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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
122/161

ロボ子さん、奔走する。

挿絵(By みてみん)

 チーム興正(おきまさ)の宴会を長曽禰(ながそね)家でするというのは、もちろんハウスキーパーたるロボ子さんも承知の上だ。


 そういえばハウスキーパーというのは「家政婦長」という意味で、女性使用人のトップを指す。それをただの「家政婦」と訳してしまって「執事に命令する家政婦」が出てきてしまう英国翻訳ミステリがあったりする。

 王権を持たないクイーン、すなわち王妃を「女王」と訳してしまうのと同様のミスで、特にジョージ五世妃メアリ王妃はどういうわけかしょっちゅう「メアリ女王」と誤訳されている。もっとも、豪華客船RMSクイーンメアリは、ジョージ五世の同じような勘違いでそう名付けられたそうな。


 という、果てしなくどうでもいいうんちく話はおいといて。


 そういうわけで、ロボ子さんは忙しい。

 お昼休みにはふもとの町の高校に自転車を飛ばして遊びに行き、退社後は村唯一の居酒屋で呑んで騒いで、夜はTwitterでハーレム作りにいそしんで、そして宴会の準備である。

 どうも主に自分が遊ぶのに忙しいようでもあるのだが。

 チーム興正が計七人。

 どうやら全員参加してくれるらしい。

 それに虎徹(こてつ)さんに居候の宗近(むねちか)さん、地上で虎徹さんに継ぐ士官でもある典太(でんた)さん。普通に考えればこの一〇人。さらに自分に神無(かむな)さんに、これも長曽禰家の居候である板額(はんがく)さんのアンドロイド娘ズを入れても一三人。

『まず、それですまないでしょうね』

 ロボ子さんはそう考えている。

 正式な参加者はそれだけだろうが、どうせ、しれっと参加してくる通りがかりののんべえが何人かはいるのだ。それが、いい加減をモットーとするこの村の掟なのだ。

 まあ、長曽禰家には三〇畳はある大広間があるので、広さ的には問題はない。

『後輩もそろそろ家政を覚えなさい。私と食事当番を交替できるぐらいになってください』

『先輩、私は食っちゃ寝を信条としています』

 神無さんはどうやら戦力として計算できそうにない。

 かといって、もう一機のアンドロイドも。

『二号機さん、私、なにか手伝いましょうか』

『板額さん、板額型にはレシピとか内蔵されているのですか? あと味覚は?』

『主に悪漢を料理する方法ならいろいろと。その方面では、いい味だせます』

『うまいことを言ったつもりの板額さん、なにを企んでいますか。そういえばこの間、一升瓶一気飲みしてましたね(三人組高校に行く編『板額先生、呑む』参照)』

『私、お料理なんていりませんから、お酒をたっぷり用意していただけると嬉しいかなって……』

 板額さん、もじもじと乙女回路を全開させて言った。

 厄介者が一人増えただけのロボ子さんなのである。


「酒をパック酒にしたい? だめ。却下」

 そしてあっさりと、虎徹さんに宴会計画書を却下されてしまうロボ子さんだ。

『マスターはうちの経済状況を理解してください。マスターは今、宙佐としての給料は無給なんですよ。そして、うちにはとんでもないうわばみアンドロイドがいるのにも気づいてください。せめて会費を取ってください』

「地上司令代行たるおれの家でひらく宴会で、会費なんかとれるわけないだろ。ところでうわばみって、ロボ子さんのこと?」

『違いますよ。板額さんですよ』

「ええっ、彼女、飲食できるようになったの!?」

『初めての飲酒で、日本酒一升瓶一気飲みした馬鹿乙女ですよ』

「ふうん。まあ、それなら……」


「なんでおれが、虎徹の宴会の費用を援助しなきゃならん」

 典太さんは領事の豪華な椅子にふんぞり返っている。

 こいつ、そのうち白猫のはんぺんを抱いて、葉巻でも咥えかねないなとロボ子さんは思った。ちなみにロボ子さん、典太さんの本名も「はん・ぺん」であることはまだ知らない。

『少しでもいいですから出してください。典太さんも宴会に呼んであげますから』

「なにその言い草。おれ、誕生会に呼ばれないでいじけてるさびしんぼ?」

『板額さんにパック酒を呑ませたいのですか』

「わーかった。虎徹には迷惑かけたことあるし、少し出そう。酒代はおれがもつ。マイハニーにうまい吟醸を用意してやってくれ。あ、上限五万な。つうかさ」

『なんです?』

 前屈みになり、上目遣いになり、典太さんは口の前で手を組んだ。

 ますます悪役である。

「なあ、二号機さん。一号機さんや三号機さんを巻き込めば、カネはいくらでも出て来るんじゃないかな?」

 そりゃ、わかっちゃいますけども。

 これ以上、やっかいな宴会にするつもりですか、あんたは。


『それで、主賓のお兄さんの希望ですが』

「私の希望を言えば、こんな宴会を開いてほしくない」

 お兄さんはにべもない。

『さすがは倒れてもトーヘンボク、ゲロ吐いてもトーヘンボク。ロボ子さんは感銘を受けました』

「君はケンカを売りに来たのか。そもそもここは私の部屋だ。アンドロイドとはいえ女性がひとりで、ホテルの男の部屋に来るものじゃない」

『ひとりじゃないみたいですが』

 ここはパークとなりの観光ホテル。

 えっち国宙軍が宿舎として借り上げたうちの一室だ。

 お兄さんの部屋は士官クラス用のシングルである。広いとはいえない部屋の中に、お兄さん、ロボ子さん。そして確かに、どうやら郷義弘(ごうのよしひろ)宙尉補さんとそれに付随する板額さんがフラフラと漂っている。

「まーた、そんなかわいげのないこと言ってる」

 漂う存在が、そんな言葉を吐いた。

「二号機さんに伺いたいが」

『はい、なんでしょう』

「ついさっきまで、この二人はいなかったのではないだろうか」

『そう思いますが、自信がありません』

「君の認知は人類より明確なのではないのかね」

『このような怪異現象に、デジタルな認知がどう役に立つというのでしょう』

「だから、トンネル効果だってば。さっきまで私と板額さんは、となりの私の部屋でエロ本まわし読みしてたんだから」

『してません!』

 板額さんが顔を真っ赤にして否定した。

 どうやらいよいよ本格的に実体化してきたらしい(ごう)宙尉補さん、整髪剤で固めたお兄さんの頭を両手で弄ってとんがり頭にしている。

『それでですね、お兄さん』

「うむ」

 ロボ子さんとお兄さんは怪異を無視して会話を進めることにした。

『斯様に主賓でありながら宴会に否定的なお兄さんにあられましては不本意ではありましょうが、チーム興正以外にもお客さまを招くことをお許し願いたいのです』

「なぜだ」

『この宴会を企画した私のマスターたる長曽禰虎徹が貧乏だからです。スポンサーさまを募らねばなりません』

「明快だ。しかし、会費を集めればいいのではないか」

『私のマスターは現実を見ないええかっこしいやろうなのです』

「明快だ。彼の二親等として君に遺憾の意を表し、彼の部下として君に同情する」

 お兄さんのとんがり頭は、今はモヒカンになっている。

『一号機さん三号機さんの参加を認めていただければ、同田貫(どうだぬき)さま、(みなもと)さまの資金的な協力を仰げるかもしれません』

「理解した」

 現在の頭は、ハリネズミだ。

「同田貫正国(まさくに)氏、源清麿(きよまろ)氏には会ってみたいと思っていた。私を肴にする宴会は愉快とは言えないが、あのふたりと親交を深められるのであれば是非もない」

「素直じゃないですね、宙尉。宙尉を元気づけようという林田(はやしだ)くんの思いやりと、なんとか宴会を無事開こうと奮闘している二号機さんに感謝しなさいよ」

 漂う存在の言葉に、お兄さんは不愉快そうに腕を組んだ。

「わかっている。遺憾ながら二等親だから似ているのだ。私もええかっこしいだということだ」

「あら、ずいぶん素直じゃない」

 郷宙尉補さんが、にっこりと微笑んだ。

 お兄さんの髪型はウンコに進化している。

『私、はしたない本なんて読んでません!』

 まだそこにこだわっているのは板額さんだ。


 そして宴会当日。

 ビール、おっけい。

 吟醸、おっけい。

 三日前から仕込んだ料理、おっけい。

 宴会場のセッテイング、おっけい。

 あとはもしものためになにか用意しておくものはないだろうかと、いつものスーパーをのぞきに来たロボ子さんである。自転車置き場に自転車を止め、あれはあるこれはあると頭の演算チップの中でチェックしながら歩き始めたロボ子さん。そこに、その声が聞こえてきたのである。


「はーい、二号機さーん!」


 なぜだ。

 なぜこいつがここにいるのだ。


 雪月改(ゆきづき・かい)は世界最高峰のアンドロイドである。だからそんな音を出すことはありえないのだ。

 それでもたしかに「ぎしぎし」と。

 油を差していない安物アンドロイドが動くような音を立て、ロボ子さんがぎしぎしと振り返った。

「あれ、なんで人の顔見て、そんな嫌そうな顔しちゃうのー? あはははー」

 西織(にしおり)高子(たかこ)先生が、いかにも独身女性というかわいい軽の窓をあけて脳天気な笑顔をのぞかせていたのだった。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


林田さん。

一等兵曹さん。

長曽禰興正宙尉(お兄さん)の部下。


■ゲスト編。

西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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