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清隆学園の一学期  作者: 池田 和美
19/29

六月の出来事・②

「なんだよキモオタ。こんなモンよんでるからオマエはキモオタなんだよ」

 休憩時間のざわめきの中、教室の自席で読んでいた厚さだけはある若年層向け娯楽小説ライトノベルを主体とした隔月刊雑誌が取り上げられ、『キモオタ』と呼ばれた少年は目をしばたたかせた。

 キモオタは骨と筋ばかりの少年である。髪は校則ギリギリまで伸ばしているが、大人への反抗というより身の回りに無頓着だからという理由みたいだ。不健康そうな青い顔は彼のアダナの元となったインドアな趣味を象徴しているかのようだった。

 彼の雑誌を取り上げて、顔を覗き込んでいるのは口よりも手の方が先に動く同級生だった。

 こちらはキモオタとは対照的に、健康的な肌をした少年だった。髪もこざっぱりと短くしていた。

「か、かえしてくれよ」

 弱々しく返却を申し出るが、相手の少年はまったく気にかけていなかった。

「どらどら」

 ページが折れようが皺になろうがお構いなしに乱雑にページを捲って内容を確認してみせた。

「くぁー、もじばっか」

 それでもカラーページにはこのレーベルが推している作品のヒロインが、一般では見られないような際どい格好で描かれていたりした。

「お? キモオタはこんなの見てコいてんのか?」

「そ、そんな…」

 彼の強い視線に目を泳がすと、同じ班の女子が二人を睨んでいるのが見て取れた。

 否定すれば暴力的な同級生に殴られる。肯定すればの女子がどんな噂を立てるか判らない。どう答えても終わりのような気がして言い淀んだ。

「ヒロくんっ!」

 声にトゲを含ませた声が反対側からかけられた。振り返ると長い髪をポニーテールにした女子が、両腰に手をあてて睨み付けていた。

「い、委員長…」

 相手がクラスの委員長だったのでキモオタは救いを求める目になった。

「アンタは、そうやって人の物を取らない!」

「へいへい」

 机に尻をのせていた『ヒロ』と呼ばれた少年はいい加減に返事をして、手にした雑誌をキモオタの机の上に落とした。

「あああ」

 ページが折れてしまったのを残念そうに広げながら、取り上げられた宝物を再び手にして気の抜けた声を漏らした。

「キモオタくんも…」

 気の強そうな吊り目をした女クラス委員長は両腰にあてた手を拳に変えて相手を睨み続けた。

 彼女に睨まれて肩をすくめているヒロは、そのまま腰かけていたキモオタの机から腰を上げた。

 乱暴者が動いたのを見た委員長は、半泣きでページの皺を取ろうと引っ張ったり曲げたりしているキモオタに目を移した。

「キモオタくんも、そんな雑誌を持ってくるのがいけないんでしょ」

「す、すいません」

 キモオタは慌てて学習机の中へ雑誌を突っ込んだ。

 この年代にありがちなことだが女子は一足先に体格が発達し、男子はまだ小学生のままのような体つきをしていた。

 委員長も他の例に漏れず、見た目だけは女性の体格となっていた。その委員長が座ったままのキモオタを見おろした。

 キモオタ自身も他の男子の例に漏れず、いまだ小学生のような体格をしていた。小学生の集団に入ってしまうと見分けがつかなくなるぐらいだ。

 どうやら委員長権限で雑誌を没収するかしないか迷っているようだ。席から見上げるキモオタを見おろしつつ口を閉ざして思案顔となった。

 キモオタは卑屈な笑みを浮かべて下から様子を窺っていた。その矮小さがかえって不潔に感じられたのか、委員長は溜息を一つついただけで不問にした。

『キモオタ』とはあんまりなアダナではあるが、クラス内での話題がいつも最新アニメに限られるのだから当然といえば当然な結果だった。しかも自分の身の回りに気を遣う様子など全くないので、たまに体臭がきつかったりもした。

 これでどんな女子にも好かれるイケメンが現れたら魔法と言っていいだろう。もちろんそんなことはなく、不健康そうな肌にはニキビの痕が浮いていたりした。

 彼に対してヒロの方は筋肉がついてきていて、もう少しで大人の仲間入りが出来そうな雰囲気だった。

 これで周囲に対して責任のある思慮深い行動ができるようになれば、どこに出しても恥ずかしくない青年と言ってもいいかもしれないが、いかんせんまだ若すぎた。

 体格だけ育ってしまってエネルギーが有り余っているせいだろう、いまもキモオタと並んで苛められる役がまわってくる『デブV3』のことを小突いていた。

 表面的な理由すら取り繕わない。いまそこにデブV3がいたのが悪いとばかりに拳を腹にめり込ませていた。

 デブV3が半泣きで周囲に救いの目を向けるが、暴力の飛び火が恐い他の男子はあからさまにそっぽを向いていたりする。女子はたとえ目があったとしても無反応だ。

「ヒロくんっ!」

 大人以外で唯一彼に注意できるのは彼とは幼稚園の頃から一緒にいる委員長だけなのだ。

「んだよサトミ」

 幼なじみの気安さ故か、ヒロは彼女を名前で呼んでいたりした。

「オレはデブがいけないことしてるから、きょーいくしてるんだぜ」

「なにがいけないことよ」

 再び両腰へ拳をあてる威嚇のポーズで委員長が訊くと、ヒロはクラスに肥満児が四人いるという理由でそうアダナをつけられたデブV3が持っていた現国の教科書を取り上げた。

「きょーかしょにラクガキしてっからさ」

(井伏鱒二の顔に髭でも描き込んだか? しかも将軍のような立派なやつ)

 周囲がそう思っているとデブV3が止める間もなく、教科書中ほどのページをビラッと開いた。

 そこには蛍光ペンで見開きいっぱいを使ってデカデカとラクガキがされていた。

 とても稚拙な線でそこに大の字に体を広げている人物が描かれているようだ。しかも胸にあたる辺りにU字形の線が二つ描いてあり、「バインボイン」と擬音のような物が書いてあった。

 そして小学生が左手だけで描いたドラキュラの似顔絵といった頭部にフキダシがついており「あたしサトミ。いいんちょなの。うっふん」とセリフがつけられていた。

 それを近視気味という理由だけでなしに細めた目でみた委員長は、妙に静かな声で口を開いた。

「ヒロくん」

 ワナワナと小刻みに震え、髪の毛が逆立っているようにも見えた。

「これ、アンタの字に見えるんだけど」

「そうか?」

 ヒロはわざわざ教科書をひっくり返して自分の目でまじまじと観察して言った。

「ぐーぜんじゃね?」

「人の教科書にラクガキなんて」

「オレのきょーかしょなんて、きれーなもんだぜ」

 一度としてページを切っていないも同然だから当然である。

「なんだったら、こーかんすっか?」

 開いたデブV3の教科書を振り回しながら振り返る。デブV3はなんと答えても殴られそうだったので、曖昧な微笑みを浮かべた。

「はっきりしろよ、こら」

 それでも殴られるのには変わりなかったのだが。



「ヒッキーはさあ、どの班だったらよかった?」

 それが社交辞令といった態度で同じ班になった委員長に話しかけられ、廊下側の壁際の席で縮こまっていた『ヒッキー』は、ソバカスだらけの顔を上げた。

 先程、キモオタがヒロに隔月刊を取り上げられるのを見ていた女子である。

 艶の失った髪をお下げにして、デザインよりも値段優先で購入した眼鏡をシミの目立つ鼻先に乗せた娘である。

 それなりの体をしている委員長とは対照的に、今後のさらなる成長が待たれる体格しかしていない。しかし近縁者を彼女なりに観察して、これ以上の成長は諦めた方がいいという自覚があった。

 ヒッキーは眼鏡の向こうで目を瞬かせた。

 どの班がよかったとは、どの子と同じ班になりたかったかを意味する。つまりここで不用意に男子の名前などあげたら、一週間は女子トイレでの話題はそれに固定されること間違いなしである。

 だからといって女子の名前をあげるときも注意を払わなければいけない。それによって自分が所属したい派閥が知られるという危険性も持っているからだ。

 最悪、派手なミーハー女の下っ端で、使いっ走りさせられる運命が待っているかもしれないのだ。

「え、えと」

 パチクリと瞬きを繰り返して何と答えようかと悩んだ。

 彼女がヒッキーなんていうアダナがついたのは、短い間だったけれど不登校をした過去があったからだ。もちろん面と向かってアダナの命名起源を説明されたわけではないが、本名からこじつけたというのには少々無理があった。

 そんな差別のようなアダナであるが広まってしまえば自然とみんなで使うようになるものだ。

 委員長としてそんなアダナを使うのには問題があるような気もするが、彼女が不登校だったのは小学校時代だったし、二人は別の小学校出身だったからその起源を知らない可能性もあった。

 おどおどとした目で周囲に集まっている班員を見た。

 委員長の周りでは、男子どもが小学生のノリでワイワイ騒いでいた。その数三人。

 といっても主に大声を上げているのはヒロであった。脇に立っているキモオタとデブV3は殴られ役なのだ。|(特にデブV3)

 この三人に、委員長と彼女自身の女子二人が加わった五人で一班が作られた。他のクラスメイトたちも五人一組である。

「わ、わたし…」

 人待ち顔の委員長に、なにか発言しなきゃと思ったヒッキーは口を開いたが、彼女は後ろで始まったヒロのデブV3に対するヘッドロックを止めさせるために振り返ってしまった。

 さきに話しかけてきて失礼だなあ、という思いよりも言葉を発せずにすんでホッとする気持ちの方が大きかった。。

 委員長はさっそくヒロにガミガミと説教を始めた。

 体格が良くて暴れん坊のヒロが孫悟空。デブV3が猪八戒。残ったキモオタが沙悟浄といったところか。すると暴れん坊を御することのできる委員長が三蔵法師で、ヒッキーだけが余ってしまう計算になる。

(別に仲間はずれでもいいし)

 班員を西遊記に当てはめて考えたヒッキーは、それでも自分が当てはまるキャラクターを考えてみた。

(そういえばドラマで馬が人に変身していたような…)

 そこまで考えて机に上体を投げ出した。

(馬はやだなあ)

 そして眼鏡越しに、いまだデブV3へのヘッドロックを外さないヒロへ視線を流した。

(当日、休んじゃおうかなあ)

 にこやかに暴力を振るっているヒロを視界の端に入れてそう思う。思春期の女子らしく粗暴な同級生男子は苦手だった。

(この男子たちと一緒に行動なんて信じられない。それも泊まりがけなんて…)

 ちょっとした絶望感すら感じていた。

 泊まりがけというのは夏期の林間学校である。この中学校では市の教育方針よりも踏み込んだ考えを持っていて、毎年全ての学年が海か山へ泊まりがけをする旅行が企画されていた。

 旅行といってもキャンプ場での飯盒炊飯なども予定されている。そのための班割りであった。

 担任のレミ先生は、しっかり者の委員長と同じ班に問題児を集めて管理させる心づもりなのだろう。しかしヒロにオモチャ程度にしか認識されていないキモオタとデブV3をつけたら四六時中大騒ぎになるのに決まっていた。

 それに本来なら委員長自身の取り巻きの女子が入るべきなのに自分が選ばれたということは…

(わたしも問題児として見られているということか)

 溜息が出てくるのを止められなかった。

(ここで、わたしが抜けたらどうなるだろうか)

 ちょっと想像してみた。万人に優しい委員長自身は笑顔で許してくれそうな気がした。ただ彼女の取り巻きが黙っていないだろう。

「サトミさん一人に押しつけて自分だけ楽して」だの、

「あたしだって家でゴロゴロしてたかったわ」だの、

 自分に向けられる非難の視線までリアルに想像できた。

(気持ち悪い)

 その、まだ向けられていない悪意に嘔吐感までもが込み上げてきた。そんなものは言わせておけばいいなどとレミ先生や父親などは言うけれど、そもそもそういった物が気になる性格だからこそ不登校を経験することになったのだ。

「大丈夫?」

 突然外界からの音声が脳に入ってきて、それまでの思考が遮られた。

 視覚に意識を戻すと、たるんだ頬肉を歪ませた心配そうな表情でデブV3が彼女の顔を覗き込んでいた。どうやらやっとヒロの戯れから解放されたようだ。

 先程まで腹に何度もパンチを受けていたくせに、人を心配するなんて。よほどのお人好しか、逆に無神経なのかもしれなかった。

 自分の考えている、自分と他人との距離より数センチだけ近いような気がしたので、上体が引けてしまった。

「なんか気持ち悪そうだよ」

 彼女に対してでなく同性である委員長への問いだったらしく、デブV3は言い合いを始めているヒロと委員長の方を振り返っていた。

 どうやら人付き合いに関しては彼女自身とどっこいどっこいであるらしい。それに身近な女性は弱い顔を見せないのであろう、デブV3はどうしていいか判らないみたいだ。

(一番は、あなたが視界から消えてくれるのがいいんだけど)

 それでも救いの手を求めて委員長を見た。

 彼女は男相手に格闘していた。

 いや、正確にはヒロと一冊の本を奪い合いをしているのだった。先程のラクガキされたデブV3所有の教科書を、互いが端を両手で掴んで引っ張り合いをしていた。

 これが綱ならば、少々シーズンは早いが運動会で行われる綱引きとして見物な勝負であったろう。

 だが二人が力を込めているのは教科書であった。

(厚いからって紙製の物にそんなに力を加えたら…)

 ヒッキーの思考はビリビリという破壊的な音で遮られた。



「ホント、ごめんね」

 委員長は相手を拝むように両手を合わせた。

 先程まで半べそだったデブV3は、とまどいを顔に浮かべて曖昧にうなずいた。

「へ、へーき」

 すでに課業が終了して中学校の下校路である。

 異性と肩を並べて下校なんて、男子が舞い上がっても不思議ではないシチュエーションであるが、デブV3はオドオドとした態度のままだった。

 委員長の周囲には背が高かったり低かったり、彼女のいわゆる仲良しが一緒に歩いているのだ。

「サトミさんは謝んなくてもいいのよ」

「悪いのは、あいつなんだから」

 女子たちから口々にヒロへ罪を問う文言が出てきた。

「でも破いたのは、半分わたしのせいだし」

「サトミさん優しい〜。でもそんなんじゃ男がつけあがるよ」

 キッ、と委員長以外の女子から厳しい視線を向けられる。そのいわれのない弾劾に、デブV3はタプタプとした頬を揺らして頭を振った。

「と、とんでもない」

 ちなみに他人の教科書へラクガキをし、破るきっかけとなったヒロはここにはいなかった。代わりといってはなんだがキモオタが女子の集団とは反対側を歩いていた。

 ヒロ自身は声をかける間もなく終業のチャイムとともに姿をくらましていた。

「じゃあサトミさんが謝りに行かなくてもいいじゃんよ」

 女子の中で一番背の高いトモエが腰を屈めてデブV3の顔を見下ろした。

「べ、べつに謝らなくても…」

「でしょ」

 言質を取ったとばかりにクルリとトモエが回れ右をした。

「ほら、こいつもいいって言ってるじゃん。もう図書館行こうよ」

「で、でも」

 慌ててデブV3が付け足した。

「破けた経緯の説明だけはして欲しいんだ。べ、弁償とかはいいから」

 デブV3の必死の様子に「どうする?」とばかりに顔を見合わせる女子一同。そんな中、背筋を伸ばしたまま歩いていた委員長は、事も無げに答えた。

「わたしは行くわ。アンタたちはどうする?」

「サトミさん…」

 女子たちだけで顔を見合わせる。ここで彼女だけ別行動という選択は考えられなかった。

「ご、ごめんね」

 被害者であるはずのデブV3がオズオズと謝った。

「別に大した手間ではないもの」

「も、もしさ、弁償とか話しになったら、後で僕が出すから、話しだけ合わせておいて」

 デブV3の卑屈すぎる態度に一瞬嫌悪するような目を向けるが、委員長は気を取りなおして前を向いた。

 一同は分かれ道に差し掛かっていた。

 鋭角に左右に分かれる右の道には建築会社の駐車場、左にはアパートとソバ屋が並んでいた。

「どっちだったかしら?」

「こ、こっち」

 デブV3が右の道を指差した。

 道路を均したりするオレンジ色の機械が置かれている先に、瓦を葺いた土塀が続いていた。

「あ〜」

 めんどくさそうに委員長は顔をしかめた。

「あの向こうなの? あの塀、長く続くのよね」

「え、えっと。ごめん」

 困ったように眉を顰めるデブV3。

「いいわ。さっさと行きましょう」

 委員長は長い髪を揺らせてスタスタと足を速めた。

 方角的には図書館とはまったくの正反対である。この先にあるのは、昔ながらの武蔵野の景色が残された公園。その向こうにあるJRの駅まで続く住宅地だ。

 駅は隣の市に位置するために中学校の学区外であるが、住宅地の一部が市内となっていた。

 徒歩で移動するというより自転車で移動する距離である。その市境の住宅地からは中学校よりは近いはずの小学校までもだいぶ歩くことになる。

(それだけ毎日運動していてこの肥満体とは、どういった食生活なのだろうか?)

 そんなような事を考えていると、後ろを歩いていたデブV3とキモオタの足が止まった。

「どうしたの?」

 ちょうど土塀が切れてお屋敷の門の前である。

 古風な門扉は開かれており、純和風の屋敷が道から見ることが出来た。

 指先まで脂肪に包まれたデブV3が、おそるおそる屋敷を指差した。

「ここ、ぼくんち」

「え?」

 キモオタ以外の全員がデブV3を見て、それから門に掲げられた表札に視線をうつした。

 たしかにデブV3と同じ苗字である。

「これって…」

 茫然と委員長が表札を見上げたままつぶやいた。

「彼を落としたら玉の輿ってやつ?」

「え?」

 全員が彼女を振り返った。

「そ、そんなこと、な、ないとおもうよ」

 慌てて両手を振ってまで否定するデブV3。しかし女子たちは色めき立った。

「玉の輿?」

「お金持ちってことだよね」

「あ〜私、札束の海に飛び込むのが夢なのよね」

「しかも持ち家! 豪邸じゃん!」

「でも、デブV3だぜ」

 面白くなかったのかキモオタが女子たちに冷や水をかけるような言葉を発した。それまで贅沢し放題の将来設計という夢を見ていた女子たちの顔が、そのまま硬直した。

 ゆっくりと彼を振り返った。

 そして失礼にも大袈裟な溜息をついた。

「だよねー」

「ありえないわー」

「これだからリアルうぜえ」

 キモオタが自分で水を差しておいて軽蔑するような顔をした。

「で? ご両親はご在宅なのかしら」

 ついさっきまで他の女子と同じように騒いでいた委員長が、クラスでの顔を取り戻して訊ねた。

「ぱ、パパは仕事。ママも仕事だと思う」

「じゃあ、わたしが来た意味がないのだけれど」

 キリキリと委員長の眉が顰められた。

「ママは仕事っていっても、家の中にいるから」

「ああ、家事ってことね」

 委員長の確認に複雑な顔をしてみせたが、デブV3は片手を振って促すように言った。

「と、とりあえず、いらっしゃいませ」



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