プロローグ
さて、物語を始めるにあたって、俺は死んだ。死なないことには転生が始まらないので仕方がない。
死んだときの記憶がないことを考えると、事故か何かだろう。事故のショックで記憶がなくなるというあれだ。日本では一年間に4000人以上が事故で死んでいるのだし、別に珍しいことでもない。DQNの飲酒運転とか、老人のアクセルとブレーキの踏み間違えとか、どうせそんなくだらない理由に違いない。まあ別に、死んだときの状況なんてこれからのことに何の関係もないのでどうでもいいのだ。
そんなことよりも今、目の前にいるこの女をどうしてやろうか、その方が重要だ。
「この女とはご挨拶ネ。ワタシ観音様ヨ」
うるせえ、仏が女なわけあるか。
「アイヤー、お兄さん香山宝巻知らないカ。観音菩薩女の子説あったから、マリア観音オケだったヨ」
知るか、お前のそのどっかの国の人間のステレオタイプみたいなしゃべり方胡散臭ぇんだよ。理由は言えないけど、嘘っぽく聞こえるんだよなぜか、理由は言えないけどね!そもそもこういう時出てくるのは神とかもっと超越者的な奴じゃないのか?
「イヤイヤ、お兄さん。さっきも言ったけど、これからしてもらうの転生ヨ。これそもそもブディズムの考えネ、『神』なのに転生なんて、ワタシに言わせれば西洋かぶれの勘違い西洋ヨ」
なにがブディズムだ、横文字使ってんじゃねえよ、エセ観音が。
「オー、ヒドイネ!ワタシ十一の顔アルと言われてるけど、この姿だって、お兄さんの趣味に合わせた姿ヨ。お兄さんの好みのタイプにしたヨ。黒髪ロングの清楚系っていうのカ?マジ童貞丸出し、クソうけるネ」
どど、童貞ちゃうわ!このクソアマ、何が観音菩薩だ!観音様見せろやオラァァァァァ!
「その必死さ、まさに童貞ネ。というカ、オニャノコの大事なトコ観音様って、お兄さん実はお爺ちゃんだったカ?」
違うわ!童貞の高齢者って悲惨すぎるだろ。俺をいきなりそんなトリッキーな設定にするんじゃねぇ。つーか童貞じゃねえし!
「ハイハイ、じゃそういうことでいいヨ。じゃあお兄さん、例によって転生してもらうネ」
例によってなんだよ。というか、おい待てよ。もう少し俺について何か説明しなくていいのか?
「いいノいいノ、どうせそんな設定誰も気にシナイヨ」
誰もって誰だよ。前世の行いがどうとか、あるだろうがもっと。
「まあそこは気にシナイ所ヨ。そういう重箱の隅をつつくのは野暮ってものヨ、これお約束というやつネ」
お前がブディズムがどうとか言い出したんだろうが。
「あーハイハイ宗派宗派、宗派のちがいヨ。これで満足カ?だいたい最近の若者はテンプレがどうとかパクリだからなんだとか、いちいちウルサイネ。パクってパクってパクり倒して最後は爆発!これがジャスティスヨ」
そんな正義があってたまるか!だいたい俺の家はお前とは関係ない宗派だったはずだぞ!
「アーーアーー、キコエナイヨー」
都合が悪くなるとそれか!だから胡散臭いって言ったんだ!
「おおっとそれ以上は本当にマズイネ、じゃ前置きはこの辺で。ユー転生シチャイナ!」
お前のその発言の方がまずいだろうがよぉぉぉぉぉぉぉ!
こうして俺は転生することになった。