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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
如月さんといっしょ。編。
134/161

西織先生、ため息を漏らす。

挿絵(By みてみん)

 同人仲間でも、学校では教師と生徒である。

 だから軽く会釈しただけですれ違おうとした長澤露穂子(ながさわ ろほこ)さんだったが、それでも思わず呼び止めてしまったのだ。

西織(にしおり)先生。どうしたんですか」

「なに? 昨日一睡もしてなくてねー。この年だと徹夜はきついわ。楽しくてやめられなくってね。えへへ」

「テカテカですよ、顔……」

「ん?」


 その会話を耳ざとく聞いていたのは同田貫(どうだぬき)組三人組だ。

「ほんとだ、西織先生の顔、テカテカしてる……」

 年上好きで西織先生に憧れている歌仙(かせん)くんは衝撃を受けている。

「まさかと思うが、まさかと思うが……」

 鳴神(なるかみ)くんと千両(せんりょう)くんが追い打ちをかけてきた。

「一睡もしてないって、西織先生になにがあったのかな、歌仙くん」

「徹夜で楽しんだんですって、歌仙くん」

 「うわああ……」頭を抱え、膝から崩れ落ちてしまう歌仙くんなのである。

「そういや、今朝、弁当渡してくれた(あね)さん(一号機さん)の顔も妙にテカテカしてたよな」

「そういや、朝帰りしてたよね、姐さんも」

 鳴神くんと千両くんは笑いながら言ったのだが、そのころ同田貫一家本部では、同田貫さんが歌仙くんと同じ状態で悶々としていたのだった。

「あの弥生さん……」

『はい、なんでしょうっ! マスターっ!』

「……た、楽しかったですか……?」

『はい、夜間外出許可ありがとうございますっ!』

「いや、まさか朝帰りとは思わなかったですけどね……。それで、どこに行ってたのですか……?」

『ナイショですっ!』

「そうですか……」

 一号機さんのツヤツヤテカテカの肌と笑顔と、いつもと明らかに違うハイテンションに、同田貫さんはその巨体をしぼませてしまうのだった。


「私の天使」

 と、朝からきちんと背広姿で朝食にやってきた清麿(きよまろ)さん。

「君、どういうわけだろう。顔がツヤツヤテカテカしていようなのだが……」

 清麿さんも、給仕をしてくれる三号機さんに問い掛けた。

『はい、三号機はいけない歓びを覚えました!』

 だらだらとコーヒーを口からこぼしてしまう清麿さんなのだった。


「おはようございます、三池典太(みいけ でんた)宙佐」

「おはよう、郷義弘(ごうのよしひろ)宙尉補。なんで君が、領事室のオレの所に挨拶に来るのかな。まあ、迷わずにここまでたどりつけたのは褒めてやる。この間の勝手なインドへの出張、軍は経費を払わんからな」

「けち。結婚してくださいますか」

「帰れ。ていうか、マイハニーの前でとんでもないことを言うな。覚えたてのブラジリアンキックを叩き込まれるのはオレなんだぞ」

「そのマイハニーさん」

 郷宙尉補さん、背後の板額(はんがく)さんを振り返らずに指さした。

 板額さんはにこにこしている。

 どうも心ここにあらずだ。

「テカテカしてますよね。なんか、ウキウキしてますよね?」

 実は、朝見かけたときから、それが気になっていた典太さんなのだ。

「そういえばそうかな。それが?」

「彼女、今朝、るんるんと朝帰りしてきました」

 典太さんの髪が一瞬で真っ白になった。

 え、オレには言葉の冗談でも浮気を許さないのに、自分はいいの!?


 そしてロボ子さんと神無(かむな)さんである。

「おい、そこの不良娘ふたり」

 園長室で虎徹(こてつ)さんが、手を口の前で合わせて言った。

「おまえら、ふたりとも朝帰りのうえに顔テカテカさせてるって、いったいなにごとなんだよ」

 ロボ子さんと神無さん、キーを叩いていた手を止め、ぬうっと顔をあげた。

 虎徹さんへと向けたその顔は、二人そろってツヤツヤの上にテカテカで、そしてふにゃふにゃなのだった。

「同田貫のおっさんと清麿からも、切羽詰まった声で問い合わせが来てるぞ。典太も、爺さんみたいなヨレヨレの姿でロビーの喫茶コーナーで茶飲んでたしよ」

 「なあ」と、虎徹さんは体を起こして腕を組んだ。

「一号機さん、三号機さん、板額さん。そして、君らだ。昨日の夜、どうやらこの界隈のアンドロイド娘たちは揃ってお出かけしたようだ。それで君たちは、どこでなにをしてきたんだ?」

『女遊び!』

『女遊び!』

「おまえら全員、補陀落渡海の懲罰房に叩き込んでやろうか」


「私ってさ、一人っ子じゃない」

「知りませんよ、そんなこと。いえ、知ってますけど」

 放課後。

 例によって、文芸部で試し読み奉仕している露穂子さんの邪魔をしている西織先生だ。友達ぶっているわけでもなく、ただ高校生と同じ精神レベルで雑談できる教師、そして三〇歳なのだ。

「あー、楽しかったなあ、昨日。如月さんが今日来るってロボ子ちゃんに電話したら、見たい、触りたい、胸なでたいってこのあたりのアンドロイド娘が集まっちゃって来ちゃってさあ」

「地球のアンドロイドって、どこかおかしいですよね?」

 主にロボ子さんの影響かもしれません。

「もー、むっちゃかわいいの。いちばんかわいいの。あんなに美少女アンドロイドが揃った中で、うちの如月(きさらぎ)さんがいちばんかわいいの!」

「如月さん、大量生産品ですよ?」

「ああ……」

 無駄にきれいな顔を窓の外に向け、西織先生はため息交じりに言ったのだった。


「妹がいたら、あんな感じなのかな……」


 顔がテカテカになるほど妹を弄くり回すのかい。

 「妹」というものに軽くトラウマ抱えてもいる露穂子さん、試し読みの原稿を繰りながら、口にはせずに突っ込むのだった。

「弟じゃいや。妹。ぜったい、妹」

 実の兄にキスされたことがある妹のことも考えてくれ。

「生意気で、ちょっと目つき悪くて、理屈っぽくて、それでいてどこかアホの子で……」

 悪かったな!

 だんだん自分の事を言われている気分になる。


 一方、文芸部長森山祥子(もりやま さちこ)さんもイラっとしている。

(妹だって!)

(私だって一人っ子だから、兄弟が欲しかった! でもそれは、兄か弟!)

(一人っ子だからって、女の子なのに神社を継ぐのがふつうみたいに、誰からも思われている私の身にもなってよ!)

(担任にすら、「あれ。志望校、皇學館か國學院じゃないんだ?」と意外そうな顔されたよ!)

 ちなみに、先述した銀行マンの叔父には、息子が二人いる。

(従兄弟のどっちかを神主にして、私と結婚させるのがいちばんとか、本人がいる前で平気で口にしないでよ!)

(出てやる!)

(こんな町、出てやるんだ! どのみち、大学ないから出るしかないけど!)


 さらに、文芸部の部員たちもイライラしている。

(長澤ロボ子さんの試し読み、邪魔しないでよ!)

(やっと私の作品の番なのに!)

(ちょっと美人だからって偉ぶるな!)

(おっぱい大きいのがなんぼのものだ、年増!)


 少女たちの一部理不尽なイライラを一身に集め、自分は窓の向こうの山桜咲く新緑の山々の美しさにうっとりと微笑む西織先生だ。


「ああ、私にもやっと春が来たのかな……」


 ふうん。如月って、おばさんをとろけさせるアンドロイドなのか。

 森山さんはそんなことを思った。



「金のエンゼルってさ、如月で良かったな」

 ウエスギ製作所の社名がはいったハイエースのロングバン。

 運転席に座り、機器の調整をしながら作業着の男が言った。

「なんだって?」

 助手席に乗り込んできた彼も同じ作業着だ。

「これが雪月や雪月改なら、知恵をはたらかせて自分でGPSを切っていただろ。そうなったら、正直オレたちで見つけることは難しかったよ」

「ああ、そういうことな」

 同僚は苦笑を浮かべた。

「今ごろ自由を満喫している如月には悪いが、つかの間の自由だったわけだ」

「如月に、自由とかいう感覚はあるのか?」

「どうだろうな」

 そして付け足した。

「そもそもおれ自身にだって、自由がなにかなんてわからんさ。嫁さんと子供のためにあくせく働いている。だけどな、それが不自由だとも思わん。ま、とりあえずは家出娘さ。それほど移動していないようだな」

 彼らのポケットには緊急用の如月専用リモコン。

 ロングバンの後にはクレーンと、通称「棺桶」。


 ハイエースはウエスギ製作所を出て行った。


※皇學館か國學院

神主の資格が取れるのが、この両大学。この両大学を出なくても資格は取れるが、狭き門となる。



■登場人物紹介。

如月。(きさらぎ)

ウエスギ製作所の大ヒット家事補助アンドロイド。

このモデルの大ヒットで調子に乗って、無駄に超高性能なアンドロイド雪月改が生まれたとも言える。


■人物編

森山祥子。(もりやま さちこ)

地球人。二年四組。文芸部部長。

プロの作家になり、この街を出て行くのが夢。この町唯一の神主が常駐する神社の娘。自身は巫女であり、高校生アルバイトのリーダーを中学生時代からやっていた。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、独身で変人。三〇歳。


長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。一年三組。天文部。通称ロボ子。

ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人高校生三人組。宙兵隊二等兵。艦長付。一年三組。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人高校生三人組。宙兵隊二等兵。副長付。一年三組。

美形で長身で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人高校生三人組。宙兵隊二等兵。機関長付。一年三組。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(艦長なので中佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡行戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

ウエスギ製作所モデル雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。(はんがく)

タイラ精工板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発されたウエスギ製作所モデル神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。あねさん。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。



※参考文献

『神社若奥日記』岡田桃子(祥伝社)

『「ジンジャの娘」頑張る!』松岡 里枝(原書房)

『「神主さん」と「お坊さん」の秘密を楽しむ本』グループSKIT 編著(PHP研究所)

『知識ゼロからの神社と祭り入門』瓜生中(幻冬舎)

(随時更新。お勧めは『神社若奥日記』)


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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