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強化外骨格 異世界で無双する  作者: 梵天
カルナストウ領編
13/19

双剣煌めく

おっぱいが小さいから空気抵抗が少なく動きが早い

一理ある。



 睨み合う俺とオーガ。

 三メートル程の体躯と、ゴムタイヤを圧縮したような高密度の筋肉が、その膂力が人類にとって脅威であることを否応なしに理解させる。

 

「気を付けて下さい! ゴブリンやトロールと違ってオーガは今までの魔物とは格が違います!」


「格が違う……?」


「そうです! 貴方ならば問題無いは思いますが、ここは大事を取って連携して……」


 あらかたの敵を屠ったシャルティエが、加勢をするためか此方に走り寄り警戒を促す声を掛けてくる。

 むやみに襲い掛かってくるのではなく、こちらの隙を伺う狡猾さを見ると、先程までの雑魚連中とは確かに違うとは感じる。

 連携の申し出については……多分、シャルティエ一人でも余裕だろうが、彼女の慎重な性格が出たのだろう。


「問題ない」


 野生の獣が当たり前にやってのけることで、一々感心する必要はない。


「グオオオオオ!」


 オーガは咆哮とともに、後ろでたじろぐゴブリンの足を掴む。

 俺に向かって、行くぞ、と言わんばかりに武器と化したゴブリンを振りかぶり叩きつけてくるが、身体を捻り半身になって回避する。この程度であれば、距離を取る必要もない。

 

 叩きつけられた哀れなゴブリンは、魔石に還るために魔素の光の軌跡を描きながら、二度三度と振られる。

 オーガは今や消滅を待つだけの消えかけのゴブリン棍棒が当たらないと知るや、用はないとばかりに勢いよく放り捨てる。


「どうした? オーガの伝統の踊りか?」


 人語を解するのか、奴は挑発に唸り声を上げ掴み掛かってくる。

 魔物に武道の心得などあるはずもない。肩や腕の動き、目線が次の攻撃の起こりや行き先を教えてくれる。見え見えの軌道にわざわざ当たりにいく馬鹿はいない。


『ついさっきそんな馬鹿がいた気がするけどぉ?』


――気のせいだろう。


 無い知恵を絞っているのか、魔物は魔物なりに突きなどの点の攻撃ではなく、振り下ろしや裏拳などの線の軌道の攻撃を多用している。

 掴みかかろうと腕が伸びきったところを横に回りこみ、槍でしたたかに横っ面を打つ。


「グゥゥウウウ」


 オーガはニヤリと口を歪める。

 やはり打撃は筋肉の鎧に阻まれ効果が薄い。


「何を得意になっている」


 ブラッドランスを後腰にマウントし素手になる。

 無造作に歩いて近づくと、オーガは嬉々として攻撃を繰り出してくる。

 雑な右の裏拳をかわして懐に入り込む。


「ふっ!」


 がら空きになった顎に、掠らせるようにアッパー気味の掌底を入れる。

 奴も人型の魔物だ。奴も人間と同じ様に脳を揺らされれば朦朧となるのは自明の理。

 続けて左足を強く踏み込み、双掌を胸板に当て――


「ギイイイ」


 自分の筋肉の鎧により双掌を無効化したと確信したオーガは、嬉々とした表情で俺を叩き潰そうと両手を組んだ槌を振り下ろそうとする。


「発頸――」


 踏み込んだ左足の力を身体の捻りにより、足、腰、肩、腕へと力が伝達し攻撃力に変換。双掌が砲口と化し威力を解き放つ。波紋のように浸透する発頸は、いかに鎧の如き分厚い筋肉があろうと防ぐことはできないが――これはただの発頸ではない。


「乱掌!」


 発頸の衝撃が通るタイミングで手首の衝撃砲(エグゾーストキャノン)を放つ。

 ドン、という鈍い音が鳴る度に、背中から逃げ出そうとしていた頸が衝撃砲によって強引にその矛先を変えられ、オーガの体内で乱反射し蛇の如く暴れ狂う。


「ゴアアアアアッッ!?」


 いよいよ踏ん張ることもできなくなり、全身を襲う今まで味わったことのないダメージに血反吐を吐きながらオーガが吹き飛ぶ。


「期待外れか」


 あまり時間をかけるのも勿体ない。

 止めを刺すべく倒れたオーガに歩み寄るが、額の輝石が怪しく光るのを見て足を止める。


「隠し球があるのか?」


 全身を這い回る激痛により苦悶に満ちていたオーガの顔から表情が消え、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がる。

 パワーアップでもするのかと少しの期待が湧き上がるが、まず反応したのはシャルティエ。


「気を付けて下さい! 氷の槍(アイシクルランス!」


 危機感から、シャルティエが即応して魔法を放つ。

 音速に近い速度で飛んでいく氷の槍がオーガに直撃するかに見えたが、直前で霧散する。


「なっ!? 私の魔法をかき消すだなんて……」


「オーガは皆、こうして復活したり魔法をかき消したりするのか?」


「そんな事ある訳がない! 先程のあなたの攻撃ならば十二分に致命傷だった筈だ!」


 俺の言葉に、とんでもない、といった表情で応えるシャルティエ。


「グルァ!」


 オーガの額の輝石がまばゆく光を放つ。

 俺とシャルティエは未知の攻撃に備えて身構える……が、その光は攻撃ではなかった。


「嘘でしょう……?」


 ありえない、といった表情のシャルティエ。

 光が収まった後、オーガの鉄のように頑強な肉体は文字通り鉄のような金属の鎧と化し、僅かにその顔のみが奴がオーガだったことを教えてくれる。


「これは……」


 まるで魔導鎧だ、と言おうとした所にシャルティエが声を被せてくる。


「マイヨ! カラーズ! 隊を掌握していつでも出れるようにしておいて下さい!」


 伝声の魔法でも使ったのか振り返って本陣を確認すると、マイヨとカラーズがすぐさま本体を纏めるための行動を始めている。


「貴方は確かに強いですが、遊びが過ぎます……ここは私が仕留めます。」


 俺の返事を待たずに前に出るシャルティエ。

 それを押し退けてまで手を出す気も起きなかったので、このまま彼女に任せることにする。


「いきますよ、マーナ!」


『わかった』


 虚空に向かって声を上げると、姿無き声が返ってくる。

 声の主は彼女が契約している精霊"マーナ"。


 シャルティエが目を閉じ右手を突き出すと、身体から可視化出来るほどの魔力の奔流が立ち上り彼女の身体を包み込む。


「ついに見れるか、奴の魔導鎧……」


 強者の実力の一端を見られるのだ。魔物などより余程興味深い。


展開(コール)……魔導鎧(マギアーマー)!」


 魔力の奔流が光の柱へと変わり、完全にその姿を覆い隠す。


「ガルム!」


 魔狼(ガルム)

 この世界にも同じ様に神話があるのか、何らかの方法でこちらに伝わったのか……はたまた実在していたのか。


『その可能性は考慮しておくべきでしょうね、アナタだけが特別だという保証もないから。最後のは知らない』


 先程まで装備していた軽鎧が、冷気が漂うような青みがかった白銀のものに置き換わり、流れる銀髪が美しかった頭には新たにハーフヘルムを装着している。

 魔狼(ガルム)の名に相応しく、頭の上部のみを覆うヘルムは狼の耳の意匠をしており、そこから流れる銀髪が狼の尾のように見える。


「時間は掛けない!」


 ガルムを身に纏ったシャルティエが、双剣を手に躍り掛かる。

 その速度は、いつかの模擬戦の時の速度とは比べ物にならない。

 オーガは防御しようと手をかざすも、防御が完成したのは既にシャルティエの駆け抜けた後である。

 流石に速い。


「氷結」


『固定』


 シャルティエが呟きで詠唱を完成させると、大気中に氷の粒が発生し、精霊(マーナ)が呼応する。

 彼女とオーガの周囲にキラキラと氷の結晶が舞い踊ると、虚空を蹴りつけ反転する。

 彼女が空中を蹴りつける度に剣閃が煌き、その度にオーガにダメージが蓄積されていく。


『精霊が魔法で氷の粒の座標を固定しているわ。それを蹴って反転したのね』


 クロエの分析報告を受け、便利な能力だと感じる。

 上限や規模が分からないが、その気になれば空中を歩き回れる可能性がある。


 シャルティエは深手を負い動きの鈍ったオーガから距離を取り、双剣を地面に突き立てる。

 オーガの足元に魔法陣が出現する。


「氷結結界」


 魔法が周囲の空間ごと凍りつかせ、オークは巨大な氷塊と化す。

 シャルティエはそのままオーガに背を向け、こちらに向けて歩き出そうとする。


「とどめは必要ないのか?」


 俺が問いかけると彼女は笑い、両手の剣を打ち合わせる。

 リィン、と風鈴の様な涼やかな音が周囲に響くと氷塊に次々に亀裂が入り、粉々に砕けると氷と魔素の光が月明かりを反射して幻想的な光景を作り上げる。


「もう終わってますよ」




* * * * * * *




 戦いの後本陣を引き払い、砦に向け出発して数時間が経過した。

 幸いにしてこちらの被害は軽傷者が数人出た程度で済んでおり、その怪我人も治癒魔法により既に全快し今は隊列に加わっている。

 俺を含んだ騎士達はそれぞれ馬上の人となり、馬車を囲むように進んでいる。


「魔導鎧の様な見た目でしたが真相はともかく、ただのオーガの数倍の強さはありました。第三位階の騎士ならば、一人で対処するのは厳しいでしょう」


 先頭を行くシャルティエが、今回の戦闘の総括をする。

 第三位階の苦戦する敵を余裕で屠るとは、第四位階とは力の差が隔絶しているのか……


「何故よりによって今なのか、色々と疑問の残ることもありますが……」


 マイヨやカラーズは、シャルティエの言葉を受けて襲撃の背景を考え込んでいるが、魔物の変身した姿を見て俺は別の事を考えていた。


『アナタが何を考えているかは分かるけど、偶然じゃない?』


 確かに普通に考えれば考慮にも値しない砂粒ほどの小さな可能性の一つ。


「ま、確かにそうだが……」


「トウヤさん!」


 思考の海に沈みそうになっていた所だったが、名を呼ぶ声で我に返る。

 声とともに馬車のドアが開くとリネアが顔を見せる。


「ちょ、お嬢様! 移動中にドアを開けるなんて危ないですって!」


 馬車から落ちないかハラハラとした表情でトリスが諌めている。


「私は大丈夫だって知ってました!」


 ニコニコと笑顔で言うリネアを見ると、先程までの杞憂が馬鹿らしくなる。


「当然だ。なぜなら俺は……」 


「ヒーローだから、でしょう?」


 彼女にとってのヒーローで在り続ける。


「ああ、そうだ」


 何か大きなうねりに巻き込まれているような、そんな釈然としない感覚を振り払う。

 今はこの笑顔を守るために力を奮おうと静かに誓った。

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