#030:オヤジができる事
世の中のオヤジさんはどんなことにも負けずにがんばって生きているんだなと、最近思います。
タワー裏(ナレ:坂本麺)
今宵の月は美しい。
その姿は、昼の空の支配者である太陽とはまた別の堂々とした風格がある。
そして、あのきれいな白さは妻の肌を思い出す。
?・・・・・・のろけ話は良いって?・・・・・・そう固いことは言いなさんな。
ちなみに、現在、藍によって裏の下水管理システムから内部の閉鎖ロックシステムへバグを仕込む作業をしている。
読者の諸君は疑問に思っているかもしれない。
『何故、満月の夜に実行をしたのか。』
そりゃあ、一般的には新月の日にこういうことをするのが一般的かもしれない。新月と満月では夜間での明るさは両極端になる。
解っているのにどうしてその日にするかだって?
考えてもみろ。当然警備の人数が新月の夜は当然増えるだろぅ。
それに、あいつらの心の問題にも関わってくる。新月の夜の仕事はあの時と同じだ。
俺らが組織を辞めた後、俺はエディに頼み込んで当時幼かったKILLERSメンバーの監視をお願いした。まあ、監視と言っても年一で健康診断させるだけだが。でも、俺みたいなオヤジができる精一杯の事だった。
この時、彼女はかなり組織を引退したというリズムの変化に同調することができなくて、一杯一杯の状態であった。悪いとは思ったが、無理にでも頼み込んだ。
自分に対する怒りは沸々としていた。だが、彼女しか頼めなかった。
ちなみにエディはこの後「俺の知り合いの奴が中国でおいしい中華料理ややっているんだが、そこの食べ放題券を毎年支給する。」との一言で、あえなくOKとなった。
でだ、一年後報告に来たエディから聞かされた。
『心の中に傷ができている』と。
俺はその言葉を聞きたくは無かった。
大人の事情へ巻き込んでしまった子供達の心に傷があるというのは。
あの子達一人一人はそれぞれに組織に入った理由は大きく異なる。だが、組織に入っていた影の期間を本当はあの子達が背負う必要なんて無い。
なのに、傷ができてしまった。
その時、大人であった俺にできることはあの子達が回復に向かうことを祈るだけだった。
しかし、人というモノはどうしても急に変化した環境の中でも元と同じようなことをしようとする。
その典型的な例が戊流とハーディーだった。あいつらが辞めた後に転々とした土地では、片っ端から裏組織の幹部クラスが次々にと変死していった。
二人とも血の中でしか生きられない人間となってしまっていたのだった。
戊流達がこの国に来るように仕向けたのは俺だ。あいつには知って欲しかった。この国で生活することにより、普通の生活を送る大切さを。学校で勉強して、部活で汗を流して、友達とわいわい遊んで、ぐっすりと眠る日々を送って欲しかった。
世界にはお金と命を天秤にかけてお金に傾くような国はいくらでもある。「命ほどチープなモノはない。」そんな考えを持った集団なんて数え切れないほどいる。だが、この国は違う。命を必ず一番高い位置に置き、尚且つ比重も一番重たい。その重たさは、無限大である。彼らに知って欲しかった。
この国に来た後はかなり順調なペースで回復しつつあった。特に、由井ちゃんと出会ったことはかなり大きかったと思う。その後、由井ちゃんの姉と出会ったことも良かった。
なのに何故だ。
この国自体の方針が変わってしまったのが俺には理解できない。
前回の時も理解できなかった。
この国が子供を殺めようとすることを。
あいつらの言い分も解る。
人殺しの犯罪者とみればそうしたくなる気持ちも分かる。
だが、雇ったのはあいつらである。
あいつらは、自分の駒としてあの子達を使い、切り捨てようとした。
しかも、その体勢は今も変わっていない。
自分の地位や名誉のためにどんなに汚い手でも打つように成り下がったあいつらを俺は許せない。
今宵の月は美しすぎる。その美しい白い肌に汚血を触れさせはしない。
(藍香)「バグのセットは終わりました。」
毎度見るたびに悲しくなるほど、この子達の仕事しているときの顔は凜々し過ぎる。
(坂)「それじゃあ、大将を縛り上げに行きますか。」
次回はハーディー出てくるカモです。
このお話もそろそろ折り返す予定です。
たぶん。