第八話 宿屋
そんなこんなで市場で買い物をし、既に両手が塞がって前も見えなくなっていた。
「んー・・・はぁ」
背伸びをしてご満悦なシャミアさん。
「やっぱり市場での買い物は、最高ね♪」
「はぁそうッスね」
適当に話を会わせる俺。
まぁ何はともあれ、目的地でもある宿屋が 見えてきた。
厳密には、荷物が多くて前が見えてないのだけれど。
「さぁハルカ、彼処が私たちの泊まっている宿よ」
俺の視界を遮っていた荷物を持ってくれるシャミアさん。
そして、視界に入ってきたのは木造の大きな建物。
「おぉ~!でっけぇー!」
高い位置に看板が下げられている。
看板には、エンゼルランプと書かれているらしい。
「さぁ入るわよ、ここの女将さんは、スッゴク優しいのよ♪」
そう言って扉に手をかけた瞬間。
バゴーンッッ!!と宿屋から一人の男が飛び出てきた。
いや、飛び出たと言うか、投げ飛ばされた、かな?
突然の出来事に呆然と突っ立っていると、店の中から一人の女性がゆっくりと出て来る。
「あんたねぇまた、食事代が払えないってどういう事だい?」
指を鳴らしながら出てきたのは、ショートカットの女性が一人。
「女将さん、ただいま♪」
「・・・」
その女性に対しシャミアさんとカルデンが挨拶をする。
カルデンは、頭下げただけだけど。
「ん?あら、お帰り魔導師さん、おや?新しい人かい?それなら、今、手離せないからリアに相手してもらって」
そう言うと女将さんらしい女性は、先ほど飛んできた男性にまたがり更に拳を振り下ろし始めた。
「コレで何度目か分かってんのかいッ!?」
「ヒィィッ!す、すみませんッ!!」
「すみませんじゃないよッ!あんた今までの付け全額払うまで返さないからね?」
女将さんは、笑顔を見せる、、、が。
笑ってない、目が笑ってない。
「・・・エンジェル?ってか悪魔じゃね?」
恐ろしいな。
取り敢えず一礼して店に入る。
店の中では、この光景も一つの楽しみのようで。
「良いぞぉー!女将さん!」
「えぐるようにもっと深く行けぇー!」
「どぉーしたッ!逃げるだけかぁ!?」
「男なら根性見せろぉッ!」
女将さんには、声援が。
男の方には、ヤジが飛ばされていた。
「賑やかッスね・・・(笑)」
半笑いで店の奥へ進む、すると。
「はいはーい!シャルさん御一行様お帰り~!」
若い女性が駆け寄ってきた。
まぁ十中八九この子が娘さんだろう。
「ただいまリア、お店の手伝い頑張ってるみたいね」
「まぁーねぇん♪そうそう、シャルさん新しい人ってどんな・・・ん?」
どうやら、シャルと言うのは、シャミアさんの愛称のようだ。
話の途中で俺と目が合う。
するとみるみる瞳が輝きだした。
「!・・・もしかして君が、新しい人?」
ずずいっと顔を近づけてくる。
「可愛い娘ね!名前は?」
興味津々といったとこか。
「えぇーっと、ハルカって言います」
「ハルカ!可愛い名前♪私は、リニア!皆からはリアって呼ばれてます!、よろしくネ♪」
俺の手を掴んで縦に勢いよく振る。
「貴女とは、良いお友達になれる気がするの!」
そして最後に、満面の笑顔。
俺じゃなければ勘違いしているかもな。
「お、おぉふ、友達///・・・あーっと、此方こそよろしく?」
「・・・」
笑顔のまま動かなくなる。
「?あの、リア?」
「えっ?あっ!えぇーっとハルカって男みたいな喋り方なんだね?可愛いのに勿体無いよ!」
「はは、ご忠告どうも、でも問題ないよ?俺男だし」
「えっ?・・男?」
今度は、口を開けたまま動かなくなる。
「・・・嘘だ・・こんな可愛いのにッ!?」
リアが膝から崩れ落ちた。
どんだけショックなんだよ。
「えぇ残念ながら・・・ね」
リアの驚きに肯定するシャミアさん。
てか、残念ってなんだ!?
女か?女がよかったのか!?
「まぁなんだ、部屋をもう一つ取れるだろうか?」
ここまで無言だったカルデンが会話を断ち切って入ってくる。
「・・・うえっ!?あっ!お、お部屋ですか?とっ、ちょっと確認してきますね?」
ビクッと震えてから起き上がり、カウンターの奥へ消えていくリア。
「部屋?何に使うんカルデン?」
「何って、お前が来たからな、仮にもシャルは女だ、夜に変な気を起こされても困る。だから面倒を見ている間は、部屋を二つにして、シャルは一人部屋、お前は俺とだ」
なるほど、てことは、ラッキースケベはお預けか。
「そんな気遣い要らないわよ?、過保護よカルデン?」
「過保護で結構、お前は、俺の契約者だ、契約者を守るのもまた、俺達精霊の役目」
ふむふむ。
「はぁ、分かったわよ、好きになさい」
やれやれといった具合に溜め息をはく。
そのあとも、雑談を続けていると、リアが小走りで近づいてくる。
「カルデンさん!お部屋一つ余ってました!どうします借ります?」
なぜこっちを見る?
「あぁお願いする、シャル悪いが、、、」
「良いわよ、一人部屋って言うのもおつなものだし♪」
「わっかりましたッ!!では、早速案内しますね!」
意気揚々と店の奥に進む。
進むと階段があり上へ、上って直ぐに二人部屋、その三つ隣が今回借りる一人部屋。
案内が終わるとリアは、仕事があるからと表の方へ戻っていった。
「今日は、もう休みましょうか、続きは、また明日、ね?」
シャミアさんは、そのまま部屋に入っていってしまった。
時間は分からないが、確かに外が暗くなり始めている。
「それじゃ、俺達も休むとしようか・・・」
部屋のドアを開けるカルデン。
「もう寝るんですか?早くね?」
「・・・明日は、また早いからな、起きれなくても知らんぞ?」
そのまま部屋に入っていく。
仕方ない、ここは、話に合わせて・・・。
「やれやれ、休みましょうか」
こうして釈放後の一日目が終わった。