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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
幕間。
107/161

清麿さんの優雅な休日。

挿絵(By みてみん)

 (みなもと)清麿(きよまろ)

 ほんの数年前に彗星のごとく現れた売れっ子作家である。

 独特のひねくれた設定と、木で鼻を括ったような文体と、なにが彼をそうさせるのかわからない傍若無人な展開で読者を飽きさせないと評判である。もちろん、その正体がえっち星人であるのはご承知の通りだ。


 さて、その清麿さん。

 朝の眠りを楽しんでいる。

 彼のいささか子供っぽい(簡単にいえば中二病である)嗜好でいえば、彼は低血圧でなくてはならなかった。朝、目覚めるのに数時間かからなくてはならなかった。立ちくらみを起こして三号機さんに助けられなくてはならなかった。


 だが、残念なことに彼は目覚めが良かった。

 ただの高血圧であった。


 その上、宇宙駆逐艦補陀落渡海(ふだらくとかい)副官相当砲雷長として、一瞬で眠りに落ち一瞬で目覚める生活習慣も身に付いていた。

 そういうわけで。

 実はベッドの中で、ずうっとイライラしていたりする清麿さんである。

(いつまでこうしていれば、美しいだろうか)

 もぞもぞとアンニュイを演技しながら。

(やあ、春の柔らかな朝の光が私を包む……ああ、くそ、もう起きたい! 早く起きて腕立て伏せしたい! しゃきしゃきしたい!)

 すればいいのですよ、清麿さん。

(私の美学が、私にそれを許さない……!)

 面倒くさい人です。


『気をーつけィッ!』


 寝室に突如響いた号令に、清麿さんはベッドから滑り下り直立不動の体勢を取って敬礼した。

「私の天使……」

 清麿さん、敬礼したまま泣きそうな声を出した。

 朝食を載せたトレーを手に三号機さんが立っている。

「やめてくれないだろうか、私の天使。そう言う冗談は良くないと思うのだ……美しくないと思うのだ……」

『でもマスターを起こすにはいちばんです。朝食をお持ちしました。いつも通り低血圧を気取ってベッドで食べますか。もう起きちゃったのだからダイニングで食べますか』

「すべて見られているのに、ベッドに戻るのはさすがに恥ずかしいのだ……」

『では、ダイニングにお持ちします』

 三号機さん、クルッと体を回して出ていった。

 嫌がらせがどんどん予想不能になってきている。

「来たときにはあれほどに可憐だったのだ……。二号機さんや一号機さんと付き合っているせいなのだ……」

 清麿さんは嘆き、そして「しゃあっ!」「しゃあっ!」と声を上げながら腕立て伏せと腹筋を五〇回ずつ済ませてシャワーを浴び、自宅であるのに背広を着るとダイニングへと向かった。


 朝食は清麿さんの好きなフレンチトーストだった。

 しかも清麿さんがトレーニングを開始したのを察知して、はじめに作ったものは(換装なった三号機さんの胃袋の中に)廃棄し、新たにちょうどいいタイミングで焼き上げてくれている。

 素晴らしい、雪月改(ゆきづき・かい)

 私の天使。

 三号機さんお手製の甘いジャムをたっぷり塗って、清麿さんはトーストを口にした。


 さて、朝っぱらからだらだらしていたのは、ちょうど新刊を上梓したばかりで、今は休みだということもある。評判も売り上げも上々だそうだ。

 鼻歌がでる。

 機嫌はすこぶるよい。

 ところで、書斎の机の上にプリントアウトされ綴じられているものはなんだろう。

『女装地獄』

『キンタマとオレとは同期の桜』

 三号機さんがなんらかのレポートをまとめてくれたのだろうか。次回作のアイデアのために? しかし、このタイトルはどういうことだろう。私の天使は下品さまで二号機さんや一号機さん、神無(かむな)さんから学んでしまったのか。

 清麿さん、しばらく考えて、とりあえず手に取った。


『マスター、どうしました。髪の毛が逆立っているようですが』

「うむ」

『マスター、お客さまがおいでです。お通ししてもよろしいでしょうか。とりあえず深呼吸して気を落ち着かせてください』

「うむ。私としたことが、少し動揺したようだ。お客さま? 出版社の方かね」

『いいえ、ファンの方です』

 清麿さんは眉をひそめた。

 ファンへの対応は三号機さんもとうに慣れていて、今さら確認してくることはないのだが。

『実は、私の知り合いの方なのです。二号機さん、神無さんのお友達でもあるそうです。板額(はんがく)さんに、そして歌仙(かせん)さんの知り合いでも』

 いやな予感がする名前が列挙されている気もするが、とりあえず聞き流して。

「君の友達であるなら、私は会わねばなるまい」

 清麿さん、自分の姿を確認して、「どうだね、おかしなこところはないだろうか。君に恥を掻かせるような私でなければよいのだが」

 三号機さんは清麿さんのネクタイを少し整えた。

『はい、マスターはいつもかっこいいです』

 もう少しで、ふにゃふにゃの笑顔を浮かべてしまうところだった清麿さんである。


「きゃーーーー!」

 応接室に露穂子(ろほこ)さんの黄色い声が鳴り響いた。

 もちろん、お客さまというのは長澤(ながさわ)露穂子さん。そして板額先生こと西織(にしおり)先生のふたりである。

「きゃーーーー! あっ、ごめんなさい。だめ、ほんとに源清麿だ! あ、ごめんなさい、源さんです、源清麿さんです! 信じられない、すごい、ほんとにかっこいい! やだ、すごい、動いてるうう!」

 頬を染め涙までこぼしながら女子高生らしく興奮している露穂子さんの隣で、さすがの大人の余裕の西織先生だ。

「はじめまして、源清麿先生。隣町の高校の教師をしております、西織高子(たかこ)と申します。この子は教え子の長澤露穂子さん――」

 露穂子さんのテンションに押され気味だった清麿さん、その言葉に反応した。

「ロボ子さん?」

「露穂子です」

 そこだけ素に戻って訂正した露穂子さん、次の瞬間にはまたぴょんぴょん跳びはねている。いささか面食らいながらも清麿さん、とりあえず席を勧めた。

「どうぞ、お座りになってください。西織先生に長澤……」

「露穂子です」

 ほんとうはアンドロイドじゃないのだろうかと疑ってしまうくらい、一瞬で表情が変わる。

「まあ、うちの秘書|(三号機さん)と友達でいてくださるそうで、どうか仲良くしてやってください」

「友達?」

「友達?」

 と、ふたりそろって失礼な反応を見せて。

「私、源清麿さんの本、ぜんぶ読みました!」と、露穂子さん。

「まあ、まだ五冊しか出してませんしね」

「歌仙くんより、背が高いのですね」と、西織先生。

「そうですか。彼もぐんぐん背が伸びて、もう抜かれたかもしれないと思っていました」

「なんといってもデビュー作が最高です。衝撃的でした。あ、犯人の名前いってもいいですか。伏せましょうか」と、露穂子さん。

「いや、私が作者ですからね」

「三号機さんによると、あの宇宙船補陀落渡海のなかで、歌仙くんが弟で、先生は兄であったと」と、西織先生。

「ちがう」

 清麿さんが即答した。

 清麿さんのこの反応に、露穂子さんと西織先生、この世の終わりのような顔をした。

「違うんですか……!?」

「どうやら私のことも歌仙のことも知っているようだから話すが、彼はたしかに補陀落渡海で私つきの見習い士官準備生だった。ボーイだね。いろいろ教育はしたが――いや、なぜあなたたちは嬉しそうな顔をしているのだ?」

「ボーイなんですね……」

「教育したんですね……」

「……」

 そこにティーセットを載せたトレーを手に三号機さんが現れた。

 カップにお茶を注ぎ、真顔になっている清麿さんと期待と妄想に溢れた顔の露穂子さんに西織先生の前に並べていく。

「三号機さん」

 真顔のまま、清麿さんが言った。

「君、この方々に、いったいどんな話を吹き込んだのかな」

『あることないこと』

 ぶっちゃける三号機さんである。

 潤んだ瞳で露穂子さんが言った。

「ねえ、西織先生。たしかに長身二人の絡みはスペクタクルではあるけど……」

 なんのスペクタクルだよ。

「そうね、露穂子ちゃん。大男と小柄な千両くんの組み合わせもいいかもしれない……」

 大男って言い方はやめてくれないか。

『大男二人に襲われる千両(せんりょう)くんというのもありだと思います』

 三号機さんの言葉がふたりにスイッチを入れた。

「清麿・歌仙×千両!」

『ありですよね』

「まさしく! 同志!」

「同志!」

 盛り上がる女性三人をまえに、ものすごく居心地の悪い清麿さんなのであった。


 結局、露穂子さんと西織先生は、さんざんBLの設定話で盛り上がり、昼食まで食べ、サイン入り最新刊までゲットして帰って行った。

「いったいなにをしに来たのだ、あのふたりは」

 やや憮然としている清麿さんだ。

 だが一方、三号機さんがあんなに楽しそうに笑っているのを初めて見たような気もするのだ。当初は「友人?」と失礼なことを言っていたあのふたりも、そのうち三号機さんと手を取り合ったり背中をバンバン叩きあったりしていたではないか。

 いい香りが漂ってきた。

 三号機さんが淹れ立てのコーヒーを机に置いた。

「楽しかったかね、私の天使」

『はい、マスター』

「私の都合もあるが、友人は遠慮せずに招いていい」

 三号機さんが上目遣いに聞いてきた。

『美人でしたね、ふたりとも』

 つい最近思いっきりひっぱたかれ、お花畑とその向こうの小川を見た清麿さんだ。もう学習している。

「君がいちばんきれいだったから、私は鼻が高かった」

 コーヒーを手に清麿さんが言うと、三号機さんは嬉しそうに微笑んだのだった。


 うん、悪くない午後だ。


■登場人物紹介。

源清麿。(みなもと きよまろ)

えっち星人。副長相当砲雷長。宙尉(大尉相当)

三号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、小説家に転身。現在は超売れっ子となっている。三号機さんを溺愛する中二病。


三号機さん。

雪月改三号機。私の天使。マスターは源清麿。

小悪魔風アンドロイド。マスターが彼女を溺愛している上に中二病小説家で、それにそったキャラにされている。

基本的にゴスロリ。描写は少ないが眼帯もつけている。


長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。



二号機さん。

ロボ子さん。本編の主人公。

雪月改二号機。長曽禰ロボ子。マスターは長曽禰虎徹。


神無さん。(かむな)

雪月改の後継機である神無試作一号機。


板額さん。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。三池典太さんと付き合っている。浮気などしたら許さない。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。現在高校生。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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