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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
長曽禰興正編。
116/161

郷義弘さんと板額さん、コンビになる。

挿絵(By みてみん)

 ――郷義弘(ごうのよしひろ)。宙尉補。宙軍士官学校出身。


 えっ、本当か。

 あのすちゃらかぶりで士官学校出身なのか。まあ、賜刀組でもうちの弟のようなお気楽男ができあがるわけだしな。って、こいつも賜刀組か!

 いったいどうなっているんだ、この頃の士官学校は。


 ――学業成績はトップながら、頻繁に見せる反抗的態度で賜刀組に入れるかどうかで物議を醸した。


 なるほど。


 ――成績優秀ながら出世街道をいきなり踏み外している者には、他に長曽禰(ながそね)興正(おきまさ)宙尉。


 あのな。

 (ごう)宙尉補のことを調べていて、なんで自分の名前を見なきゃならんのだ。しかも、名前がもう地球名(ソウルネーム)に修正されている。こいつも不撓不屈(ふとうふくつ)メインコンピューターの嫌がらせかなのだろうな。あいつ、妙に皮肉屋で諧謔趣味がある。


 ――実年齢、二六歳。戸籍年齢、四八歳。


 意外と年を食っている。

 あの事務処理能力はどの船でも有り難がられたということか。

 そして年中、船の中だ。

 今のワープ時代になっても、一度出航してしまえば本星からの補給は期待できない。おれが、歓迎されない割にどの艦からも必要とされるのは、どの科だろうと高いレベルでこなすことができるからだ。

 便利屋や安全装置としてちょうどいい。

 そして。――

『長曽禰興正宙尉』

 コンソールから声がした。

 ここは地球衛星軌道上の宇宙巡行戦艦不撓不屈(ふとうふくつ)。そのお兄さんの個室だ。久々に戻ってきたわけだが、懐かしいとも思わない。すでに何十の宇宙艦で十数年を過ごしたお兄さんなのだ。この部屋は、そのなかのひとつにすぎない。

「長曽禰興正宙尉だ」

『準備が整いました。船務長の個室までおいでください』

「諒解した」

 端末の電源を落とそうとしたお兄さんは、そこに意外な文字列が並んでいるのを見た。


 ――郷義弘宙尉補の母親は、有名な歌手である。


 ふうん?

 お兄さんは電源を落として立ち上がった。


 船務長。階級は宙佐|(少佐相当)。

 普通なら、宙尉がその個室のキーを持っているわけがない。だが今、お兄さんは軽くノックしただけで自分のキーを使って解錠し、ドアを開けた。

 自分の部屋とまったく変わらない狭い部屋で、ベッドを椅子がわりにして船務長さんが座っている。

 お兄さんは後ろ手でドアを閉めた。

 外の宙兵隊によって、そのドアが施錠される音が聞こえた。

「やはりおまえが来たか」

 船務長さんが言った。

「死神」


 そして――。

 安全装置としてのおれが、もっとも期待されているのが()()だ。


 船務長さんは苦笑を浮かべた。

 これが彼のせいいっぱいの強がりなのだろう。

「おれはついに、艦長に見捨てられたんだ」

「違います、船務長」

 お兄さんが言った。

「あなたに替えがいないから、私が来たのです」

「なんとでも言える」

「セクハラの常習でいくら注意しても直らない。それはやがてパワハラとなり、情実人事となり、あなたによる艦の秩序の破壊は見逃されるレベルではなくなった」

「……許してくれ」

 船務長さんの体が小刻みに震えている。

「なぜあなたは、度重なる警告の段階で心を入れ替えなかったのです」

「頼む、許してくれ……」

 涙がボロボロと落ちていく。

 今さら泣くなら、自分で修正してくれればよかったものを。

「あなたはこれから士官候補生の劣等生なみに扱われる。自我がなくまるまで叩き込まれる。三二歳でそれは精神崩壊を招きかねないことだが、不撓不屈には優秀な医療スタッフがいる。私もあなたのような人物の扱いは慣れている。耐え抜いてくれるのを期待する」

 三二歳。

 ああ、弟もそれくらいだったかな。そんなことを思った。

 お兄さんは黒い手袋をはめた。


『この頃、どうも静かで落ち着いていると思ったら、お兄さんがいないのですね』

 例によって、ロボ子さんの報告を頬杖をついて聞いている虎徹(こてつ)さんだ。でもこれは雑談かな。

「興正宙尉は、用があって上の不撓不屈にいます。ていうか、その書類、ロボ子さんも見ませんでしたか」

『ロボ子さんはこの頃、右から左に忘れることを覚えました』

「さようで」

『お兄さん、頼りにされているんですね』

 ロボ子さんの言葉に、虎徹さんは苦い表情を浮かべた。

 書類にはっきり書いてあったわけじゃない。

 しかし宙軍関係者が読めば、なにをさせるためにお兄さんが呼び出されたのかくらいわかる。地上勤務として追いだしておきながら、汚い仕事をやらせるために呼び戻すというのは、いくらなんでも過酷だ。

 正直、虎徹さんも不撓不屈のやり方を苦々しく思っている。

『チーム興正はどうなっているんです?』

「郷義弘宙尉補がいるでしょう」

『あの人、おとなしく机に座っているんですか?』

板額(はんがく)さんが睨みを利かせているみたいよ」


 たしかに。

 チーム興正(おきまさ)の部屋では、郷宙尉補さんがちゃんと自分の席について仕事をしているようだ。

 しかし鬼の形相である。

 首には大型犬用の首輪。

 首輪から伸びたリードを握るのは板額さん。

 能面のように表情を変えず、ほんの少しも体を動かすことなく、じっと郷宙尉補さんの後に立っている。

「板額さん!」

 郷宙尉補さんが叫んだ。

『なんでしょう、宙尉補』

「休みが欲しいです!」

『どうぞ』

「リードに縛られない自由が欲しいです!」

『それはできません』

「あなたねえっ!」

 大声を張り上げながら、なぜか書類は次々と仕上がっている。

「夜まで私のベッドの横に立って! リード握ったまま! プライベートをちょうだいよ! それにあれ、嫌がらせでしょ、そうなんでしょ、あれ!」

『なにがでしょう』

「夜、目を光らせてるでしょう! あれ、怖いから。目が覚めたときびっくりするから。なんど見ても心臓止まりそうになるから!」

『ああ、あれ』

「板額さんの目は常夜灯の明かりで充分なはずだって、典太(でんた)宙佐が言ってましたよ!」

『そうです』

「やっぱり嫌がらせ!?」

『そうです』

「死ね、この乙女アンドロイドっ!」

 半狂乱で仕事をする郷宙尉補さんのおかげで、チーム興正の他のメンバーがすることはあまりない。


 郷宙尉補さんと板額さんのこの関係は、数日前に遡る。

 お兄さんから「私がいない間、決してこのリードを手放さないでください」と念を押された板額さん、生真面目にそれを守っていた。

 もちろん郷宙尉補さんにはうるさくてしょうがない。


 反撃に出たのだが、返り討ちにあってしまったのだ。


『あなたは、シャワーが終わるのを外で待っていた私に全裸で抱きついてきて、混乱して動けなくなった私の体をなで回しました』

「はい……」

 宿舎であるホテルの、郷宙尉補さんの部屋。

 バスタオル一枚巻いただけで正座させられている郷宙尉補さんである。頭にはでっかいたんこぶ。

「板額さんスタイルいいから、気持ちいいかなーって。堅くてそうでもなかったです! あはは!」

 ぎろり。

「は、すいません。話の腰を折ってしまいました。どうぞお続けください。どうぞ」

『さらに私に殿方が見る破廉恥な雑誌を押しつけました。何度も何度も。私が泣いてやめてくれることを懇願したのに、押しつけてきました』

「はい……」

『私はオーバーヒートをおこしました。あなたは、その私の服を脱がして写真を撮りました』

「はい……でも、板額さん、脱がしても全身黒タイツみたいな感じで、いまいちエロくないのね。うふふ」

 ぎろり。

「は、すいません。恥ずかしい写真ゲットで脅そうと考えました。オレを受け入れなければこの写真を村中にばらまいてやるぜ、がはは!的な。わたくし、昭和のおっさんやってしまいました」

『緊急回路が稼働しなければ、私は純潔を失っていたかも知れません』

「それなんだけど、板額さん、ほんとに純潔なの?」

 ぴくり。

三池(みいけ)典太(でんた)宙佐って、ハンサムでモテそうじゃない。その彼が乙女回路搭載した板額さんで我慢できるの?」

 ぴくり。

 ぴくり。

 にたり。形勢逆転である。

 悪魔の笑いを浮かべ、郷宙尉補さんは立ち上がって板額さんに近づいた。

「……もしかして使っているの?」

 郷宙尉補さんは板額さんの耳元で囁いた。

「アンドロイドにもひとつだけ使えるところがあるよね……」

 板額さんの左腕が爆発音をおこした。

 いつの間にか板額さんは左腕の袖をめくっていて、内蔵のボウガンが起動したのである。板額さんは躊躇なく矢を連射した。

「ぎゃああああ!」

 郷宙尉補さん、バスタオルごと壁に縫い付けられてしまった。

 無表情の板額さんがゆらゆらと迫って来る。

「ごめんなさい、調子に乗りました! もういいません! 助けてください!」

 ボウガンの先を郷宙尉補さんの口に突っ込む板額さんだ。

『はしたないのは、この口ですか?』

「はううぅ」

『聞いているのです。この口ですか?』

「ふひいぃ」

『聞こえませんねえ!』

「はひいぃ」


 こうして、ふたりの力関係が定まったのである。


■登場人物紹介・主人公編。

長曽禰興正。(ながそね おきまさ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉(大尉相当)。

超有能なのだが、その朴念仁ぶりで未だに宙尉のまま。虎徹さんの実のお兄さん。


郷義弘。(ごうのよしひろ)

宇宙巡洋戦艦・不撓不屈の宙尉補(中尉相当)。

歴とした女性。事務仕事にかけては有能だが、とんでもない方向音痴。


■アンドロイド編。

ロボ子さん。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公。買われた先が実は宇宙人の巣窟で、宇宙船を廻る争いに巻き込まれたり、自身も改造されて地上最強のロボになってしまったりする。

時代劇が大好き。通称アホの子。


一号機さん。

雪月改一号機。弥生。マスターは同田貫正国。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。

和服が似合う。通称因業ババア。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


板額さん。

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


神無さん。

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


■人物編

長曽禰虎徹。(ながそね こてつ)

えっち星人。宇宙艦補陀落渡海の艦長。宙佐(少佐相当)。

ロボ子さんのマスター。地球に取り残されるのが確定した時も絶望しなかったという、飄々とした性格。生きることに執着しないので、ロボ子さんからときどき叱られている。


三条小鍛治宗近。(さんじょう こかじ むねちか)

えっち星人。機関長。宙尉(大尉相当)

長曽禰家の居候。爽やかな若者風だが、実はメカマニア。ロボ子さんに(アンドロイドを理由に)結婚を申しこんだことがある。


源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病オヤジ。美形。


同田貫正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


三池典太光世。(みいけ でんた みつよ)

えっち星人。航海長。宙尉から後に宙佐。

方針の違いから虎徹さんと袂を分かった。後に補陀落渡海を廻って争うことになる。虎徹さんとは同期で、会話はタメ口。板額さんのパートナー。


■その他。

補陀落渡海。(ふだらくとかい)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。亜光速航行ユニットをつけた外宇宙航行艦。駆逐艦とされているが、現実には巡洋艦である。

現在はモスボール処理がなされ、パークに展示されている。


不撓不屈。(ふとうふくつ)

えっち星、えっち国宙軍宇宙艦。補陀落渡海は亜光速ユニットによるタイムジャンプ航法で恒星間航行をしていたが、この艦はワープ航法が可能になっている。ワープポイント間を一瞬で結ぶことができる。

宇宙巡洋戦艦。

現在は地球衛星軌道を回っている。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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