり、それを突き上げた。


■登場人物紹介・アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉(大尉相当)

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。


城家長茂。(じょうけ ながしげ)

地球人。タイラ精密工業技術開発担当専務執行役員。せんむ。

板額さんを開発した。クールキャラを気取っているが、クールになりきれない。


宇宙船氏。

地球人。警視庁公安の警察官。

ゼロ出身のエリートだが、宇宙船にこだわったために「宇宙船」とあだ名をつけられてしまった。本名も設定されていたが、作者にも忘れられてしまう。



ちなみに、ロボ子さんの呼称は

虎徹さんが「ロボ子さん」

宗近さんが「ロボ子ちゃん」

それ以外は「二号機さん」で統一されています。もしそうじゃないなら、それは作者のミスですので教えてください。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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