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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
124/161

郷宙尉補さん、絡む。

挿絵(By みてみん)

宴会の最中に、郷宙尉補さん、泣き出してしまう。

 ところで。

 宴会はすでに始まっているはずなのだが、だれもお酒を呑んでいない。

 ロボ子さん謹製の料理が目の前のお膳に並べられているのだけれど、だれも手をつけていない。林田(はやしだ)さんだけは構わずがっぽがっぽ呑んでいるようだが。


 乾杯の音頭を求められた村長さんの演説が終わらないのだ。


「思えば一九六九年、当時私はまだ中学生でありまして。テレビで見た安田講堂の」

 どうしてこうなった。

「ところが年を取り佐々淳行氏の著作を拝読しますと」

 おい、誰か村長を止めろ。

 ていうか誰が村長を呼んだ。

 目線をかわすことで犯人捜しがはじまったが、どうやら村長さんは宴会の匂いに勝手にふらりとやってきたらしいのだった。パークのスポンサーでもあるこの村の村長さんだから、追い出すわけにもいかない。

「夏に本格オープンを迎えますこのパークの」

 おお、話がパークにたどり着いた。そろそろ終わりだ!

「思えば、アポロ11号」

 戻りやがった!

 また一九六九年に戻りやがった!

 お酒と料理を目の前に、延々と待ったをかけられている参加者の殺意と怨念が大広間にうずまいている。村長さんはそんな空気などほんの少しも読んでいなかったのだが、さすがに話すことがなくなったらしく、温くなったグラスを掲げたのであった。

「それでは、みなさん。ビートルズに乾杯!」

 なんの宴会やねん。


 とにかくも宴会が始まった。

『二号機さん、座って。あとは、私と三号機さんが引き受けますから。準備で大変だったのでしょう?』

 一号機さんはそう言ってくれるのだが。

『だめです。出す料理の順番、準備と仕上げの手順は私の記憶チップの中にだけあります。それに私は、この家のハウスキーパーです。完璧に宴会を終えることが私の誇りなのです』

『二号機さんのくせに、生意気です』

 と、三号機さん。

『それより』

 ロボ子さんが言った。

神無(かむな)さんと板額(はんがく)さんを監視していてください。あの二人がハメを外すと、宴会の終わりはゲロ大会になりかねません。調子に乗ってきたなと思ったら、腕ずくで機能停止してください』

『神無さんはわかるけど、あの板額さんまでポンコツになっちゃったのですねえ』

 しみじみと一号機さんが言った。


「二号機さーん!」

「二号機さーん、こっちー!」

 そんなロボ子さんの苦労も知らず、馬鹿教師二人組がロボ子さんを手招きしている。

 パーク関係者の宴会に、なんでまったく関係のないあんたらがいるのだとロボ子さんは思う。しかもこの酔っ払いども、普通にこの場に馴染んでいるのだ。

 ちなみに、今日は金曜日である。

 ウイークデーである。

 ロボ子さんがスーパーの駐車場で西織(にしおり)先生に声をかけられたのが、夕方五時少しまえ。教師がいるわけがない時間なのだ。

「午後四時、眠れずに生徒を学校に残し、車にKEY差し込み、すべてが消え去るまで風を斬り突っ走って地平線落ちる夕日のなか突き抜けたら、ここに来たのー」

 どんなJBOYで、どんな飲み会への嗅覚だよ。

瑞希(みずき)も呼ぼうか。コミュ力はあの子のほうが高いしさー」

 いや待て。

 こっちはなにも言ってないのに、なんでもう宴会に参加する前提になっているのだ。

「なに、宴会じゃないの?」

 宴会ですけども。

 なにその、イタズラして叱られている犬のような表情は。

 ロボ子さんは自分がのんべえな分、のんべえには甘い。そもそも予備の席はかなり用意してあるわけで、結局西織先生と山本先生の参加を認めてしまったのだった。

「二号機さんも呑もうよ!」

「このお酒、美味しいね!」

 そして馬鹿教師どもは、既にできあがっている。

『私はこの宴会を取り仕切るホステスですし、そのお酒は私が味で選んだ吟醸ですし』

「ところで、これ」

 と、西織先生がこっそり出してきたのはご祝儀袋二封だ。

「私と瑞希、二万ずつ。偶数はよくないっていうけど、給料前で三万はきついからー。ご祝儀というより会費ということでー」

 ちょっと驚いた。

 腐っても教師。さすがに社会人だ。

『マスターから、会費は受け取るなと言われています』

「じゃあ、二号機さんへのチップとして」

「ただ酒より、そのほうが美味しく呑めるしー」

『じゃあ、西織先生のだけ』

「えっ?」

 西織先生、笑顔のまま固まっている。

『西織先生には以前、用意した吟醸を呑まれて酷い目にあいましたし(100話、『天体観測の夜。その6』参照)、これでチャラということで。そういうことで、山本先生、西織先生の奢りだと思って存分にお楽しみください』

 ロボ子さんが言った。

「えっ?」

「ありがとう、二号機さん。またそのうち呑もうね、あの山賊の隠れ家みたいな居酒屋で。んじゃ、ごちになります、高子(たかこ)!」

「えっ?」

『では、ごゆっくり』

 ロボ子さん、にっこりと微笑んだ。


 ふむ、うまいな。

 お兄さんがお酒と料理を楽しんでいる横では、村長さんの演説の最中からがばがばお酒を飲んでいた林田さんがいびきをかいて眠っている。

 もう片方の隣には(ごう)宙尉補さんだ。

 あの陽気な郷宙尉補さんが、無口にぽそぽそと料理をつまんでいる。

「君は、酒は呑まないのか」

 お兄さんが声をかけた。

「はい」

 好きそうなのに。

「地球の酒は口に合わないか。この醸造酒など、なかなかいけると思うがな」

「なんでそんなこと気にするんです」

「いや、酒が苦手なら、これからは無理強いできないと思ってな。覚えておくよ、すまなかった」

『郷宙尉補さんは、泣き上戸なんですよ』

 板額さんがお銚子を手にお兄さんのところまでやって来て、膳の向こうからお兄さんに差し出した。お兄さんは盃を空にして、お酒を注いでもらった。

「ありがとう、板額さん」

 へえ、泣き上戸。

『ええ、昨日も寝る前にビールを一缶呑んで、それでめそめそしてたんですよ』

 ふうん。

 郷宙尉補が呑めば普段より陽気になって手がつけられなくなるか、果てしのない絡み酒になりそうなものだが。

 板額さんにお返しのお酒を注ぎながら、お兄さんはちらりと郷宙尉補を覗った。

「えっ!?」

 泣き上戸というのは本当らしい。

 郷宙尉補の目に涙がたまっていたのだ。

 ていうか、それはつまり。

『はい。郷宙尉補さんはもう結構呑んでますよ』

 美味しそうに盃を飲み干し、板額さんが言った。

 ほんとうだ。

 郷宙尉補の膳の下に、お銚子が数本転がっている。おいおい、林田くんといい、おれの部下はペースを知らんのか!

 郷宙尉補さんが、くりっと顔を向けてきた。

 おいやめろ、君がそういうときにはロクなことがない!

 郷宙尉補のとろんとした目から、涙がボロボロと落ちている。

「呑んでませんし、泣き上戸じゃありませんよ、私」

 ああ、絡み酒というのも合っていた。

「宙尉がいけないんですよ。夜、あんなことするから」

「なに?」

「だから、私、泣くしかないんですよ。我慢してたけど、忘れるつもりだったけど、でも、宙尉にあんなことされたら、私だって泣くしかないじゃないですか」


 しん、と。

 それまでは賑やかだった長曽禰(ながそね)家の大広間が静まった。


 ごくりとつばを飲み込み見渡すと、全員が自分を非難の目で見ている。

「兄貴……あんた……」

 虎徹(こてつ)さんが言った。

「ま、待て。ちがう、濡れ衣だ。郷宙尉補、本当のことを言ってくれ」

 郷宙尉補さんは嗚咽して言葉にならない。

「板額さん、君は昨夜も郷宙尉補といっしょにいたのだろう。証言してくれ。オレと彼女は、昨晩はずっとそれぞれの部屋にいた。そうだね!」

 いつの間におかわりしていたのだろう。

 たぶん手酌だ。

 再度盃を飲み干し、陶然と板額さんが言った。

『ええ、昨晩は』


 どうしてそう、誤解を招くようなことを言うのだ!


『あれ、酔ってますね、板額さん』

 と、一号機さん。

『酔うと、意地悪になるんですね、板額さん』

 と、三号機さん。

「いつもは暴力乙女になるんだぜ。たいしてかわらないか。ははは」

 と、板額さんのパートナーの典太さん。

 ぐりん!

 首だけを回して板額さんが微笑んだ。

 どっ!と。全身から人類としてありえない量の汗を噴き出してしまう典太さんなのである。


「責任を取ってもらいますよ、宙尉!」


 郷宙尉補さんは仁王立ちだ。

 お兄さんは呆然と思った。


 この宴会はたしか、おれを励ますためのものじゃなかっただろうか。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


林田さん。

長曽禰興正宙尉(お兄さん)の部下。


■ゲスト編。

西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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