なぜか大魔王と話をする事になってしまった件
「あ、サトシ、おはよ~ 」
彼女の名前はヒメコ、異世界の姫にして最強の魔法使いだ。
「おはよう、サトシくん。 」
もう一人の少女も目を覚ました。彼女の名前はマオ、異世界の魔王だ。
変な夢を見ていたオレが目覚めると、両隣には幼い少女が二人寝ていた。いや… 、夢じゃなかったのだろう… 。
「ん?
ここどこ~? 」
「多分、サトシくんのいた世界だと思うよ、ヒメちゃん。」
「サトシのいた世界~?
きゃはは!
なんか面白い事になりそうだね、マオちゃん! 」
少女たちがそんな会話をしているとドアをノックする音が聞こえた。ヤバっ!! おかんだ!
「サトシ!
いつまで寝てんの!
早く起きなさい! 」
そう言うと問答無用で思いっきり勢いよくドアを開けてきた。おかんとオレは目が合いお互いフリーズしていた。おかんの黒目は左右に動き、真ん中に戻ってくると黙ってドアを閉めそっと部屋から出て行った。きっと夢か、何かの間違いだと思ったのだろう。例えば、誰も手を付けず長年放置されているゴミ箱の蓋を開けた時、中身のおぞましさに何事も無かったかのように、そっと蓋をかぶせる様な感じだ。
コンコンコン
「サトシ、もう朝ですよ、起きなさい 」
おかんはすぐに仕切り直し、今度はドアのノックと話方を穏やかにして部屋に入ってきた。
「って!
サトシ!!
あんたこんな小さい女の子連れ込んで何してんの!!!
まさか誘拐!!
そんな子に育てた覚えはないのに!
この親不孝者!
バカ息子!
どうすんのよ!
しかも、ロリコンとか!
………
……
… 」
「ね~サトシ~ 。
このおばさん、うるさいから眠らせちゃうね~ 」
ヒメコはそう言うとバーサク状態のおかんを魔法で眠らせた。
「それにしても… どうしたもんか… 」
オレは途方に暮れていた。
「マオのお父さんなら、なんとかしてくれるかも… 」
「マジかよ!
ってマオって魔王だろ… 。
父親いるのかよ! 」
「いるよ。
大魔王って呼ばれてる。」
「あ、やっぱいいや… 。
何か嫌な予感しかしないわ… 。」
「そうなの?
でも、もうマオ、サトシくんをお父さんの所に連れてきちゃったよ。 」
マオの声が聞こえたと同時にオレの視界は黒くなった。黒い靄が晴れると薄暗い城のような場所にいた。マオはオレの横にいたが、どうやらヒメコはいないようだ。そして、目の前には、いかにも大魔王という感じの恐ろしい雰囲気を持った男がいた。
「やぁ。はじめまして!
僕はマオの父親で大魔王とか呼ばれちゃってる者だよ~ 。
君、うちの娘の友達? 」
その見た目とはかけ離れた口調で大魔王は話しかけてきたので拍子抜けしてしまった。
「いえいえ… 。
実はマオさんとは会って間もないんですけど… 」
「そうなの? 」
大魔王が「?」みたいな感じになっているとマオがオレの代わりに話をしてくれた。
「うん。
サトシ君とは出会って間もないけど、ヒメちゃんの婚約者なの。
だからマオにとっても大切な人なんだよ。」
「そっか~ 。
ところで、マオ。
なんで魔界に来たんだ?
引きこもりのおまえがお友達を連れてくるなんて珍しい… 」
マオは大魔王にここに来た経緯を説明していた。てか、ここ魔界だったのかよ!
「う~ん、マオの頼みだし~ 、
なんとかしてあげてもいいけど… 。
それやると疲れるしなぁ… 。
…
あ! そうだ!
ひとつ条件をつけよう!
サトシ君と二人で話をさせてくれたら、なんとかしてあげるよ! 」
話だけならと思い、マオと相談した結果、オレは大魔王の部屋に通され、二人だけで話をすることになった。
「ま、そんな緊張しないで。お茶でもどう? 」
「じゃ、せっかくなんで… 。ところで、話ってなんなんですか? 」
「いやぁ~… 君、人間だろ? ちょっと意見というか、アドバイスが欲しくてねぇ… 」
「はぁ… 、オレにそんなアドバイスができるとは思えないんですけど… 、それでも良ければ… 」
「実は、勇者に困ってるんだよ、何か良い方法ない? 」
「は??? 」
「いや、だから~ 、僕は勇者の扱いに困ってるの! 」
「はぁ… 、困ってるとはどういう事で? 」
「大魔王が困ってると言えば、勇者が僕を倒しに来ることだと相場は決まってるだろ? 君も人間界の人間なら、今までいろいろと、そういう感じのゲームしてきただろ? 」
「はぁ… 、まぁ… 、それなりに… 」
「じゃ、どうすれば勇者に倒されないで済むか? 君のアドバイスが欲しい! 敬語とかもそうだけど、僕に気を遣わなくていいから、思った事をありのまま喋って欲しいんだ。」
なんだそりゃ? と思いつつも、そんなんで良いのなら… と思いオレは大魔王にアドバイスをしてみることにした。
「まず、世界を滅ぼそうとか、支配しようとしなければいいんじゃね? 」
「いやいやいや、僕そんなつもり全くないし! まずその設定がおかしいというか、なんか僕たちの世界の人間って洗脳されてると思うんだよね~ 。」
「それ言ったら話終わっちゃうんだけど… 。それに、そんな事言ってるけど、町の外に出るとモンスター襲ってくるじゃん。」
「あれ、実は逆なんだよね~ 。だって僕たち草原とかをうろうろしてるだけだよ~。森とかにいる虫が自由に生きてるみたいにさ。そこに剣とかいろいろ装備した物騒な武装集団に出くわしたら正当防衛もするだろ? それに勇者が冒険を始めたての頃の僕たちの仲間ってほとんど丸腰だよ? 魔法だって使うやつ少ないじゃん! 」
「まぁ… 、確かに… 。でも最後の方なんて規格外の強さを持ってるやつもいるし、武装したモンスターだっているだろ? 」
「そりゃ、そうだよ。それまでにどれだけのモンスターが倒されたと思ってるんだい? それに僕だってできるなら倒されたくないからね。だからお城とかも住みにくくなるのは嫌だけど、トラップとか仕掛けるんだよ。あれ作るの意外と労力使うんだよねぇ… 。」
どうやら、話を角度を変えた方が良さそうだ。
「じゃ、例えば、勇者と仲良くしてみるってのは? 」
「多分ダメだと思うよ。僕の姿ならまだなんとかなるとしても、仲間のモンスターたちの見た目ってグロいじゃん。例えば、ゴキブリが突然喋りだして「僕たちと仲良く一緒にこの家に住もうよ! 」って言われても嫌でしょ? 」
「間違いない… 。それなら、いっそ思い切って勇者が弱いうちに倒してみるとか? 」
「あ~、それね。僕も試してみたけど全然ダメなんだよね~ 。」
「どうして? 」
「いや、なんかわかんないけど、「最初からモンスターがそんなに強いと成り立たないから! 」って怒られるんだよね。」
「誰に? 」
「この世界の神様。だから逆らえないんだ。」
「謎だな… 」
「ほんと、それ。でね、中盤以降とか、僕と勇者が対決した時に稀に勝てる事があるんだけど、「やった! 勇者を倒した! 」とか喜んでたら、なんか時間が遡って、勇者が負ける前まで時間が戻っちゃうんだよ。で、結局僕は何度も何度も勇者に倒されてるんだ。」
「……… 、なんで勇者に何度も倒されてるのに、ここにいるんだ? 」
「今は新しい勇者が出てきたからね。」
「どういう事? 」
「新しい勇者が誕生すると、僕は復活するんだ。でも、倒される運命は変わんないけど。丁度、今レベル上げてるトコみたいだし、しばらく暇なんだよ。」
「レベル? なんかゲームみたいだな… 」
「ゲームだからね~ 」
「え? 」
「いや、ここゲームの世界だから… 。」
「は? ゲームの世界? じゃ神様って誰? 」
「直接会ったことは無いけど、「運営」って言ってた気がする。なんか「ユーザー獲得するの大変だ」とか、「どうやって課金ガチャ回させよう」とか、なんか色々とぼやいてたな。」
「なんだ、それ!!! 」
「あ、それとここがゲームの世界って言っても100%君たちの世界で言ってるようなゲームじゃないんだよ。僕について言えば、以前の記憶を持ったままちゃんと生きてるし、マオという娘だっている。全てが神様の思い通りにはならない異世界だよ。」
「じゃ、なんでマオはこことは違う異世界にいたんだ? 」
「なんか、ユーザー登録者数○万人突破! とかいう出来事があると「大魔王よく頑張ってるな」とか言って神様がご褒美に願いをひとつだけ叶えてくれるんだ。で、マオが何度も勇者に倒されるのは可哀想だから、こことは違う異世界に飛ばしてもらったんだ。違う世界に行ったマオはなんか凄い力を身につけてて、たまにここに遊びに来てくれるんだ。」
「もう無茶苦茶だな… 。
それだったら、次の願いで大魔王とかモンスターじゃなくて、ロボットを勇者の敵にしてくれ とかお願いすれば? 」
「!!!!!!!!!
サトシ君!
君は天才だ!
僕、次は絶対そうするよ!
それまでは何度も何度も勇者に倒されるだろうけど、頑張ってみるよ! 」
なんか良くわからんが、大魔王は喜んでいるみたいだ。これでオレの状況をなんとかしてくれるのだろうか… 。そんな事を思いながら少し不安そうな顔をしていると大魔王は言った。
「そんな不安そうな顔しないでよ!
僕がサトシ君のためになんとかしてあげるよ!
君は恩人だからね! 」
大魔王はそう言うと何かの魔法を唱え始めた。するとオレの視界は暗くなった。
目が覚めるとオレは元の世界の自分の部屋にいた。ただ、両隣にはオレと同じ歳位の二人の美少女が一緒に寝ていたのだ。なんだ、この状況… 。オレはムラムラしていた。
「やぁ、サトシ君。
君は僕の恩人だし、約束通りなんとかしておいたよ。
そんな君には大サービスで、娘のマオを嫁にあげるつもりだから結婚すると決めたらまた魔界に来てね。
てか、マオを泣かせたらどうなるかわかってるよね? 僕、これでも大魔王だから、そこんとこ忘れないでね~。
てことで、マオをよろしく!」
オレの頭の中で大魔王が話かけてきた。
「いやいや、絶対なんとかなってないだろ!! 」
オレが軽く絶望しているとおかんの声がした。
「サトシ!
いつまで寝てんの!早く起きなさい! 」
そう言うと問答無用で思いっきり勢いよくドアを開けてきた。おかんとオレは目が合った。オレは気まずさの余りフリーズしてしまった。
「あら?
マオちゃんにヒメちゃんもサトシの部屋で寝てたの?
サトシ、あんたもお盛んなのは結構だけど、つけるべきモンはちゃんとつけときなさいよ!
みんな、朝ごはんできてるからね。
早くしないと学校に遅れるわよ。」
おかん! 何勘違いしてんだよ!
てか、どういう状況だよ!
恐るべし大魔王。とりあえずのサトシの抱えていた問題は解決したが、新しい問題が発生した。