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強化外骨格 異世界で無双する  作者: 梵天
カルナストウ領編
17/19

箱の中の嵐

次回は絶対に戦闘を書く。


 徒歩の兵を伴っているため、巫女を乗せたリネア達の馬車はゆったりとした速度で進んでいる。

 トウヤ達を含めた護衛の一団もシャルティエの魔法により広範囲に張り巡らせた警戒網と、斥候から異常なしの定時報告を受けてリラックスした雰囲気で道中を進んでいる。


「クロエ、参式の機能チェックは済んでいるか?」


 右手の展開デバイス"ドライブレイサー"に語り掛ける。甲の部分に輝く輝石をチカチカと光らせながらクロエが応える。


「とっくにチェック済み。十全に力を発揮できるわ。」


 トウヤがクロエに問うと、淀みない返答が返ってくる。長い戦いを二人で乗り越えただけあって、阿吽の呼吸である。


「十全といったが、拡張機能も使用可能なのか?」


「十全の定義から説明したほうがいいかしら?」


 愚問だと切って捨てる様な返答に、トウヤは苦笑する。

 だが、同時に嬉しさも感じていた。リネアを襲っていた賊を殲滅した時に使用していた高速機動形態"ソニックフォーム"は、装甲の展開によりスラスターを再配置するだけの基本機能の一つである。拡張機能を使用すれば、さらなる戦闘能力の強化が可能となる。


「あと、参式って呼ぶのやめて。ワタシにはクロエって名前があるんだから。アナタだって『おい、人間』って呼ばれたら変な気分になるでしょう?」


「すまん」


「誠意が感じられないわね」


「今夜ディナーをご馳走するから許してはくれないか?」


「フフ……ばーか」


 騎士からすれば、精霊とのコミュニケーションは日常的なものである。誰も虚空に話しかけるトウヤに疑問を抱かない。精霊と騎士の関係も様々である。対等の友人付き合いをする者や、精霊を腹心の部下のごとく扱うものもいる。精霊との関係に口を出さないのが礼儀である。

 のんびりとした空気を満喫する護衛達とは対照的に、馬車の中では緊迫した空気が流れていた。


「ホントなのぉ?」


 その見た目に反して見るものに妖艶さを感じさせるような、そんな雰囲気を漂わせる巫女。


「そ、それは……」


 身を離して疑念を抱かれることも不味い。

 リネアは囁かれた言葉の答えに窮し、ゆらゆらと行く宛もなく視線を彷徨わせる。巫女は何故そのようなことを聞くのか、質問に正直に答えて良いものなのか、自分には分からない。事態を察して助け舟を出してくれることを願って良き従者であるトリスに視線を向ける……が。


「……?」


 トリスにはリネアの想いは伝わらず、こちらにニコリと笑顔を向けただけであった。


(こンの……駄メイドぉ)


 今取りうる選択肢は、何か良い案が浮かぶまで答えを引き延ばすことだけだと直感した。それと、もし無事に帰ることが出来たなら、トリスの下着を一枚くすねて騎士団の宿舎前にそっと置いておこうと決意した。


「それはぁ?」


 耳元で囁きながら、なおも答えを促す巫女。

 ふとナターリアを見ると、俯いて微動だにしない。前髪に隠れて表情は見えないが、口の端は釣り上がり、嗤っているように感じた。

 その袖口から何か、金属特有の剣呑な輝きが覗いている。装飾品の類などではない、赤い色で命を飾るモノの気配。


――対応を間違えれば不味いことになる。


 沈黙。

 リネアにとっては数十分にも感じたが、実際には数秒しか経過していない。


「そうですよ。素敵な方です!」


 肯定。

 それが、たっぷりと時間を掛けて捻り出した答え。トウヤを自慢するように装い、何でもないように答える。


「でも、それがどうしたの?」


 耳元から顔を離し、少し乱れた衣服を正すと、リネアの答えに満足した様な表情を浮かべる巫女。


 巫女には心当たりがあった。

 聖霊信仰の原点である四百年前の対魔戦争。そして人族の剣となった魔導鎧。

 そして、これらの物語には英雄が付き物である。

 詳細を記した当時の文書は長い時代の経過で失われ、現在は当時吟遊詩人によって酒場で語られた英雄譚(サーガ)をベースとして再構成されたものが伝わっている。

 ディルフィーネ王国の祖である、後の英雄王グラフォスと初代の聖霊の巫女とのラブロマンスを中心に物語が進んでいく。今でも子供達は、眠る前にこの英雄譚を聞く。

 

――教国には失われた真実について口伝が残っている。


 曰わく"王の右腕は名もなき真なる英雄。王の求めに応じて門を通って現れた。"この一節は代々の巫女と法王にのみ伝承される。そして、この一説に基づいて教国は水面下で既に活動を開始している。


「ん? 別にどうもしませんよ?」


 巫女の表情は先程までと違い、リネアがいつか見た笑顔だった。


「あっ!」


 突然横から声が上がり、リネアは思わず飛び上がりそうになる。喉元まで出かかっていた悲鳴を何とか飲み込むと、トリスがごそごそと何か箱の様なものを取り出している。


「お菓子があるのをすっかり忘れてました。皆さん食べますよね?」


 ニコニコと笑顔で手に持った箱を開けると、焼き菓子が並んでいる。流通量の関係で、決して安価ではない砂糖をふんだんに使ったクッキーである。甘いものを目にして、場の空気が変容する。


「!?」


 それを見て巫女の目が輝く。おっとりとした見た目から想像もできない素早さでクッキーを手にする。


「食べます」


「フフ……いけませんよ巫女様。こぼれております」


 ナターリアは、小動物を愛でる目で表情を緩め、"巫女様は可愛いなぁ"と小さく呟きながら、ポロポロと食べかすを零す巫女を甲斐甲斐しく世話している。その袖の奥には先程まで見えた剣呑な輝きは認められない。

 リネアは何の悩みもなさそうな朗らかな笑顔をしながら、緊迫した雰囲気を粉砕したトリスの評価を上方修正する。


 少々の波乱があったものの、馬車は無事グランストウに辿り着く事が出来た。

 翌日の朝騎士団の宿舎前で黒い何かを握りしめたトリスの悲鳴が響くことになるが、事情を尋ねようにもトリスが何かを語ることはなく、詳細は闇の中に葬られた。

ガーターベルトとか言う神器。

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