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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
十四夜亭にようこそ!
146/161

箱崎陽子の驚愕。

挿絵(By みてみん)


秋葉原クリエイティ部さんによるボイスドラマ版です。ロボ子さんがかわいい!

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#1 『ロボ子さん、やって来る。』

https://www.youtube.com/watch?v=KIUl9cy5KOk

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#2 『ロボ子さん、問い詰める。』

https://www.youtube.com/watch?v=Z-p62vz-x4Q

【声小説】ロボ子さんといっしょ。#3 『ロボ子さん、求婚される。』

https://www.youtube.com/watch?v=KwDrMReU_Bw


 かくん。


 雪月改(ゆきづき・かい)三号機さんが、清麿(きよまろ)さんの机にコーヒーを置こうとして一瞬だけ動きを止めた。

 マルチタスク可能な雪月改においてもそれは必要なことなのか、それともこちらが見慣れて彼女の処理経路の一瞬の切り替えに気づくようになったのか。とにかく、この猫のような瞳をした可憐なアンドロイドがこのような動きをしたときは、内蔵の電話に着信があったということなのだ。

 そして何事もなかったようにコーヒーが置かれた。

 三号機さんは無表情で黙ったままだが、この間も相手とやりとりしているのだろう。

 また二号機さんからの遊びの誘いかな。

 清麿さんは思った。

『マスター』

 三号機さんが言った。

『電話です。箱崎(はこさき)陽子(ようこ)さんからです』

「ほう?」

 たしかに編集者からの電話はすべて三号機さんに取り次がせているが、たった今まで打ち合わせしていた相手じゃないか。忘れ物かな。

『お子様ランチを出してくれるお店を見つけとのことです』

 清麿さんは苦笑を浮かべた。

「彼女は働き者だ。それにしてもずいぶん早いじゃないか」

『ぜひ、私とマスターにもどうぞと。彼女もそのお店で待っているそうです。この村にあるお店だそうです。いかが返事しましょう』

「ふうん?」

 清麿さんは首をかしげた。


 『ありがとうございます』。三号機さんの声が聞こえてくる。

 そのまんま三号機さんの声だから、三号機さんが受話器をもって発声しているのだと箱崎さんだって思い込んでしまう。だけど清麿さんの目の前の三号機さんは沈黙しているのだ。

『喜んで伺うとマスターも申しております。そのお店なら存じておりますので、一〇分でそちらに参ります』

 箱崎さんは通話を切り、カウンターの中へと顔を向けた。

「来てくれるそうです。それでは改めて、お子様ランチ三人前。お願いします」

「はいよ」

 ちょんまげの男は、店の奥へとオーダーを伝えた。


「相棒。裏メニュー、清麿スペシャルを三人前だ」


 バッグにスマホをしまおうとしていた箱崎さんが動きを止めた。

「はい?」

『アイ・アイ・サー』

 奥からかわいい返事が聞こえてきた。


 カウンターに美味しそうなお子様ランチが並べられている。

 その前に座るのは箱崎さん、清麿さん、三号機さん。

 空気が微妙である。

「これがお子様ランチ……」

 清麿さんが言った。

「そうだ」

 ちょんまげの男が言った。

「あんたの最初の注文が、チキンライス。それからハンバーグもつけろ、ナポリタンもつけろ、しかも夕ご飯も食べないといけないから少しずつ。とにかくやっかいな注文を重ねてきて、でもそれまんまお子様ランチじゃね、そうだよな、と言うわけで、次からプリンもつけてお子様ランチを出してやったら大喜びで、ま、それ以来のうちの裏メニューだな」


 お子様ランチ……ッ!

 私の名前を冠したスペシャルメニューが、実はお子様ランチ……ッ!


 さすがにこれは、重度の中二病を患っている清麿さんであっても恥ずかしい。

『マスター……』

 そして三号機さんは明らかに機嫌がよろしくない。

『ときどき、ふらっと出かけていって、そんなときは夕ご飯を残してましたね……。アクアパッツァ、焼き魚のタルタルソースかけ、お魚料理の次の日は顕著でしたね……』

「そ、そうだったかな……」

『アンドロイドの記憶力を舐めていますか、マスター……』

「す、すまない……私は魚の骨が苦手なのだ……」


 いやな汗を流しているのは箱崎さんだ。

 作家とその秘書がどうやら険悪な空気だ。その中で自分だけ食べられるわけないじゃないか。美味しそうではあるけど。見た目もすごく楽しそうではあるけど。

「あれ?」

 チキンライスの上に立っている国旗。

 日の丸じゃない。見たことがない――いや、どこかで見たかな。なんだか見覚えがあるような気もするな、この旗。


「どうした。冷めないうちに食べてくれ。うちの相棒の料理はうまいんだ」

 ちょんまげの男が言った。

『いただきます!』

 三号機さんが声をあげた。

 そしてスプーンを手にした。

『味を確かめてあげる! こんなお子様ランチよりずっとずっと美味しいお子様ランチを作って、マスターに食べさせてあげるんです!』

 そしてまずはチキンライスを一口。

 三号機さんが目を見張った。

『美味しい……』

 次はナポリタン。ハンバーグ。エビフライ……。

『全部、私のより美味しい……どうして……』

「そりゃあ、うちの相棒はプロだぜ」

 得意そうにちょんまげの男が言った。

 三号機さんがキッと男を睨んだ。

『私は雪月改です! どうして雪月に負けるんですか!』

 え?

 箱崎さんがきょとんとしていると、奥から少女が顔を出した。

 雪月(ゆきづき)だ。

 アンドロイドの雪月だ。

『愛情ですかね』

 三号機さんが睨み付けるより早く、雪月さんは顔を引っ込めた。

「アンドロイドが、あなたの『相棒』だったの……」

 箱崎さんが言った。

「そうだ。実は代替わりしてるんだが、記憶は先代を引き継いでいる。でも、なかなか他人行儀なしゃべり方をやめてくれない。そんなものかね」

『私、愛情だって負けません』

 三号機さんが言った。

『いつだってマスターに美味しいって言って貰いたくて頑張っているんです。チキンライスやハンバーグ以外の料理を作るのだって意地悪してるんじゃありません。マスターが飽きないようにって……』

 三号機さんが泣いている。

 涙をボロボロと落としている。

 箱崎さんはそれにも驚いた。

「わかっている」

 清麿さんが言った。

「君が来たときより今。昨日より今日。君の料理はどんどん美味しくなっている。だけど私の天使。怒らないで欲しい。私は昔の君の料理も愛おしいのだ」

『マスターはブス専なのですか?』

 その反応はなんだ。

「そうではない」

 清麿さんも真面目に答えないでください。

「まだ慣れない頃、君が一生懸命作ってくれた料理。私を喜ばせようと君が頑張ってくれたこと。それはなにより尊い。ときどき懐かしくてたまらなくなる」

『作りましょうか?』

「うん?」

『当時のレシピはクラウドに保存してあります。再現できます』

「ほう……」

『半分こずつ作りましょう。はじめて作ったチキンライス。今のチキンライス』

 清麿さんの顔が輝いた。

「それはいいな。うん、それはいい」

『お子様ランチだって、ぜったいこれより美味しいお子様ランチを作ってみせます』

 清麿さんはにっこりと笑い、自分もスプーンを手にした。

 そしてチキンライスを一口。

「おいしい」

 清麿さんが言った。

「でも懐かしさじゃない。ただの今の私の好物だ」

「そりゃ、清麿スペシャルだからな、それ」

 ちょんまげの男が言った。

「主人公の少年時代を書きたいと思ってね。ノスタルジーを疑似体験してみたかった。そんな必要はなかったな。私には私の天使がいてくれる。懐かしさとはなにかを君が教えてくれる。それに、これより美味しいものを作ってくれると言ってくれるんだ。わくわくとした子供のような楽しみも君が教えてくれる」

 うまくまとめたな。

 うまくまとめたな。

 箱崎さんは思ったし、ちょんまげの男も実は思っている。

「さあ、あんたも食べなよ」

 ちょんまげの男が箱崎さんに言った。

「冷める前にさ。うちの相棒の料理はうまいんだ」


 この店、いいな。

 箱崎さんは思った。

 ここに来るときの楽しみがひとつ、できちゃった。


 清麿さんと三号機さんは帰って行き、今はまた、客は箱崎さんだけになった。これでやっていけるのかなと心配になるが、あの雪月シェフが「余裕ができてきた」といってたので、賑やかなときもあるのだろう。

「ところでマスター」

「あ、おれのことか。ここら辺でマスターっていうと、アンドロイドのオーナーのことだからな。なんだ?」

 あんたもアンドロイドのオーナーだろうと思いつつ。

「この旗はどこの旗?」

 箱崎さんがつまんで振ってみせたのは、お子様ランチに立ててあった旗だ。

 気になって残しておいたのだ。

「申し訳ないけど見たことがないし」

「あれ、見た事ない? ときどきニュースで見ると思ったがな。うちの国の国旗だよ」

「マスター、外国の人だったの」

 ぜんぜん違和感がない。

「はじめは日の丸刺してたんだが、どうせ清麿に食わせるんだからとそいつに変えてみた。あいつの反応はなかったがね」

「えっ、清麿先生?」

「あんた、なにを言っているんだ?」

 ちょんまげの男――加洲(かしゅう)清光(きよみつ)さんはアゴをかいた。

「おれも清麿もえっち星人だ。宇宙人だよ。おれはともかく清麿先生のは秘密じゃないだろ」

 えええーーーー!?

「清麿は宙軍士官学校の一個下でな、まあ、それでちょっと無理を聞いてやっている。清麿スペシャルのようにな」

 えええーーーー!?

 えええーーーー!?


 ほんとの話だったんスかーー! 宙軍士官学校出身てーー!


■登場人物紹介

箱崎 陽子。(はこさき ようこ)

源清麿さんの担当編集者。二〇代後半。

それなりにマジメで有能なのだが、基本的にちゃらんぽらんで中二病。ただし、この場合の中二病はRPGやファンタジーが好きと言う意味ではない。三号機さんによると「微妙なブス」。裏返すと、そこそこの美人ではある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。



補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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