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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
123/161

林田さん、再会する。

挿絵(By みてみん)

まだ可憐だった頃の西織先生。

 林田(はやしだ)さんは地元出身だ。

 東京の大学を出て東京で就職し結婚もしたのだが、パークができて社員を募集しているというのでこの機会にUターンしてきた。

 姉は結婚し、とうに実家をでている。

 親の面倒をみるのは自分しかいない。

 親と折半で家を建てるからと妻を説得することもできた。新築なった大きな二世帯住宅に、妻も今のところまんざらでもないようだ。まあ、親と折半とはいえ、それでもローンは肩に重い。

「今日は夕飯はいらない。飲み会がある」

 朝、納豆をかき混ぜながら林田さんが言った。

「会社の?」

「うん、社長|(虎徹さん)の家で」

 妻は目を丸めた。

「なにそれ、すごいじゃない!」

「あ、ちがう、ちがう。成績優秀者を招待してくれたとかじゃない。うちのチームで宴会を開きたいと言ったら、社長が()()()を使えと言ってくれてさ。パークの周囲って、まだ田舎で使える座敷もないじゃない。でもまあ、おかげで有り難いことに会費はゼロだ。社長が出してくれる」

「なんだ、私も招待されてるーとかじゃないんだ」

「ないなー」

 ちょっと苦笑い。

「それでさ、朝、会社に送ってくれよ。夜も、宴会終わったら連絡するから頼む」

「わかった」

 ふたりで家を出て、車の助手席に乗る前に振り返って家を見上げた。

 おれの家だ、と林田さんは思った。

 妻に、まだ幼い息子に。

 なあ、おれはまずまずやっているといっていいんじゃないか?


 さて。

 仕事が終わり、チーム興正(おきまさ)全員で社長さんの家に移動。

 和服を着たかわいいアンドロイドさん(ロボ子さんである)に案内されたのは、お膳がずらりと並べられた呆れるほど広い部屋だ。

 雪月改(ゆきづき・かい)に広い家。

 さすが社長はすごいなと感心してしまう。でもあの雪月改、朝礼でいつも素っ頓狂な声あげてる子にそっくりだな。

 チーム興正以外にも招待客がいるようだ。

 うちのボス(お兄さん)も、遠近感が狂いそうな長身の二人と話している。

 そして、あれっと林田さんは思った。

 見覚えがある顔だと思ったら、向こうから声をかけてきた。

「林田?」

「やっぱり武藤(むとう)か」

 高校時代の同級生だ。

 武藤瑞希(みずき)

 甘酸っぱい記憶が、遠い彼方から一気に林田さんに迫ってくる。美人で明るくて、クラスの女子のリーダー格だった武藤瑞希。当然のように憧れた。ちょっと好きだった。いや、でも。

「なんで君がここにいるんだ、武藤。これってうちの会社の宴会なんだけど」

「今は山本だよ。山本瑞希。へえ、林田、帰ってきてたんだ」

「ああ、むこうで結婚して、こっちで家建ててな。で、なんで君が?」

「ロボ子さん――このおうちの雪月改二号機さんが呑み友達でね」

「の、呑み友達!?」

 ロボ子さんは忙しく座敷を動き回っている。

「で、このパーティにも誘われちゃったわけよ」

 誘ってねえよ!

 青筋を数本たてているロボ子さんだ。

西織(にしおり)も来てるよ」

「――えっ」

「西織高子(たかこ)、覚えてるでしょ。そ、西織のまま。まだ独身。彼女もロボ子さんと飲み友達なの。ていうか、高子が誘われて、私はご相伴」


 西織高子。

 嘘だろう。


 高校で、この名前にときめかない男なんていなかった。

 とんでもない美人で、それでいて気が強く、それでいてミステリアスで。そして胸まで大きくて。なんど彼女をオカズ、いや、なんど彼女に胸を焦がしたろう。

 ――えっ!?

 ――しかも独身!?

 あの西織高子が、まだ独身なの!?

「そういや、あんたも高子に告白して振られた口だったっけか?」

 山本先生がニヤニヤと肘でつついてきた。

 ああ、武藤のこのスキンシップ。かわんないな。高校男子としてはむっちゃ嬉しかったなあ。そんなことを懐かしみながらも。

 はい、そうでーす。

 自分、告白しちゃいましたー。

 サッカー部でレギュラーになって、ちょっと気が大きくなって、万能感みたいなの鷲掴みにしちゃいまして、学校一の美女に付き合ってくださいと言ってみましたー。

 恥ずかしいです。

 黒歴史です。いやん。しかも一試合で補欠に戻りましたー。

 そのとき、西織高子は、

「ごめんなさい」

 消え入りそうな声で言ったのだ。

 涙を見せていたかもしれない。

 あの西織高子が、自分のためだけに透きとおるきれいな涙を流してくれたのだ。

 その夜、林田さんはまた西織さんをオカズ、いや、西織さんへのさらにつのる恋心に悶え苦しんだのだった。

「あ、高子、こっち」

 山本先生が声をかけた。

 見覚えのある色素の薄いくせっ毛。その長身の女性が振り向いた。

 うわ、ちょっと待って。

 やばい、これはやばい。心の準備がまだできてない。

 近づいてくるのは、たしかに西織高子だ。自分と同じ年なのだから、もう三〇だ。とてもそうは見えない。きれいだ。高校時代よりもっと輝いている。

 なんなんだ、これは。

 いったいなんだ、この宴会は。

 同窓会か?

 二人のルネッサンスか?

 いやしかし、おれには愛する妻と幼い息子と、家のローンが。


 それがどうした――という声が聞こえる。


 見ろ、彼女は美しい。

 青春だった。おれの青春だった。たぶん。

 まだ独身だという。今夜、宴会が終わっても妻を呼ばずにタクシーを呼ぼう。妻を愛している。息子を愛している。だけど一度だけ、一度だけの夜なら許される。そうだろう。許して。

「高子、ほら、林田くん。覚えてるでしょ。高校二年の時に私たちと同じクラスだった。柔道部の」

 武藤、君もおれの一度だけの夜を応援してくれるというのか。

 でもごめんね。ぼく、サッカー部でした。

 武藤と一緒だったのは三年の時で、西織さんといっしょのクラスだったことなんてありません。ごめんね。ほんとごめんね。

「やあ、西織さん、久しぶり」

 ちゃんと言えたろうか。

 声は裏返ってなかっただろうか。そして。

「西織さん、でいいんだよね?」

 わざとらしく付け足すのを忘れない。

 あれから一〇年以上の時が流れた。純情だったおれだって、こんなこすっからい男になった。でもその時間は、二人が出会うために神さまが用意してくれた時間なんだ。


「私は確かに西織のままですけど、それがなにか?」


 しかし、西織先生の思いっきり不機嫌そうな声は、林田さんの目を覚ますのに充分なのだった。

 そして、尋常でない舌打ち。

「下心丸出しの顔」

 慌てて山本先生が西織先生の腕を掴んだ。

「ばっ、高子、あんた教師やってるんだから声が通るのよ。気を使いなさい!」

「えー、でもさあ」

 西織先生は頭をかき、林田さんをじろりとにらみあげた。

「今夜、宴会が終わっても妻を呼ばずにタクシーを呼ぼう。妻を愛している。息子を愛している。だけど一度だけ、一度だけの夜なら許される。そうだろう」

 ええええーー!

「そんなこと考えてそうな顔じゃん、これ」

 なぜですかーー!

 一字一句違いませんーー!

「幹事の顔をたてて同窓会に出てやれば、そんな男だらけでさ。もういや。もう出ない。もううんざり」

「そうだったねえ……」

 山本先生まで相づちを打った。

 しかも、フォローもなしに二人は離れていく。

「ところで、あれ、だれ?」

「だから、林田」

「知らない。瑞希、そんなんまで覚えてるの、すごいねー」

 そんなヒソヒソ話さえ、良く通る声で聞こえてくる。

 そんなん扱いされた林田さん、青春ってなんだろうと思った。


 一〇年の時が変えたのは。

 こすっからい男になってしまったおれ。

 そして、だれかもわからない男に告白されてごめんなさいと泣いていた君の、優しさの残量。


「呑みましょうよおおお、宙尉~~」

「もう呑んでいるじゃないか、林田くん。おい、まて、乾杯もまだだぞ」

「人生は悲しいです。思い出は儚いです」

「君の気持ちはありがたいと思う。だが泣くな。君が悩むことじゃない。これは私の問題だ。私はこの通りもう大丈夫だ。今日は愉快に呑もうじゃないか、林田くん」

「宙尉~~」


 席について澄ましている一号機さんがぷるぷると体を震わせているのは、もちろん最初から最後まで聞いていたからだ。

 この録音もあとでばらまこう。

 そう心に決めた一号機さんである。

『この村の界隈には、逸材が多すぎますわねえ』

 一号機さんはつぶやいた。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


林田さん。

一等兵曹さん。

長曽禰興正宙尉(お兄さん)の部下。


■ゲスト編。

西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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