第十一話 暴力系ヒロイン(仮)
二人の喧嘩を無視して、店の裏に向かう。
シャミアさんは、引き続きニャムと呼ばれていた猫を抱いたままだ。
猫もシャミアさんの腕の中に収まって落ち着いている。
何だろう、羨ましくも感じる。
・・・・・・・・・
しばらく歩いて、熱気を放つ建物に到着した。
その建物に、シャミアさんがなんの迷いもなく入っていく。
どうやらここが目的地らしい。
シャミアさんに続いて建物に入ろうとすると、あまりの熱気にニャムが慌ててシャミアさんの腕から抜け出し、トコトコと何処かへ行ってしまった。
それを、残念そうに眺めるシャミアさん。
仕方ないさ、だって猫だもの。
・・・・・・・・・・
中に入るとまず、物凄い熱気を全身に浴びる。
そして直ぐに、額に汗が吹き出した。
工房内は、金属のぶつかる音や、鉄を溶かしている機械?の稼働音が響いている。
もしかしたら剣以外にも色々造っているのかもしれん。
そんな事を考えながらシャミアさんに付いていたつもりが、気付くといつの間にかシャミアさんが居なくなっていた。
ヤッベ!はぐれた!
急いで辺りを見渡すが、シャミアさんどころか人っこ一人居ない。
どうやら完全にはぐれたらしい。
仕方ない、こうなったら探すか!
という訳で、見学も兼ねてシャミアさんを探すことにする。
だからと言って、工房内を走るような真似だけは、しない。
こんな所を、走り回ったら危険だからね!
危ないことは、絶対しない!
何てったって僕は、紳士だからッ!!
気持ち十分に意気揚々と一歩を踏み出すと。
「ソコの不審者ッ!!止まりなさぁぁぁいッ!!」
と、少女の声がした。
ナニ?不審者だと?
それはいかんッ!
この紳士界の中の紳士である!僕が!成敗してくれr・・・ッ!?
「ルゥボォォォオオオッ!!!??」
突然脇腹に、硬く重い何かが飛び込んでくる。
「うっ!グオッ!?」
脇腹を押さえて、その場でしゃがみこむ。
な、なんだこの痛み!!?
もしかして俺が殴られたの!?な、何で??
何で殴られたッ!?
疑問に思って居ると、今度は、腹に先程よりも強烈な一撃が飛び込んできた。
「ブッ!!?・・・ゲホッ!うっ!?」
痛みに咳き込んだ後、その場におう吐する。
吐いた物には朝食が混ざっていた。
わぁー今朝食べた幼虫だぁー。
あんなグロいもん食わされた上に、こんな所で再会するなんてぇー・・・。
コレが運命ってヤツかなぁ?
ハハハーまだ消化されてなかったんだぁ・・・。
・・・・・・
・・・はッ!?いけない!現実逃避してたッ!
何で俺、殴られなんだッ!?
不審者が居るんだろ!?何でッ!!?・・・もしかして不審者って俺か?
「アンタ、何者よッ!ここには、関係者以外、入っちゃいけないのよ!?警備兵呼ぶわよ!ぶん殴るわよ!?」
声のする方を向くと、中学生ぐらいの小柄な少女が、仁王立ちしながら俺を睨み付けてくる。
まぁ察するに不審者と言うのは、紛れもなく俺の事みたいだ。
確かに、こんなところに一人だと不審者と間違われても仕方ない。
さて、取り敢えず誤解だけでも説いておかなえれば。
「えぇーと、誤解をしているようだけども、俺は、一応客でッ!!?」
説明をしようとしたとこで右頬に拳が飛び込む。
「ちょっ!?まだ喋って・・・いってッ!?」
右頬を抑えながら、抗議の声を上げようとしたら、今度は、逆の頬を殴られた。
えっ?何で???えっ?って顔をしていると。
「何も言わないなら、実力行使しかないよね?ね!?」
と、悲しい顔をしながら少女は近づいて・・・いや、生き生きしてるぅ!?
メッチャ良い笑顔!なんてキラキラした瞳をしてるんだ!
えっもしかして、殴りたいの?殴り足りないの?殴れば落ち着くの?
いくら、世に言う所の、暴力系ヒロインだとしても!
こんな理不尽な暴力、許していいのか?イヤ!ダメだ!
理不尽なだけの暴力なんて、ただの嫌なヤツだぞ!
とりあえず、このままじゃ話にならない!弁護士を呼んでくれッ!
助けを叫ぼうとしたところで、少女に胸ぐらを掴まれる。
そのまま、俺を持ち上げる少女。
あ、あらー見かけによらず、力持ちなのねぇ・・・。
「強情ね、頑なに何者なのか話さないなんて・・・歯食い縛りなさい!」
そう言って固く握られる拳。
ここで、最後の悪足掻きに、説得を試みる。
「お、おぉぉぉ落ち着け!話せば解り会えるはずだッ!!」
「問答無用ッ!!!」
そう言って固く握り締められた拳を振り上げる。
こりゃダメだぁ。
もう、どうにも止まらねぇ。
端から話し合いなんて、する気ねぇじゃねぇか・・・。
そこまでで足掻くのを止め、目をつむる。
そして、振り下ろされる拳の衝撃に備え身構え、今か今かと、その時を待つ。
いや、待つと言う表現は、何か違うな。
まるで、俺が殴られるのが好きなドM見たいじゃないか。
誤解がないように言うが、俺は生粋のノーマルだッ!!
そんなことを考えていたが、待てども、待てども、拳が振り下ろされないので、不思議に思い、恐る恐る目を開ける。
すると目の前、鼻先に触れるか触れないかの微妙な距離で、拳が止まっていた。
生殺しかよ!・・・あっ違う違う、別に殴ってほしい訳じゃないから!うん。
とか、心の中で言い訳をしてみる、その時。
若い女性・・・いや、少女の声が聴こえて来た。
「やれやれ、また、暴走しとったな?この、暴力娘」と・・・