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ロボ子さんといっしょ!  作者: 長曽禰ロボ子
三人組高校に行く。編
101/161

天体観測の夜。その7。

挿絵(By みてみん)

三号機さん。

『ばっかみたい』

 地学教室の机の上に紅茶セットとケーキスタンドを並べ、優雅にティータイムをはじめたのは三号機さんだ。

『男なんて、しょせん汚れた動物。今さら騒ぎ立てることがあるかしら。めんどくさい』

 長澤(ながさわ)先生は怒ってドームに引きこもり、それ以外の全員が地学教室に降りてきた。


 オカズ発言で女生徒からそれこそ汚物扱いされている三人組。叱られんぼで酔いが抜けていない西織(にしおり)先生。

 彼らは床の上に正座させられている。

 西織先生は鼻歌交じりで陽気に体を揺すっているのだが。

 仮眠コーナーには、幽体離脱したままの高梨(たかなし)春美(はるみ)さんの抜け殻だ。


『それで、なんで三号機さんがここにいるんです』

 二号機さんが言った。

『自転車で』

『そういうことではなく』

『自転車でお出かけする二号機さんと神無さんがうらやましかったので、ちょっとかわいいレトロぽいのをマスターに買って貰ったの。せっかくかわいい自転車だったのに、ティーセットとケーキスタンドを箱に詰めて後ろに乗せたら、まるで私、ただのラーメン屋の出前じゃない。めんどくさい』

『そういうことでもなく』


 三号機さんによると。

 三号機さんがテレビを見ていたら、三号機さんのマスターの(みなもと)清麿(きよまろ)さんが後ろに立ち、「きれいな女優だな」と言ったのだそうだ。


 ……。

 ……。


 え?

 それだけ?

 男性陣というか三人組は呆然としている。

『男って、どうしてこう節操がない生きモノなの! 許せない、昨日は私をきれいだと言った同じ口で、今日は他の女を褒めるのよ!』

 え、なにこの理不尽。

 え、女性陣、なんでみんなでうなずいているんですか。

『だから私、マスターを思いっきりひっぱたいて、浴室の鏡にルージュの伝言残して家出してきたの!』

 またですか。

 ていうか、雪月改(ゆきづき・かい)の馬鹿力で力いっぱいぶん殴ってきたわけですか。殺人事件になってなければいいのですが。

『だけど、どこから入ってきたのです、三号機さん。今、校舎はセキュリティがかかっていて、出入りしたら警備会社がすっ飛んでくるはずです』

 二号機さんが言った。

『校庭歩いてたら一号機さんから連絡が来て、それを注意されたので、直接屋上に』

『ジャンプしてですかっ、ここ、無駄に四階あるんですよっ!?』

『先輩、雪月改って、ほんとうに超高性能なのですねっ!』

『雨どいを伝って』

『はあ』

『はあ』

『黒ずくめで、ティーセットとケーキスタンド包んだ風呂敷背負って雨どい伝って。まるで私、ただの泥棒さんじゃない。雨どいの一番上は人類には無理なほど庇が張りだしてたから、結局雪月改の性能に頼ったサーカスしなきゃいけなかったし。ほんと、めんどくさい』

 よく通報されませんでしたね。

「ちょっと待って」

 オカズにされちゃった宣言で、高梨さんほどではなくても半分魂を抜かれていた長澤露穂子(ろほこ)さん。ようやく戻ってきたようだ。

「その源清麿って、まさか、小説家の源清麿さん?」

『そうです』

『そうです』

『そうです』

 アンドロイド全員が声を合わせて肯定の返事を返し、露穂子さんは悲鳴に近い声をあげて立ち上がった。

「うそ、大ファンなの、私!」

『ありがとうございます。でも』

 紅茶を手に、三号機さんが真顔のまま言った。

『うちのマスター、BL書きませんよ? ポロみんさん』

 情報共有を既に済ませてある雪月改である。

 さらに。

『『キンタマとオレとは同期の桜』、マスターのPCに送っておきました。読んでもらえるといいですね、ポロみんさん』


 この夜ってやつは。


 露穂子さんは思わず天を見上げたのだった。

 そこにはただ、地学教室のすすけた天井があるだけなのだけど。

 私はまだたった一五年しか生きていないけれど、これほどに激しく濃厚な夜が、今後、私に訪れることなんてあるのだろうか?

「BLって?」

 井原(いはら)優子(ゆうこ)先輩の声と、それに答える松田さんの声が聞こえてきた。

「ボーイズラブのことよ。男と男の恋愛物語。主に女性が書き手で読者なの」

「ふうん?」

 よくわからないけどめんどくさいからそれでいいや的な反応のあと、井原先輩はもう一つ聞いた。

「ポロみんさんって?」

「それ、さっきも西織先生が言ってたよね」

「ああ、そういえば」

 チーム井原が盛り上がっている。

 極秘だったペンネームまでもがどんどん広がっていく。

 露穂子さん、仮眠コーナーへとぽてぽてと歩いて行き、高梨さんの隣で胎児のように膝を抱えて丸まってしまったのだった。


『あ、あれ~?』

 二号機さんが困惑の声をあげた。

『これから鍋を作ろうっていうのに、みなさんのテンションがおかしいですね~』

 驚くべきことに、空気を読まないことに定評ある二号機さんが、なぜかいちばん空気を読んでいる。

『作ってしまえばテンションも上がるんじゃないですか。作っちゃいましょう、先輩』

 あの神無さんまでもが空気を読んでいる。

「そうそう、作っちゃおう!」

『そうですね、後輩。常夜鍋のつもりがお酒なくなっちゃいましたけど、なんとかしましょう』

「そうそう、なんとかなる、なんとかなる!」

 二号機さんと神無さん、とりあえずやかましい西織先生にそれぞれ頭突きを叩き込んで黙らせて、鍋を作り始めた。もっとも神無さんは、ただ二号機さんの応援をしているだけなのだが。


 いい匂いがする。


 ドームでひとり望遠鏡を覗いていた長澤先生の元にもその匂いは届き、長澤先生はおなかを鳴らした。

 時間は夜の一〇時。

「へえ、オレもまだ若いじゃないか」

 長澤先生はつぶやいて微笑んだ。

「食べに行くか」

 長澤先生はドームの入り口のドアを開けた。


 毛布にくるまっていた露穂子さんと高梨さんの魂も戻ってきた。

 隅でひそひそ話していたチーム井原もテーブルに近寄ってきた。

 西織先生ははじめからテーブルについてご機嫌に笑っている。

 自分たちはどうしようと顔を見合わせていた三人組も、女性陣の苦笑に許されてテーブルに着いた。ただし、露穂子さんと高梨さんは三人組と目をあわせようとしない。そりゃそうだ。

 長澤先生もやってきた。

 お隣のビルの屋上では、一号機さんと人間無骨(にんげんむこつ)さんがバーナーに火を灯し、ココアを準備している。


 いただきます。


 二号機さんの暖かい鍋でおなかをふくらませたことで、空気は柔らかいものになった。

 自然、楽しい雑談が始まるわけで。

「西織先生とは高校の頃からの付き合いだけどね、そりゃあモテたわよ。ストーカーにあとつけられたりしてたな」

 雑談の中心にいるのは、山本瑞希(みずき)先生だ。

 ……え?

 ……あれ?

 けらけら笑いながら話をする山本先生を囲みながら、おなかいっぱい幸せのほほん気分から我に返った全員が、目をしばたたかせている。

「西織先生があの状態だから、しょうがないので山本先生にも来てもらった」

 長澤先生が言った。

 え、でもセキュリティは……?

「緊急時に教職員だけは夜中でも出入りできるように、一箇所だけセキュリティフリーの扉がある。普段は何重にも施錠されている。遺憾だが、今はその緊急時だ」

『ええっ、そんな扉があるなら、雨どい昇る必要なかったのに!』

 三号機さんが言った。

「部外者どころか生徒ですらない上に、真夜中にそんな格好でうろついている君のために鍵を開けることはできないな」

『ぶー』

 もちろんいつものゴスロリ三号機さんです。

「さて、ここは山本先生に任せて、ぼくはドームに戻るよ。見たくなった人はいつでも来なさい。ああ、千両(せんりょう)くん」

「え、はい」

「君はダメ。来ても見せてやらない。二号機さん、神無さん、ごちそうさま。じゃあ、あとはよろしく、山本先生」

 長澤先生が教室を出て行った。

「ええー、なんでぼくだけ」

 口をとがらす千両くんの背中を、山本先生がげらげら笑いながらバンバン叩いた。そして顔を近づけてささやいた。

「君、露穂子ちゃんをオカズにしたって言っちゃったんだって?」

「はい」

 露穂子さんがまた、思いっきり顔をそらした。

 高梨さんもだ。

「いやはや正直でいいけどさ、そいつぁ、しばらく君へのお怒りは解けないぞ。長澤先生はすっごいシスコンだからね」

 ああ、そんなこと西織先生も言ってたなと、歌仙(かせん)くんは思った。



■主人公編。

鳴神 陸。(なるかみ りく)

えっち星人。宙兵隊二等兵。艦長付。

三人組の一応のリーダー。ケンカ自慢。突っ走るアホ。


歌仙 海。(かせん うみ)

えっち星人。宙兵隊二等兵。副長付。

美形で芸術肌な、ミニ清麿さん。美術部。


千両 空。(せんりょう そら)

えっち星人。宙兵隊二等兵。機関長付。

小柄で空気を読まない毒舌の天然少年。


■学校編。

長澤 露穂子。(ながさわ ろほこ)

地球人。高校一年生。天文部。通称ロボ子。

クラスメイト。ちょっと目つきがきついメガネっ娘。クラス委員なのだが、案外アホの子でもある。どうやら腐った方であるらしい。


高梨 春美。(たかなし はるみ)

地球人。高校一年生。天文部。ハルちゃん。

小柄でボブでちょんまげ付きなので、座敷わらしと言われてしまう。長澤先生が好き。


広田 智。(ひろた さとる)

地球人。高校一年生。美術部。サトル。

歌仙くんの友達。普通っぽいアホ。


井原 優子。(いはら ゆうこ)

地球人。高校三年生。美術部部長。

板額先生と双璧の美女だが、歌仙くんらぶ。

 松田 詩織。

 中沢 弓子。

 井川さんの親友ふたり。


長澤 圭一郎。(ながさわ けいいちろう)

地球人。地学教師で天文部顧問。露穂子さんの兄。三〇歳。

飄々とした人。


西織 高子。(にしおり たかこ)

地球人。英語教師。板額先生。

あの板額さんに似ているから板額先生。凄い美人だが、変人。三〇歳。


山本 瑞希。(やまもと みずき)

地球人。美術教師で、美術部顧問。旧姓、武藤。

長澤先生、板額先生と同じ大学の同期。ひとりだけ既婚者。三〇歳。


山本 一博。(やまもと かずひろ)

山本先生の夫。長澤先生の友人。この人も別の高校の物理教師。


■同田貫組周辺編。

人間無骨。(にんげんむこつ)

えっち星人。宙兵隊副長・代貸。中尉。

いつも眠っているような目をしているが、切れ者。陰険。代貸だが、代貸と呼ばれても返事をしない。


同田貫 正国。(どうたぬき まさくに)

えっち星人。宙兵隊隊長。大尉。同田貫組組長。

一号機さんのマスター。補陀落渡海を降りた後、任侠団体同田貫組を立ち上げ組長に座る。2Mを軽く越える巨体だが、一号機さんに罵られるのが大好き。


■アンドロイド編。

長曽禰 ロボ子。(ながそね ろぼこ)

雪月改二号機。マスターは長曽禰虎徹。

本編の主人公だが、番外編では性格が変わる。よりひどくなると表現してもいいかもしれない。番外編では、露穂子さんがいるため「二号機さん」で統一。


一号機さん。

雪月改一号機。マスターは同田貫正国。マスターからは弥生さんと呼ばれる。

目と耳を勝手に超強力に改造して、一日中縁側で村を監視している。村の中で内緒話はできない。和服が似合う。通称因業ババア。


神無。(かむな)

雪月改のさらに上位モデルとして開発された神無試作一号機。

二号機さんを「先輩」と呼び、二号機さんからは「後輩」と呼ばれる。雪月改三姉妹の、特に性格面の欠点を徹底的に潰した理想のアンドロイド。のはずだった。しかし現実は厳しく、三姉妹に輪をかけた問題児になりつつある。


板額。(はんがく)

板額型戦闘アンドロイド一番機。

高性能だが、乙女回路搭載といわれるほど性格が乙女。護衛としてえっち星に渡ったので世界的な有名人。


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雪月改三姉妹。
左から一号機さん、二号機さん(ロボ子さん)、三号機さん。
雪月改三姉妹。
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