#021:海ってしょっぱいはずなのに甘い
七月です。熱いです。
ビーチ(ナレ:作者)
場面は変わって、登と藍。海で泳ぎつつ追いかけっこをしている。当然、藍は「D型爆弾」を二つ携えているのと、大胆なビキニのために、男と漢の目線がやばかった。しかし、海に来て少し頭のねじが緩くなった登と爆弾発言人間こと藍の放つ、幸せオーラがそんな目線を送っていた人たちの心を和まし、本人たちは気になっていないほどであった。
(藍香)「暁星速い~。」
今は藍が追いかける番だった。二人とも、水泳についてはそこそこできる。というよりも、やらざる終えない状況で生きてきたのも又事実だが今回はそんな辛気くさい話はしません。
(登暁星)「ごめん、ごめん。」
そう言って登が藍に近づく。
先ほどまでの逃げるクロールから、変わって平泳ぎで藍に近づいていった。
後もう少しで、お互いの手が届くというときだった。
(藍)「えーい!」
「ざばーん!」
藍はいきなり登の顔に海水をかける。
(登)「しょっぱ!」
当然、口に入った海水をはき出そうと登は横を向いた。
しかし、これは藍の完全なる計画の通り。登が横を向いたときに、「かかった!」といわんばかりの勢いで登に抱きつく。
「だきっ」
(藍)「ふふ~ん。あ・な・た・。」
藍は腕を登の首に、足を登の腰に絡みつかせた。
(登)「近い、近い!そして、いろいろマズイ!」
顔と顔との間は10センチ。
(藍)「そう言わないで。ここら辺に来ると誰にも見られない。」
さっきまでのにこやかな顔から一変、上目遣いで少し、瞳は潤んでいた。
(登)「確かにこの岩の後ろは表からは見えないけど。というより、いろんな物が当たっているのですが・・・。」
登も普段ではあまり見られない、藍の上目遣い&潤んだ目(普段見られない理由は、身長が、藍>登であるため)におどおどしてしまっていた。
そんな、登の顔を見た藍は腕に力を入れ、しっかり抱きしめた。
(藍)「いいの。それより、あなたとの愛の証。」
「チュッ!」
熱く交わされる、キス。岩場の影で今は誰も見ていない。
(登)「ぅん・・ぐぅーーー!」
しかし、いきなりだったキスであり、あまり息を吸っていないときの不意打ちでもあったため、登は少しずつ息が苦しくなっていく。
その後、すぐに唇を離した。藍は「あっ」とつぶやいてしまうほど、離れがたかったようだ。
(登)「ハァ、ハァ、ハァ・・・。シャン!外でやるなといつも言っているのに・・・。」
顔はゆで鮹のように真っ赤になっていた。実際の所、登はうれしくてたまらない。登の藍に対するいつもの態度は、照れ隠しが大部分を占めている。
藍は藍で頬をうっすら赤く染めている。
(藍)「えへへへ。」
そのときの、藍の笑顔はなんの汚れも陰りもない笑顔だった。
登にとって、この藍の笑顔より回避不可能な兵器は存在しないという。それに、自分らの過去から考えれば、こんな藍の笑顔が見られる今が本当に大切な時間だと、このとき登は思った。
そして、二人は近くの平らな岩の上へ行き日向ぼっこをすることにした。
(藍)「暁星?・・・・・・幸せ?」
不意に放たれたその言葉には、少しの不安を含んではいるが、暖かく優しい声だった。しかし、このことについてはあの藍誘拐事件の一件以降、藍が気になっていたことだ。
(登)「うん。幸せ。闘いを忘れられる時間は本当の自分に帰れる時間のように感じて、好きだよ。それに、シャンのあんな笑顔が見られるのだもの、幸せ以外ない。」
登もまた、本当の自分を自覚できるこの時間が藍と同様に好きであり、幸せな時間であった。
藍は少し頬を赤らめて言った。
(藍)「私も、幸せ。」
さて、場所は変わって、戊流講師によるスイミングスクール。
(井練由井)「足の動きって、こう?」
現在、鬼帝に手を持ってもらって、由井は足の練習をしている。
(鬼帝戊流)「そうだ。もっと足の裏を外に向けて蹴るイメージでやると、良くなる。」
鬼帝の泳ぎに関するスペックは日本代表もびっくりのタイムと技術だ。ただし、彼の場合は息継ぎという概念が無いため、すべて潜水である。が、速いのにはちがいない。ちなみに彼の最高潜水記録は2キロである。
(井)「こんな感じ?」
先ほどから、みっちりやっているため、かなり上達してきている。
(鬼)「後は、腕とのコンビネーションだな。それさえできれば、もう問題ない。」
しかし、事件はそこで起きた。
(井)「うん。」
由井が返事をして、立ち上がったときである。
「フラッ・・・」
(井)「あれっ・・・」
うまく立てずに、よろけた。
(鬼)「危ない!」
一、当然、倒れそうになった、由井の体を支えようと、鬼帝は右手を伸ばす。
二、由井の背中に手を回すが、運悪くも、回した手の指に由井のビキニの背中の紐が引っかかる。
三、慌ててしまっていた由井は両手を挙げていたため、バンザイ状態。
四、子供が衣類を脱がしてもらうかの姿勢。
「ズルッ・・・」
(井)「キャッ・・・」
五、由井は下に倒れ、鬼帝の右手には例の物が引っかかったまま。
六、慌てて、腕で隠す由井。(何かとはいいませんが。)
一連の流れが終わり、いち早く状況把握ができたのは鬼帝だった。しかし、その速い状況把握が今回裏目に出た。
(鬼)「・・・・・・。見て、いない、ぞ?」
日本語がおかしくなっていることに気づかなくなるほど、鬼帝は頭の中が混乱していた。尚且つ、いつもあまり表情が変わらない鬼帝が真っ赤になっている。
(井)「鬼帝の・・・・・・バカッ!」
伝説の高速右ビンタが来る!
鬼帝は混乱している!
「バッチーン!」
この後、しばしすねてしまった由井を必死になだめる鬼帝であった。
さて、武田はお姉様方を探しに、佐藤は武田がナンパしないように、二人ともビーチを歩いていた。
(武田弘)「うーん、これぞまさしく、呼ぶ鳥緑。」
(佐藤彩)「それを言うなら、“よりどり、みどり”でしょ。」
佐藤は武田の拾いにくいボケをしょうが無く拾いながら、頭を抱えていた。
(佐)「絶対、こんな男とはイヤ。」
佐藤の武田嫌いはこの数時間という間で急加速していた。ちなみに、佐藤のルックスもそこそこ。そのため、言い寄ってくる男たちもいたが、佐藤は武田の暴走を止めることで手がいっぱいだったために、言われても流していた。
(武)「そういえば、向こうの方じゃあ、うまく楽しんでいるのかなぁ?」
急に、武田がいつものお調子者のような雰囲気とは一変した表情でつぶやく。
(佐)「えっ・・・。空耳?騒音?雑音?」
不意に武田が放った言葉と表情に対して、佐藤は驚きを隠せない。というより、聞いていなかったことにしようとしている。
(武)「あれっ?佐藤もあの二組に気遣ってこっちに来たのでしょ?」
佐藤の頭の中はパニック状態であった。この男がこんなことまで考えているとはさとうにとって、思いもよらないことである。
(佐)「熱あるの?明日雪が降るの?世界が終わるの?」
信じられないが故に、縁起が悪いといった表情で、佐藤は武田に話す。
(武)「あのねぇ・・・。『いつも飄々としているやつがどうして』という気持ちになるのも分かる。だが、ひどくないか?」
もう、ここまで来たら佐藤は口がぽかんと開いていた。ギャップがあまりにもありすぎたのだ。
その表情を見て、武田はため息一つついて話し始めた。
(武)「とりあえず、言っておくよ。俺も生徒会長という自覚はある。当たり前だが、他人に配慮することだってできる。今回、夏で海に来ていて君はかなりはしゃいでいた。」
そこまで聞いて佐藤は一つ反論する。
(佐)「私、はしゃいでなんかいません!子供みたいに言わないで。」
佐藤の眉は若干つり上がっている。
(武)「表面上はそうだ。だが、君の心ははしゃいでいたよ。それ故、俺があんなことを言わなかったら、君は今頃一人だろうし、特に登君や藍さんみたいな人なら必ず君を遊びに誘うはず。君は遠慮すると思うが彼らはそれを許さないだろう。」
武田の言葉はすべて当たっていた。朝から少し不安だったことである。保護者として由井さんや由来さんが来てくれているのは知っていたが、お二人は鬼帝と一緒にいたいだろうと一歩引いていた。それはすべて、武田に見透かされていたのだ。
(武)「まあ、俺としてはうまい具合に自然な流れで君をあいつらから離せて良かったよ。鬼帝君や登君、藍さんはもっと精神を休めさせるべきだ。こういうときには、しっかり休養が大切。」
ここまで聞いて、一つ佐藤は妙なことに気がつく。武田は鬼帝たちの本当の姿を知っているかのような話しぶりなのだ。その疑念が、佐藤の中を満たしていく。
そんなことを考えているときだった。武田は再び話し出す。
(武)「今、『彼らのことについて何か知ってる』的なことを考えたでしょ。」
武田の鋭さに、佐藤は目を丸くした。
(武)「今ここで、君の心の中の質問に答えよう。俺は彼らの情報ついては君の知っている情報量より遙かに少ない量しかない。それも、クラスでの彼らの振る舞い等がすべての情報だ。でも、君がそんなことを思ってしまうのは、俺が読心術を使っているからだ。」
佐藤の頭は固定観念の脱出に必死だった。武田について新しい情報が脳に入りすぎて、パンクしそうだった。しかし、彼の言うことが本当であれば今までの彼の発言に説明がつく。
(佐)「その読心術で解ったことってある?」
佐藤は探るように問いかける。
(武)「とりあえず、僕が知っているのは彼らは僕らとは住む世界が違う人間だろうと言うこと。そして、彼ら・・・・・・人を殺しているよね?」
その答えに、佐藤は唖然とするしか無かった。何せ、武田の読心術が当たっているからである。「この男はいったい何者か?」と佐藤は疑問を抱くが、その疑問を持ったとたん、彼は再び話し出す。
(武)「と、ここまで言っときながら、あれだけど当たっている保証が無い。君が知っている範囲で合っている情報があればそれで頷いてくれたら、それは事実であろうが、この辺にしておくよ。この内容は俺が入ってはならない内容だ。だから、ここで話はおしまい。海で楽しく泳ごう。」
この一連の流れから、佐藤が武田に対する気持ちが変人から怪しい人へと変わったのはいうまでも無い。しかし、その中には少しばかしの魅力が含まれていた。
今回は、そこそこムフムフできたと思います。
何?足りない?・・・・・許せ。
次回はお昼ご飯と行ければ、鬼帝の方は由里とのお話です。