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名物生徒会なんて毎年いない

作者: 桜 夜幾

 生徒会。

 それは選ばれし者の集団。


 煌びやかな伝説を残して行った生徒達。


 だがしかし、そんな生徒会は毎年いるわけではないのである。




 月曜日。

 僕は朝早く、校門の前で登校してくる生徒を待っていた。誰か一人を待ち伏せとかではなく、ただ単に風紀委員の仕事だからなんだけど、必ず四人の風紀委員が朝の校門に立つことになっていて、今日は何故か三年の先輩たちの中に二年生の僕一人という図ができあがっていたのだった。

 先輩達より先に登校すること。

 これが暗黙の了解である。あるのだが、何故か風紀委員長より先に来れた試しがないのは何故でしょうか。

 と、ぼんやり考えていたら最初の生徒が登校してきたので朝の挨拶をしたところ、青白い顔を上げて何故かため息をつかれた。

 えーと、何かしました?


「ボクの下僕が挨拶してるのに返事なしですか副会長殿?」


 下僕じゃないですよせめて部下にしてください。

 ともかく風紀委員長である真田先輩がそう言ったのを聞いて、僕はようやく顔色の悪い人が副会長だと気づいたのだけど、どうも様子がおかしい。いつも飄々としている人だったはず。

 

「あぁ、真田。わりぃ。おはよう」

「ボクにじゃありません、先に挨拶したのはそこの結城ですよ」

 校門に風紀委員が立っているのは、大抵服装チェックだったり持ち物チェックだったりするので挨拶は返ってこないこともある。だから気にしなくてもいいんだけどなぁ。それに副会長、何だか具合悪そうだし。

「いえ、あの、良いんですけど。えーと、どこか御加減でも悪いんですか?」

 僕の言葉に、はっとした副会長が改めて僕に向かって挨拶してくれました。

「おはよう……ええと、一年生か?」

「……二年生です。身長低いですけど……今年入った一年生より低いですけど!」

 成長するからと言われて大きめに作られた制服がまだ余裕がありますが、何か!?

 制服の襟の縁取りきちんと見てください、二年生の色でしょう!?

「あぁ……本当にすまん」

 副会長はうなだれてしゃがみ込んでしまったのだけど、本当にどうしたんだろう。

「あなたらしくありませんね。何かありましたか」

「真田……。おまえ、つまらないと思うか?」

「は?」

 そこにいた副会長を除く全員の目が点になっていたんじゃないかと思う。しばらくの沈黙の後、委員長が何かを思い出したように「あぁ」と呟いた。

「例の……あれですか? でもあれは去年から言われていますよね」

「例のって何ですか? 委員長」

 しゃがみ込んだままの副会長に聞くより委員長に聞いた方が早いとふんで、僕は委員長を見上げてそう尋ねてみた。くそう、首が痛い。

「今期の生徒会がつまらないって話ですよ」

「え?」

 委員長の言葉に、他の風紀委員の先輩達が首を縦に振っている。

「前から言われてはいたんだが、先週行われた生徒総会が終わってから、一気に増えたんだよ。今期の生徒会はつまらないっていう意見がな」

 深い深いため息をついて副会長が、それでも気を取り直したように立ち上がって僕を見た。見たっていうか見下ろしてきた。

「ん? お? おぉぉぉ?」

 そういいながら何故か僕の頭をポンポンと軽く叩く。


 なんかむかつく。

 かなりむかつく。



「ボクの下僕に気安く触らないでください」

 委員長が副会長の手をどけようとしたみたいだけど、避けられていた。

「良いじゃねぇか。ふむふむ。何だ、真田。おまえ、隠していたのか?」

「隠していませんよ。あなたがいつも登校している時間には生徒が大勢登校する時間なので、他の生徒に埋もれて見えなかっただけでしょう」

「あぁ。なるほど」

 なるほど……じゃないですよ。委員長。

 ふたりともひどい。


「何か、こう……かまいたくなる可愛さだな。小動物的な」

「しょっ!? 僕、人間です!」

 何故か腕を広げて近づいてくるので委員長の後ろに逃げた。

「あげませんよ」

「それは残念」

 がっかりした様子で副会長がため息をついた後、鞄を委員長に渡そうとしました。

「生徒会特権を使わないのですか?」

「見られてこまる書類なんて入ってねぇよ。そもそも持ち出し禁止なんだからな」

 抜き打ちのチェックを拒否できるのは生徒会に所属している生徒だけで、服装チェックも拒否権があったはず。

 服装っていっても僕らは全員制服だし、式典……始業式とか入学式とか、そういう時以外の服装は結構緩い。現に風紀委員である僕らも、普段の制服はネクタイなしだったりする。委員長は常に付けてるけど。


「珍しくこんな時間に登校しているのは何かあったのですか」

「いや。特に何があったってわけじゃねぇんだが。会長が……」

「会長が?」

「背中に重い空気背負っててよ。それでも健気に仕事してるつーのに、二年に地味会長とか言われて涙目になってるのを見てるといたたまれなくて……」

「ああ。あなた達は寮でしたね」

 僕が通っている学園は一部の生徒が寮生活をおくっているのだけれど、個室っていうのはまったく無くて必ず二人以上で一緒に暮らすことになっている。

 一階にある食堂は全学年が使用するわけだし、特に学年で席が決められているわけでもないから、時に一年と三年が隣り合う時もあるわけで。


「私は気にしていませんよ」


 副会長の後ろの方から声が聞こえて、そっちの方を見るとじm……生徒会長が立っていた。

 委員長と同じようにかっちりと着た制服に黒縁のメガネ。僕が言うのもなんだけれど普通の容姿なんだよなあ。普通は全然悪くないんだけど、何しろ前生徒会長がものすごいイケメンだったもんだから、それを知っている二年生と三年生からすると地味に見えてしまったりする。

「涙目で言われても説得力ねぇよ……」

 副会長が自分の顔を片手で覆ってしまい、風紀委員達には困った顔をしている人もいた。

「地味の何が悪いのですか?」

 風紀委員長が片眉をぴくりと動かしながらそう言ったけど、それはちょっと……。

「モテる君に言われたくないです」

 会長はため息をつきながら、しぱしぱと瞬きを繰り返している。涙がでそうなのを誤魔化してる感がすごい。イケメンの真田先輩が言っても追加攻撃にしかなりませんって。

 何だか可哀想になって、僕はハンカチをポケットから取り出して会長に渡した。

「会長がきちんと仕事をしているの知ってますよ! 大丈夫です」

 風紀委員が放課後の見回りを終える時間になっても、まだ残って仕事をしていることがあるのを僕は知っている。質問や要望に対して学園のホームページにある生徒会の場所ですばやい対応をしてくれているのだから、何が不満なのか僕にはわからない。

「落ち着いていて、今の生徒会大好きですよ!」

 前生徒会はそれはそれはやたらと騒がしかった。

 生徒会長が通る所にバラが巻かれていたり(先生に注意されて、親衛隊が掃除をしながら追いかけていたっけ)、前応援団長と校則について生徒総会で喧嘩をしたり(男なら髪は短くすべきであるとかなんとか団長が言ってた)学園祭の生徒会長のスピーチでバラを投げたり(女子が一本のバラに群がっているのは怖かった)。


 あれ?


 そういえば副会長は前生徒会にもいたはずじゃなかったっけ?

 

「ううう」

 僕の前でハンカチを受け取った会長が小さくうなったかと思うと、何故か号泣しながら僕に突進してきたのだった。

「うわぁ!」

 思わずのけぞった所を風紀委員長に襟首を捕まれて後ろ手に隠された。はぁ、びっくりした。

「勝手に触らないように」

「いいじゃなですか! くぅぅぅ。その小動物を生徒会にください!」

「却下」

 委員長に隠された僕が背中からちょっとだけ顔を出してみると、会長と副会長が委員長の前で何故か土下座を始めている。何で土下座?


「その子を生徒会に是非!」

「ですから、却下と申し上げました。それに生徒会にも可愛い子がいるじゃないですか」

「あれは、腹黒なんですよぉぉぉ」



「誰が腹黒だって?」



「山久!」

 


 にっこりスマイルでやって来たのは、書記の山久さんだった。確かに可愛い。たしか昨年の学園祭でミスに選ばれていたと思う。


「風紀委員長に褒められてとっても嬉しいわ?」

 長い髪をかきあげて、委員長に視線を送っている。 ちらっと委員長を見るといつも通り、特に表情が変わらない。さすがだなあ、僕なら真っ赤になっているところだよ。

「褒めていませんよ、事実を言っただけです。ところで山久さん。そのピアスは校則違反です」

「生徒会特権を使わせてもらうわ。さぁ、会長。こんなところに座っていないで、行くわよ」

「生徒会に癒しを~~~」

「癒し?」

「あなたがたもしつこいですね。認めません。さっさと生徒会室にでも行ってください」

 顔を出していた僕をまた背中に隠して、委員長が生徒会の面々を促している。そろそろ登校する生徒も増えてくるし、朝のホームルームまでに終わらせるためにテキパキ鞄チェックを終わらせたい僕らは、たまにごねる生徒がいると委員長にお願いすることが多いのだけれど、生徒会がなかなか動こうとしないのを見て委員長は副委員長に右手で何か合図を送った。

 始めてみる合図で何だろうと思っているうちに、何故か僕は副委員長に抱っこされて、そのまま走って校門から離れる。

「ふく、い、いん、ちょ。な、何……」

「舌を噛むぞ、黙っていろ」

 何処へ行くのかとか自分で走れますとか言いたかったのだけれど、舌を噛むのは嫌なのでお口チャックで黙っていることにした。

「あーーーっ、癒しがぁぁぁ」

 後ろで声がしたけれど、もちろん見れるような体勢ではないので遠ざかっていく声を聞きながら、ぼんやりと副委員長の顔を見ていた。

 ねぇ。

 副委員長様。

 何で抱っこなんでしょうか。


 僕これでも高校二年生のもうすぐ17歳なんですけれど。

 

「お、おもく、ない、ですか」

 少しスピードが緩くなったので聞いてみた。

「軽いな」

「……そ、うです、か」


 くっ。

 筋トレして筋肉つけて、重くなってやるうううううう。


 そこは身長を伸ばす方では? と後から委員長に言われるのは後数分後。


 どっちにしろ、大きくなってやるんだぁぁぁ。

 今にみてろおおおお!


 そして、僕は何処へ運ばれているんですかぁぁぁ。 誰か教えてー!


 うぐっ。


 舌かんだ。






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