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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
如月さんといっしょ。編。
132/161

如月さん、歓迎される。

挿絵(By みてみん)

 金のエンゼル。


 ウエスギ製作所の技術者の間で、そう呼ばれている個体がある。

 ウエスギ製作所の屋台骨を支えるベストセラー、モデル如月(きさらぎ)。完全無欠の家事補助アンドロイド。その数千機に一機、個性的な如月さんが生まれる。

 大量生産品である。

 OSは統一されている。それなのに、なぜか生まれてしまう。


 わかりやすい場合はいい。


 たとえば、立ち上げたそのままフリーズしてしまったり、話している途中であわあわ何を言っているかわからなくなったり、自己診断がいつまでたってもおわらないなどの症状が出るのであれば見つけやすい。

 この手の個体は、金のエンゼルのなかでさらに「Me(ミー)」と呼ばれるようだ。

 オトナの理由で語源はわからない。

 ただ、そのMeであっても見逃されて出荷してしまい、料理が完成する間際にフリーズするなどの、悪意があるとしか思えないレベルでのポンコツぶりを発揮したりする。再現性が低いながらこの行動様式はMeだろうと予想がつくだけに、新品交換になる事が多い。Meをドジっ子として愛でる好事家もいないではないが、なにをやらかすかわからない個体を野に放ったままでおくことはできないのだ。


 Meと違って困るのは、個性が意表を衝いたものである金のエンゼルだ。

 起動させた最初の言葉が「わたくしはレムリア大陸の巫女、アストリア」だった金のエンゼルさんはそのまま鄭重にリカバリされたが、工場のチェックでは顕在化しない個性も多い。

 庭の草むしりをさせたら、延々と穴を掘り続けた。他の仕事をいいつけたらちゃんとこなすが、終わるとまた穴を掘っている。

 刃物恐怖症だった。

 日がなネットで煽り書き込みをしている。

 晩酌につきあわせたら、ダジャレを連発してがははと笑うおっさんになった。

 ガレージに籠城して、なにかを作り続けている。

 微妙だったのは女王様になった如月さんで、「自分はそのような教育はしていない」と言い張るオーナーさんだったが、新品交換するという申し出を頑として拒んだらしい。この事例では、未だに金のエンゼルさんだったのか如月さんにほんらいその才能があったのか、わからない。

 さて。

 その金のエンゼルさん。

「そろそろ生まれそうだ」

 技術者さんの間で囁かれていた。

「そろそろ出るぞ、金のエンゼル。気をつけろよ。気づかずに出荷してしまったら面倒だ」

「出ても、オモチャの缶詰貰えないのにな」

「あれ、なに入ってたんだろうな」


 そして、生まれたらしい。

 しかも金のエンゼルさん史上、いや、如月さん史上、初めてのことを彼女はやってのけた。


 家出したのである。


『こんばんまして』

 その如月さんは言った。

『評判が良いらしく、小賢しくも私たちの最初の挨拶はこれに統一されました。はじめまして、如月です』

 西織(にしおり)家に届いたばかりの如月さん。

 評判通りの無機質な声、無機質な表情。

 だけど、微妙に評判と違う。なにより、勧めもしないのにどかっとソファーに座った態度が違う。

「小賢しいって言った?」

「言いましたよね、いま、小賢しいって」

 西織先生のご両親も微妙に戸惑っている。

『お茶をいただけますでしょうか。私のロットから如月は胃ユニットがカートリッジ式に仕様変更されまして、飲食後の洗浄の手間が大幅に改善されました』

「はあ」

「はあ」

『テフロン加工です。おめでとうございます。つまり私は、飲食できる如月です。お茶をいただけますか』


「なにこれーー!」

 戸惑いのご両親の隣で、素っ頓狂な声を上げてしまう西織先生だ。

「なにこの新種ーー! 小生意気アンドロイドーー!?」


 どこからともなく『それ、三号機さんがすでにそのカテゴリですよね』という声が聞こえてきた。ご両親はキョロキョロと見渡しているが、地元の名家である西織家のリビングは広い。天井が高く、そして調度品も多い。


 西織先生の興奮は醒めない。

「お茶!? ああ、お茶ね! 私のをどうぞ、如月さん。やだやだ、ロボ子ちゃんと神無(かむな)ちゃんのアホの子ともまた違う味わい」


 『やかましいわ』『うるせー、わがままおっぱい』。

 またもや聞こえてくる謎の声だ。


『旦那さま、奥さま』

 一方、如月さんは紅茶に砂糖を三個落としてかき混ぜている。

『お嬢さまは、もしかして残念な方なのでしょうか』

「来たーー!」

 ガッツポーズで西織先生が立ち上がった。

「平然とオーナーの悪口を口にするーー! これは萌えよ! 絶対的な萌えよおーー!」


 『私たちも結構悪口言ってますよね、後輩』『でも、萌えて貰えませんよね、先輩』『あ、でも西織先生のこれは、私が納入された夜のマスターの反応に似てる気がします』『そうだったのですか、先輩』『そうだったのです、後輩』

 もはや忍ぶ気も正体を隠す気もないふたりである。


 西織先生は如月さんの腕を掴んだ。

「辛抱たまりません! さあ、私の部屋に行きましょう、さっそく行きましょう、如月さん!」

『なぜでしょう、お嬢さま』

「あなたを楽しむためよ、如月さん」

 このとき如月さんは、「美人のお嬢さま。ちょっと年増だけど」程度に認識していた西織先生の顔に、剥き出しの欲望が浮かんだのを見たのだった。

『拒否いたします。如月はそのようなアンドロイドではありません』

 如月さんが言った。

「拒否できると思う?」

『私には自分の尊厳を守る権利があります。アンドロイドの所有及び保護に関する法律第五条第三項――』

「兄弟、出番だぜ」

 西織先生が指を鳴らした。

「このおしゃべりな口をふさいでやりなーー」


『がってん!』

『がってん!』


 どっしん!

 どっしん!

 高い天井に張り付いていたロボ子さんと神無さんが降ってきた。

「わあああああああああ!」

「きゃああああああああ!」

 さすが西織家のお屋敷の床張りだ。

 アンドロイドが降ってきてもびくともしないぜ!

「そして、板額(はんがく)の姐御! よろしく頼みます!」

 ばあん!

 リビングのドアが開け放たれた。

 真っ赤なロングコートをひるがえし、こちらは堂々とドアから入ってくる板額さんだ。

『あっ、はじめまして、お父さま、お母さま。わたくし、板額と申します。お嬢さまにはおせわになっております。夜分、失礼いたします』

 鄭重にご両親に名刺を渡し、板額さんは左腕の弓を起動させた。

 ぴたりと狙いを定めるのは、如月さんの眉間だ。


 ところで如月さんは笑顔しか作れない。

 家事補助アンドロイドという性格上、戸惑いや疑惑、恐怖の表情を作る必要がない。作られても困る。それゆえに今も如月さんは無表情のままだ。ただ持ち上げたカップをそのままで動きをぴたっと止めてしまっている。

『弊社フラッグシップ雪月改(ゆきづき・かい)二号機。次期フラッグシップ神無(かむな)試作機。タイラ精工護衛特化型戦闘アンドロイド板額型一番機。なぜこのような超高級機がここに揃っているのですか』

 如月さんが言った。

「それだけじゃない。雪月改一号機さんに三号機さんも私の部屋で待機しています」

 西織先生が言った。

「如月さん、この状況で、あなたに拒否権があると思いますか?」

『アンドロイドの所有及び保護に関する法律第五条第三項……』

「さあ、やろうども。新人さんを歓迎してさしあげなあァ!」

『どこの江戸伝馬町牢屋敷の新入りいびりですか』

『あっ、そのフレーズすてき!』

 憐れ如月さんは、西織先生の部屋に引きずり込まれたのだった。


 二階からは、『やだやだ、かわいいーー!』とか『みんなの妹に決定ーー!』とか『なんでセーラー服、二号機さんが着てるの』『似合うから』『わ、私も着ていいですか……』『は、板額さんっ!?』とか、賑やかで華やかな声が聞こえてくる。


「育て方を間違えましたねえ」

「かわいいのにねえ」

 しみじみとお茶を飲むご両親なのであった。

「ところで、アンドロイドさんたちの着替え、ボクも参加してもいいかな」

「お父さん……」

「ごめんなさい、勢いで言ってみました……」


 如月さんは現在、スーパーマリオの衣装を着せられている。

 ヒゲまでつけられている。

 やたらと布の量が少ない衣装をお嬢さまが手にしているが、次はあれなのだろうか。


『月にかわってお仕置きよ』

 台詞まで言わされた。


 すごく受けた。


■登場人物紹介。

如月。(きさらぎ)

ウエスギ製作所の大ヒット家事補助アンドロイド。

このモデルの大ヒットで調子に乗って、無駄に超高性能なアンドロイド雪月改が生まれたとも言える。


■人物編

森山祥子。(もりやま さちこ)

地球人。二年四組。文芸部部長。

プロの作家になり、この街を出て行くのが夢。この町唯一の神主が常駐する神社の娘。自身は巫女であり、高校生アルバイトのリーダーを中学生時代からやっていた。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、独身で変人。三〇歳。


長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。一年三組。天文部。通称ロボ子。

ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

ウエスギ製作所モデル雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

タイラ精工板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発されたウエスギ製作所モデル神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。



※参考文献

神社若奥日記 岡田桃子(祥伝社)

「ジンジャの娘」頑張る! 松岡 里枝(原書房)

「神主さん」と「お坊さん」の秘密を楽しむ本 グループSKIT 編著(PHP研究所)

知識ゼロからの神社と祭り入門 瓜生中(幻冬舎)

(随時更新。お勧めは『神社若奥日記』)


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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