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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
120/161

ロボ子さん、実験する。

挿絵(By みてみん)

闇のロボ子さんと光の神無さんが謎を解き明かす。

あーるかでぃあー♪

『あなたにこの事実が否定できるかしらっ!』


 ホテルの駐車場に、ロボ子さんの声が響き渡った。

『彼女は量子レベルでの迷子スペシャリティなのか! それともただの気ままな自由人なのか! 光のロボ子と闇のロボ子が徹底究明! 郷義弘(ごうのよしひろ)宙尉補の謎を追う!』

 駐車場に用意されたのは、ふたつの巨大な鳥かご。

 並べられたパイプ椅子。

 お兄さんもパジャマの上にガウンを羽織り、パイプ椅子に座っている。他にもおなじみのメンバーだ。

「あほかーー!」

 そして響き渡ったのは(ごう)宙尉さんの怒りの声なのだった。


『一方の鳥かごには自称妖精さん、えっち国宙軍宙尉補、郷義弘さん! そしてもう一方の鳥かごには「きのこの里」! さあ、郷宙尉補さんは空間を越えて大好きな「きのこの里」をゲットすることができるのか! 目撃者はあなたたちだ!』


 きのこの里のご提供は長曽禰(ながそね)興正(おきまさ)宙尉。

 ありがとうございます、きのこの里のご提供は長曽禰興正宙尉。


 神無(かむな)さんのアナウンスがはいった。

 いらんこと言わんでもいい。お兄さんは思った。


「なあ、これ、チンパンジーとバナナだよな」

 パイプ椅子に座る林田(はやしだ)さんが言った。

「だよな」

 となりの一等兵曹さんが言った。


「馬鹿なのーー!」

 郷宙尉補さんが鳥かごの格子をがたがたゆらしている。

 しかしその格子、無駄に超合金製だ。

 宇宙駆逐艦補陀落渡海(ふだらくとかい)機関長三条(さんじょう)宗近(むねちか)さん謹製である。暇なのかあの人も。

「私に変な能力があるかもしれないとして! エサがきのこの里なのっ! なんできのこの里なのっ! 小学生か、あんたら小学生かーー!」


「いちど、それで捕獲されたよな」

 林田さんが言った。

「あっという間だったよな」

 一等兵曹さんが言った。


『被験者は我慢強いのか、おなかがいっぱいなのか、なかなか強情です』

「そういう問題じゃないわ、ボケーー!」

『だけどあなたは、これに耐えることができるかしらーー!』

 ロボ子さんが取り出したのは、きったない雑誌だ。ボロボロだ。

『ここにあるのは、郷義弘宙尉補さんがまだ未読のエロ本!』


「なあ、あれ、おれたちのだよな」

「だよな」

「だよね」

 そうつぶやいたのは同田貫(どうだぬき)組の三馬鹿トリオだ。


 きたならしくも使い込まれたエロ本。

 ご提供は同田貫組高校生三人組。ご提供は同田貫組高校生三人組。

 きたならしくも使い込まれたエロ本。

 ご提供は同田貫組高校生三人組。ご提供は同田貫組高校生三人組。


 神無さんのアナウンスがはいった。

「言わなくていいっつーの」


 しかも、恥ずかしいシミつき。

 しかも、恥ずかしいシミつき。


「ついてねえよ!」

「つけてねえよ! テイッシュ二枚重ねで鉄壁だよ!」

「ぼくらの爽やかな印象を悪くするのやめてくれない、二号機さんに神無さん!」

 同級生をオカズにしたと言い放ったことがあるはずの三人組の抗議の中、ロボ子さんはそのきたならしくも使い込んだエロ本を郷宙尉補さんへと誇示し、ぱらぱらとめくってみせた。

『どうだ、郷宙尉補。見よ、この巨乳!』

「え、あっ!」

 郷宙尉補さん、カゴにかぶりつきである。

「見えない、よく見えない! よく見せて! いやあああ! もっとよく見せてよおおお!」


「どうやらエサに食いついているようだが」

 林田さんが言った。

「エサとして、たけのこの里より酷いよな」

 一等兵曹さんが言った。


 しかしロボ子さん。

 にやりと笑うと、その雑誌を閉じて、たけのこの里と同じかごの中に放り入れたのである。絹を裂くような悲鳴が駐車場に響き渡った。

「あ、悪魔……!」

『さあ、どうです、郷宙尉補さん……』

「ううう……!」

『最後の一押しです』

 ロボ子さんが次に取り出したのはプリントアウトされた数枚の写真だ。

 ロボ子さんはそれを、郷宙尉補さんの鳥かごの前でひらひらとさせた。

「ちょ――ま、まって、なにその美少女……」

 郷宙尉補さんが息を呑んだ。

 遠目のサービスサイズでもわかる、美少女オーラ。


『地元の高校生、井原(いはら)優子(ゆうこ)さんの生写真です。しかもミニの看護師姿!』


 ロボ子さんが言った。

 同田貫組の三人組まで色めき立っている。

「えええっ、なんでここで井原先輩!?」

「か、看護師姿!?」

「データちょうだい、データちょうだい、二号機さん、そのデータちょうだい!」

『あんたら三人組、ばっちいからあげません。井原ちゃんの麗しい看護師姿は西織(にしおり)先生と私たちだけで愛でるのです』

「ばっちい言われた!」

「ばっちい言われた!」

「ばっちい言われた!」

 ロボ子さんはかぶりつきの郷宙尉補さんを見下ろした。

『どうです。この黒髪の美しいこと。ミニからすらりと伸びる足の魅惑的なこと』

「あんた、わかってないわね! その写真のそそるところは、制服によって際立つスリムな体のライン! そして! その締め付ける制服に抗って主張する胸の膨らみよ!」

『この被検者、発言がますますまんまオヤジになってまいりました』

 ロボ子さんは井原先輩の写真をたけのこの里の鳥かごに投げ入れた。

 もう絹を裂くような悲鳴どころではなかった。

 絶叫なのだった。

 郷宙尉補の絶叫が、そして慟哭が、駐車場を悲しく染めた。

『さあ、郷宙尉補! 見せてごらんなさい、あなたの力を!』

「わあああっ!」

 郷宙尉補さんが立ち上がった。

 あの鳥かごには、大好きなたけのこの里が! 男子高校生を堪能させたエロ本が! そして美少女生写真が!

「わあああっ!」

 郷宙尉補さんは猛然と鳥かごの格子を蹴り始めた。


「チンパンジー以下だったな」

 林田さんが言った。

「いろいろとな」

 一等兵曹さんが言った。


『郷宙尉補さん。その鳥かごは超合金。三条宗近さん謹製です。無駄なことはやめましょう』

「ならばっ!」

 賢い郷宙尉補さんは拳銃を抜いた。

 繰り返す。

 ツァラトゥストゥラはかく語りき。賢い郷宙尉補さんはついに道具を手にした。

「私のものにならないのなら、私の手で粉砕してしまうまで!」


「わあああ、やめろ!」

「やめろ!」

「やめろ!」

「馬鹿が拳銃を手にしたぞーー!」

「伏せろ!」

「伏せろーッ!」


「アァーデオース!」

 郷宙尉補さんが銃を構えた。

「さらば、私のたけのこの里! さらば、私のエロ本! さらば、さらば、私の美少女生写真……!」

 しかし引き金が引かれることはなかった。

『えい』

 ごん。

 いつの間にか郷宙尉補さんの鳥かごの中に入っていたロボ子さんが、郷宙尉補さんの脳天に手刀を叩き込んだのだった。


『結局、郷宙尉補さんの空間転移を目撃することはできませんでした』

 ロボ子さんが言った。

『残念でしたね、先輩。カメラ数台回してたのに』

 神無さんが言った。

 ていうか、回してたのですか。

『NHKに売ってお小遣いかせぎしようかと』

 そっちかよ。


 春の陽気の中、ホテルの庭はピクニック気分だ。ロボ子さんもレジャーシートをひろげ、たくさん作ってきたおいなりさんを振る舞っている。

 賢い郷宙尉補さんが貪っているのは、ご褒美として与えられたきのこの里なのだが。

『狙ってできないのですか?』

 ロボ子さんが言った。

「狙ってできるのなら、むちゃくちゃ便利すぎるわよ」

 郷宙尉補さんが言った。

『自称トンネル効果でしたね。それも含めて「観測するまでどこにいるのかわからない」のが郷宙尉補さんなのかもしれません』

 ロボ子さんが言った。

『つまり、観測されている中、衆目の中ではあの不思議な能力を発揮できないのです』

『でも私の目の前で、ときどきどこかに行っちゃいますよ」

 ふたたび郷宙尉補さんの首輪にはめられたリードを律儀に握っている板額(はんがく)さんだ。

『もちろん、その時には私も一緒にどこかに行っちゃうのですけど』

「私だって、ここまで変になったのは地球に降りてからよ」

 郷宙尉補さんが言った。

「確かに迷子の天才とか言われてたけどさー。物理的にぽんぽん飛んじゃうようになったのはたぶん地球に来てからよ。地球ってそういうところなの?」

 ああ、とロボ子さんは思った。

 妖精さんの秘密が分かっちゃった気がする。


 ――この村はなぜか11次元が歪んでいるんです。何かが起きる村なんです。


 今度、あの狐面の二人のところに行ってみよう。

 ロボ子さんは思った。

 郷宙尉補さんのことが聞けるかも知れない。


彷徨(さまよ)う必要なんてないのに」

 郷宙尉補さんがぽつりと言った。

「家に帰っても、もう彼女はいないんだから」

 郷宙尉補さんのそのつぶやきを聞いたのは、黙々とロボ子さんのおいなりさんを食べていたお兄さんだけかもしれない。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


■ゲスト編。

井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。


同田貫組高校生三人組。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

歌仙 海。(かせん うみ)

千両 空。(せんりょう そら)


林田さん。

一等兵曹さん。

長曽禰興正宙尉(お兄さん)の部下。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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