謁見
未だに主人公の名前出せてないなぁ………あ、今回も出ませんよ?
玉座の間の再奥、一際高い位置にある豪華絢爛な椅子に皇帝陛下はいた。傍には『思考』の能力を持つアレンシア帝国筆頭軍師、シャニファが控えている。
重々しい空気の中、玉座の間の中央へと歩を進めた俺に皇帝陛下が口を開く。
「此度のツソワーツ砦占領作戦、見事であった」
内容はたったそれだけ。しかし強大なプレッシャーが込められており、自然と汗が滲む。
『アレンシア帝国皇帝フルヴァクトル・レイ・アレンシア』
王であると同時に、『怪力』の異能をもつ帝国最強の戦士。
『龍墜とし』
『鬼神』
『大陸揺らし』
数々の異名を持つ英雄は、静かにその双眼でこちらを見ていた。
「勿体無き御言葉、運が良かっただけのこと。『突破』がいればこの倍はかかったでしょう」
「そう謙遜するでない。しかしまあ……『突破』は聡明さ、勇気、美貌、武力を併せ持つかなりの変界者だと聞いている。お手合わせ願いたいものだ」
その言葉を聞き、初めてシャニファが口を開く。
「皇帝陛下、貴方の戦闘狂は今に始まったことではありませんが、少しは自重してください。それに貴方は此処を離れてはいけません。貴方は民の心の支えであると共に主要戦力である変界者達が戦場に赴いている間の帝国防衛の要。貴方がいなければ誰が私を守るというのです」
最後の最後にさらっと入ったのは恋愛的な意味ではなく我が身を想う保身発言だが、確かに現在帝国が誇る変界者は全員戦場の真っ只中。さらにいえば護衛がいなければ戦闘能力が無い『思考』は確実に襲われる。間違った意見は言っていない。
まあ………皇帝陛下の前で堂々と私を守れ的な発言をするのはNGだが。
というかさっきまでのプレッシャーがいつの間にか消えている。完全に面白半分で出しただろ皇帝陛下。
「余も戦場に出たいが………まぁ、仕方が無い。それも皇帝の務めだ。さて、話が長くなったが、前にも言った通り褒賞はヴェルデラ王国を滅ぼした後に与える。こちらが本格的に攻勢に出るのは一カ月後、それまではしっかり休息も取りながら、己の研鑽に励めよ」
「はっ、了解いたしました」
「アルシャも期待しているぞ」
「はっ、光栄であります」
「捕虜の処遇も決めねばならん。退室してよいぞ」
シェスは残り、俺とアルシャは玉座の間から出る。
廊下を歩いていると、不意にアルシャがモジモジし始めた。
「………アルシャ、まさか皇帝陛下の重圧で漏らしそうになった何てことはーーーー「ありません!では!私は友達に会いに行って来ます!」
そう言うとアルシャは大急ぎで走って行った。
「まったく………ま、いいか。俺も帰るとしますかね」
しばらく歩いて城の地下に入る。
俺の部屋は隠し通路に繋がる牢屋のすぐ隣だ。仕事が無い間は隠し通路の管理と囚人の世話を担当している。
窓は無いが、読書が趣味の俺としては周囲から音が入らないためかなり気に入っている。
囚人も今のところはいない。ここの牢屋は敵国の重要人物を軟禁するための牢屋で、ここが使われることは滅多に無いのだ。
「それにしても………俺の部屋とあんま変んねぇのがなぁ」
最低限の家具は牢屋の中にある。冷たい石畳の床は剥き出しだが、それでも他の囚人よりかは遥かに良い待遇だ。
「それにしても一カ月後ね………ヴェルデラ王国の地理でも学んでおくかな」
「相変わらず勤勉………」
「?………ああ」
聞き覚えがある声だと思ったら、案の定
後ろにいたのは黒づくめで仮面を被った小柄な女性だった。
「帰ったのかリラ、リンガーは?」
「もうすぐこっちに来る………」
「陛下への挨拶は済ませたのか?ここにいるということはグラベラ攻めは成功したんだろ?」
「成功した………これから向かいところ」
その時、階段から足音が聞こえた。
「キヒャッ、リラがそんな喋ってるのは珍しいなぁ!」
「………リンガー、また興奮剤を飲んだな。あれは中毒作用があるから飲むのは戦場だけにしろとあれほど言ったはずだが」
「飲みたくなんだからしょうがネェダロォ?行こうぜリラァ!」
「………麻薬、ダメ、絶対」
「サッサと行くゾォリラァ!今なら皇帝陛下を倒せそうだゼェ!」
「あっ、待って………」
リラを引きずり去って行ったリンガーの 生存を祈る。皇帝陛下に喧嘩を売るのは古今東西興奮剤を飲んだアイツぐらいだろう。
だがアイツは皇帝陛下と呼んでいるから皇帝陛下に敬意を持っているのは確かだ。
「さて、こっちはこっちで知識の蓄えに専念するか」
そう呟いて俺は、帝都立図書館へと足を向けた。