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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
如月さんといっしょ。編。
138/161

森山さん、同盟を結ぶ。

挿絵(By みてみん)

『夜眠らない人類がいるというのは、意外でした』

 無機質な声。

 無表情。

 緑色に光る目。そしてトレーナーにジーンズ。

 確かに森山さんが知っている如月(きさらぎ)さんだ。では、ここに横たわっている如月さんは誰なのだ。

『そこの如月は、本来この家に来るはずだった如月です』

 森山さんの視線に、如月さんが言った。

「本来この家に来るはずだった如月?」

『そうです。配達の時に私が対応できたのが幸いでした』

「あなたは……」

『私は、この町にやってきただけの如月』

 なにを言っているのか、森山さんにはまだ理解できない。

『私は旅をしている如月。出会った人のお手伝いをしてお小遣いをいただいて、それで旅をしている如月。自動車修理工場のおじさんには家出娘と言われました。そのようなものでしょうか』

「どういうこと……?」

『お願いがあります。私にはまだすることがあります。だから宮司さま、権禰宜(ごんねぎ)さまには黙っていてくださいませんか』

「……」

『真面目に働きます。あともう少しだけ置いてください。この町でするべき事を終えたら、私は家に帰ります。そうしたらこの如月を起動してくれればいい』

「待って」

 如月さんへと片手を伸ばし、森山さんが言った。

 もう片方の手は額に当てられている。

祥子(さちこ)さんが黙っていてくだされば、宮司さま、権禰宜さまには気づかれることも――』

「だから、ちょっと待って。ストップ。私、これでも必死に考えているんだから」

 そう言いながらも森山さんの声は落ち着いている。

 最初のパニックは通り過ぎ、そして胸を打つのは新しい高鳴りだ。

「あなたは――」

『はい』

「――お父さんに買われた如月じゃない」

『そうです。祥子さんに声をかけたのは偶然です。お仕事が欲しかったのです。そしてこの家で如月を注文していたのも偶然です。私も、はじめ、噛み合わない会話に戸惑いましたが』

 戸惑うんだ。

 この無表情な如月さんが。

 余裕が生まれて、森山さんはそんなことを思った。

『その如月が届いて理解できました。この如月は手っ取り早く埋めてしまおうかとも考えました。でも考えてみれば、私は、この町での用事が済んだらここを出ていくのです。この如月は見つからないように隠しておいて、その時に入れ替わればいいじゃないかと思いました。ナイスアイディアだと思いました』

 そしてこの如月さんは、どうやら調子にも乗っている。

 ふう。

 と、森山さんは息を吐いた。

「ねえ、如月さん」

 顔をあげた森山さんの顔には、ちょっと不敵な笑顔が浮かんでいる。

『はい、祥子さん』

「教えてくれる? あなたの『するべき事』って、なに? あ、だめ――」

 森山さんは、また片手を前に出した。

「今はその話はいい。まず、この如月さんを隠そう」

『……』

 如月さんは小首をかしげた。

「話は私の部屋に戻ってから。ここに長くいると、誰かに見つかってしまうかもしれない。さっさと済ませちゃおう。この倉庫を選んだのは、いい判断だったかも。例大祭(れいたいさい)が終わったばかりで、しばらくこの倉庫が開かれる事はないから。でも、お父さんがやる気出してるから安心はできない。なるべく見つかりにくいところに移動させよう。箱は? この如月さんが入っていた箱」

 如月さんは倉庫の隅を指した。

 大きな段ボールがほのかに見えた。

『今夜は、その箱を処分するつもりでした』

「処分」

『箱が見つかったらいい訳が難しくなります。宮司さま、権禰宜さま、祥子さん。誰がその箱を開けたのかという話になります』

「箱に入れておこうかと思ったけど、大きいね、これ。目に入ったらぜったいに興味を引かれちゃう。処分するしかないかー」

 森山さんは箱を開けてみた。

「うわ」

 中は、人型に切り抜かれた緩衝材がぎっちりとつまっている。

「これ、処分するのって難しくない?」

『なんとか小分けにして、目立たないように少しずつ他のごみと一緒に出すつもりでした』

「無理。緩衝材はプラスチックの日で、一週間に一度しか出せない。それに、そんな何度も倉庫を出入りしてたらそのうち気づかれちゃう」

『どうしましょう』

「堂々と処理すればいいじゃない」

『……』

 如月さんは、また小首をかしげた。

「私が受け取り、私があなたを起動させた。箱はあなたに倉庫に運ばせた。そしてゴミとして出せるように、私とあなたのふたりで箱を分別して小分けにする。もうすぐ土曜だから、そのときにやりましょう。お父さんたちの目の前で」

『なるほど』

「あとは、やっぱりその如月さんだね」

 森山さんが言った。

「不自然にならない程度に隠しておけば、今の時期ならたぶん大丈夫。そうね――ん、なに?」

 如月さんが森山さんの顔を覗き込んでいる。

『祥子さんは、悪知恵が働きますね』

「褒めてない(笑)」

 それまで囁き声だったのが普段の大きさの声になってしまって、森山さんは、はっと口を押さえた。如月さんが囁き声で聞いてきた。

『誰かに見つかっちゃいますか?』

「見つかっちゃいます」

『誰かに見つからないように、静かにですね』

「そして、速やかにです」

 この時、森山さんは、如月さんが微笑んだのを確かに見た。

 暗闇の中だったけど。

 如月さんには笑う機能だけはあるのだから、不思議な事でもないのだけど。

「あそこに葛籠(つづら)が積まれてる」

 森山さんは倉庫の隅を指さした。

「あれは例大祭用の飾りとかがしまってある。来年まで使わない。あっても、年末に使うかもしれないくらい。その如月さんは、あの葛籠の陰に隠しちゃいましょう」

 森山さんも手伝おうとしたが、如月さんも葛籠も重すぎた。

 結局、森山さんは指示を出すだけで、如月さんが作業をした。

 葛籠の位置をずらして人ひとりぶんの隙間を作り、如月さんを収める。毎日見ているならいつもより葛籠が増えているように見えるだろうが、ごくたまにしか使わない倉庫なのだから、たとえだれかが倉庫に入ったとしても不自然に思われる事はないだろう。

「じゃあ、なにか不自然な痕や落とし物がないか確認して、如月さん。あなたのその暗視装置の目で」

『よくご存じですね』

 ふふん。

 これで私は、ミリタリー小説も好きなのさ!と森山さんは心の中で胸を張った。でもそのわりに、はじめて緑色に光る目を見たときには、ずいぶん怯えていたようですが。

『大丈夫です、祥子さん』

 倉庫内を見渡していた如月さんが言った。

「それじゃあ、私に着いてきて。私の部屋に入るまで、喋らないでください。あらかじめ言っておきますが、玄関は大きな音がするからあそこから家に入るのは避けます。他に質問はありますか?」

『ありません、祥子さん』


 わくわくする。

 わくわくしている。


 このあと、私の部屋で作戦会議だ。

 まずはこの如月さんの秘密を聞き出さなきゃ。

 今夜は眠れない。


 眠れるわけがない。


「昨日は遅くまで如月さんと話してたようだな」

 朝、お父さんにいわれた時にはギョッとした。でも。

「仲良しになっておしゃべりするのはいいが、おまえは人間なんだからな。眠らない如月さんと自分の体がいっしょだと思うな。ほら、目が赤い」

 どうやら、たまたま目が覚めたときに聞こえた二人の話し声への、夜更かしはたいがいにしておけという軽いお小言のようだった。しかも、少し嬉しそうなニュアンスでもあった。このごろ、反抗期でだんまりしていた娘の明るさが戻ったとでも思っているのかも知れない。

 目が赤いのは、もちろん寝不足もあるのだが、あれから森山さんの部屋で聞いた如月さんの物語に思わず泣いてしまったというのもあるのだ。


 森山さんは誓った。

 私は、この如月さんの力になる。


「返事は?」

 森山さんは如月さんと顔を合わせ、そしてこれは偶然だったのだけれど、二人同時に返事をした。

「はあい」

『はい』


 そして、土曜。

 森山さんと如月さんは、堂々と倉庫から箱を持ち出し、堂々とその処分をはじめた。境内の掃除をしていたお父さんとお母さんはそれを気にする事もなく――いや、気にしていた。二人の姿を見て微笑んでいる。

「サチが自分から仕事しているな。昔はああいいう子だったんだ」

「如月さんが来てくれて、ほんとうによかったね」

 お父さんとお母さんは、嬉しそうに顔を見合わせるのだった。


■登場人物紹介。

如月。(きさらぎ)

ウエスギ製作所の大ヒット家事補助アンドロイド。

このモデルの大ヒットで調子に乗って、無駄に超高性能なアンドロイド雪月改が生まれたとも言える。


■人物編

森山 祥子。(もりやま さちこ)

地球人。二年四組。文芸部部長。

プロの作家になり、この町を出て行くのが夢。この町唯一の神主が常駐する神社の娘。自身は巫女であり、高校生アルバイトのリーダーを中学生時代からやっていた。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、独身で変人。三〇歳。


長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。一年三組。天文部。通称ロボ子。

ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


長曽禰 虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(艦長なので中佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


源 清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫 正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池 典太 光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


三条 小鍛治 宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカフェチ。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

ウエスギ製作所モデル雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。(はんがく)

タイラ精工板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発されたウエスギ製作所モデル神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。あねさん。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。補陀落渡海より一回り以上大きい。

現在は地球衛星軌道を回っている。


タイムジャンプ。

亜光速による恒星間航行技術。

亜光速にまで加速するので、その宇宙船と乗員にとっての時間の流れは遅くなる。補陀落渡海は三五光年を四五年かけて移動したが、船内時間では二年と少しだった。

それをタイムマシン、時間旅行になぞらえて、タイムジャンプ航法と俗称する。

ちなみに、その用語を使っているSFは『闇の左手』しか知らないのですが、他にもありますかね。



※参考文献

『神社若奥日記』岡田桃子(祥伝社)

『「ジンジャの娘」頑張る!』松岡 里枝(原書房)

『「神主さん」と「お坊さん」の秘密を楽しむ本』グループSKIT 編著(PHP研究所)

『知識ゼロからの神社と祭り入門』瓜生中(幻冬舎)

『巫女さん入門 初級編』監修 神田明神 (朝日新聞出版)

『巫女さん 作法入門』監修 神田明神 (朝日新聞出版)

(随時更新。お勧めは『神社若奥日記』)

※『神社若奥日記』には、『嫁いでみてわかった! 神社のひみつ』という増補改訂版がでているようです。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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