帰還
ツソワーツ砦から馬を進めること十日、俺ら第二征伐軍は帝都ランバルザに到着した。
「第二征伐軍帰還!門を開けよ!」
門の番兵の言葉と共に、普段は開かれない外壁の大門が開かれる。城へと続く大通りのサイドにはランバルザ市民が並んでいた。
「全員戦利品を掲げろ!旗を掲げろ!勝利の凱旋だ!」
俺の指示でアレンシア帝国の国旗と解放教の紋章旗が立つ。それと同時に、第二征伐軍は列をなして整然と動き出した。
民衆は小さな国旗を振りながら次々と賛辞の言葉を叫ぶ。
「あれが帝国屈指の精鋭、第二征伐軍か!」
「キャーーー!将軍ーー!」
「ヴェルデラ王国の前線基地を潰したんだろ⁉︎流石第二征伐軍だ!」
「あの宝石欲しいなぁ………」
「帝国万歳!女神レフォルナ万歳!」
「「「「帝国万歳!女神レフォルナ万歳!」」」」
正直うるさい。
しばらく進んだが、城に続く大通りの奥にはまだまだたくさんの人が見える。苦行は城の前まで続くようだ。
「ウルセェなぁ……こちとら戦場帰りで疲れてんだ。すこしは黙ってくれねぇかな………」
俺の呟きに反応して副将軍が馬を寄せてくる。
「我慢してください。他の隊員は手を振っていますよ?」
「そんなこと言ってもウルセェもんはウルセェんだ。特に女の声は頭に響く」
「………それでも将軍なんですからしっかりしてください」
「相変わらず英雄様は真面目だな」
「いつも言っていますが私は英雄アルシャじゃなくて第二征伐軍所属副将軍アルシャです。邪神討伐なんてしていません」
「でもお前の親は英雄アルシャにあやかってつけたんだろうが。別に悪い気分じゃねぇだろ?」
「他人の功績を自分のものにしているみたいで気分が悪いです」
「………あ、ああ。お前そういう奴だったな、悪い。やっぱり、お前のそういうクソ真面目なところは信頼できるわ」
「………いえ、こちらも名前程度のことで怒ってすいません。将軍の自分に非がある場合すぐに謝る姿勢は尊敬します」
「お、おう、そうか………」
「は、ハイ………」
なにやら気まずい雰囲気になった。
後ろから噛み殺した笑いが聞こえる。
「おい………また将軍と副将軍がいちゃついてるぞ」
「昨日も一昨日もやってたな………」
「誰か十薬汁持ってこい。口の中が甘ったるくてかなわん」
「式には呼んでくださいね将軍!」
「おいやめろ!殺されるぞ!」
「子供は何人ですか副将軍!」
「おい馬鹿!いい加減にし……ろ………」
ようやく気付いたらしい馬鹿(兵士)が硬直している。式だのなんだの騒いでいた馬鹿の後ろには鬼のような顔をした副将軍が立っていた。
「貴方達は…いい加減にしなさ「いい加減にするのは貴方達よ。皇帝陛下を待たせているのを忘れたのかしら?」
聞き覚えのある声がした。
振り向けば、長い白髪が揺れている。
「……シェス」
シェスがいるということは、話に夢中になっているうちに城に着いたらしい。
「せっかく城門まで迎えに来てあげたのに第一声が名前なのね………ま、いいわ、兵士は兵舎で指示が出るまで休息。二人はついてきなさい。皇帝陛下に謁見して報告するわ。後老院のジジイ達にもね」
「後老院のジジイ共は喜んでたか?」
「………ああ、あの送られてきた女共のこと?『タイミングが良い。流石は第二征伐軍だ』とか言って傭兵に報酬として渡してたわ」
「そうか、役に立ったんならそれでいい」
「それにしても、ツソワーツ砦落とすなんてやるわね。『突破』がいなかったとはいえ、ヴェルデラ王国の前線基地を落としたのは賞賛に値するわ。後は『突破』を『切断』と『守護』が捕らえてくれれば御の字なのだけれど………ま、無理でしょうね」
変界者は珍しい。
できれば捕らえてこちらに引き込みたいのが本音だ。
「『突破』は三重の包囲網すら突破するチート能力ですから、また逃げられるでしょうね」
「ほんと良い能力よねぇ。私もメイド長として相応しい能力が欲しかったわ」
「お前は近衛隊隊長だったはずだが?」
「メイド長兼近衛隊隊長よ」
「あの壊滅的な家事でよくメイド長なんぞ名乗れたものだな。自称メイド長(笑)」
「あら、なにも家事だけがメイドの仕事ではないのよ?」
「家事というメイドにとっての基本的な技能がない時点で充分メイド失格だろ」
「殺すわよ?」
「へぇ、俺の『遮断』を破れるのか?」
「御二方、喧嘩を止めてください。もう着きました」
アルシャの言葉で冷静になる。
目の前には、皇帝陛下がいる玉座の間への巨大な扉がそびえ立っていた。