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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
119/161

お兄さん、休養する。

挿絵(By みてみん)

お兄さんを悩ますスチャラカ軍団に、無駄に井原先輩までもが参戦!

『先輩、私たち、思えば好き放題に吐きましたね』

『そうですね、後輩。私たちほど傍若無人でロックなゲロッターはいませんでした』

『ファッキンなのですね』

『ファッキンゲロッターなのです、後輩』

『アメリカ人にファッキンとユノウを禁止したら、会話が成り立つのでしょうか、先輩』

『NHKアナに「どんな気持ちで」を禁止したら、インタビューが成り立つのかにも興味あります、後輩』

「いや、ちょっと待ってくれ」

 お兄さんが手を挙げた。

「そこは攻めるべきところなのか? アメリカやNHKから苦情がこないか?」

『攻めたいのです』

『私たちはぎりぎり攻めたいのです』

 お兄さんとロボ子さん神無(かむな)さんの三人は、腕を組んでうなった。


 なにをやっているのだろうかと思う。


 おれより強面の軍医に一週間の静養を命じられたはずなのだが、なぜおれはアホの子コンビの漫才の稽古に付き合っているのだろう。ていうか、なぜこのアンドロイドコンビは人の部屋で漫才を稽古しているのだろう。


『それでは新作に挑戦です!』

『「よいゲロ、悪いゲロ、普通のゲロ」!』

「なあ」

『そして!』

『「リアルなゲロ、ありがちなゲロ、ねらいすぎなゲロ」!』

「なあ、君たち。なぜそう執拗にゲロのネタばかりなのだ。漫才の稽古と言いつつ、私への嫌がらせじゃないのか?」

『当たり前じゃないですか!』

『ぷっぷー! 今ごろ気づきましたか! ぷっぷー!』

「帰れ」

『私たちの付き添いの時間は明日の朝まで! それまでがんばってお兄さんを笑い殺しちゃいますようっ!』

『がんばりましょう、先輩っ!』

 ああ、こいつら、おれがここに来た初日にさんざんしごいたからな。意趣返しのチャンス到来ではりきっているんだろうさ。

 お兄さんはベッドの上に寝転び、本を開いた。

「勝手にやってくれ。私は君たちを無視する」

『はあい、どうぞ、どうぞ! でも私たちの面白さはきっと無視できませんようっ!』

『がんばりましょう、先輩っ!』

 疲れの知らないアンドロイドの漫才は本当に延々と続いた。

 何回か、「くすっ」と笑ってしまったのがお兄さんにはくやしかった。


「ところで」

 今日の朝は、いつもと違う少女がいる。

「君は誰なのかね」

『話しかけないでっ!』

 背を向けたまま声を張り上げたのはゴスロリに身を包んだ少女だ。

 ていうか、この部屋のテレビは二八型だと思ったが、いつの間にこんな巨大なテレビになったのだろう。画面には、カクカクとしたキャラ。

『今、バーチャファイターの最速クリア+最高段位同時獲得に挑戦中なのっ! ギリギリのタイミングを計っているんだからっ!』

 はあ。

 よくわからないが。

「頑張ってくれたまえ」

 三号機さんは拳を突き上げ、お兄さんの応援にこたえた。


 次に目が覚めたときには、今度はセーラー服を着たアンドロイドがベッド脇の椅子に座っていた。

「……」

 美人だ。

 清楚だ。

 しかし、なにか類い希な違和感がある。

長曽禰(ながそね)興正(おきまさ)宙尉』

 と、そのアンドロイドが言った。

 手にはお茶。紅茶ではない。緑茶だ。

『いま、あなたが感じた印象を正直におっしゃってください』

「……」

 正直に言ってよいのなら。

「特殊性癖に特化された接待を伴う飲食店――に、いま自分はいるのだろうかと思いました」

 お兄さんが言った。

『私は若いのです。私はババアではないのです。このセーラー服も元はと言えば私のものなのです。二号機さんより私に似合うはずなのです』

「はい」

『傷つくわ』

「はい」

 一号機さんは黙り込み、またお茶を飲んだ。

 なんとも言えない緊張感にお兄さんも黙り込み、ただ天井を見上げるしかなかった。


 次に目が覚めたときには、黒髪の少女がお兄さんの顔を覗き込んでいた。

 文字通り目が覚めるような美少女だ。

 看護師の姿をしている。ああ、すちゃらかアンドロイドたちだけではなく本物の看護師もつけていてくたのか。

「ご、ご気分はどうですか、長曽禰興正宙尉」

 しかし、この看護師は妙に動揺していないか。

「ああ、今朝はかなりいい。ありがとう。君は」

「名もなき通りすがりの看護師です」

「うん?」

「私の存在は記憶の錯誤です。もう一度眠ったら全部忘れてください」

「?」

 よく見ると、この看護師のスカートは妙に短くはないか。

 フラッシュが光った。

「ナイスです!」

 別の女性の声がした。

 そちらを見ると、多少年齢がいっているようだがこちらも目が覚めるような美女だ。大きな一眼デジカメで看護師を撮りまくっている。

「せ、先生、どうするんです。この人、目が覚めちゃいましたよ!」

「いいの、いいの。そうやって慌てている井原ちゃんの顔もいい! たまんない!」

「先生が、私の看護師服姿撮りたいというから」

「井原ちゃんだってまんざらでもない顔してたじゃん。バイト料はずむから! 内申も色つけちゃうよ!」

「内申とか、だめです! 私、そんなの要求してません! そんな卑怯なことしたくありません!」

「も~~~う! 気の強い美少女、たまんねえなああ! がははは!」

 美女だと思ったが、どうやらただのおっさんのようだ。

「ロボ子ちゃん、最高のロケーション紹介してくれてありがとう!」

 ああ、やっぱりあのアホの子が絡んでいたのか。

「失礼」

 部屋のドアが開いて、ひょろっとしたメガネの青年が入って来た。

 ゴン!ゴン!ゴン!

 ひょろっとした青年だが、そのゲンコツには力強さがあるとお兄さんは感心した。

「申し訳ありません。うちの生徒と馬鹿教師がご迷惑おかけしました。私は地元の高校の物理教師、長澤(ながさわ)圭一郎(けいいちろう)と申します。また改めてお詫びに伺います。来い、西織(にしおり)井原(いはら)!」

 二人の首根っこを掴み、長澤先生は出ていった。

 ドアを閉めたのは「露穂子(ろほこ)です」と謎の言葉を残した目つきの鋭い少女だ。

『井原ちゃん、やっぱり美人ですねえ。たまんないですよねえ、あの看護師姿! ミニからすらりと伸びる足! 私もあとで画像わけてもらおうっと!』

 でっかいたんこぶを脳天に作ったロボ子さんが、ご機嫌で姿を現した。

 そういやさっき、ゲンコツの音が三つしてたな。

 お兄さんは思った。


 次に目が覚めたとき、部屋の中にいくらなんでもわざとらしい気配が漂っているのにうんざりした。

「お、気づかれましたか。さすがですな、宙尉!」

 クローゼットの戸が開け放たれた。

「とうっ!」

 飛び出してきたのは迷彩服の男。

 狙撃銃を手にした人間無骨(にんげんむこつ)さんである。

「今度は宙兵隊か。いったいなんなのだね」

「さすがですな!」

 人間無骨さんが言った。

補陀落渡海(ふだらくとかい)きってのスナイパーである私の気配を察知し、そして一目で私の正体を宙兵隊と見抜いた。さすがは、うわさに違わぬ切れ者ですな!」

「私にケンカを売っているのかね」

「いいえ、とんでもない」

 人間無骨さんは、にやりと笑った。

「同じ宇宙船乗りで蛇蝎のように嫌われる者同士。いちど顔を拝んでおきたかったものでして」

「帰ってくれ」


 お兄さん、これは早く元気にならねばと思った。

 すちゃらかなのはアンドロイドだけではなかった。この村では地球人や宙兵隊まですちゃらかなのだ。


 このままでは、おれはあいつらのいいおもちゃになってしまう。


「具合はどうかね、長曽禰興正宙尉」

「軍医どの。私の部屋にまでわざわざありがとうございます」

「おおっ!?」

「どうなさいました、軍医どの」

 お兄さんを越える強面で威厳の固まりのような軍医さんが動揺している。

「ロボ子さんと神無さんがいないではないか!」

「はあ」

「彼女たちの漫才を楽しみに来たのに!」


 ああ。

 はやく元気になろう。


 そして今夜も、彼女の気配がした。

 鼻歌を歌って、この部屋を通り過ぎていく。そのすぐあとをパニックを起こしているらしい板額(はんがく)さんの気配がついて行く。

 なにが妖精だ。

 ただの怪異現象じゃないか。

 はやく出社できるようにならないと、ここにいてはおれは気が休まらない。


 それにしても――と、お兄さんは思った。

 彼女の鼻歌、実はお母さんの曲が多いということに彼女は気づいているのだろうか。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


■ゲスト編。

西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、千石くんらぶ。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


一号機さん。

雪月改一号機。マスターは同田貫正国。マスターからは弥生さんと呼ばれる。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。和服が似合う。通称因業ババア。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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