#025:普通貯金?・・・・・・九桁手前・・・・・・。
ホームセンター(ナレ:作)
由来の目は真剣だった。いつもの、冷静に物事を見ている目ではなかった。
(鬼帝戊流)「いいですって。それよりも、由来さんこそ服を買わなくていいんですか?」
鬼帝は由来に言ってみるが、由来は断固として譲らなかった。
(井練由来)「あのね・・・・・・ボクは・・・・・・もっと幸せな世界を・・・・・・戊流クンにも・・・・・・知って欲しい・・・・・・。ボク達の両親は・・・・・・もういないけど・・・・・・決して・・・・・・一人じゃ・・・・・・なかった。」
由来と由里の両親はもう亡くなっている。由井の両親と同じ飛行機でテロに遭い、死んでしまった。その時、由来と由里はもう18才で施設に行くことはなかったが、奨学金等を最大限に活用して、現在大学に行っている。ただ、現在はとあるルートより資金が入っているため奨学金はもうもらっていない。
(来)「戊流クン・・・・・・今まで・・・・・・誰か・・・・・・一緒に・・・・・・いてくれた・・・・・・?」
この言葉は鬼帝にとってもうどうでもいいとあきらめていたことだった。自分には最低限、任務から帰ればコールとじいちゃんがいるのだから、これ以上に必要ないと思っていた。しかし、思い返してみればここ最近でたくさんの人との絆を作っていることに戊流は気づく。一人で孤独を余儀なくされていた少年が初めて抱く、絆に対しての愛情。それは、藍や登に対して持っていた戦友の絆ではなく、ただ癒やし、癒やされる関係の絆を鬼帝は感じた。そして、その思いは瞳から流れ出る。
(鬼)「うっ・・・・・・。すいません・・・・・・目にゴミが・・・・・・。」
鬼帝は由来に強がろうとしたが由来に怒られた。
(来)「強がったら・・・・・・ダメ・・・・・・。今まで・・・・・・自分の心に・・・・・・固い甲羅を作って・・・・・・自分に・・・・・・無理させたんだから・・・・・・。せめて・・・・・・ボク達の前だけでも・・・・・・普通の・・・・・・男の子として・・・・・・いて・・・・・・。」
もう鬼帝の顔はグシャグシャだった。自分が今まで積み上げてきた暗殺者としての重荷をいったん下ろして、鬼帝はこの時だけ普通の少年の心となっていた。
そんな鬼帝を見て、由来は深く抱きしめた。普段なら、照れてできないはずだが、今回は自然と抱きしめていた。
(鬼)「・・・・・・由来さん。」
(来)「ボクは・・・・・・戊流クンに・・・・・・モノを・・・・・・買ってあげることしか・・・・・・できない・・・・・・。でも・・・・・・由里や由来は・・・・・・戊流クンのために・・・・・・何でもしてくれると・・・・・・思う・・・・・・。今まで・・・・・・人に頼ることを・・・・・・してこなかったんだから・・・・・・まずは・・・・・・ボク達に・・・・・・頼ってみて・・・・・・。」
鬼帝はコクコクと頷くだけだった。
ショッピングモール
鬼帝が泣き止み、由来のおごりで衣装ロッカーを買った後、宅急便の手続きを済ませ、現在ショッピングモールに来ている。
(鬼)「そういえば、さっき『ボクはモノを買ってあげることしかできない』って言っていましたけど、そんなことないと思いますよ。特に、いつもおいしいコーヒー入れてもらっているんですから。ありがとうございます。」
急に、鬼帝から褒められて事で一気に茹で蛸になる由来であった。しかし、そんなにすごいことではないと否定する。
(来)「ボクは・・・・・・たまたま・・・・・・バイト先の店長が・・・・・・伝説の・・・・・・バリスタの・・・・・・司さんで・・・・・・ただ・・・・・鍛えてもらった・・・・・・だけだから・・・・・・。」
由来は大学一年生の時、たまたまバイトとして選んだお店のオーナーが伝説のバリスタ、本田司であったため、鍛え込まれたという。ちなみに、由里は今年ソムリエの資格を取得している。
(鬼)「あの味は、なんだか懐かしい味です。もっと自慢してください。」
由来はこの言葉にコクコクと頷いていた。
(鬼)「話は変わりますが、お金は大丈夫なんです?」
話が変わったのを機に由来は普通の顔に戻っていた。
(来)「全然・・・・・・大丈夫・・・・・・。カード払いだから・・・・・・平気・・・・・・。」
(鬼)「カードでも不安です。むしろ、収入がないとカードは作れないのでは?」
鬼帝は由来の貯金の謎について突っ込んだ。
(来)「実は・・・・・・貯金額が・・・・・・九桁・・・・・・手前・・・・・・。このカード会社は・・・・・・七桁以上・・・・・・お金があれば・・・・・・作れる・・・・・・。」
口があんぐり開いてしまった鬼帝だった。
次回、シリアス編。たぶん。
これからまた、長編です。たぶん。