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清隆学園の一学期  作者: 池田 和美
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六月の出来事・⑧

 学校側の通報から一夜が明けていた。

 昨夕行われた捜索では、まったく手がかりを発見することができなかった。

 県警は上空から広範囲に捜索するためにヘリコプターを準備したが、昨日の悪天候からの余波が大気の擾乱じょうらんを引き起こしており、飛べるとしても午後になる予定だった。

 ゆえに地元の自動車警邏隊や、消防の捜索隊などの地上部隊に、行方不明になったバス発見の重責がかけられていた。

 だが目的地までの経路にはまったく異常もなく、発見は遅れた。

 自然と捜索範囲が広げられた。昨日の豪雨で道を誤った可能性も否定できなくなったからだ。

 バスごと道に迷って車内で一泊。燃料が乏しくなって救助を待っていた。携帯電話などが繋がらない理由は山間部のために電波が届かなかったせいだ。

 そういった連絡が入ることを関係者一同が待ちわびていた。

 しばらく経った頃、本来の行程とは真逆に進む林道を、一台のパトカーが速度を落として進んでいた。

 遠くからでも遭難者側が見つけられるようにヘッドライトはハイビームにしていた。山陰には入って暗くなったとき、その限られた光輪の中に、青い何かが入ってきた。

 慌てての急ブレーキ。

 その反動で揺さぶられた警官たちはとんでもない物を見ることとなった。

 一般人より事故や事件に触れる機会の多い男たちが、悲鳴を上げそうになってそれを飲み込むということを経験した。

 アスファルトの地面に四つ足の獣が立っていた。

 長い鼻先に鋭い刃が並ぶ口、そして冷酷な瞳に三角形の耳を持った、奇跡のように美しい毛並みを持ったハスキー犬であった。

 警官たちはこの時知らなかったが、広場で遭難者たちを襲った野犬の一匹であった。

 ただし襲撃時と大きく違うところがあった。

 まるで新雪のように白かった腹側の毛並みが、赤い液体を浴びせかけられたように汚れていた。

 そして何物も砕きそうな牙が並んだその顎に、長い黒髪をポニーテールにした少女の生首だけが咥えられていた。

 猫だましを喰らって驚いた。そんな表情のまま固まった彼女の顔は、自分が死んだことが信じられないと言っているようだった。

「!」

 警官の一人が呻き声のような物を喉の奥から捻り出した。それが聞こえたわけではないだろうが、ハスキー犬は身を翻してガードレールの向こうへ身を躍らせるようにして消えてしまった。

 ハスキー犬が立っていた場所は、最初にバスがガードレールに接触したカーブだった。

 ガードレールに残された真新しい擦過痕が車内からでも、はっきりと見ることが出来た。

 警官たちはパトカーを、人が歩くような速度で進ませ始めた。

 しばらく行った先にもガードレールに擦った後。その先にももう一つ。さらに先にも…。

 そうやって警官たちが谷底に転落したバスを発見したのは、それからわずかな時間の後であった。



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