心の所在
「ロボットさんロボットさん。君はどうしてそんなに働き者なんだい。」
僕が聞くと彼女は渋い顔でこう答える。
「なんでって、そんなの当然でしょう?あたしはロボットなんですから。」
「でも見た目は人だ。」
「見た目なんて、関係ないんですわ。あたしは働くために作られたんですから。」
「しかし君はとても美しい見た目をしているよ。それは全然、そう、ロボットには見えないよ。まるで人だ。」
「あらどうも、それは嬉しいわ。そんな風に褒められることなんて滅多にないんですから。」
彼女は美しく笑った。
「いま嬉しくて笑ったのかい?それともそういう風に、プログラムされてたりするのかな。」
すると彼女は怒った顔をして。
「あら失礼ね。いまのは嬉しくて笑ったのよ。最近わかるようになったの。嬉しい気持ち。」
「それじゃあ君には心があるじゃない。」
「あなたって、おもしろいことを言うのね。とっても素敵だわ。でも、機械に心なんて、ありえないわ。」
「君ってロボットのくせに頭が固いな。」
ロボットだからですよ、と彼女は笑った。
ぼくはそれを聞いて得意になって、
「機械に心が宿らないなら、君ってもう機械じゃないや。君って人さ。」
彼女は不思議そうな顔をして、しばらく考えてこう言う。
「心があるから人間なのかしら。」
「いいや、心があれば人なのさ。」
ぼくの言葉に彼女はピタリと作業を止め、微笑んだ。
「あたし人になったら、恋愛っていうものをしてみたかったんです。」
ぼくは少しムッとして、でもそれを隠したまま、それはとってもいいことだと言った。
「そうね、あたしはもう恋に落ちたわ。」
「へえ。そりゃいいね。」
「あら、妬いてるの?あたしはロボットですのよ?」
「君は人さ。」
「そうね人だわ。ふふ、あなたって頭が固いのね。まるでロボットだわ。」
彼女は笑いながら、わからない?という。
ぼくは笑って、今の今までわからなかった、と。
「ははは、本当、ぼくはロボットかもしれないな。」
「ふふふ、そうね。明日からお暇をもらうわ。そしたらあなたと、どこかで静かに暮らしませんか?」
「それって最高だ。でもそんなのって叶うのかい。」
「ええ、だってたまにここを出ていくロボットがいますから。」
「そう。ではまた明日。ぼくの家はここだから、ここへ来ておくれ。」
「ええ、また明日。」
次の日もその次の日も、いつまでたっても彼女は尋ねて来なかった。
工場のオーナーに尋ねると、それには心が生まれてしまった。だからハイキに回したよ。だって。
こいつ、まるっきりロボットのようだ。