#026:不穏な雲行き
シリアス編の導入といったとこです。
あと10000PVやっと超えました。
道前署(ナレ:作)
鬼帝は道前署に来ていた。そして現在署長室。鬼帝は数時間前に此処の署長である、山本楓に電話で、署長室に来るよう言われていたのだ。
(鬼帝戊流)「楓さん・・・・・・用件とはいったい?」
鬼帝がこの署長室に入ったときから、山本の雰囲気が少しいつもと違い、何かあるのだと言うことは言うまでも無かった。いつもの彼女はキャリアウーマンとしてのオーラと優しいやんわりとした雰囲気が漂う女性だ。しかし、今日の山本はまるで割れたガラス片のようにするどい雰囲気でいた。顔の前で指をくみ、目つきも鋭くなっていた。
(山本楓)「今回呼んだのは、あなたたちの事でよ。」
鬼帝は応接用のソファーに座り聞いていた。鬼帝は山本に自分たちのことについてで呼び出されたと聞いたとたん、鬼帝の目つきも鋭くなる。
鬼帝は今までにもこのような話をする機会があった。それは二年前の時だった。この時は非常に自分たちにとってよろしくない話しであった。それは「平和のための暗殺」の後始末についてだった。
(鬼)「とりあえず確認として、人払いとか、しているのですか?」
どうしても、こういうときは昔の暗殺時代の流れでこういった確認を取ってしまう。本当は、鬼帝自身でもある程度は確認しているのだが、確認として聞いてしまう。
(楓)「秘書の方も、私が内線で良いと言うまで入ってくるなと言っているし、この部屋は完全に外に音を漏らさない設計になっている。おまけに、穴という穴はない設計。まあ、此処で火災が起きても延焼はしない。追加で、マイク類の確認はしておいた。まあ、一個もなかったけどね。」
山本もこの手の話のさいに鬼帝が聞いてくることも前回の時に知っていたので今回は先に山本が済ませていた。
鬼帝は少し化かし、心の中で一呼吸置いた。そして、本題へ入るよう促す。
(鬼)「で、今回は俺たちについてということだが、どういう内容で?」
そう言い、鬼帝は出されていたコーヒーを一口、口の中へ含んだ。
山本は鬼帝が聞く準備ができたのだと分かると、一度目を閉じ、瞑想した。
時間にして五秒ほど。
目を開けた山本は遠くをにらみつけて言った。
(楓)「単刀直入に言うわ。・・・・・・あなたたち・・・・・・殺されるわよ・・・・・・!」
山本は一度、組んでいた指を解きコーヒーを一杯飲み干した。そして、再度、顔の前で指を組んだ。
そして、重い口で話し始めた。
(楓)「事情を知ったのはつい先日の事よ。極秘文書で私の方に封筒が来たわ。内容は、本店に来るようにと言うことだった。上からの命令だから行くしかなかったんだけど、行って通された先は、官僚クラスが集まる会議室だった。そこで聞かれたわ。・・・・・・カゴンを殺した奴は二年前の奴と同じか?・・・・・・と。これでも、署長の端くれだから、署内の機密事項については上に言わなくても良いことになっているの。で、回答を拒否したら、あそこの人ら顔を真っ赤にして・・・・・・殺人鬼が町中をうろちょろしているのだぞ!君は何とも思わんのかね!・・・・・・はっきり言ってこの時はらわたが煮えかえるぐらい怒りを覚えたわ。世界で特級の犯罪者の入国をみすみす許してしまい、おまけに殺人事件を起こさせてしまったのはどこのどいつだよ、と。おまけに君たちが処理したのを自分たちの手柄にして、その君たちを処分しようとしているのだから。」
ここまで、山本は話すとデスク横のコーヒーサーバーへ行き、コーヒーを注いだ。
鬼帝の表情はそのままだった。自分たちが今までやってきたことは殺人と変わりない。確かに、危険人物を国内においておきたくないという気持ちも分かるといった所だった。だが、いよいよそうなると前回同様の手を使いたいのに使えないという現状であると言うことに気づく。
鬼帝が気づいたであろう表情が一瞬こぼれてしまったのを山本は見逃さなかった。
(楓)「鬼帝。前回みたいに自分らが死ぬという手は使えないからね。いいや、絶対に私が許さないから。あなたの大切な物は絶対に道前署署長の山本楓が必ず守るから。」
山本はさらに目を鋭くしていた。
しかし、鬼帝はこうなった以上ほかの手段がないことも知っていた。
(鬼)「楓さん。無茶しないで下さい。そんなことはできません。此処の国の奴らがしつこいのは前から知っていますから。」
鬼帝は日本で追われるのはこれで二回目だ。二年前ですら、逃げるのがやっとだったのに、山本は此処を離れるなと言うから、それは無理な話だと言ったのだ。
(鬼)「今回もロシアの方に行きます。」
鬼帝は飲んでいたコーヒーを最後の一滴まで飲み干し、カップをテーブルに置いて、立ち上がった。
(鬼)「では、さようなら。」
山本にそう告げて、鬼帝は扉の方に向かって歩き始めた。
だが、納得する山本ではなかった。
(楓)「待って!」
その声で鬼帝は振り返った。が、次の瞬間山本は一気に間合いを詰めていた。
「ダンッ!!!」
山本は鬼帝の襟首をつかみ扉へと押さえつけていた。
鬼帝はいつもならどんなに速い動きでも必ず、受け流すか、避ける。しかし、今回は避けていない。
(鬼)「なんです?俺がいなくなれば、万事解決するのですから。問題ないでしょう。」
鬼帝の目つきはさらにきつい。それは対象物を食い殺そうとする獅子の目に近かった。
そう言って、山本を鬼帝は突き跳ねようとしたが、山本は力を緩めなかった。むしろ、扉に押さえつける力を増していた。
(楓)「冗談じゃない!・・・・・・私は忠告したはずだ!・・・・・・一般市民を巻き込むなと!・・・・・・安全確保という理由もあるけど、それ以上に君が必ずこうなることが予測できていた!・・・・・・だから、切れない縁を作らないようにするためにも言ったんだよ!・・・・・・」
山本の目も今は鬼帝をにらみつけていた。
(鬼)「切れない縁なんてないですよ。」
鬼帝の言葉は冷たかった。それは、少なからず、暗殺時代の「ロイヤル・トゥリナッツァチ」としての声であった。
だが、この言葉に山本は再度腹を立て、腕に力を込めた。
(楓)「君は絶対に縁を切れない!それに、あの子達の方が絶対に切れない!・・・・・・由井ちゃんについて調べたよ。あの子、親を失っているんだってね。・・・・・・あの子、次に何か大切な人を失うようなことがあったら、・・・・・・絶対に壊れてしまう!・・・・・・そうならないためにも、・・・・・・君はここにいなければならないんだよ!」
鬼帝は少し考えた。自分の周りにいる人について。果たして縁が切れるのかという疑問に答えを出そうと。
考える鬼帝に続けて山本が言った。
(楓)「私だって・・・・・・前回のことが悔しいんだよ。・・・・・・上の命令にただ従うしかなくて・・・・・・一番がんばってもらった君たちを・・・・・・労ってあげられなくて・・・・・・君が帰ってきていると知って・・・・・・ようやく前の借りが返せると思ったのに・・・・・・この有様だ・・・・・・なんでこの国は子供を手にかけるんだよ!!!」
山本の頬には何本もの涙の流れた後があった。
その時、鬼帝は何一つ言い出すことができなかった。
次回、大きな組織が動き出すはずです。
お楽しみに。