【幕間】観世音菩薩ちゃんによる救済part.1
「ハィっ!というわけでネー、今日も元気よく行きたいと思っておりますけれどもネ」
若手芸人か!おい女、何の用だ。
「オー、相変わらず失礼なお兄さんネ、大事なことだからもう一回言うけど、ワタシ観音様ヨ」
何が観音様だこの悪魔め、貴様のせいで俺がどんな目にあったと思っているのだ!
「そして相変わらずひどいネ、お兄さん。せっかく新しい生を授けたというのニ、授け甲斐がないヨ」
お前の授け甲斐なんぞ知るか!そもそもなんだこの姿は、もっとまともな姿はないのか!
「そこはそれ、前世の業というやつネ、覚えてないだろうケド。というかお兄さん、本編と話し方違わないカ、これって親密度の現れカナ?」
誰がお前と親密になどなるものか!これはあれだ、しばらく人と話していなかったから、頭で考えてから口に出るまでに時間がかかっているだけだ。ここは頭で考えているだけだからな。
「ホントは女の子と話すのに緊張しただけじゃないのカ?童貞だから、プププ」
違うわ!だいたいあの毛むくじゃらがオスだろうがメスだろうが俺には分からんだろうが。
「フーン、まあいいケド。女の子だから助けたくせニ」
あぁ?なんか言ったか?
「何でもないヨ」
ところで、なぜまたお前が現れたのだ?俺はまた死んだのか?
「ああそうそう、忘れるところだったヨ」
一番大事なところだろうが、二度と忘れるな!
「ウーン、ソウネー、お兄さんは死んではいないっていうカ、これから死ぬところっていうカ、まあそんなカンジじゃナカタ?」
そういえばそうだ。俺は猿の凶刃からあのメスの狼人間を助けたところだったのだ。しかしながら俺はあの後きっとあの猿とかその仲間に八つ裂きにされるに違いないのだ。
「ハイハイ、説明的セリフアリガトネ」
やかましい、やっぱり死んでいるではないか、どうしてくれるのだ、女!
「どうしてくれると言われてモ、それがお兄さんの選択の結果だからネ。それについてはワタシ感知しないヨ」
ふざけるな!お前がこんなところに転生させたからだろうが、謝罪と賠償を要求する!
「まあまあ、落ち着きなヨお兄さん。別に死ぬと決まったわけじゃないネ」
決まっているようなものだろうが、だからお前が出てきたんじゃないのか?
「人を死神みたいに言わないでほしいネ。お兄さんにはまだ助かる方法アルヨ、ワタシそれ教えに来たネ」
そうか、なら教えろ。
「エー、どうしよっかナー、さっき悪魔とか言われたしナー。それが人にものを頼む態度なのカナー」
ではどうすればいいというのだ。
「もうちょっとネ、誠意のあるお願いの仕方というのがあると思うヨ」
・・・教えてください。
「え?え?今なんてっいったカ?」
教えてください。
「お・し・え・て・く・だ・さ・い・ま・せ・か・ん・ぜ・お・ん・ぼ・さ・つ・さ・ま、でショ?」
こ、この女っ!
「あーあ、なんか観音ちゃん、めんどくさくなってきたヨ、やめよっかナー。クモの糸切っちゃおっかナー」
くそっ、教えてくださいませ観世音菩薩様、これでいいだろ。
「え?ちゃんと言わないとワタシ聞こえないヨ」
教えてくださいませ観世音菩薩様!
「えー?えー?きこえなーイ。三千世界すべての衆生の声を聴くという仏イヤーでもきこえなーイ」
教えてくださいませ観世音菩薩様!!!!
「ワタシを信じますカ?」
貴方様を信じます!
「ワタシの慈悲を信じますカ?ワタシの救いを信じますカ?」
貴方様の慈悲を信じます!貴方様の救いを信じます!
「フーン、マ、お兄さんがそこまで言うなら教えてあげてもいいケドネ」
クソが!いつか復讐してやる!
「ソウネー、それじゃあお兄さんには、まず死人の出たことのない家から白いケシの実を、と言いたいところだケド、別にお兄さん自身は健康だしネ、今回は免除してあげるヨ」
そいつは有難いね、全く。で、助かる方法とは何なのだ?
「じつはネ、お兄さんにはおサルさんをどうにかできるチカラはもうアルヨ」
ややこしいからその話し方でアルヨ、と言うのはやめろ。在るに語尾のヨなのか、それともアルヨが語尾なのか分かりにくいだろうが。
「オー、そういえばそうだったネ。在る、に語尾のヨがついた方アルヨ、ヨ」
なるほどそっちの方のアルヨ、か。しかしなぁ、この該博深遠にして博学多才な俺だが、武術とか格闘技とかそういうのは知らないぞ。
「じゃあ逆にお兄さんはお兄さんについて何を知ってるカナ?・・・と言いたいところだケド、別にチカラというのは腕力とか剣術とかそういうのじゃないヨ」
じゃあどういうものなんだ?
「やだなぁお兄さん、ワタシがこのタイミングでここにいること考えてヨ、さっきやったじゃないカ」
さっきだと?・・・まさかっ、あれをまたやれと言うのか!
「その通りよ、ワタシの加護があれば、あの程度のおサルさんは問題ないヨ」
イヤだっ!お前の加護は胡散臭い!ある日突然爆発しそうな感じがする!
「そうはいってもネ、お兄さんは今、ワタシが垂らしたこのクモの糸にすがるしかないヨ、たとえこの糸が某国製でもネ」
そんな糸は嫌だ、何もしてないのに耐久性の問題で切れそうじゃないか!本当に蜘蛛の糸なのかも怪しい!
「フーン、じゃあ腕力でいくカ?今のお兄さんが腕力で勝つなんてムリゲーヨ、魔法使いだけのパーティを『まほうつかうな』で突っ込ませるぐらいムリゲーヨ」
俺は魔法使いじゃない!
「童貞なのにカ?」
まだ30じゃねえし、つーか童貞じゃねぇし!
「ハイハイ、んじゃマ、ワタシちゃんと教えたカラネ、あとは生きるも死ぬもお兄さん次第ヨ」
ところで、今日お前は自分の意思で来ているのか?
「いやーワタシも上に言われてネ、お前の伝達ミスはお前でなんとかしろって、って何言わせるカ、お兄さん。じゃ、ワタシはこの辺で」
この辺で、じゃない!上とは誰だ!伝達ミスとはどういうことだ!
「バッハハーイ!」
説明しろ、クソ女ァァァァァァァ!
それは僅か一瞬の出来事であった。